追放シーフの成り上がり

白銀六花

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79 ブレイブの成長

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「っだぁぁぁあ!疲れたよぉぉレナ~」

 日中の訓練を終えて酒場へとやって来たソーニャとレナータ。
 パウルとランドも一緒だが、男性組はまた別に行動しているようだ。
 この日一回目のマラソンで時間に間に合わなかったソーニャは、昼食をとってからもう一度同じ街まで走らされる事になったのだ。
 順調に走り進んで街から王都へ引き返す際にもパウルからは世間話が続けられ、それに全て返そうと息を切らしながら会話を続けたソーニャはペースダウン。
 一回目のマラソンは半時程の時間をオーバーしてしまう。
 回復薬を飲みながら食事をとり、二回目のマラソンではできる限り会話をせずに単語で返す事で息切れを抑え、なんとか三時以内に走り切る事ができたのだ。

「よーしおいで。私が回復してあげよう」

「わーいレナ大好き~」と抱きついたソーニャを撫で回すレナータ。
 その手つきはなかなかにイヤらしいのだが、本人に自覚はないようだ。

「パウルの方はどうだった?レナータはたぶん移動しながら訓練しておけばいけそうだ」

「ソーニャはあまり体力はねぇな。でもちょっと見せてもらったがエアレイドはやべーな。今で二倍以上ありそうだがたぶんまだ伸びる」

 エアレイドは俊敏値をおよそ二倍程度に引き上げてくれるスキルではあるのだが、個人差がある為その上昇量はそれぞれ違う。
 そして誰もが制御しきれない事から全力で発動する事はなく、上限まで発動できる者はそう多くはない。
 誰もが二倍と思ってはいるものの、普段よりもはるかに早い動きをする為どれだけ上昇しているかはわからないのだ。
 ほとんどのシーフ系冒険者は二倍どころか五割り増しから七、八割増し程度の速度しか出せていない。
 それにも関わらずソーニャは二倍以上まで速度を引き出せている事から上限はまだ先にあるのだろう。
 異常なまでの才能や死を恐れぬ狂人の戦いを繰り返す事で上限は引き上げられる事もあるのだが。
 ソーニャの場合は才能もありながら、命がけの戦いを繰り返した事もあって上限がどこまで伸びているかはわからない。
 ブレイブに入った当初よりもエアレイドによる俊敏値の上昇率はアップしているのは間違いない。

「いずれはお前に届きそうか?」

「どうだろ。最強のシーフを目指してるって事だから俺を超えて欲しいとこだがな」

「そいつはすげぇ」と嬉しそうに笑うランドとパウル。
 小馬鹿にされているのかと少しムッとするソーニャだが、その可能性が見える事からパウルもソーニャに期待している。

 これから数日後には下位とはいえ竜種と戦わせる事になるのだ。
 聖銀としても後輩達をサポートする事なく戦わせてやりたいと、個々の様子を見ながら準備をすすめている。

 その後は食事を味わい、酒を楽しみ、パウルは走りながらではあまり聞く事ができなかったディーノとの旅の話を聞き、冒険者になる前の可愛かった弟分の話を面白おかしく聞かせてやる。
 今では恐ろしいまでの強さを持ったディーノの背中を追うというソーニャや、共に過ごしてきたレナータに、過去には涙を拭って悔しがっていたディーノの話は新鮮に聞こえるはずだ。
 ソーニャの中では最強の存在であるディーノも、歯を食いしばって前に進んで行ったのだと知ると今後の励みになるだろう。
 パウルは事あるごとに「まだ俺の方が強いけど」とは付け加えるものの、ソーニャはそれはないと否定し、それがまた話を盛り上げて楽しい酒盛りとなった。



 ◇◇◇



 またいつもの定例の時間に集まった聖銀とブレイブ。

「よぉし、集まったな。じゃあ報告から。マリオなんだがなかなか悪くねぇ。多少荒さも目立つがセンスあるぜこいつ。今はいろいろと悩んでるようだがメンタルケアはオレに任せとけ」

