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52 S級
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ナディアクラから一日掛けてラフロイグへと戻って来たディーノ達四人パーティー。
ギルドで報告を済ませて報酬を受け取り、三等分してアリス、ロザリア、ルチアで分け合う。
ディーノの報酬はないのだが、今回の討伐に貢献していないからと、昨夜の食事代がこの旅の報酬だと笑顔を見せた。
思わずして大金を手に入れたロザリアとルチアは大金貨四枚を手に震えていたが、命がけの戦いをしての報酬としてはやや少ないだろうとディーノは思う。
やはり冒険者としては戦いによる経験こそが最大の報酬だろう。
「ディーノ。あたし達にこんな事言う資格はないんだが……また今度クエストに同行させてくれないか!」
「できればBB級以下で!」
ロザリアとルチアはナディアクラのギルドで、ディーノと一緒にクエストに行けないと言ってしまった事を気にしていたのだろう。
誤解していた為ではあるのだが、真実を知った今はまた一緒に冒険してみたいという気持ちがあるようだ。
そしてルチアが言うように死ぬ思いはしたくないのかBB級以下でと条件がつく。
「BB級?んん、もう少しAA級を続けるつもりだけどな。じゃあアリスの支払い終わったらBB級クエストにまた行こうか」
「ありがとうディーノ!」と嬉しそうに手を取るロザリアとルチアだが、それを黙って見ている他の冒険者達ではなかった。
「オレも連れて行ってくれないか!?」「私を連れて行って!」「僕も行きたーい!」と以前ディーノに同行を申し出た者達が名乗りをあげる。
「もしかして女じゃないとダメなのか!?」「美人だけなの!?」と様々な噂をされている事が伺えるような質問もあるが、苦笑いをしたディーノはなんとも断りづらい。
しかし今一緒に旅をしているのはアリスであり、臨時とはいえ男をパーティーに加えるのはどうかと悩む。
そう思い視線をアリスに向けると、それを察したのかアリスはコクリと頷いた。
「ええ、とな。今は少し入り用で金を稼がないといけないんだ。それが片付いたら行って……みる?」
アリスの表情を伺いながらそう答えたディーノ。
もしアリスが首を横に振るようなら断ろうとも考えたのだが、頷いたのなら問題はないはずだ。
この回答に喜んだソロの冒険者達は、順番を決めようと待合席に戻って話し始めた。
この間にエルヴェーラはロザリアとルチアからディーノとアリスの状況を確認し、フフンと余裕のある表情をアリスに向ける。
アリスはその表情からディーノの反応が薄かった事も聞いているのだろうと察し、悔しそうに歯を食いしばっていた。
◇◇◇
ロザリア達とのクエストの後、三度のAA級クエストを受注して全て達成する事ができたディーノとアリス。
ディーノはサポートに徹する事で戦闘の重要な役割を全てアリスに任せ、どの戦いにおいても命の危機に晒されながらもアリスは勝利を掴み取ってきた。
そして三度目のクエストまでなるとアリスの成長も著しく、ディーノのギフトがなくとも正面から戦えるまでに成長している。
AA級モンスターに対する恐怖に打ち勝てた事も大きいだろう、息の乱れが少なくなり以前よりも体力もついてきた。
さらには踏み込む事への逡巡がなくなり、迷いのない動きと少しずつ高まってきた風の防壁の強度、身についてきた回避能力と攻撃技術の向上により相当な実力者となっているのだ。
報酬を受け取ってディーノと分配を済ませると、魔鉄槍バーンの代金を支払ってもある程度は手元に残る事がわかる。
「ステータス測定をお願い」
大金貨一枚と金貨五枚を受付カウンターへと置き、エルヴェーラへと視線を向ける。
「承りました。こちらへどうぞ」
普段のように絡む事なく真面目な表情で返事をしたエルヴェーラは、測定室に案内する途中でギルド長に声を掛けた。
「ギルド長、アリスさんのステータス測定をします」
「お、ついにこの時がきたか」と嬉しそうに出て来たギルド長ヴァレリオ。
どうやら稽古をつけてやったアリスがどれだけ成長しているのか確認したいらしい。
測定室に入りアリスが石板の上に乗ると、エルヴェーラは読み取れた数値を紙に書き込んでいく。
