追放シーフの成り上がり

白銀六花

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81 ラウンローヤのギルド

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 旅路は順調であり野営も含めて大きな問題もなく、魔境の手前にある猛者の街【ラウンローヤ】に到着した。
 ここは数十年も前にいくつものSS級パーティーが集まって開拓された街であり、今では一般人も住んではいるがガタイのいい街人は基本的に元S級冒険者である。
 バランタイン王国内にある街の中で最も危険な位置にありながら、最も安全な街でもあるという矛盾を持つ。
 聖銀はこの街の常連であり、街の人々から声を掛けられる程に知られているようだ。
 ブレイブは初めて来たラウンローヤの雰囲気にヒリつくものを感じながら街を進んで行く。

 街の中央にはギルドが設けられており、ここではクエストが発注されるのではなく、討伐したモンスターを報告する事で報酬が得られるとの事。
 報告証明は魔核の持ち込みとなる事と、討伐後の素材回収隊の護衛も行う事で報酬が支払われる。
 その手間がある為、実力のあるパーティーはそう難しくないモンスターを討伐するような事はなく、それぞれパーティーに見合ったモンスターを討伐するのがここの暗黙のルールとなっている。

 ラウンローヤのギルドに入ると、実力者の集うこの場所は他の街のギルドとはまったく違う雰囲気に包まれていた。
 ギルドに入ってきた聖銀に注目し、その背後にいるブレイブへと視線と敵意が向けられる。
 この場にいる最弱のパーティーが来たとなれば上下関係を教えてやりたいと思う者も少なくなく、もしブレイブが聖銀と一緒に入って来なければすぐにでも絡まれる事になっただろう。

「まずはここで一旦ブレイブの登録をしてもらう。魔境では登録してねぇ奴がモンスターを討伐しても報酬は支払われねぇからな」

「はい。じゃあ登録お願いしまーす」とマリオが受付カウンターで渡された書類を書き始める。
 ラウンローヤのギルドでは受付嬢ではなく厳ついおっさんが対応してくれるようだ。

「あとはマリオ。オレらはちょっと用事があるからよ。また明日ここでな」

「わかりました。お疲れ様っス」

 軽い返事でザックに返し、聖銀の四人はギルドを後にする。
 しかし猛者揃いのこのギルド内で聖銀から離れるという事はどういう事か。

 マリオが書類を書き終えて登録を終えると、ブレイブよりも一回りは年上であろう冒険者パーティーがブレイブへと声を掛けてきた。

「よう若僧共。残念ながらこの街の冒険者は新人に優しくねぇんだ。まずは挨拶代わりに俺ら全員分の酒代とこの姉ちゃん達を置いてけや」

「お前ら盗賊か?冒険者ギルドに現れるとはいい度胸だな」

 絡んできた男達に挑発で返すマリオ。
 レナータやソーニャを置いて行けと言われて頭に血が上ったのか、または本気で勘違いをしているのか。
 しかしその直後に前蹴りをくらったマリオはその場に蹲り、それを守るようにジェラルドが立ち塞がる。

「ガキが口の利き方も知らねえようだな。古参には礼儀ってもんが必要なんだよ。潰されたくなけりゃ言う事聞けや。おう、姉ちゃん、こっち来な。俺達が遊んでやるからよぉ」

 ジェラルドがやり返してこない事にいい気になった男は、ニタリと醜悪な笑みを浮かべながらソーニャの腕を掴もうとした瞬間。
 ゴトリとその腕が地面に落ちた。

「ぎぃやぁぁあぁあ!!俺のっ!俺の腕っぶるぇっ!!」

 抜剣から一瞬にして男の腕を斬り落としたマリオはこの場の全てを敵に回す覚悟で剣を振るう。
 同じくマリオの斬撃の直後に動いたジェラルドは叫ぶ男を盾で弾き飛ばした。

「おいマリオ。これはさすがに取り返しがつかないぞ」

「うるっせぇよ。汚ねえ手で俺の仲間に触ろうとしやがってよぉ。盗賊共は皆殺しだ」

 瞳孔が開く程にブチギレたマリオは本気でこの男達を盗賊と思っているようだ。
 ジェラルドも盾を構えてレナータを守り、ソーニャはマリオをサポートしようとダガーを構えて隣に並ぶ。

