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57 変態が怖い
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翌朝、伯爵邸を出て馬車の御者席へと乗り込んだディーノとアリスは、まずはギルドへと向かって馬車を進める。
昨日の討伐の件から、ディーノとアリスに報酬が支払われるのと同時に、この日も素材回収隊も同行したいとの事でギルドで待ち合わせをしているというわけだ。
ギルドに入ると少し沈んだ雰囲気があるようだが、特に気にせずに受付カウンターへと向かうディーノとアリス。
「領主から指名依頼を受けているディーノ=エイシスだ。昨日の報酬受け取りと今日の討伐対象を紹介してもらいに来たんだが」
「ディーノさん!それとそちらの女性はアリスさんですね!?私、受付嬢をしておりますヴィタと申します~!お二人をお待ちしておりました!」
嬉しそうなヴィタは昨日の戦いの話を回収隊から聞いているのだろう。
肌を見る限りでは少し疲れたような印象はあるものの、心から二人の来訪を喜んでいるように見える。
「冒険者さん方に頑張ってはもらっているんですが討伐が追い付いていない状況でしてぇ、実は諦めていた区域のモンスターをあっさりと討伐したと聞いてもうお二人には期待しまくりですよぉ!」
どうやらミネラトールの討伐もあっさり倒したと伝えられているようだ。
アリスはある程度の苦戦を強いられたと感じてはいるのだが、本来時間をかけて討伐するようなモンスターである為、あっさりと言われれば間違ってはいないのだ。
「確かにみんな疲れ切ってるみたいだな。とりあえず近場のから片付けるから適当なの紹介してくれ」
「近場の!是非とも倒してほしいモンスターがいます!繁殖力が強すぎて手に負えないのが!」
テンション高いなぁと思いながらヴィタに続きを促すディーノ。
不定形モンスターであり分裂を繰り返す事から繁殖力が強いと言うのかはわからないが、スライム系のモンスターが対象らしい。
一体の強さはそうでもないが、通常武器では触れると腐食してしまう事から剣による攻撃ができず、棒切れによる殴打で核を破壊する事で倒しているそうだが、殴打するにも弾力がある為何度も打ちつける必要がありキリがないとの事。
ディーノのユニオンは腐食耐性もあり、アリスのバーンも竜飲鉄と呼ばれる竜種の胃袋から出て来た素材で作られている為腐食しない。
スライム系モンスターであれば一方的に狩る事ができるだろう。
「何体いるんだ?」
「およそ三百です!」
この返答にディーノも苦笑い。
最初何体いたのかは知らないが増殖しすぎではないだろうか。
「それと……そのスライムを食べる複数のモンスターもいましてですねぇ、それがスライム討伐の邪魔をするんですよぉ」
「素早い奴か?」
「そうです!よくわかりますね!」
自分の餌となるスライムを守るようなモンスターもいるとなれば、アリスにスライムを任せてディーノが素早い方を討伐した方が効率的だ。
これまで討伐できなかったどころか大量にスライムの増殖を許してしまった事を考えれば、素早さに特化したモンスターである事は間違いない。
普通のモンスターであれば他の冒険者達でも倒す事はできるのだから。
この事からシーフ系のジョブは重要なんだなと改めて思うディーノ。
最も多いのがファイターやナイト、次に後衛となるアーチャーであり、短剣を片手にモンスターに挑むシーフは意外にも少ないのだ。
ヴィタの説明から、スライムの増殖により一つの区画が腐食地帯となっているそうで、これ以上拡大する前に食い止めたいそうだが思うように討伐が進まない、むしろ増えてしまっているとの事。
すでに人の住めるような場所ではなくなった事から、その区画ごと焼却を予定しているそうだ。
スライムごとまとめて焼却すれば済むようにも思えるが、多少の炎耐性があるスライムは火で燃えながらも移動する可能性がある。
近隣の家にも燃え移る危険性がある為、討伐を終えてからの焼却が望ましいとの事だ。
「じゃあさっさと片付けるか。近場なら誰か案内つけてくれよ」
「はい。では回収隊のバイアルドさんをお付けしますね。彼はディーノさんのファンになってしまったらしいので仲良くしてあげてください」
ディーノのファンという理解のできない言葉が出てきたが、案内してくれるなら誰でもいいとコクリと頷いたディーノ。