そしてその数値を元に計算した、簡易的にまとめられたステータスをアリスに提示するエルヴェーラ。
名前:アリス=フレイリア
攻撃:1838
防御:924
俊敏:769
器用:645
魔力:2310
法力:172
評価値:53(S級ウィザードランサー)
「おめでとうございます、アリスさん。S級冒険者としてこれからの活躍に期待してます」
エルヴェーラのこの言い方からこれまでは期待していなかったのだろうか。
いや、ディーノに同行している事が気に入らないからこそ期待していなかったのかもしれない。
「おうおう、本当にS級になっちまいやがった。やるじゃねぇかアリス」
ガハハと笑うヴァレリオは表情には出さないが、ウィザードランサーのステータスなどこれまで見た事がない。
槍装備による攻撃と防御値への補正はある程度大きいものの、俊敏に至ってはB級シーフ並みであり、器用も伸びているという事は槍の技術も大きく向上している事が伺える。
ウィザードとして見ればこのステータスは異常であり、ランサーとして実力を身に付けたとしても俊敏だけはそう簡単に上がらない。
相当な死線を潜り抜けてきたのだろうと思うとヴァレリオもかつてを思い出して嬉しくなる。
「私、S級……S級!やった!やったわディーノ!」
喜びのあまり泣きそうになるが、これまでの戦いのおかげもあってか咄嗟の判断が早くなったアリス。
この喜びを涙で表現するよりも態度で示すべきだろう、「きゃーっ!」とディーノに抱きついた。
「んなっ!なぁに抱……」と引き剥がしに向かおうとしたエルヴェーラの首根っこをヴァレリオが掴んで引き止め、悔しそうに歯軋りするエルヴェーラはただただその光景を見せつけられるばかり。
「アリスはS級になれるって確信はしてたんだけど、この短期間でよく頑張ったな」
ディーノに抱きついたまま頭を撫でられて嬉しそうに顔を綻ばせたアリスは、エルヴェーラに勝ち誇ったような視線を向ける。
それに拳を握りしめて耐えるエルヴェーラは本当に悔しそうだ。
「偉い偉い。兄ちゃん嬉しいよ」
(兄ちゃん?)と不思議に思いながら頭を撫でられる喜びを味わいつつエルヴェーラを見ると、その口角が持ち上がった事が引っ掛かる。
エルヴェーラはロザリア達からディーノがアリスを兄目線で見ていると聞いており、それを今このディーノの口から聞く事ができたのだ。
今度はエルヴェーラが勝ち誇ったような表情を見せ、その表情を少し不快に思ったアリスはディーノの首筋にグリグリと顔を擦り付けた。
「ん、んー、アリス?兄ちゃん困るからちょっと離れろ。な、前に言っただろ。接し方には気を付けろって!」
「いやよ。もうちょっと。むむむ……」
「じゃあグリグリすんのやめろっ!おいコラッ!」
ディーノに自分を女として意識させようとここぞとばかりに顔を擦り付けるアリスと、自分がうっかり手を出さない為にも引き剥がそうとするディーノ。
アリスの好意を知っているとはいえ、自分の意思を守ろうとディーノも必死だ。
しばらくグリグリをして、「ムキー!」と憤慨するエルヴェーラを見て満足したのかようやくディーノから離れたアリス。
ディーノはため息をもらし、エルヴェーラは怒りの形相を隠す事なくアリスに向け、ヴァレリオはエルヴェーラがアリスに飛び掛からないよう視線を向ける。
「まったく……あー、とりあえずアリスがS級になったしお祝いするからさ、二人もどうだ?」
「行きます!ディーノさんと食事!」
「おう、S級祝いだし俺が出してやってもいいぜ」
エルヴェーラは何か間違っているが、ヴァレリオは食事代を出してくれるらしい。
「じゃあアリス。黄金の盃とカルヴァドス、あとはまだ連れて行った事ないけど【月の夜】のうちどこがいい?」
「カルヴァドスがいい!」
アリスはS級のご褒美であればやはりディーノのご褒美店がいいと、二度行った事のあるカルヴァドスを選んだようだ。
「よし、じゃあカルヴァドスなら頼めば今夜でも個室用意してくれるしな。夜の始時にカルヴァドスに集合な」
今夜のお祝いが決まればアリスも何人か誘いたい者もいるだろう。
個室に入れる程度の六人から七人程度誘っていいと言うと、今日は待合室にいたロザリアとルチア、ファブリツィオとミラーナを誘いたいとの事で、測定室を出てカルヴァドスでの宴会に誘う事にした。
ロザリアもルチアもアリスが言い切る前に「行く!」と手をあげ、高級店での食事への誘いに大いに喜んでいた。