 ジェラルドに弾き飛ばされた男は頭を打ったのか意識を失い、仲間であろう三人の男が武器を構えて向かい合う。

 真ん中にいるナイトに向かって間合いを詰めたマリオは左逆袈裟に斬り上げ、盾によって防がれるも視界を覆った瞬間に体を回転させて足払い。
 立ち上がると同時に剣を振りかぶり、胴体向けて振り下ろしたところで横にいたファイターの横薙ぎによって阻まれ、その力の強さからマリオは後方に弾き飛ばされた。
 ファイターがマリオへ追撃しようとしたものの、一瞬でその間に割り込んだソーニャはファイター振りかぶる前にその剣を抑え込む。
 しかしファイターの力は尋常なものではなく、ソーニャの力では一瞬動きを止めただけ。
 ダガーを払い除けられ前方へと倒れ込んだソーニャに、もう一人のアーチャー男が手を伸ばす。
 ソーニャを払い除けたファイターはマリオへと右袈裟に振り下ろし、前方に駆け出す事で回避したマリオはアーチャーの手を斬り落とそうと横に薙ぐも、立ち上がったナイトに防がれた。
 ソーニャの腕を掴んだアーチャーは引っ張り起こそうと力を込めると、ソーニャはその力を利用して体当たりをして腕を抜く。
 アーチャーとはいえ格上の冒険者相手ではソーニャといえど分が悪い。
 バックステップで距離をとり、それを追うナイトに向かってジェラルドが前に出る。
 盾と盾がぶつかり合い互いにプロテクションを発動して押し合うも、力が拮抗しているようで身動きがとれない。
 そのジェラルドの背後ではファイターの斬撃を受け流すと同時に顔面に回転蹴りを食らわすマリオ。
 完全に顎に決まり蹌踉めいてジェラルドの背中にぶつかるも、パワー型のこの男が倒れる事はない。
 空いた左腕でマリオの背後から組み掛かり、持ち上げるようにして喉を締め上げる。
 マリオを助けようと前に出たソーニャとその間に割り込んだダガーを持つアーチャー。
 急停止してギリリと歯噛みするソーニャと睨み合う。

 そして全員が動きを止めたところで、レナータはルナヌオーヴァを片手に回復薬を飲みながら前に出る。
 ルナヌオーヴァを前に突き出し、矢を番えずに何の真似だと誰もが不思議に見守る中でレナータは迷わず最大範囲で呪闇を発動。
 呪いにより体力をごっそりと奪われた六人は視界を暗転させてその場に崩れ落ちた。
 レナータは回復薬の効果で倒れる事はないものの、自身も失った体力を回復しようとスキルを発動する。

「まったく。ギルドで殺し合いなんてやめてくれる?」

 余裕の一人勝ちをして見せたレナータにギルド内からは拍手喝采がそそがれ、賛辞の言葉に少し照れ笑いしながら最後に拳を突き出して勝利のポーズ。
 それを見た誰もがレナータの拳に返すように拳を突き出し、この最高の酒の肴にギルド内は大いに盛り上がった。



 ◇◇◇



 ギルドを出てすぐに裏手に回って屋根に登った聖銀の四人は、屋根にある換気窓からホール内を覗き込む。

「お、やっぱりな。サガの奴らがブレイブに絡みやがった。これは見ものだな」

「趣味悪くねぇか?まあおもしれぇけど」

 見ているとマリオが蹴られ、その後にサガの一人の腕が斬り飛ばされる。

「おいおい。これはさすがにやり過ぎじゃないか?レナータがいるとはいえ腕まで斬ったら殺し合いになるぞ」

「んー?マリオは盗賊に恨みでもあるのかな?皆殺しとか言ってるし完全にキレてるよね」

「まあな。あいつが冒険者になったきっかけでもあるそうだぜ。お、見ろよ。マリオの奴、格上のサガの奴ら相手に戦えてるぞ」

「でもまだスラッシュに慣れてねぇみてぇだな。ソーニャは……対人はまだだめか。今度鍛えてやろ」

「ジェラルドも少し躊躇いがあるかな。殺し合いしたいわけじゃなさそう。あ、本当にマリオはセンスあるね。今後はすごく伸びそう」

 ここで回復薬を飲み始めたレナータに注目する聖銀メンバー。
 呪いを知るエンベルトとランドのみがこの後の結果がわかってしまう。

「やっぱりレナータだよね」

「俺の引退後に引き抜いたらどうだ?」

 二人の言葉の直後に六人同時に地に伏した。

「なんてやべーもん買わせてんだよ……」

「あいつら死んだんじゃね?」

 レナータの勝利のポーズと拍手喝采、ギルド内が盛り上がって乱闘騒ぎを終えた。



 ◇◇◇



 その後全員の体力を回復させ、腕を斬り落とされた男に刃を突き付けたまま腕の接合にスキルを発動したレナータ。

 無事に腕が元に戻り、動きを確認してからレナータに頭を下げた男。

「いやぁまいったぜ。若えくせにとんでもねぇパーティーだ。俺らの完敗だ。今日は奢らせてもらうぜ」

「盗賊の酒なんて飲めるかよ」

「うん、待て。お前らに絡みはしたが盗賊じゃあねぇ。まずそこ最初から間違ってるからな?」

「その見た目で?」

「うおぉい!人を見た目で判断すんじゃねぇよコノヤロウ!こちとらラウンローヤでも評判のパーティーなんだぜぇ!サガって言やぁ誰もが逃げ出す有名なパーティーなんだからよぉ」

「悪評じゃねぇか。だがまあ盗賊じゃないなら許してやる」

「生意気だなお前……ちょっと来い。説教してやる」

「ああ?説教すんのはこっちだっつの」

 会話を聞く限りではそれほど相性は悪くなさそうな二人だった。
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