追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
41 / 257

41 恋敵

しおりを挟む
「お帰りなさいディーノさん、アリスさん。殲滅お疲れ様でした~」

 いつものように依頼達成を前提に挨拶をしてくるのはラフロイグギルド受付嬢のエルヴェーラだ。

「今回のは魔核が多いぞ。全部で百三個と……あとこっちも頼む。オレが倒したのがクイーンイーグルで、アリスが倒したのはリッパーキャット。これがその魔核だ。この二つもクエスト出てるんだろ?」

 ジャラリと音を鳴らして魔核の大量に入った皮袋を一つと、ディーノとアリスが一つずつ魔核をカウンターに置く。

「さすがはディーノさん!と言うだけだと思ったんですがアリスさんも戦ったんですか!?リッパーキャットはAA級のモンスターなんですよ!?」

 アリスがリッパーキャットを討伐したと聞けばエルヴェーラも驚くのは無理もない。
 AA級モンスター討伐はS級冒険者であるディーノにさえも紹介する事はできないのだから。
 裏ではエルヴェーラからディーノにAA級クエストが流されているものの、本来であれば合計120ポイントを超えるパーティーでなければ紹介する事はない。

「うふふ~。ディーノがやってみろって言うから頑張ったのよ。ね、ディーノ」

 嬉しそうに顔を綻ばせてディーノに顔を向けるアリスを見て、エルヴェーラは女の感が働きアリスの表情からその感情を読み取る。
 そして瞬時にこの女は恋敵になり得ると判断したエルヴェーラは、アリスに相槌をうつディーノに小声で問いかける。

「ディーノさん。冒険者には手を出さないと言ってませんでしたか?」

 まず疑ったのは男であるディーノの方だが、当の本人は首を傾げながら「そうだけど?」と答えてくる。
 すぐさまこの二人の関係がどうあるのかを判断するエルヴェーラ。

「アリスさん聞きましたか?ディーノさんにそんな目を向けてはいけませんよ~?」

 笑顔を見せたまま敵意を向けるという高等技術を発揮するエルヴェーラに、男は苦手というアリスとはいえ感の鋭い女であり、その敵意に気付くと咄嗟に身構え声を落として問い返す。

「そんな目ってどんな目かしら」

「い・ろ・目!色目を向けてはディーノさんも困りますよ!」

「色目なんて使ってないわよ!そもそも私が男の人が苦手ってエルヴェーラも知ってるはずでしょ!?」

 実際、ラフロイグギルドではアリスは男が苦手どころか、男嫌いという事で知られている。
 アリスに好意を持った者がパーティーに誘ってくる事はあるものの、そう好んで誘ってくるような男性比率の高いパーティーはない。
 しかしそんなアリスがここ最近ではS級冒険者であるディーノと一緒に行動を共にしており、このディーノという男もラフロイグでは全ての勧誘を断り続けたソロの冒険者でもある。
 少し前まではソーニャがいたからこそ特に言われる事もなかったのだが、今では陰でいろいろと囁かれているようだ。
 周囲でこの二人が共に行動をする事をよく思わない者達からは「男嫌いって嘘でしょ」「きっと体で誘ったのよ」「美人ってのは得だな」などとボソボソと話しているのが聞こえてくる。
 この噂話が広まっている事をエルヴェーラも知っており、自分のディーノに対する好意も含まれてはいるものの、噂話をされている事を知らせる為にも注意喚起のつもりで話を振っている。
 ソロの冒険者であるディーノならばまだしも、アリスは臨時という形ででもパーティーに参加しなければ、どのクエストを受けるとしても厳しいと言わざるを得ない。
 今後ディーノとパーティーを組むとするなら問題はないのだが、それはエルヴェーラの私情もあって看過しかねるというもの。
 とはいえ本人達が申請した場合にエルヴェーラに防ぐ手立てはないのだが。

 周囲に目を向ければアリスに対する視線は優しいものではない事はすぐにわかる。
 実力のあるディーノに同行するアリスに対して嫉妬の目が強く、悪意に満ちた視線としてアリスには届いている。
 アリスが引き下がればまだ周囲からの当たりは緩くなるかもしれないが、強さを求め始めたアリスがここで引き下がるような事はしない。

「体で誘った、か……うふふ。それもいいかもしれないわね」

 そう言ってディーノに腕を絡めるアリス。
 周囲に笑顔を向けた後にエルヴェーラに向き直り、「忠告ありがとう」と言い残してディーノの腕を引いてギルドを後にする。
 エルヴェーラからは丸わかりなのだが、アリスの顔は真っ赤に染まってこの状況に耐えられそうにはなかった。
(強気だなぁ)と思いながらアリスを見送るエルヴェーラは恋敵としては悪くないと考えを改める事にした。
 自分が冒険者ではないというアドバンテージがあるエルヴェーラには、まだ少しだけ余裕があったようだ。



 ギルドから出てすぐ近くにある細い路地に入るアリスとディーノ。
 真っ赤な顔を両手で押さえてしゃがみ込むアリスは、恥ずかしさのあまり震えが止まらない。

「アリスは見た目に反してこういうの苦手なんだよな。男を手玉にとるくらいできそうなのに」

「う、うるさいわね!男の人が苦手なんだからしょうがないじゃない!」

 男が苦手と言われた側のディーノとしてはいろいろと思うところもあったものだが、今では危険性の少ない男という認識はあるものとして把握している。

「この前抱き着いてこないっけか?」

「あの時は……あんなモンスターを倒した後だし、う、嬉しかったから勢いよ!でも人前で……腕に抱き付くとか……もうっ……はぅぅっ」

 自分でやっておきながら悶絶する程に恥ずかしさを覚えるアリスは、顔どころか全身に至るまで赤く染まっている。

「その時々で違うもんなのか。男が苦手ってのも大変なんだな」

 アリスが恥ずかしさに震えるのに対し、抱き付かれた側のディーノはいつもと変わらず何とも思っていないような表情だ。
 そんなディーノを見て(なんで私ばっかり……もうこうなったら絶対に振り向かせてやる!)と決意するアリスだった。

 それから少しして落ち着いたアリスに手を差し伸べたディーノは、「また今日もカルヴァドス行くか」と誘うとアリスも嬉しそうに立ち上がって歩き出した。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

処理中です...