追放シーフの成り上がり

白銀六花

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24 ギフトの実験

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 翌朝。
 ピニャラーダの宿にに一泊してチェックアウトする際に。

「うーん、やっぱりお似合いだと思うんだけどねぇ。男女二人のパーティーだから恋人さんかと思ったのに違うのかい?」

「昨日も言いましたが違いますよ」

「えー、私はなかなかありなんじゃないかと思うけど?ディーノもモテるかもしれないけど私だって結構モテるんだよ~?」

 宿屋の女将に昨日部屋を借りる際にも恋人かと間違われたのだが、それを翌朝も否定するディーノと、何故か有りではないかと言ってくるソーニャ。
 ソーニャもマリオが一時期好意を抱いていたように、相当な美人ではあるのだが。
 そして世の女性から好意を向けられる事の多いディーノも、兄貴分のザックに負けず劣らずの整った顔立ちをした青年だ。
 そんな二人が宿をとろうとすれば、宿屋の女将に間違われても仕方がないのかもしれない。

 宿泊費をディーノが支払い、昼食用にと作ってもらった弁当を持って馬車に乗り込み出発する。

 目標となるモンスターの居場所までは歩いても半時程で着く為、馬車で向かえばあっという間に到着してしまう。
 これなら昨日倒しても良かったのかもしれないが、これから走り回って倒す必要がある為、体力をしっかりと回復した状態で挑むと思えば問題はないだろう。
 ただし、気持ちの問題ではあるのだが。

「うーん、結構いるな。これだとソーニャがいてくれて助かったかも」

「そう言ってくれると嬉しいかな。ラビットボアならそんなに怖くないし私も頑張れる!」

 ムンッとやる気を見せるソーニャだが、ラビットボアの複数討伐となればひたすらに体力勝負でもある。
 もしかするとディーノのギフトよりもソーニャのエアレイドの方が討伐は簡単かもしれない。
 と、ここでディーノは少しギフトについて実験してみようと思い、今回はソーニャを同行という形で一緒に来ているのだが、自分の意思で仲間やパーティーメンバーと思う事で贈り物ギフトを与える事ができないかと試してみる。
 ステータスを確認できない為、実際に動いてみないとわからないのだが。

「うーん、よし。ソーニャは仲間。行ってみようか」

「ん?なんの事?」

 これはディーノの思い込みによる贈り物ギフトの実験だ。
 ソーニャがわかっていなくても問題はない。
 もしソーニャにステータスが贈られていれば走り出してすぐにわかるはずだ。

「一体ずつ行くからソーニャは一旦待機。オレのやり方を見ててくれ」

 ソーニャを残して駆け出すディーノ。
 しかしやはりステータスに変化はないのだろう、走る速度が遅くなるという事はない。
 ディーノの接近に気付いたラビットボアが距離を取ろうと駆け出し、周囲の数体もある一定の距離を取ろうと位置を移動する。
 狙いを定めた一体を追い続け、そのまま真横からダガーを突き立てようと距離を詰めたところでボアは大きく跳躍。
 ディーノのダガーをあっさりと躱してまた逃げる。
 やはり普通に攻撃を仕掛けても当たらない為、ボアの隙を突いて倒すべきだろう。
 ピニャラーダに来るまでの間、ソーニャと訓練をした方法で倒すのが効率が良さそうだ。
 逃げるボアを追い回し、すぐ横に並ぶと同時に才能ギフトを発動し、一瞬で距離を詰めてダガーを突き刺す。
 後ろ足の付け根にダガーを刺した事で跳躍できずに倒れ込むボア。
 あとは噛み付かれないように注意してトドメを刺すだけだ。

 まずは一体目。
 それと同時に一回目の実験は終わり、次に考えられる方法をとる。
 とはいえただディーノの思い込みだけなのだが。

「今日のソーニャはオレのパーティーメンバーだ」

 またソーニャに向かってパーティーである事を宣言し、もう一度ディーノはボアへと向かう。
 しかしこれもまた効果はなく、いつも通りの速度で走れてしまう。
 一体目と同じ要領でボアを討伐し、ソーニャの元へと戻って来る。

