追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
30 / 257

30 反省

しおりを挟む
 ギルドからマリオを引き摺って出て来たソーニャは、馬車の荷台へとマリオを転がす。
 同じようにジェラルドを引き摺って来たレナータは息を切らしながら、馬車の荷台にへたり込み、ソーニャが引っ張り上げてジェラルドもマリオの隣に転がした。
 二人共完全に意識を失っており、今すぐに回復をしてやりたいところだが、レナータはちょっとは反省しなさいとばかりに回復スキルを発動しない事にする。
 意識を取り戻して痛みに苦しむところを回復してやればいいだろうと放置した。
 ギルドの入り口に落とされたままの荷物も馬車に積み、ソーニャはレナータに馬車を任せて宿に荷物を取りに走って行く。
 その間、顔の原型をとどめない程にパンパンに腫らしたマリオと、赤い泡を吹いたジェラルドを見下ろし、今後どうなるのかと心配になり溜息を漏らしていた。



 馬車に戻って来たソーニャは荷物と人数分の弁当を持っており、御者席へと腰を下ろすと馬車を走らせ始めた。
 これから二日程の旅路であり、話をする時間は多くある。
 レナータも荷台からソーニャの隣へと移動して会話を始めた。

「ソーニャ、良かったの?ブレイブに戻って来たらまた辛い思いをするかもしれないんだよ?」

「んー、私もねー、あのままディーノと一緒にパーティー組めたら最高だな~って思ったんだけどね。ディーノはカッコイイし、それに速さ特化のパーティーとかおもしろいでしょ?」

 アリスが一緒であればまた別なのだが、あくまでも同行しているだけでありパーティーではない。

「ディーノは仲間に手を出さないって言ってたけど、私から迫る分にはまた違う話だと思うし」

「え、ソーニャは本気なの?大好きって友愛とかじゃなくて恋愛的な意味なの?」

「友愛で口にチューはしないよ~。もう今すぐ全てを捧げたいくらいっ!にゃはっ!」

 レナータはソーニャから異性の好みについても聞いた事があったのだが、少し威圧感のある男らしい方が好みであり、どちらかと言えば優男とも思えるディーノとは正反対な気もする。
 しかしつい先程見たディーノの苛烈さは、これまでにも見た事がない程に迫力があり、恐怖さえ覚える程の凶暴性を見せつけられた。
 これが男らしい事であるとは思えないが、普段のディーノを知るソーニャからすればまた違った見え方になるのだろう。
 しばらく一緒にいなかったレナータからすれば恐怖を感じてしまうのだが。

「一応言っておくけど、ディーノはすごくモテるからね。ライバルは多いと思ってた方がいいよ」

「まさかレナも!?」

「違う違う」と否定するレナータ。
 レナータはパーティー内で恋愛などするつもりは一切無い。

「違うならいいや。でね、このラフロイグでのお休み期間は毎日楽しくて~、ディーノからはいろんな事を教えてもらったよ。もうディーノは私の師匠だね」

「ディーノは……強かった?」

 レナータはステータスを自分達に分け与えた状態のディーノの戦いしか知らない。
 キリングラクーンの討伐では一撃で倒したところを見たものの、以前のディーノもラクーン相手に苦戦する事はなかったのだ。

「強いと思うよ。どれだけ強いかはわかんないけどさ。BB級モンスター相手だとディーノの敵じゃないからね~」

「そっか……元々SS級モンスターにも一人で挑んでたようなものだしね(それも攻撃力や防御力を低下させた状態で……)」

 攻撃力や防御力が高ければまた違った戦い方も出来るだろう。
 そのどちらも低下した状態のディーノは、SS級モンスターを相手に回避するしか戦う術がなかったのだ。

「おかげで私もアリスもBB級モンスター相手にいっぱい訓練させてもらったんだ。単体相手なら私一人でも倒せるくらいには強くなれたよ」

 驚きの表情を見せるレナータ。
 バランタインを出る前にもBB級モンスター相手に、一人でも戦う事は出来ていたのだが、倒せる程の強さはなかった。
 戦える事と倒せる事ではその意味は大きく違い、シーフが大型のモンスターを倒すのは相当に難しい事なのだ。
 ソーニャは嬉しそうにディーノからもらったダガーを愛でる。

「これからずっとディーノと一緒にいられればもっと強くなれる。そう思ったんだけどさ。それじゃディーノに頼った強さじゃん。絶対に助けてもらえるって安心感があっての強さじゃん。私の本当の強さじゃないなって思ったの。だから、私が本当の意味で強くなるとしたらブレイブだって思ったの。辛い思いもしたけど……ここは私が憧れて入ったパーティーだから。私が最強のシーフを目指すとしたらブレイブでだよ」

