追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
24 / 257

24 ギフトの実験

しおりを挟む
 翌朝。
 ピニャラーダの宿にに一泊してチェックアウトする際に。

「うーん、やっぱりお似合いだと思うんだけどねぇ。男女二人のパーティーだから恋人さんかと思ったのに違うのかい?」

「昨日も言いましたが違いますよ」

「えー、私はなかなかありなんじゃないかと思うけど?ディーノもモテるかもしれないけど私だって結構モテるんだよ~?」

 宿屋の女将に昨日部屋を借りる際にも恋人かと間違われたのだが、それを翌朝も否定するディーノと、何故か有りではないかと言ってくるソーニャ。
 ソーニャもマリオが一時期好意を抱いていたように、相当な美人ではあるのだが。
 そして世の女性から好意を向けられる事の多いディーノも、兄貴分のザックに負けず劣らずの整った顔立ちをした青年だ。
 そんな二人が宿をとろうとすれば、宿屋の女将に間違われても仕方がないのかもしれない。

 宿泊費をディーノが支払い、昼食用にと作ってもらった弁当を持って馬車に乗り込み出発する。

 目標となるモンスターの居場所までは歩いても半時程で着く為、馬車で向かえばあっという間に到着してしまう。
 これなら昨日倒しても良かったのかもしれないが、これから走り回って倒す必要がある為、体力をしっかりと回復した状態で挑むと思えば問題はないだろう。
 ただし、気持ちの問題ではあるのだが。

「うーん、結構いるな。これだとソーニャがいてくれて助かったかも」

「そう言ってくれると嬉しいかな。ラビットボアならそんなに怖くないし私も頑張れる!」

 ムンッとやる気を見せるソーニャだが、ラビットボアの複数討伐となればひたすらに体力勝負でもある。
 もしかするとディーノのギフトよりもソーニャのエアレイドの方が討伐は簡単かもしれない。
 と、ここでディーノは少しギフトについて実験してみようと思い、今回はソーニャを同行という形で一緒に来ているのだが、自分の意思で仲間やパーティーメンバーと思う事で贈り物ギフトを与える事ができないかと試してみる。
 ステータスを確認できない為、実際に動いてみないとわからないのだが。

「うーん、よし。ソーニャは仲間。行ってみようか」

「ん?なんの事?」

 これはディーノの思い込みによる贈り物ギフトの実験だ。
 ソーニャがわかっていなくても問題はない。
 もしソーニャにステータスが贈られていれば走り出してすぐにわかるはずだ。

「一体ずつ行くからソーニャは一旦待機。オレのやり方を見ててくれ」

 ソーニャを残して駆け出すディーノ。
 しかしやはりステータスに変化はないのだろう、走る速度が遅くなるという事はない。
 ディーノの接近に気付いたラビットボアが距離を取ろうと駆け出し、周囲の数体もある一定の距離を取ろうと位置を移動する。
 狙いを定めた一体を追い続け、そのまま真横からダガーを突き立てようと距離を詰めたところでボアは大きく跳躍。
 ディーノのダガーをあっさりと躱してまた逃げる。
 やはり普通に攻撃を仕掛けても当たらない為、ボアの隙を突いて倒すべきだろう。
 ピニャラーダに来るまでの間、ソーニャと訓練をした方法で倒すのが効率が良さそうだ。
 逃げるボアを追い回し、すぐ横に並ぶと同時に才能ギフトを発動し、一瞬で距離を詰めてダガーを突き刺す。
 後ろ足の付け根にダガーを刺した事で跳躍できずに倒れ込むボア。
 あとは噛み付かれないように注意してトドメを刺すだけだ。

 まずは一体目。
 それと同時に一回目の実験は終わり、次に考えられる方法をとる。
 とはいえただディーノの思い込みだけなのだが。

「今日のソーニャはオレのパーティーメンバーだ」

 またソーニャに向かってパーティーである事を宣言し、もう一度ディーノはボアへと向かう。
 しかしこれもまた効果はなく、いつも通りの速度で走れてしまう。
 一体目と同じ要領でボアを討伐し、ソーニャの元へと戻って来る。

