追放シーフの成り上がり

白銀六花

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44 アリスの休日

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 翌日、アリスは一人でラフロイグの街を歩く。
 ディーノがいない寂しさも少し感じながらも鍛冶屋ファイスへと来たアリスは、ファブリツィオに挨拶をしてソファーに腰掛ける。

「どぉだい嬢ちゃん。そいつの使い心地ぁ。合わねぇとこがあんなら調整するけどよぉ」

「いえ、すごい威力でしたしとても使いやすかったです。それで今日はクエストの報酬があるので一部返済に来ました」

 そう言って報酬として得た全ての金を皮袋に入れたままファブリツィオに渡す。
 皮袋から中身を取り出して驚き、大金貨を三枚袋に戻してアリスへと返してきた。

「返済はそう急いじゃいねぇよ。まずはその服、そいつを買い替えなぁ」

 アリスのスカートはリッパーキャットとの戦いで一部を裂かれており、仮縫いして裂けた部分を補修してある状態だ。
 耐刃性のあるスカートとはいえ、一部を切られてしまうと装備としての性能は随分と落ちてしまう。
 次の戦いで補修部分がまた切られると、戦闘の妨げにもなりかねない為、ファブリツィオは買い替えを勧めているのだ。

「そう、ですね。お気遣いありがとうございます。また報酬を受け取ったら払いに来ます。あと、これ……私が倒したリッパーキャットの魔核です。ディーノがお土産に持って行けって言うので」

 テーブルの上に置かれた魔核を見てファブリツィオは目を見開く。
 ディーノと一緒であれば、アリスも渡したばかりの魔鉄槍でも安心して戦えるだろうと思ってはいたのだが、まさかAA級ともなるリッパーキャットを狩って来るとは思いもよらなかったのだ。
 ディーノと一緒に倒したと言うのであればまだわかるが、「私が倒した」と言い切った事から、アリスが実際に戦って勝つ事ができたのだろうとファブリツィオは判断する。
 スカートが裂けたのもその戦いによるものだろうと、アリスを見つめてうーむと考える。

「お前さん、本当にとんでもねぇ冒険者になるかもしれねぇな。大したもんだ。本気でそいつを作った甲斐があるってぇもんよ。それと良い土産をありがとよ。リッパーキャットの魔核ってのぁ鉄を溶かす時に一緒に溶かすと粘りのある金属になるんだよ。そうすっとな、切れ味のいい刃物が出来上がんだよぉ。ディーノの奴も土産に持ってけたぁよく知ってんじゃぁねぇか」

 ガハハと笑うファブリツィオはアリスが以前来た時よりも機嫌がいい。
 それもそのはず、自分が作った武器を使って、アリス本人よりも格上のモンスターを相手に勝利してきたと報告があったのだ。
 ファブリツィオも職人冥利に尽きると言うものだろう。

「よし、俺ぁお前さんが気に入った。お前さんがS級冒険者になったあかつきにゃぁこいつでナイフを作ってやる。楽しみにしとけ、じゃあねぇな。楽しみにしてるぜぇ」

「はい!頑張ります!」と笑顔を見せるアリスだが、ファブリツィオにはアリスが落ち込んでいる事はすぐにわかった。
 しかし(若い頃ってぇのぁいろいろあるもんだぁ)と、特に何も言う事はない。
 もしアリスが思い詰めているようなら何か声を掛けてやろうとも思ったが、また次の報酬が入れば支払いに来るのだ。
 今後様子がおかしいようなら話くらいは聞いてやろうと思いながら、アリスの肩に手を置いて「頑張んなぁ」と笑顔で店から送り出す。



 その後ミラーナがメイドとして仕えているという富豪の邸へと足を運び、相談事があると伝えてミラーナを呼び出してもらった。
 ミラーナは休みをもらって来たとアリスと共に喫茶店へと向かったのだが、突然の訪問にも関わらずミラーナが休みを取れたのは、アリスをディーノのパーティーメンバーだと紹介したからである。
「私が来たからって急に休みをもらって大丈夫なの?」というアリスの質問に対して、ミラーナは三月程前の話を語り出した。

 以前ミラーナに会いに来たディーノは、緊急クエストの全てを完遂する凄腕冒険者として富豪や貴族達の間でも噂になっており、その日たまたま居合わせた邸の主人に、自分が世話になっている貴族の領地に現れたモンスターを討伐してほしいと依頼される。
 その貴族も以前からギルドに依頼を出していたものの、超高難易度となるモンスターである事から受注する者はおらず、一年以上もの間放置されたクエストとなっていた。
 モンスターの危険度からクエストのランクはAA級ではあったものの、討伐の難しさを考えた場合にはSS級の中でも竜種に次ぐ程の難易度をもつモンスターであり、依頼を出した貴族でさえも諦めざるを得ないような状況だったのだが。
 これを承諾したディーノは翌日には準備を整えて出発し、それからわずか七日という短期間のうちに邸の主人の元には依頼達成の知らせが届いた。
 この日からディーノを見込んだ邸の主人だったのだが、それ以上にディーノを気にかけるようになったのがその妻である夫人。
 ディーノがミラーナに会いに来た際には、ただラフロイグに住む事になったと伝えに来ただけであり、依頼を受けるつもりで来たわけではない。
 無理を強いる依頼であったのにも関わらず、嫌な顔一つ見せずにそれを受け、依頼達成後には邸の主人や夫人に対して「オレの大切な友人をよろしくお願いします」と深々と頭を下げたディーノ。
 報酬よりもミラーナを思うその誠意ある態度に心を打たれた夫人は、ディーノが会いに来た際にはどんな時でもミラーナに休暇を与えるよう邸の者に指示を出している。

「だからディーノのパーティーメンバーである貴女が訪れて来たんだし、私が急なお休みをもらっても問題ないのよ」

「そんな事があったのね……」

 アリスは昨日の衝撃的な自己紹介のせいもあり、ディーノに対して少し不信感を抱いていたのだが、この日のミラーナの話にはアリスもよく知る優しくて芯のあるディーノの姿があった。
 昨日から沈んでいた気分が少し晴れやかになるアリスだが。

「私が本気で好きなのはディーノ唯一人」

 真剣な表情でアリスを見つめるミラーナだが、すぐに柔らかい表情を見せて続きを語る。

「でもこの国の法律がそれを許してくれないの。私とディーノが結ばれる事はないわ……まだ触れ合う事はないとしても、ディーノと結ばれる可能性がある貴女が羨ましかったのよ。もし私の勝手で貴女を苦しめてしまったとしたらごめんなさい」

「いえ、そんな……」と言葉も返せないアリスにグイッと近寄ったミラーナは笑顔を見せる。

「お詫びに貴女をディーノ好みに変えてあげる。そのスカートも買い替えないといけないんでしょう?いっそ装備一式変えちゃった方がいいと思うの」

 この日もいつものウィザード姿のアリスは、白いシャツに緑色のリボン、リボンと同色のフレアスカートに黒いローブを羽織っている。
 魔鉄槍での戦いではローブが邪魔になってしまう為、戦闘時はローブを脱いでいたのだが。
 どこかで装備を買い換える必要があり、スカートも切れてしまった事から、アリスとしてもこのタイミングで買い換えるのであれば都合がいい。

「ディ、ディーノ好み、に?」

「ええ。アリスは美人だもの。貴女はディーノを振り向かせたいとは思わない?」

 この質問に顔を赤くして頷いたアリス。
 ミラーナは嬉しそうにアリスの手を取り、防具を売る店へと向かって歩き出した。
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