 ソーニャの目には強い意志が感じられる。
 レナータも気圧される程の強い意志を持ってブレイブに戻って来たのだ。
 自分が心配ばかりしていては失礼だろうと、レナータは今のソーニャに自分の意思も示すべきだろう。

「ソーニャは強いね。私ももっと強くならないと!私だけじゃないな、マリオとジェラルドも!ソーニャがもっと強くなるなら私達も頑張って強くならないとだね!」

「うん!みんなで強くなろうよ!ふぉっ!?」

 レナータに抱きつかれたソーニャは妙な声を発して笑い合う。
 しばらくじゃれ合う二人だが、石を踏んだのかガタンと馬車が揺れるとジェラルドが呻き声をあげる。

「うーん、でも私もディーノがあんなに怒るなんて思わなかったな。ほんと、ガーンって殴るだけだと思ってたのにボコボコに……酷いなこれ。マリオの顔治るの?」

 どうやらソーニャもディーノがあれ程激怒するとは思っていなかったようだ。
 自分の為に怒ってくれた事は嬉しくもあるのだが、ここまでボコボコにされたマリオやジェラルドには同情してしまう。

「治るとは思うけど」

「そっか。じゃあいいや。マリオも見た目は悪くないからね」

 マリオは口を開けばその粗暴さが目立つものの、黙っていればなかなかの男前ではある。
 ジェラルドもまた同じく、体の大きさも相まって男らしさが際立つ。

「見た目以外が残念なんだよね……」

 オリオンではマリオ、ジェラルド、ディーノの三人共見た目が良い事から目立つパーティーではあったのだが、この中で唯一モテるのがディーノだけ。
 他の二人はこの事実に納得がいかないようだったが、レナータから見れば当然でもあった。

「ディーノが言ってたんだ。マリオの斬撃はすごいんだって。ジェラルドもいざと言う時しっかり守ってくれるんだって。ディーノも私もこれまで死なずに済んだのはあの二人がいたからだってさ。あ、レナの事は褒めちぎってたけどね!ちょっと悔しくなるくらいに!」

 二人だけを褒めていたように話してしまい、早口でレナータの事も伝えるソーニャ。

「冒険者が本当に危機的状況に陥ったのなら、仲間を見捨てても逃げ出す覚悟はしておけって言ってたけどね。どんな状況でも逃げ出さないあの二人は冒険者としては間違っていても、仲間としては嬉しいもんだって。問題は前に出ないだけで、それ以外は頼れる仲間だってさ」

 そのまま背後の荷台に振り返るソーニャ。

「マリオもジェラルドも聞いてるんでしょ!ディーノが言ってたんだよ!パーティー追い出されたのにも関わらず、あんたらを仲間って言ってたんだよ!?みんなに死んでほしくないんだって!!」

 するとやはり意識を取り戻していた二人は、震える体を起こして荷台の枠に寄りかかるようにして座る。

「ほーうぁ……ふっ、ふっ…ふあああっは」

「俺……うおぇっ……ぐふっ……た、うえぇっ」

 顔をパンパンに腫らしたマリオは目もまともに見えていないだろう。
 顎もまともに動かずに喋るどころではない。
 ジェラルドも腹をひたすら蹴られ続けたせいで血の混じった吐瀉物を外に吐き出して、こちらも喋るどころではない。

「レナ。そろそろ治してあげて?なんだか可哀想」

「私の鬱憤はまだ晴れないけどね。もっと苦しめばいいのに。ま、仕方ない」

 レナータも相当ストレスが溜まっていたのか二人に対して辛辣だ。
 それでも会話にならなければまたそれはそれでストレスが溜まると、二人同時にヒールで癒す事にした。



 傷が癒えて荷台で正座をするマリオとジェラルド。

「ソーニャ。俺が悪かった。これから俺達はCC級からやり直そうと思う。勝手な頼みとはわかっているが……協力してくれ」

「すまない。俺達が間違っていた。今後は前衛のガーディアンとしてみんなを守ろうと思う。これまでの失言、許してくれ」

 頭を下げて詫びを入れる二人に、後ろを向いてその話を聞くソーニャとレナータ。

「してくれ?なに上からモノを言ってるの?お願いしますでしょ?許して下さいでしょ?言い直して」

「反省してるのはわかるけど……レナちょっと怖い」

 辛辣な言葉を発するレナータにソーニャも若干引き気味だ。

「協力して……下さい。お願いします」

「許して下さい!レナ様!」

(あれ?なんか間違った?)と思う程にジェラルドが嬉しそうだ。
 マリオは少し悔しそうな表情をしているが、素直に謝れるところが見捨てられない彼の良さでもある。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...