この後少し後悔する事になる。
「ディーノ様ぁんっ。ご指名嬉しいわぁん」
ディーノに抱きついてきたバイアルドは髭面強面のオネェだった。
「チェンジで」
「だめです。私の彼が危険なので」
そう言って目を逸らしたヴィタは自分の彼氏を守る為、ディーノを売ったと見ていいのだろうか。
そしてディーノに抱きついたバイアルドを引き剥がしたいと思うアリスだが、自分の理解を超えた存在である為迂闊に飛び掛かれずにいたりもする。
「悪いが斬られたくなければ離れてくれ。オレに触れていいのは綺麗な女だけだ」
発言が最低な気もするが、ディーノも相当に動揺しているのだろう。
同性を好む者がいる事は知ってはいるが、自分にその好意を向けてくる者が現れるとは思ってもいなかった為油断していた。
殺意を向けてユニオンに手を掛けるディーノに、バイアルドも危険と察して離れたのだが。
「もう、そのギラギラとした殺意ある目が堪らないわぁん」と体をくねらせていた。
殺意を放つディーノと理解不能な男に警戒するアリス。
体をくねくねとさせながら何度もディーノへと振り返るバイアルドの三人が、スライムの蔓延る区画へと向かって歩いて行く。
地面や建物全体に青緑色のカビが広がり、そこら中に広がるスライムは三百体どころではなさそうに思える。
「よし、魔核を刺せば一発で仕留められるからな。片っ端から……おい、近付くな。潰して行くぞ」
バイアルドがディーノの背後から近付いた瞬間にユニオンを向けたディーノのセリフはどちらに向けたものだろう。
アリスもこの接近にビクリと反応する程に恐怖を覚えているようだ。
一匹ずつザクザクと魔核を潰していき、魔核を潰されたスライムは簡単に液状になって崩れ落ちる為、倒すのはそう難しくはない。
この時程腐食耐性の重要性が発揮される事はないだろうと思いながら次々と潰していき、背後から歩み寄るバイアルドに殺意を向けながらもスライム討伐を続けていく。
しかし百体程のスライムを倒したところで現れたのは【ゼルフ】と呼ばれるスライムを主食とする狼型のBB級モンスターだ。
唸り声をあげて屋根の上からディーノ達を見下ろし、遠吠えをすると、周囲からまた何体か集まって来るような足音が聞こえる。
複数いるとは聞いていたのだが、何体いるかは把握していないとの事だった。
周囲を取り囲むように集まったゼルフは六体。
そのうちの二体がディーノとアリスに襲い掛かり、アリスは炎槍で貫き、ディーノは首をバッサリと斬り落とすと同時に直線上にいた最初のゼルフに斬り掛かる。
しかしその斬撃を地面に飛び降りる事で回避したゼルフは他の仲間の方へと向かって駆け出し、ディーノとアリスを危険と見たのか逃げ出した。
「アリス!ここは任せた!」
「え?ええ!?」と驚きの声を発したアリスは何度かバイアルドへと振り返り、このままでは二人で残されると思って恐怖を覚えているのだろう。
ゼルフを追って飛び上がったディーノに手を伸ばし、悲鳴にも似た声をあげるアリスは必死である。
「ディーノ!待ってよ!ディーノぉお!!」
しかし残念ながらアリスの声はディーノに届かず、バイアルドに警戒しながらスライム狩りを続けるアリス。
下を向いたアリスはスライムを突き刺す合間にバイアルドへと視線を向け、警戒を怠る事はない。
しかし当のバイアルドはアリスが振り返るたびにウインクを返し、(もしかして私に興味があるのかしら。でも残念ねお嬢ちゃん。私は女子供には興味がないのよ)と妙な勘違いをしてたりもする。
やはりこの意味のわからない男に「怖いよぉ。こわいよぉ……」と、ポロポロと涙を流しながらスライム討伐を続けるアリスだった。
一方でディーノは街中という事で小回りのきくゼルフに追いつく事ができていないような状況だ。
自分の知る街並みであればまだ追いつく事もできるのだが、初めて通る道ばかりであり、複雑に入り組んだ造りをしたこのジャダルラックの街は極めて走りにくい。
何らかの目的があってこのような造りになっているとは思うのだが、討伐が目的であるディーノにとっては厄介極まりない造りと言える。
四体が列を組んで駆け抜けて行く中、一体、二体と姿を消していく事から、ディーノに対する奇襲を狙っている事が予想される。
普通の獣であればこのまま姿を消すとは思うのだが、今ディーノが追っているのはモンスターであり、ただ逃げるだけでなく確実に命を狙ってくる事は間違いない。