「次はどうするか……」

「ん?さっきから何言ってるの?実験って言ってたやつ?」

 ソーニャからすればディーノから仲間やパーティーメンバーなどと言われているが、何の為に言われているのかよくわからない。

「まぁそんなところだ。でもパーティーメンバーのバフってどうすりゃ良いんだろ。オリオンの時は最初から発動してたみたいなんだけど……」

「思い付かないなら次は私行っていい?ディーノのやり方真似してみる」

 ボアへと向かおうとするソーニャに「頑張れ」と肩を叩くディーノ。
 そしてソーニャが駆け出した瞬間に「ふわぁっ!?」と奇声を発して急停止。

「どうした?」

「なんか走り出したらビュンってなった!」

 ディーノがよくわからないまま何故か贈り物ギフトが発動したようだ。
 確かに今ソーニャに贈り物ギフトを渡そうという意思はあったが、特に変わった事はしていない。
 ボアに挑もうとするソーニャに「頑張れ」と、そして肩をポンと叩いた。
 これがきっかけかと不意に気付いたディーノは、オリオン結成時の事を思い出す。
 その時全員と握手を交わしながら挨拶した事。
 そして三月前の別れの時、去り際に全員がディーノに触れた事。
 これは間違いないだろうと、ソーニャの手を取って贈り物ギフトを渡さないようイメージする。

「ソーニャ、悪いけどもう一度走ってくれるか?」

「んん?よくわかんないけど倒しに行くよ?」

 再び駆け出したソーニャは普段通りの走りなのだろう、少し足元を見てからボアへと向かって行く。
 とりあえずソーニャを見守りながらギフトについて思考を巡らす。
 以前もパーティー内で触れ合う事もあったのだが、自身のステータスが増減した感覚はなかった。
 これはもしかするとギフトの性質をよく理解していなかった事が原因かもしれない。
 今はギフトが自分の能力を底上げする事と、自身のステータスを分け与える事とを理解しており、どちらも自分の意思で発動できるようになったという事だろう。
 次にソーニャが戻って来た時に、また贈り物ギフトを発動してみれば答えがはっきりするはずだ。

 ソーニャはラビットボアを追い回し、ディーノよりも速度が遅い為か少し手間取っているものの、横に並ぶと同時にエアレイドを発動してダガーを突き立てる。
 倒れたボアにトドメを刺して嬉しそうに戻って来た。

「うまく倒せた!」

「ああ、見てた。スキルのタイミングもダガーの突き刺す位置も良かったな。その調子で次も頑張ろう」

 褒められて嬉しそうなソーニャにまた手をポンと置くディーノ。
 贈り物ギフトを発動して今度はディーノがボアへと向かう。
 しかしやはり贈り物ギフトが発動している為、走る速度が明らかに遅い。
 このままではボアに追い付く事はできないが、ユニオンから風を放出して加速すればそれ程問題にはならない。
 ボアに追従して横に並び、爆風を利用して急接近からの一瞬で仕留める。
 風を利用した戦いの方が楽に倒せる為、ソーニャには贈り物ギフトの恩恵がどれ程のものか確認してもらう。

「ソーニャ。オレのギフトが掛かってるから速度に注意してくれ」

「わかった!行って来るっうわ!?」

 駆け出したソーニャは自身の速度に体がついていかずにバランスを崩すも、普段以上の前傾姿勢を保つ事で加速に耐える。
 ほんのわずかな時間でボアに追従し、エアレイドを発動するとその一撃を外してしまうが、体制を整えて再びボアに向かう。
 二度目のエアレイドも少しボアから逸れてしまったものの、ダガーを一薙ぎする事で横腹を斬り裂き、動きの鈍ったところを容赦なく突き殺す。
 やはり俊敏の贈り物ギフトは扱いが難しいようだ。

 ディーノの戦い方は速度が低下していても問題ない事がわかっている為、残り二体もソーニャに任せる事にした。
 報酬は討伐分を分けるので、ソーニャも楽に狩れるのであればここで荒稼ぎさせるのも悪くはない。

 次の一体も同じように倒してもらい、最後の一体では贈り物ギフト才能ギフトを上乗せして戦ってもらった。
 速度の上昇値が尋常ではなかったのか、ソーニャは狙いが定まらずにエアレイドで様々な方向へと加速していた。
 それもそのはず、ディーノの通常時の俊敏ステータスがそのまま上乗せされるのだ。
 ソーニャ自身を超えるステータスを上乗せされ、そこにエアレイドによる倍の加速。
 普段の五倍近い俊敏ステータスではコントロールするのが難しい。
 あまりにも狙いが定まらない為、最後は才能ギフトを解除してトドメを刺してもらう事にした。

 走り回ったおかげでソーニャは額に汗を浮かべているが、今回のクエストが楽しかったのか笑顔で戻って来る。
 合計七匹ものラビットボアを討伐し、全て魔核を回収してピニャラーダの街へと帰る事にした。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...