追放シーフの成り上がり

白銀六花

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 王都バランタインへと戻って来たブレイブの四人は、到着から一晩休んでギルドへとやって来た。

 マリオやジェラルドは最初こそソーニャに対してどう接するべきか悩んだようだが、以前とは違い少し優しい笑顔を向けるようになっており、ソーニャもそんな二人に笑顔を返すまでに関係は回復していた。
 ソーニャがパーティーに入る前は、マリオに邪な気持ちもあったとはいえ、ディーノを追い出してでも仲間に入れたかった相手であり、マリオもパーティーが自分の思うように機能しない事から八つ当たりをしてしまっていたのだ。
 今は思い通りにならない状況を新しく入ったソーニャのせいにしてしまった自分を恥じているようで、この三月を共にしたマリオとはまったくの別人と思える程に大人しくなっていた。

「お帰りなさい、ブレイブの皆さん。ラフロイグは如何でしたか?」

 受付嬢のケイトは以前のマリオの振る舞いには怒りを覚えたものの、仕事柄もあり過去の行いにも寛容である。

「いろいろあったが……いや、ケイトにも謝っとく。この間は怒鳴り散らしたり暴言吐いたりして悪かった。これから俺達ブレイブはBB級パーティーとしてじゃなく、一つランクを落としてCC級からやり直そうと思う」

 そう言って軽く頭を下げたマリオを意外そうな目でケイトは見つめる。
 これまで粗暴な印象の強かったマリオが、この短期間のうちにこれ程まで変わるものだろうか。
 そしてBB級パーティーとして失敗が重なった事により、マリオが言わなくともすでにCC級パーティーになっているのだが、自分自身で言って来たのでケイトからはあえて言う必要もないだろう。

「私もマリオさんに酷い言い方をしましたし、お気になさらないで下さい」

 そう言って笑顔を向けたケイトに少し安心したのか、固い表情をしていたマリオも穏やかな表情に変わる。

「それで今回はケイトにクエストを選んでもらいたいんだけど、何か俺達に良さそうなのあるか?」

「では……こちらの【キリングラクーン】の討伐をお願いしてもいいですか?強さとしてはBB級モンスターに近いものがありますが、ブレイブの皆さんであれば問題ないかと」

 キリングラクーンは以前ディーノがソーニャを同行させた際に討伐したモンスターであり、ディーノからはソーニャ一人でも戦えると聞いている。
 この時期多く発注される討伐依頼であり、人気のないクエストではあるものの、実力を付けたい冒険者であれば何度でも挑める訓練用として丁度いいモンスターでもある。

「不人気クエストか……まぁいい。ケイトが選んだんなら今の俺達には必要って事なんだよな」

「うん。ブレイブには必要なクエストだよ」

 マリオが問えばソーニャが答える。
 ソーニャはディーノが受付嬢から紹介されたクエストだけを受けている事を不思議に思い、旅の途中でその理由を聞いた事があった。
 もっと他にいいクエストがあるかもしれないのにも関わらず、不人気どころでも断る事なく受注するディーノ。
 その理由として、その時々で自分に最も必要なクエストを紹介してくれるのが優秀な受付嬢であり、エルヴェーラやケイトが紹介してくれるクエストであれば断る理由はないとさえ言っていた程だ。

「じゃあ受ける」

「はい。よろしくお願いしますね。では詳細を……」とケイトから依頼の場所やモンスター数、報酬などの説明を受けてからギルドを後にした。



 クエストを受注したブレイブは馬車に乗って旅に出る。
 目的地はそう遠くはなく、この日の夕方には着ける予定だ。

「新しい鎧が欲しかったんだが……」

 この日ジェラルドが着ている装備は、まだ新米の頃に着ていた皮の鎧だ。
 ディーノの殺人的な蹴りによって使い物にならなくなった鎧は、今後買い換える際には中古品として引き取ってもらえそうにはなく、すぐにでもスクラップとして廃棄にされそうだ。
 かなり高額な鎧だっただけにジェラルドも毎日丁寧に磨いていたのだが。

「ソーニャからディーノの話を聞いただろ。俺達はクエストには行ってたけど前衛に出なかった事で経験が足りねぇんだ。だから今は危険度の少ねぇCC級モンスターで実力をつける。装備を揃えんのはそれからでいい」

 とはいえキリングラクーンの危険度はBB級モンスターにも劣らないのだが、自分を追い込んでこそ経験は多く積む事ができると聞いている為、マリオはジェラルドにある程度リスクを背負わせるつもりでもいる。

「俺もこのクエストが終わったら剣を売るつもりだ。自分の身の丈に合った剣に買い換える。ジェラルドの盾は……そう手に入るもんじゃねぇしそのままでいいか」

「これは絶対に売らない」と盾を抱えるジェラルド。
 マリオの剣は火の属性剣であり、SS級パーティーとして相応しい武器を持つべきだと購入した超高額な両手直剣である。
 属性魔法を使う事ができなくとも装飾の多いこの剣は人目を引く為マリオの自慢でもあった。
 そしてジェラルドの盾はガイアドラゴンと呼ばれる竜種の鱗を加工したものであり、金属とは違いジェラルドのスキルであるプロテクションの効果が乗せられる特殊な装備だ。
 未だ討伐される事のないガイアドラゴンの鱗ともなれば手に入れる事が難しく、購入するとしても属性武器をいくつか買えるだけの金額となる。

「んー、派手好きなマリオがそれ売るの?マリオの一番の宝物なんじゃなかったの?」

「俺じゃ属性剣は使えねぇ……それに俺に必要なのはこれじゃないって事がわかったしな」

 マリオの魔力値は低く、もし魔法を発動できたとしても剣先から少し火が出る程度の出力では普通の剣と変わらない。
 それよりなら切れ味に優れた剣を購入し、マリオのスラッシュの威力を増大させた方がよほどいい。
 ディーノが使っていたような装飾の少ない無骨な剣を購入する事になるが、見た目よりも実力不足と理解した自身の能力を補う為にも必要なものである。
 今となっては見た目だけ派手に装飾された属性剣が、SS級だと調子に乗っていた自分自身に重なって見えてしまい、マリオは思わずため息を吐いた。





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~追放シーフを読んでくださる皆様へ~

【ざまぁ】を期待されていた方には申し訳ありません。
 私としては主人公が仲間として共にしていた者に死んでほしい、悲惨な目にあってほしいという気持ちにはなれず、追放ざまぁは書けませんでした。
 死んでほしい程の相手であれば仲間になる、または仲間でいる事自体信じられませんし、心ある主人公であれば自分を切り捨てた元仲間であっても助けたいと思うのではないかと考えます。
 決別したとはいえ長い間寝食を共にした仲間ですから、間違いがあったとしてもやり直せる機会は必要かと思い、心の変化という形で話を進めさせて頂きます。
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