そしてその時はすぐに訪れた。
ディーノが右に角を曲がると同時に隠れるよう伏せていた個体が飛び掛かり、それに対処しようと回避行動に出るディーノに背後から襲い掛かるもう一体。
咄嗟に風の防壁を広げて弾き飛ばすと、バランスを崩した二体のうち一体を斬り伏せる。
もう一体は壁に足をついて体勢を立て直し、再び逃げようと駆け出すも、ディーノの爆風による加速はゼルフの速度を優に超える。
一瞬で距離を詰めると背面側から首を斬り裂いた。
残るは二体だがその姿を見失ってしまったかと辺りを見回すと、建物の高い位置からディーノを睨むゼルフがいた。
所詮はモンスターであり、ただ逃げ隠れようなどという事はしないようだ。
多くの仲間を殺された事でこれまで以上にディーノに対して殺意を向けている。
多少距離はあるものの、直線上にいる標的であればディーノにとってそう遠くないただの的である。
ユニオン内で膨らませた魔力を爆発させるように噴射させ、一気にゼルフとの距離を詰める。
しかしゼルフはその場から飛び降り、ディーノがその位置まで到達すると地面へと降り立ち駆け出した。
再び爆風を放ってゼルフを追いかけ、建物内へと入り込むとそこが罠である事に気付く。
周囲にはまだ他のゼルフが複数体残っていたのだ。
建物内に入ったディーノが速度を落とすと一斉に飛び掛かるゼルフの群れ。
距離を詰められる前に風の防壁を広げたディーノは、タイミングを見計らって防壁を収縮。
空中にゼルフが停止した瞬間にユニオンを一薙ぎにすると四体が同時に臓腑を撒き散らし、返す刃でもう一体の腹を斜めに斬り開く。
そこから体を横に回転させるようにユニオンを薙ぎ、防壁を広げてゼルフの討伐を終える。
ディーノを中心として放射状に血のサークルが広がった。
建物から出たディーノは一つ伸びをして討伐の続きへと意識を向ける。
「さて、アリスのところに戻ろう……か?」
困った事に街中を走り回った事でアリスのいる場所がわからない。
うーむと考えると、スライムが蔓延る場所は青緑色に変色していた事を思い出し、爆風を放って跳躍すると、下方に見えるジャダルラックの街並みを見下ろして目的地を探す。
ディーノから見て正面側に大きな建物、伯爵邸があり、そこから右へと視線を回して行くと色の違う場所を発見した。
そこそこに離れた場所まで来てしまっていたようだが、ユニオンを手にするディーノは空を駆ける事も可能だ。
足元に膨らませた防壁を足場にして跳躍し、それを何度も繰り返す事で空中を駆け抜ける。
一歩踏み込むごとに速度は上がり、目的地に近付いたところで減速して地面に飛び降りる。
なかなかに恐怖を感じるのだが、風の防壁がある為着地の瞬間に衝撃の緩和も可能だ。
地面にフワリと着地すると、涙がカピカピに乾いたアリスが抱きついてくる。
「ディーノ……ディー……ノぉぉぉ、なんで置いて行ったのよぉぉぉっ!うあぁぁぁあんっ……」
「いや、ゼルフの討伐に行ったんだから仕方ないだろ……あぁ、あいつが怖かったのか。なら仕方ないな」
泣きながらもディーノの言葉に指差す事で答えたアリス。
バイアルドがクネクネとしながら「アリスちゃんも可愛いわねぇ」と女子供にも興味を示し始めたようだ。
あれは怖いなと思うディーノは、ギルドに戻ったら置いてこようと心に誓う。
アリスはバイアルドに怯えながらもスライム討伐も休む事なく続けていたようで、すでに全てのスライムを倒し終えている。
二人と両性類一人はギルドへと戻り、次の討伐依頼を紹介してもらう代わりにバイアルドをヴィタに押し付けた。
「なんだかあの二人冷たいのよね~。やっぱり私を受け止めてくれるのはダヴィデしかいないわねぇ」
「ねぇ、それだけはやめてお願いっ!彼は私のなの!本当に近付かないてよね!」
「嫌よぉ。彼は私にいつも優しいもの。うふふ、待っててダヴィデちゃ~ん」
「イヤァァァ!逃げてダヴィデぇぇえ!」
冒険者達は疲れ切っているようだが、職員達はなかなかに賑やかなギルドである。
もしかすると疲れ切っていてやや壊れ気味なのかもしれないが。
昨日の討伐の件から、ディーノとアリスに報酬が支払われるのと同時に、この日も素材回収隊も同行したいとの事でギルドで待ち合わせをしているというわけだ。
ギルドに入ると少し沈んだ雰囲気があるようだが、特に気にせずに受付カウンターへと向かうディーノとアリス。