「兄貴!俺、もっと頑張るっスよ!それより昨日のクラリッサのあれなんなんすか!?もう最っ高って言うかもう、なに?天にも登るって言うかもうほんと、何回やっ……」

「うおぉい!!あんまでけー声で言うなよ。ったくよぉ、悩めるお前の為にオプション頼んでおいたんだよ。あれなら悩みも何もかもスッキリさっぱりだろ?」

 メンタルケアとはいったい何なのだろうか。
「一生ついて行くっス!」と元気いっぱいなマリオを見れば実際に悩みも吹き飛んだのだろう。

「ジェラルドはもう仕上がったよ。あとは実戦で経験積めばいいと思う」

 エンベルトの実験でジェラルドのプロテクションが魔法スキルへの耐性を持った事で訓練の目的は達成している。
 さらにはプロテクションが進化した事で他のスキルに対しても耐性が強化され、ランドのピアースにも耐える事ができたのだ。
 AA級モンスター程度であれば全て受け切る事ができるのではないだろうか。

「昨日エンベルトさんの雷撃のおかげで俺は店に行く気にならなかったですよ……どうしてくれるんですか」

「そんなの知らない。お望みなら今日も一日ビリビリするけど?」

「勘弁してください!」とあっさり頭を下げるジェラルドは、耐性が身に付いたとしても雷撃の痛みは喜びに結びつかないようだ。

「レナータももういいな。あとは長弓を自分の体に慣らしていくだけだ」

 呪属性ダメージについてはまた別の話にはなるのだが、呪闇による目眩しは一瞬でも効果がある為今の時点で竜種相手にも通用する。
 長弓もランドの教えもあってかかなりの精度で的を射る事ができるようになっているのだ。
 ただし動き回りながらでは命中率が大幅に低下する事になる為、長距離からの妨害がメインとなるだろう。

「ジェラルド。私の実験に今日も付き合ってくれる?呪闇の発動を回復で相殺できるように練習したいのよ。やっぱり実際に呪いダメージ受ける人がいた方が効果もわかるしいいかなって」

「い、や、だ!意識が突然吹っ飛ぶなんて聞いてないぞ!」

 そうなのだ。
 呪いダメージで二人同時に倒れはしたが、レナータは脱力から倒れただけであり、直接呪いダメージを受けたジェラルドは意識を失い死んだように倒れていたのだ。
 痛みも何もなく体力だけが削り落とされ気を失う。
 そんな喜びも何もない実験には付き合いたくないジェラルドだった。

「ソーニャは今後に期待できるんだが長期戦だと体力持つか微妙なとこだな。もうちょっと体力つけてから挑ませたい」

 パウルから見てもブレイブで最も強いと思えるのはソーニャだろう。
 まだステータスがそれ程高くはなっていないようだが、動き出しや視線の送り方が常人のそれとは違う。
 一歩どころか二歩、三歩先を見て状況に合わせて行動できるのだ。
 現在ブレイブをパーティーとして完璧に機能させているとすればソーニャの存在は大きいだろう。
 下位の竜種が相手であれば充分な能力を持つのだが、パーティーの柱として挑むのであれば精神的な余裕が必要だ。
 それだけにソーニャには今よりも体力をつけてもらいたいと思うのが、パウルのシーフとしての先輩心である。

「そんなわけでソーニャは今日も走り込みな」

「えー酷い!稽古付けてよ!」

「竜種に挑む準備だから我慢しろ。今日は昨日より半時削るからな。行くぞー」

 そう言って店から出て行くパウルを、「殺す気なの!?」と追いかけるソーニャ。
 この日も疲れて帰ってくるだろうなと、今夜も甘やかしてやろうと考えるレナータだった。

 この日もまた別々に行動し、それぞれ稽古をつけてもらいながら竜種に挑む準備をすすめるのだ。
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