追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
40 / 257

40 ディーノが跳ぶ

しおりを挟む
 マンティスの殲滅を終えて馬車に戻るまでに魔石を回収し、馬車で一息ついていると。

「あれ?あいつがいない!ちょっと行ってくる!」

 ディーノが言うあいつとは遠くから見下ろしていた鳥型のモンスターの事だろう。
 爆風を放って加速したディーノは速く、それを真似してアリスも後を追うが追い付く事はできそうにない。

 動けなくなっているとはいえまだ生きていたスパローの元へと到着したディーノ。
 それを頭から食い千切る巨大な鳥は【クイーンイーグル】と呼ばれるAA級モンスターだ。
 牛をも掴んで飛び上がれる程の巨鳥ではあるものの、機動力の低さからスパローを捕らえる事も難しいとされる残念なAA級モンスターでもある。
 飛行するうえ風属性スキルを使用する為討伐も難しいのだが、ディーノが相手ではイーグルといえども部が悪い。

 跳躍して距離を詰めてきたディーノに突風を放つ事で吹き飛ばし、スパローの一体を掴んで空へ向かって羽ばたく。
 着地したディーノは地面を駆け、再び跳躍すると、空へと舞い上がろうとするイーグルを追って空中を蹴って空を飛ぶ。
 一瞬だけ足元に作り出した風の防壁と元ある空気をぶつける事で足場とし、ディーノの跳躍力で追うという荒技ではあるのだが、イーグルの背後まで到達したディーノはそのまま背中へと飛び乗り、翼の付け根へとユニオンを突き刺す。
 掴んでいたスパローを放し、高度を下げ始めたイーグルは飛行を続ける事が難しいと判断したのだろう。
 地面に叩きつけられないよう痛む翼に耐えて空を舞う。
 ディーノはイーグルの背に乗ったまま地面に着陸するのを待つだけだ。

 地面に降りたイーグルは背に乗るディーノを払い除けようと風の防壁を広げて爆風を吹き放つ。
 後方に跳躍して着地したディーノはイーグルへと駆け出し、ディーノに向き直ったイーグルはその巨体からは想像もできないほどの速度で嘴を突き出してくる。
 それを横回転するように回避したディーノはすれ違い様にユニオンを突き刺し、首筋に深い傷を負ったイーグルは地面に倒れ込む。
 再び爆風を放つイーグルだが、それをユニオンで斬り裂く事で風を防ぎ、首筋に風を纏ったユニオンを振り下ろす事でトドメを刺した。
 ユニオンで爆風を斬り裂いたのは魔鋼としての能力であり風属性スキルではない。
 属性スキルによる事象を斬る事のできるユニオンならではの使い方だ。
 これもまたディーノが属性剣ユニオンを金額相応と捉える理由であり、使う者が使ってこそその性能は際立っていく。

 アリスが走って追い付いた時にはディーノは魔核を回収して保存の魔石を体内に仕込んでいるところだった。
 自分が死ぬ思いをして戦ったAA級モンスターを相手にして、息を乱すどころかほんのわずかな時間で倒して見せたディーノにはただ驚かされるのみ。
 自分との実力の違いを思い知らされるが、ディーノのステータスを知るアリスには納得できてしまうのもまた事実。

「さすがはS級冒険者ね。こんな巨大なモンスターでもあっさり倒しちゃうんだもの」

「そうは言うけどオレだってユニオンが無いとそこそこ苦労するんだけどな。本当、いい買い物したよ」

 ユニオンに付着した血を拭い、その刃の輝きを確認してから鞘に収める。
 そんなディーノの姿に、アリスも魔鉄槍バーンに目を向けてここ二日の戦いを思い返し、自分も本当にいい買い物をしたと改めて感じていた。
 まだ支払いは終わっていないのだが。



 二人がカンパーダ領へと戻ったのが夜一の時を過ぎた頃。
 カンパーダにあるギルドにモンスターの回収を頼んでから、前回と同じ宿に二部屋取る事にした。
「本当に一人部屋を二部屋でいいんですか?」と何度も尋ねてくる女将にディーノは「いいんです」と答え続ける中、「女将さんがそう言うならそうする?」と何故か乗り気なアリス。
 ディーノとしては手を出すような事はしないとしても女性と同室ではそれなりに気を使う為、溜息を吐きながらそれを拒否した。
 部屋に荷物を置くついでにシャワーを浴びてから夕食に向かう事にする。

 この日選んだ酒場はカンパーダ領でも最も繁盛する店の個室。
「今日もお疲れ様」とグラスを打ち付け合い、酒を煽ってこの日の戦いを振り返りながら料理を堪能する。

 アリスにとっても忘れられない戦いとなったリッパーキャットとの死闘に、その勝利の喜びからかアリスも酒がすすむ。
 ディーノもアリスが喜ぶだろうと話を盛り上げ、その時の心境なども聞きながら今日積み上げた経験を記憶の中に言葉として落とし込ませる。
 この自身の戦いを振り返る事はステータスを上昇させるにあたり有効な方法であり、ディーノは無意識的にアリスの戦いを振り返らせ、今後活かせる点や反省点などを交えながら戦闘における引き出しを構築させていく。
 自身の戦いを語る場合には誇張表現をする者が多い中、実際に行った本来の戦いを表現する事で多くが損失される知識という経験をも心身に刻み込むのだ。
 様々な戦闘状況を想定した戦いに備える為、ディーノは普段からこの復習を繰り返し行なっている事でもある。

 ディーノの話の誘導にも楽しそうに言葉を弾ませ、今後は突きだけではない斬る、薙ぐといった斬撃系の槍術も覚えて戦いの幅を広げたいと、アリスは更なる高みを見つめて笑顔を向ける。

 楽しい酒の席では羽目を外してしまいやすいものであり、体が疲れているのにも関わらず多くの酒を飲んだアリスは酔い潰れてしまった。
 テーブルに突っ伏したアリスの表情は赤く染まるも嬉しそうであり、とても幸せそうな寝顔だ。
 ディーノは残りの酒を飲み干してアリスを抱えて店を後にした。



 ◇◇◇



 翌朝目覚めたアリスはまたも知らない天井である事に驚き、体を起こして周囲に目を向ける。
 しかし部屋の中にディーノの姿はなく、安心したような、少し残念なような、切ないような気持ちがアリスの心の中を吹き抜ける。
 二部屋取ってある為、自分を寝かせて自分の部屋に戻ったのだとわかってはいても、起きた時に部屋にいて欲しかったなという思いが強いらしい。
 男が苦手と思っていた自分はどこに行ったのかわからなくなる程に、アリスはディーノに惹かれてしまったようだ。

 身支度を整えて朝食時。
 いつも通りの表情を向けてくるディーノに、昨夜もやはり何もなかったのだと察するアリス。
「飲んでもいいけど男の前で酔い潰れるのはよくないぞ」と注意をしてくるあたりは、アリスに対して意識していない事がよくわかる。
 この男をどうすれば自分に振り向かせられるのかと考えながらパンを咀嚼するアリスだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

処理中です...