「領主から指名依頼を受けているディーノ=エイシスだ。昨日の報酬受け取りと今日の討伐対象を紹介してもらいに来たんだが」
「ディーノさん!それとそちらの女性はアリスさんですね!?私、受付嬢をしておりますヴィタと申します~!お二人をお待ちしておりました!」
嬉しそうなヴィタは昨日の戦いの話を回収隊から聞いているのだろう。
肌を見る限りでは少し疲れたような印象はあるものの、心から二人の来訪を喜んでいるように見える。
「冒険者さん方に頑張ってはもらっているんですが討伐が追い付いていない状況でしてぇ、実は諦めていた区域のモンスターをあっさりと討伐したと聞いてもうお二人には期待しまくりですよぉ!」
どうやらミネラトールの討伐もあっさり倒したと伝えられているようだ。
アリスはある程度の苦戦を強いられたと感じてはいるのだが、本来時間をかけて討伐するようなモンスターである為、あっさりと言われれば間違ってはいないのだ。
「確かにみんな疲れ切ってるみたいだな。とりあえず近場のから片付けるから適当なの紹介してくれ」
「近場の!是非とも倒してほしいモンスターがいます!繁殖力が強すぎて手に負えないのが!」
テンション高いなぁと思いながらヴィタに続きを促すディーノ。
不定形モンスターであり分裂を繰り返す事から繁殖力が強いと言うのかはわからないが、スライム系のモンスターが対象らしい。
一体の強さはそうでもないが、通常武器では触れると腐食してしまう事から剣による攻撃ができず、棒切れによる殴打で核を破壊する事で倒しているそうだが、殴打するにも弾力がある為何度も打ちつける必要がありキリがないとの事。
ディーノのユニオンは腐食耐性もあり、アリスのバーンも竜飲鉄と呼ばれる竜種の胃袋から出て来た素材で作られている為腐食しない。
スライム系モンスターであれば一方的に狩る事ができるだろう。
「何体いるんだ?」
「およそ三百です!」
この返答にディーノも苦笑い。
最初何体いたのかは知らないが増殖しすぎではないだろうか。
「それと……そのスライムを食べる複数のモンスターもいましてですねぇ、それがスライム討伐の邪魔をするんですよぉ」
「素早い奴か?」
「そうです!よくわかりますね!」
自分の餌となるスライムを守るようなモンスターもいるとなれば、アリスにスライムを任せてディーノが素早い方を討伐した方が効率的だ。
これまで討伐できなかったどころか大量にスライムの増殖を許してしまった事を考えれば、素早さに特化したモンスターである事は間違いない。
普通のモンスターであれば他の冒険者達でも倒す事はできるのだから。
この事からシーフ系のジョブは重要なんだなと改めて思うディーノ。
最も多いのがファイターやナイト、次に後衛となるアーチャーであり、短剣を片手にモンスターに挑むシーフは意外にも少ないのだ。
ヴィタの説明から、スライムの増殖により一つの区画が腐食地帯となっているそうで、これ以上拡大する前に食い止めたいそうだが思うように討伐が進まない、むしろ増えてしまっているとの事。
すでに人の住めるような場所ではなくなった事から、その区画ごと焼却を予定しているそうだ。
スライムごとまとめて焼却すれば済むようにも思えるが、多少の炎耐性があるスライムは火で燃えながらも移動する可能性がある。
近隣の家にも燃え移る危険性がある為、討伐を終えてからの焼却が望ましいとの事だ。
「じゃあさっさと片付けるか。近場なら誰か案内つけてくれよ」
「はい。では回収隊のバイアルドさんをお付けしますね。彼はディーノさんのファンになってしまったらしいので仲良くしてあげてください」
ディーノのファンという理解のできない言葉が出てきたが、案内してくれるなら誰でもいいとコクリと頷いたディーノ。
この後少し後悔する事になる。
「ディーノ様ぁんっ。ご指名嬉しいわぁん」
ディーノに抱きついてきたバイアルドは髭面強面のオネェだった。
「チェンジで」
「だめです。私の彼が危険なので」
そう言って目を逸らしたヴィタは自分の彼氏を守る為、ディーノを売ったと見ていいのだろうか。
そしてディーノに抱きついたバイアルドを引き剥がしたいと思うアリスだが、自分の理解を超えた存在である為迂闊に飛び掛かれずにいたりもする。
「悪いが斬られたくなければ離れてくれ。オレに触れていいのは綺麗な女だけだ」
発言が最低な気もするが、ディーノも相当に動揺しているのだろう。