ギルドの待合席兼酒場まで出てくると、多くの者達がディーノ達へと視線を向ける。
「ギルドの冒険者諸君!我らラフロイグギルドの仲間であるアリス=フレイリアがたった今、S級冒険者である事が判明した!冒険者の最高位まで上り詰めたアリスに敬意を!今後の活躍に期待しよう!」
ヴァレリオがそう告げると、ギルド内がワッと盛り上がり、アリスをよく思わない者達でさえも驚きの表情で「S級!?」と立ち上がる。
「みんな聞いてくれ!アリスはなぁ、S級になるまでにAA級モンスターを相手に数々の死線を潜り抜けてきた!身動き取れないくらいの傷を負った事もあった!それでも傷を癒して戦い続け、今日この日、S級冒険者にまで上り詰めた!緩い戦いをしてきたんじゃねぇ、命を削って死ぬ思いして戦ってきたんだ!」
ディーノの声に静まり返るギルド内。
声を荒げるディーノのその表情からは少し怒りが読み取れる。
「そんなアリスをさんざん噂話なんてしやがって……てめぇら恥ずかしくねぇのかよ!」
ディーノは努力するアリスを下衆な噂話で穢される事を不快に思っていたようだ。
ロザリアやルチアによって噂話はだいぶ少なくなっているものの、それでもやはり噂というのはそう簡単になくなる事はない。
「今後はなぁ……ん?なんだアリス。あ、おい。オレの話に説得力なくなるだろ」
話を続けようとしたディーノに腕を絡めるアリスは、ディーノに慣れたのか少し頬が赤くなるだけだ。
「噂は大いに結構よ。だって言い寄ってくる男が減るんだもの」
うふふと笑うアリスはその噂話を事実にしたいとすら思っていたりもする。
「はぁ……また誤解が……ったく。まあいいや。アリスのS級祝いだ。これでみんな飲んでくれ」
冒険者達の酒代として金の入った皮袋をエルヴェーラに渡し、ディーノとアリスはロザリア達を連れてギルドを後にした。
ギルドを出るとアリスはディーノに叱られるも、ロザリアとルチアは少し積極的になったアリスを応援する。
むしろディーノがなぜこれ程までにアリスの好意を受け取ろうとしないのか不思議に思うくらいなのだが、ディーノとしては自分の決めた事だからと少し意地になっている部分も大きい。
少し距離感の取り方がわからなくなってきたアリスに戸惑い始めるディーノだった。
ギルドで報告を済ませて報酬を受け取り、三等分してアリス、ロザリア、ルチアで分け合う。
ディーノの報酬はないのだが、今回の討伐に貢献していないからと、昨夜の食事代がこの旅の報酬だと笑顔を見せた。
思わずして大金を手に入れたロザリアとルチアは大金貨四枚を手に震えていたが、命がけの戦いをしての報酬としてはやや少ないだろうとディーノは思う。
やはり冒険者としては戦いによる経験こそが最大の報酬だろう。
「ディーノ。あたし達にこんな事言う資格はないんだが……また今度クエストに同行させてくれないか!」
「できればBB級以下で!」
ロザリアとルチアはナディアクラのギルドで、ディーノと一緒にクエストに行けないと言ってしまった事を気にしていたのだろう。
誤解していた為ではあるのだが、真実を知った今はまた一緒に冒険してみたいという気持ちがあるようだ。
そしてルチアが言うように死ぬ思いはしたくないのかBB級以下でと条件がつく。
「BB級?んん、もう少しAA級を続けるつもりだけどな。じゃあアリスの支払い終わったらBB級クエストにまた行こうか」
「ありがとうディーノ!」と嬉しそうに手を取るロザリアとルチアだが、それを黙って見ている他の冒険者達ではなかった。
「オレも連れて行ってくれないか!?」「私を連れて行って!」「僕も行きたーい!」と以前ディーノに同行を申し出た者達が名乗りをあげる。
「もしかして女じゃないとダメなのか!?」「美人だけなの!?」と様々な噂をされている事が伺えるような質問もあるが、苦笑いをしたディーノはなんとも断りづらい。
しかし今一緒に旅をしているのはアリスであり、臨時とはいえ男をパーティーに加えるのはどうかと悩む。
そう思い視線をアリスに向けると、それを察したのかアリスはコクリと頷いた。
「ええ、とな。今は少し入り用で金を稼がないといけないんだ。それが片付いたら行って……みる?」
アリスの表情を伺いながらそう答えたディーノ。
もしアリスが首を横に振るようなら断ろうとも考えたのだが、頷いたのなら問題はないはずだ。
