追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
25 / 257

25 ウィザード

しおりを挟む
 ラフロイグのギルドへと戻って来たディーノとソーニャ。
 出発前とは打って変わり、ソーニャは笑顔で受付嬢へと声を掛ける。

「クエスト終わったよ!」

「オレのクエストな」

 そうなのだ。
 これはディーノのクエストであって、ソーニャはそれに着いて行くだけという事になっている。
 それどころかソーニャは一時休暇中という事となっており、クエストに同行するのもおかしな話でもある。
 すごく微妙な表情でディーノを見つめ、一歩下がってクエスト報告を譲る。

「えーと、依頼達成お疲れ様です。ソーニャさん元気になりましたね。はっ!まさかとは思いますが……」

 顔を押さえてディーノに冷たい視線を送るエルヴェーラ。

「それはない。オレがそんな節操なしに見えるか」

「なんかはっきり否定されるとそれはそれでおもしろくないかも。私はこう見えて料理も得意だし家事全般も子供の頃からやってたからなんでもできるんだよ?それにほら!見て!可愛いでしょ!?超高物件なんですけど!?」

 何故かソーニャは自分を推し始めるが、このやり取りから(まぁないだろうな)とエルヴェーラもディーノの言葉を信じる。

「んん、確かにソーニャは可愛いしスタイルもいい。性格だって悪くない。これで気にならない男はそうはいないだろ」

「え?え?なんか急に褒められると恥ずかしいんだけど!」

 ディーノの言葉に両頬を押さえて照れるソーニャは、ここ最近罵られ続けてきた事もあって、褒められると嬉しいようだ。

「ただちょっとバカだけど」

「かしこいよ!」

 セリフは賢くなさそうだ。

「ふむ、ソーニャさんは恋愛対象とかではないんですか?今までパーティーを組んでこなかったディーノさんが、王都から来たソーニャさんを連れてクエストに行くからですね、多少なりとも噂になってるんですよ。好みだったんじゃないかとか、泣いてる弱みにつけ込んだんじゃないかとか、欲情したんじゃないかとかいろいろと」

 エルヴェーラが言うようにギルド内ではディーノが他の冒険者の同行を認めた事が噂になっている。
 そしてやはり見た目の可愛いソーニャを連れてクエストに向かったと聞けば、誰もが勘繰りたくなるのだろう。
 エルヴェーラはこの会話を他の冒険者も聞いているだろうと、噂を否定する為にもディーノに問いかける。

「恋愛対象とかまぁ別として……オレは仲間をそういう目で見ない事にしてる。パーティーとして自分の背中を預ける相手とは対等な立場でありたいだろ?」

 オリオンでもレナータに対してそんな目を向けた事は一度もない。
 兄であるザックからの教えもあり、冒険者に恋愛感情を向ける事なくこれまで過ごしてきている。
 色恋沙汰で問題を起こす冒険者は多いのだという話は、当時のディーノも納得のいくものだったのだ。

「他の冒険者さんにはよ~く聞いてほしい話ですね。恋愛トラブルを起こす冒険者さんは多いですから」

 チラリとエルヴェーラが冒険者達へと目を向ければ、視線を別の方向へと向ける者達が大半だった。

 そしてこの話を聞いてかどうかは知らないが、奥の席に座り、一人で酒を飲んでいた女性が近付いて来る。
 身長はソーニャよりも高く、ブロンドのロングヘアに青い瞳、目鼻立ちの整った美しい女性だ。
 装備からウィザードである事がわかるのだが、機嫌が悪そうに声をかけてきた。

「ねぇ、ディーノ=エイシス!あなたの所属していたオリオン!どうなってるの!?パーティーに参加したら……もう、最っ低!なんなのよあのパーティーは!お試しにって向かったCC級クエストでさえ死にかけたわよ!」

 酒も入ってその勢いでディーノに文句を言ってきたのだろう。
 どうやらブレイブに臨時メンバーとして入ったウィザードのようだ。

「ああ、それは災難だったな。元仲間として謝罪するよ」

 素直を頭を下げるディーノに勢いを削がれたウィザードだが。

「うっ、あなたもあのパーティーにいたんだから大変だったのかもしれないわね……で、でも!オリオンのせいで私が命がけの戦いして来たんだから責任取ってよ!」

 ディーノが責任を取る理由も必要もないのだが、酔っ払いとはなかなかに面倒なものである。

「責任?何をすればいいんだ?」

「その子。その子を連れて行ったんだから私もクエストに同行させて」

 どうやらディーノとクエストに行きたいらしい。
 以前の勧誘地獄の時にも何度かディーノに同行を申し出た事があるのだが、パーティー組む気はないとあっさりと断られている。
 しかし今回元オリオンパーティーに参加し、命がけの戦いをさせられたのだ。
 ディーノにとってはただの難癖でしかないのだが、ウィザードもダメ元で言ってみる。

「んー……ああ、よし。迷惑掛けて悪かったな。まだ決めてないけど次のクエスト一緒に行くか」

 あっさりと許可がもらえた事に少し呆けるウィザードだが、ディーノとしてはギフトをまた試してみたいだけだ。

「え、いいの?え……嘘!?本当にいいの!?やった!私はB級ウィザードのアリス=フレイリア!よろしくね!」

「S級ウィザードシーフセイバーのディーノ=エイシスだ。よろしく」

「え、なんて?ウィザード、シーフ?セイバー?なんでそんなジョブ?」

 さすがにここまでジョブを盛った冒険者はまずいない。
 シーフセイバーやウィザードセイバーもいない事もないのだが、さらにもう一つのジョブもとなればまた別だ。

「属性剣を使うシーフだからウィザードシーフセイバー。風属性だからひたすら速度に特化してるけどな」

「そうなんだ。私は火属性だから被らなくていいかも……って、何?」

 ディーノとアリスの間に割って入るソーニャ。
 訝しげな表情でアリスを覗き込む。

「C級シーフのソーニャ=セルゲイだよ。美人だからってディーノを変な目で見ないでね。そういうの本当に困るから」

 誰がどう困るかは不明だ。

「安心して。私は男には興味ないもの」

「ふえぇ!?私が目当てなの!?」

「それも違うわよ!」

 臨時とはいえ賑やかなパーティーになりそうだ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...