「次はどうするか……」

「ん?さっきから何言ってるの?実験って言ってたやつ?」

 ソーニャからすればディーノから仲間やパーティーメンバーなどと言われているが、何の為に言われているのかよくわからない。

「まぁそんなところだ。でもパーティーメンバーのバフってどうすりゃ良いんだろ。オリオンの時は最初から発動してたみたいなんだけど……」

「思い付かないなら次は私行っていい?ディーノのやり方真似してみる」

 ボアへと向かおうとするソーニャに「頑張れ」と肩を叩くディーノ。
 そしてソーニャが駆け出した瞬間に「ふわぁっ!?」と奇声を発して急停止。

「どうした?」

「なんか走り出したらビュンってなった!」

 ディーノがよくわからないまま何故か贈り物ギフトが発動したようだ。
 確かに今ソーニャに贈り物ギフトを渡そうという意思はあったが、特に変わった事はしていない。
 ボアに挑もうとするソーニャに「頑張れ」と、そして肩をポンと叩いた。
 これがきっかけかと不意に気付いたディーノは、オリオン結成時の事を思い出す。
 その時全員と握手を交わしながら挨拶した事。
 そして三月前の別れの時、去り際に全員がディーノに触れた事。
 これは間違いないだろうと、ソーニャの手を取って贈り物ギフトを渡さないようイメージする。

「ソーニャ、悪いけどもう一度走ってくれるか?」

「んん?よくわかんないけど倒しに行くよ?」

 再び駆け出したソーニャは普段通りの走りなのだろう、少し足元を見てからボアへと向かって行く。
 とりあえずソーニャを見守りながらギフトについて思考を巡らす。
 以前もパーティー内で触れ合う事もあったのだが、自身のステータスが増減した感覚はなかった。
 これはもしかするとギフトの性質をよく理解していなかった事が原因かもしれない。
 今はギフトが自分の能力を底上げする事と、自身のステータスを分け与える事とを理解しており、どちらも自分の意思で発動できるようになったという事だろう。
 次にソーニャが戻って来た時に、また贈り物ギフトを発動してみれば答えがはっきりするはずだ。

 ソーニャはラビットボアを追い回し、ディーノよりも速度が遅い為か少し手間取っているものの、横に並ぶと同時にエアレイドを発動してダガーを突き立てる。
 倒れたボアにトドメを刺して嬉しそうに戻って来た。

「うまく倒せた!」

「ああ、見てた。スキルのタイミングもダガーの突き刺す位置も良かったな。その調子で次も頑張ろう」

 褒められて嬉しそうなソーニャにまた手をポンと置くディーノ。
 贈り物ギフトを発動して今度はディーノがボアへと向かう。
 しかしやはり贈り物ギフトが発動している為、走る速度が明らかに遅い。
 このままではボアに追い付く事はできないが、ユニオンから風を放出して加速すればそれ程問題にはならない。
 ボアに追従して横に並び、爆風を利用して急接近からの一瞬で仕留める。
 風を利用した戦いの方が楽に倒せる為、ソーニャには贈り物ギフトの恩恵がどれ程のものか確認してもらう。

「ソーニャ。オレのギフトが掛かってるから速度に注意してくれ」

「わかった!行って来るっうわ!?」

 駆け出したソーニャは自身の速度に体がついていかずにバランスを崩すも、普段以上の前傾姿勢を保つ事で加速に耐える。
 ほんのわずかな時間でボアに追従し、エアレイドを発動するとその一撃を外してしまうが、体制を整えて再びボアに向かう。
 二度目のエアレイドも少しボアから逸れてしまったものの、ダガーを一薙ぎする事で横腹を斬り裂き、動きの鈍ったところを容赦なく突き殺す。
 やはり俊敏の贈り物ギフトは扱いが難しいようだ。

 ディーノの戦い方は速度が低下していても問題ない事がわかっている為、残り二体もソーニャに任せる事にした。
 報酬は討伐分を分けるので、ソーニャも楽に狩れるのであればここで荒稼ぎさせるのも悪くはない。

 次の一体も同じように倒してもらい、最後の一体では贈り物ギフト才能ギフトを上乗せして戦ってもらった。
 速度の上昇値が尋常ではなかったのか、ソーニャは狙いが定まらずにエアレイドで様々な方向へと加速していた。
 それもそのはず、ディーノの通常時の俊敏ステータスがそのまま上乗せされるのだ。
 ソーニャ自身を超えるステータスを上乗せされ、そこにエアレイドによる倍の加速。
 普段の五倍近い俊敏ステータスではコントロールするのが難しい。
 あまりにも狙いが定まらない為、最後は才能ギフトを解除してトドメを刺してもらう事にした。

 走り回ったおかげでソーニャは額に汗を浮かべているが、今回のクエストが楽しかったのか笑顔で戻って来る。
 合計七匹ものラビットボアを討伐し、全て魔核を回収してピニャラーダの街へと帰る事にした。
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