この回答に喜んだソロの冒険者達は、順番を決めようと待合席に戻って話し始めた。
この間にエルヴェーラはロザリアとルチアからディーノとアリスの状況を確認し、フフンと余裕のある表情をアリスに向ける。
アリスはその表情からディーノの反応が薄かった事も聞いているのだろうと察し、悔しそうに歯を食いしばっていた。
◇◇◇
ロザリア達とのクエストの後、三度のAA級クエストを受注して全て達成する事ができたディーノとアリス。
ディーノはサポートに徹する事で戦闘の重要な役割を全てアリスに任せ、どの戦いにおいても命の危機に晒されながらもアリスは勝利を掴み取ってきた。
そして三度目のクエストまでなるとアリスの成長も著しく、ディーノのギフトがなくとも正面から戦えるまでに成長している。
AA級モンスターに対する恐怖に打ち勝てた事も大きいだろう、息の乱れが少なくなり以前よりも体力もついてきた。
さらには踏み込む事への逡巡がなくなり、迷いのない動きと少しずつ高まってきた風の防壁の強度、身についてきた回避能力と攻撃技術の向上により相当な実力者となっているのだ。
報酬を受け取ってディーノと分配を済ませると、魔鉄槍バーンの代金を支払ってもある程度は手元に残る事がわかる。
「ステータス測定をお願い」
大金貨一枚と金貨五枚を受付カウンターへと置き、エルヴェーラへと視線を向ける。
「承りました。こちらへどうぞ」
普段のように絡む事なく真面目な表情で返事をしたエルヴェーラは、測定室に案内する途中でギルド長に声を掛けた。
「ギルド長、アリスさんのステータス測定をします」
「お、ついにこの時がきたか」と嬉しそうに出て来たギルド長ヴァレリオ。
どうやら稽古をつけてやったアリスがどれだけ成長しているのか確認したいらしい。
測定室に入りアリスが石板の上に乗ると、エルヴェーラは読み取れた数値を紙に書き込んでいく。
そしてその数値を元に計算した、簡易的にまとめられたステータスをアリスに提示するエルヴェーラ。
名前:アリス=フレイリア
攻撃:1838
防御:924
俊敏:769
器用:645
魔力:2310
法力:172
評価値:53(S級ウィザードランサー)
「おめでとうございます、アリスさん。S級冒険者としてこれからの活躍に期待してます」
エルヴェーラのこの言い方からこれまでは期待していなかったのだろうか。
いや、ディーノに同行している事が気に入らないからこそ期待していなかったのかもしれない。
「おうおう、本当にS級になっちまいやがった。やるじゃねぇかアリス」
ガハハと笑うヴァレリオは表情には出さないが、ウィザードランサーのステータスなどこれまで見た事がない。
槍装備による攻撃と防御値への補正はある程度大きいものの、俊敏に至ってはB級シーフ並みであり、器用も伸びているという事は槍の技術も大きく向上している事が伺える。
ウィザードとして見ればこのステータスは異常であり、ランサーとして実力を身に付けたとしても俊敏だけはそう簡単に上がらない。
相当な死線を潜り抜けてきたのだろうと思うとヴァレリオもかつてを思い出して嬉しくなる。
「私、S級……S級!やった!やったわディーノ!」
喜びのあまり泣きそうになるが、これまでの戦いのおかげもあってか咄嗟の判断が早くなったアリス。
この喜びを涙で表現するよりも態度で示すべきだろう、「きゃーっ!」とディーノに抱きついた。
「んなっ!なぁに抱……」と引き剥がしに向かおうとしたエルヴェーラの首根っこをヴァレリオが掴んで引き止め、悔しそうに歯軋りするエルヴェーラはただただその光景を見せつけられるばかり。
「アリスはS級になれるって確信はしてたんだけど、この短期間でよく頑張ったな」
ディーノに抱きついたまま頭を撫でられて嬉しそうに顔を綻ばせたアリスは、エルヴェーラに勝ち誇ったような視線を向ける。
それに拳を握りしめて耐えるエルヴェーラは本当に悔しそうだ。
「偉い偉い。兄ちゃん嬉しいよ」
(兄ちゃん?)と不思議に思いながら頭を撫でられる喜びを味わいつつエルヴェーラを見ると、その口角が持ち上がった事が引っ掛かる。
エルヴェーラはロザリア達からディーノがアリスを兄目線で見ていると聞いており、それを今このディーノの口から聞く事ができたのだ。
今度はエルヴェーラが勝ち誇ったような表情を見せ、その表情を少し不快に思ったアリスはディーノの首筋にグリグリと顔を擦り付けた。