同性を好む者がいる事は知ってはいるが、自分にその好意を向けてくる者が現れるとは思ってもいなかった為油断していた。
殺意を向けてユニオンに手を掛けるディーノに、バイアルドも危険と察して離れたのだが。
「もう、そのギラギラとした殺意ある目が堪らないわぁん」と体をくねらせていた。
殺意を放つディーノと理解不能な男に警戒するアリス。
体をくねくねとさせながら何度もディーノへと振り返るバイアルドの三人が、スライムの蔓延る区画へと向かって歩いて行く。
地面や建物全体に青緑色のカビが広がり、そこら中に広がるスライムは三百体どころではなさそうに思える。
「よし、魔核を刺せば一発で仕留められるからな。片っ端から……おい、近付くな。潰して行くぞ」
バイアルドがディーノの背後から近付いた瞬間にユニオンを向けたディーノのセリフはどちらに向けたものだろう。
アリスもこの接近にビクリと反応する程に恐怖を覚えているようだ。
一匹ずつザクザクと魔核を潰していき、魔核を潰されたスライムは簡単に液状になって崩れ落ちる為、倒すのはそう難しくはない。
この時程腐食耐性の重要性が発揮される事はないだろうと思いながら次々と潰していき、背後から歩み寄るバイアルドに殺意を向けながらもスライム討伐を続けていく。
しかし百体程のスライムを倒したところで現れたのは【ゼルフ】と呼ばれるスライムを主食とする狼型のBB級モンスターだ。
唸り声をあげて屋根の上からディーノ達を見下ろし、遠吠えをすると、周囲からまた何体か集まって来るような足音が聞こえる。
複数いるとは聞いていたのだが、何体いるかは把握していないとの事だった。
周囲を取り囲むように集まったゼルフは六体。
そのうちの二体がディーノとアリスに襲い掛かり、アリスは炎槍で貫き、ディーノは首をバッサリと斬り落とすと同時に直線上にいた最初のゼルフに斬り掛かる。
しかしその斬撃を地面に飛び降りる事で回避したゼルフは他の仲間の方へと向かって駆け出し、ディーノとアリスを危険と見たのか逃げ出した。
「アリス!ここは任せた!」
「え?ええ!?」と驚きの声を発したアリスは何度かバイアルドへと振り返り、このままでは二人で残されると思って恐怖を覚えているのだろう。
ゼルフを追って飛び上がったディーノに手を伸ばし、悲鳴にも似た声をあげるアリスは必死である。
「ディーノ!待ってよ!ディーノぉお!!」
しかし残念ながらアリスの声はディーノに届かず、バイアルドに警戒しながらスライム狩りを続けるアリス。
下を向いたアリスはスライムを突き刺す合間にバイアルドへと視線を向け、警戒を怠る事はない。
しかし当のバイアルドはアリスが振り返るたびにウインクを返し、(もしかして私に興味があるのかしら。でも残念ねお嬢ちゃん。私は女子供には興味がないのよ)と妙な勘違いをしてたりもする。
やはりこの意味のわからない男に「怖いよぉ。こわいよぉ……」と、ポロポロと涙を流しながらスライム討伐を続けるアリスだった。
一方でディーノは街中という事で小回りのきくゼルフに追いつく事ができていないような状況だ。
自分の知る街並みであればまだ追いつく事もできるのだが、初めて通る道ばかりであり、複雑に入り組んだ造りをしたこのジャダルラックの街は極めて走りにくい。
何らかの目的があってこのような造りになっているとは思うのだが、討伐が目的であるディーノにとっては厄介極まりない造りと言える。
四体が列を組んで駆け抜けて行く中、一体、二体と姿を消していく事から、ディーノに対する奇襲を狙っている事が予想される。
普通の獣であればこのまま姿を消すとは思うのだが、今ディーノが追っているのはモンスターであり、ただ逃げるだけでなく確実に命を狙ってくる事は間違いない。
そしてその時はすぐに訪れた。
ディーノが右に角を曲がると同時に隠れるよう伏せていた個体が飛び掛かり、それに対処しようと回避行動に出るディーノに背後から襲い掛かるもう一体。
咄嗟に風の防壁を広げて弾き飛ばすと、バランスを崩した二体のうち一体を斬り伏せる。
もう一体は壁に足をついて体勢を立て直し、再び逃げようと駆け出すも、ディーノの爆風による加速はゼルフの速度を優に超える。
一瞬で距離を詰めると背面側から首を斬り裂いた。
残るは二体だがその姿を見失ってしまったかと辺りを見回すと、建物の高い位置からディーノを睨むゼルフがいた。
所詮はモンスターであり、ただ逃げ隠れようなどという事はしないようだ。
多くの仲間を殺された事でこれまで以上にディーノに対して殺意を向けている。
多少距離はあるものの、直線上にいる標的であればディーノにとってそう遠くないただの的である。
ユニオン内で膨らませた魔力を爆発させるように噴射させ、一気にゼルフとの距離を詰める。
しかしゼルフはその場から飛び降り、ディーノがその位置まで到達すると地面へと降り立ち駆け出した。
再び爆風を放ってゼルフを追いかけ、建物内へと入り込むとそこが罠である事に気付く。
周囲にはまだ他のゼルフが複数体残っていたのだ。
建物内に入ったディーノが速度を落とすと一斉に飛び掛かるゼルフの群れ。
距離を詰められる前に風の防壁を広げたディーノは、タイミングを見計らって防壁を収縮。
空中にゼルフが停止した瞬間にユニオンを一薙ぎにすると四体が同時に臓腑を撒き散らし、返す刃でもう一体の腹を斜めに斬り開く。
そこから体を横に回転させるようにユニオンを薙ぎ、防壁を広げてゼルフの討伐を終える。
ディーノを中心として放射状に血のサークルが広がった。
建物から出たディーノは一つ伸びをして討伐の続きへと意識を向ける。
「さて、アリスのところに戻ろう……か?」
困った事に街中を走り回った事でアリスのいる場所がわからない。
うーむと考えると、スライムが蔓延る場所は青緑色に変色していた事を思い出し、爆風を放って跳躍すると、下方に見えるジャダルラックの街並みを見下ろして目的地を探す。
ディーノから見て正面側に大きな建物、伯爵邸があり、そこから右へと視線を回して行くと色の違う場所を発見した。
そこそこに離れた場所まで来てしまっていたようだが、ユニオンを手にするディーノは空を駆ける事も可能だ。
足元に膨らませた防壁を足場にして跳躍し、それを何度も繰り返す事で空中を駆け抜ける。
一歩踏み込むごとに速度は上がり、目的地に近付いたところで減速して地面に飛び降りる。
なかなかに恐怖を感じるのだが、風の防壁がある為着地の瞬間に衝撃の緩和も可能だ。
地面にフワリと着地すると、涙がカピカピに乾いたアリスが抱きついてくる。
「ディーノ……ディー……ノぉぉぉ、なんで置いて行ったのよぉぉぉっ!うあぁぁぁあんっ……」
「いや、ゼルフの討伐に行ったんだから仕方ないだろ……あぁ、あいつが怖かったのか。なら仕方ないな」
泣きながらもディーノの言葉に指差す事で答えたアリス。
バイアルドがクネクネとしながら「アリスちゃんも可愛いわねぇ」と女子供にも興味を示し始めたようだ。
あれは怖いなと思うディーノは、ギルドに戻ったら置いてこようと心に誓う。
アリスはバイアルドに怯えながらもスライム討伐も休む事なく続けていたようで、すでに全てのスライムを倒し終えている。
二人と両性類一人はギルドへと戻り、次の討伐依頼を紹介してもらう代わりにバイアルドをヴィタに押し付けた。
「なんだかあの二人冷たいのよね~。やっぱり私を受け止めてくれるのはダヴィデしかいないわねぇ」
「ねぇ、それだけはやめてお願いっ!彼は私のなの!本当に近付かないてよね!」
「嫌よぉ。彼は私にいつも優しいもの。うふふ、待っててダヴィデちゃ~ん」
「イヤァァァ!逃げてダヴィデぇぇえ!」
冒険者達は疲れ切っているようだが、職員達はなかなかに賑やかなギルドである。
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隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
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能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
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クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
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スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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