「ん、んー、アリス?兄ちゃん困るからちょっと離れろ。な、前に言っただろ。接し方には気を付けろって!」
「いやよ。もうちょっと。むむむ……」
「じゃあグリグリすんのやめろっ!おいコラッ!」
ディーノに自分を女として意識させようとここぞとばかりに顔を擦り付けるアリスと、自分がうっかり手を出さない為にも引き剥がそうとするディーノ。
アリスの好意を知っているとはいえ、自分の意思を守ろうとディーノも必死だ。
しばらくグリグリをして、「ムキー!」と憤慨するエルヴェーラを見て満足したのかようやくディーノから離れたアリス。
ディーノはため息をもらし、エルヴェーラは怒りの形相を隠す事なくアリスに向け、ヴァレリオはエルヴェーラがアリスに飛び掛からないよう視線を向ける。
「まったく……あー、とりあえずアリスがS級になったしお祝いするからさ、二人もどうだ?」
「行きます!ディーノさんと食事!」
「おう、S級祝いだし俺が出してやってもいいぜ」
エルヴェーラは何か間違っているが、ヴァレリオは食事代を出してくれるらしい。
「じゃあアリス。黄金の盃とカルヴァドス、あとはまだ連れて行った事ないけど【月の夜】のうちどこがいい?」
「カルヴァドスがいい!」
アリスはS級のご褒美であればやはりディーノのご褒美店がいいと、二度行った事のあるカルヴァドスを選んだようだ。
「よし、じゃあカルヴァドスなら頼めば今夜でも個室用意してくれるしな。夜の始時にカルヴァドスに集合な」
今夜のお祝いが決まればアリスも何人か誘いたい者もいるだろう。
個室に入れる程度の六人から七人程度誘っていいと言うと、今日は待合室にいたロザリアとルチア、ファブリツィオとミラーナを誘いたいとの事で、測定室を出てカルヴァドスでの宴会に誘う事にした。
ロザリアもルチアもアリスが言い切る前に「行く!」と手をあげ、高級店での食事への誘いに大いに喜んでいた。
ギルドの待合席兼酒場まで出てくると、多くの者達がディーノ達へと視線を向ける。
「ギルドの冒険者諸君!我らラフロイグギルドの仲間であるアリス=フレイリアがたった今、S級冒険者である事が判明した!冒険者の最高位まで上り詰めたアリスに敬意を!今後の活躍に期待しよう!」
ヴァレリオがそう告げると、ギルド内がワッと盛り上がり、アリスをよく思わない者達でさえも驚きの表情で「S級!?」と立ち上がる。
「みんな聞いてくれ!アリスはなぁ、S級になるまでにAA級モンスターを相手に数々の死線を潜り抜けてきた!身動き取れないくらいの傷を負った事もあった!それでも傷を癒して戦い続け、今日この日、S級冒険者にまで上り詰めた!緩い戦いをしてきたんじゃねぇ、命を削って死ぬ思いして戦ってきたんだ!」
ディーノの声に静まり返るギルド内。
声を荒げるディーノのその表情からは少し怒りが読み取れる。
「そんなアリスをさんざん噂話なんてしやがって……てめぇら恥ずかしくねぇのかよ!」
ディーノは努力するアリスを下衆な噂話で穢される事を不快に思っていたようだ。
ロザリアやルチアによって噂話はだいぶ少なくなっているものの、それでもやはり噂というのはそう簡単になくなる事はない。
「今後はなぁ……ん?なんだアリス。あ、おい。オレの話に説得力なくなるだろ」
話を続けようとしたディーノに腕を絡めるアリスは、ディーノに慣れたのか少し頬が赤くなるだけだ。
「噂は大いに結構よ。だって言い寄ってくる男が減るんだもの」
うふふと笑うアリスはその噂話を事実にしたいとすら思っていたりもする。
「はぁ……また誤解が……ったく。まあいいや。アリスのS級祝いだ。これでみんな飲んでくれ」
冒険者達の酒代として金の入った皮袋をエルヴェーラに渡し、ディーノとアリスはロザリア達を連れてギルドを後にした。
ギルドを出るとアリスはディーノに叱られるも、ロザリアとルチアは少し積極的になったアリスを応援する。
むしろディーノがなぜこれ程までにアリスの好意を受け取ろうとしないのか不思議に思うくらいなのだが、ディーノとしては自分の決めた事だからと少し意地になっている部分も大きい。
少し距離感の取り方がわからなくなってきたアリスに戸惑い始めるディーノだった。
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