追放シーフの成り上がり

白銀六花

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23 シーフの技

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 王都からラフロイグのギルドへと到着したディーノ。
 王都から出て四日程も経っているが、それでも歩きよりはまだマシか。

「お帰りなさいディーノさん!伯爵様は満足してくださいましたか!?」

「まぁ楽しんでくれたみたいだな。また帰りに依頼するって言ってたし。ほい、これはエルへのお土産な」

 ディーノは王都でレナータ達との買い物で選んだお土産をエルヴェーラに渡す。
 三月後となれば少し寒くなってくるだろうかとも思いつつ、また何か話題を用意しておかないとなと思考を巡らせるディーノだが、お土産を受け取ったエルヴェーラは少し動揺している。

「あの、これ、私に!?いいんですか!?」

 エルヴェーラに渡したお土産は少し高価なネックレスだ。
 お土産は贈り物であるとの認識から、以前ザックから聞いた女性へのプレゼントを思い返し、このネックレスをお土産に選んでいる。
 他にも商業都市ラフロイグにいる女性の友人達にはアクセサリー類を買っているのだが。
 男の友人達には酒でも奢ってやればいいと聞いている為何も用意していない。

「うん。エルに似合いそうだし。あれ、あまり好みじゃなかったか?」

 ネックレスを睨み付けるエルヴェーラに嫌だったかと問うディーノだが、エルヴェーラはこのネックレスをどういう意図で渡してきたかを気にしているのだろう。
 何の気なしに問いかけてくるディーノを見て、自分の気にし過ぎかと溜息をもらす。
 しかしエルヴェーラもラフロイグギルドの受付嬢であり、その見た目の美しさから多くの冒険者から好意を寄せられている。
 街を歩けば視線が集まる程には見目麗しい女性なのだ。
 しかしこの目の前の男、ディーノは自分にそれ程興味を持たず、普通の友人かのように接していたのにも関わらず、突然のお土産という名のプレゼント。
 エルヴェーラが動揺してしまうのも無理はないだろう。

「ところで……ディーノさんにお客さんが来てますよ。可愛らしいお客さんが」

(はて?)と小首を傾げるディーノ。
 エルヴェーラが指差す方向を向けばそこにはソーニャが座っており、少し困った顔をしながら手を挙げた。

「ソーニャどうした?なんでラフロイグにいるんだ?」

「えっと……私さ、ブレイブをクビになりそうなの。もう……だめかも……ううっ……ぐすっ……」

 泣き出したソーニャが落ち着くのを待ち、向かいの席に座って話を聞く事にするディーノ。
 ディーノのクエストに同行した後、泊まり掛けのクエストでまた苦戦を強いられ、血に塗れながらもギリギリでモンスターを討伐できたとの事。

 二体を相手のクエストであり、ソーニャはディーノの戦い方を参考にして一体を相手に体力を削り切って動けなくし、隙ができたところに二体目の攻撃を受けて倒れたそうだ。
 身動き取れない程の傷を負い、二体目をジェラルドが抑えてマリオが一体目にトドメを刺そうと剣を振るう。
 しかし二体目が体力の尽きた一体目を守ろうとマリオを攻撃し、マリオも一撃で沈んだそうだ。
 レナータの回復には時間が掛かり、その間ジェラルドは全力で二体目を抑え、ある程度動けるまでに回復したところで一体目をソーニャが引き付け、マリオがトドメを刺す。
 ジェラルドが抑えていた二体目もソーニャが相手取り、ジェラルドはレナータに踏まれたまま回復スキルを受け、レナータの矢がモンスターの注意を引く事で動きの鈍ったソーニャでもなんとか戦えたとの事。
 その間マリオは待機していたのはいつもの事だが、ソーニャは二度目の攻撃を受けて気を失ってしまったそうだ。
 クエストを達成できたとはいえ全員が命がけの戦いとなり、激怒したマリオとジェラルドに怒鳴りつけられ、ソーニャを庇うレナータまでもが涙を流していたと言う。

 そして今日ここにいるのは、ソーニャがラフロイグに行きたいと言ったのがきっかけとの事。
 マリオとジェラルドは新たな仲間を探しにラフロイグについて来たそうだが、パーティーの固定期間である為まだ新たな仲間を入れる事はできない。
 やむを得ずマリオはクエストを受注しようとしたのだが、レナータは少し休むべきだとしてこれを反対。
 ギルドに着いてすぐにレナータがソーニャを一時休暇として申請してくれた為、今ソーニャだけがここにいる。
 レナータもこのクエストには渋ったそうだが、マリオもジェラルドも言い出したらレナータの話を聞かない。
 ラフロイグのソロウィザード冒険者を誘ってクエストに向かったそうだ。

「あいつら本当にバカだな。今度会ったらぶん殴ってやるよ」

「うん……殴ってやって。レナータの分も。あ~、泣いてスッキリした。聞いてくれてありがと」

 目を擦って苦笑いして見せるソーニャ。
 それを見たディーノも、自分が所属していたパーティーメンバーがソーニャをここまで追い詰めてしまった事に胸が痛む。
 せめてソーニャの為に自分がしてやれる事を提案する事にした。

「ソーニャ。少しの間オレのクエストに同行しないか?前回も言ったけどソーニャの安全は約束するからさ。そうだな、また実験の協力って事で頼めないか?」

「え……いいの?ラフロイグではディーノ、誰も同行させないって」

 おそらくはエルヴェーラから聞いたのだろう、ディーノがソロ以外でクエストに向かわない事をソーニャは知っていた。

「この前、一緒に行って問題なかったしな。とりあえず行ってみないか?」

「行くっ!」

「よし、じゃあ早速紹介してもらおう。エル!シーフ向きのクエストを何か選んでくれ!」

 ディーノとソーニャの話は周囲にいた誰もが聞き耳をたてていた。
 これまでラフロイグでは他の冒険者と絡む事のなかったディーノが、王都から来た女性冒険者と話をしているのだ。
 気にならないはずはない。
 エルヴェーラも少し意外そうな表情を見せつつ、シーフ向きのクエストを紹介する。

「ディーノさん向き……失敗クエストは今ありませんが、【ラビットボア】討伐クエストは如何ですか?シーフ向きのクエストですし複数体の討伐ですからそこそこに報酬も良いと思います」

「じゃあそれで」とあっさりと決めてしまうディーノはラフロイグではいつもの事。
 情報と地図をもらって馬車を頼んで出発する。



 北の農村地区【ピニャラーダ】に現れたラビットボアは、人間を襲う事はない為危険度は低いが、畑の野菜を食い荒らす厄介なモンスターだ。
 通常のボア系モンスターとは違い、名前にあるようにウサギのように跳ねながら走り回る為、並の冒険者では討伐する事が難しい。
 ソーニャが全力で走ったとしても追いつけるかわからないモンスターでもある。

 ピニャラーダはラフロイグから馬車で二時程の距離にあり、昼過ぎの今出発したとすれば夕方になってしまう。
 この日はピニャラーダに到着次第宿をとり、明日の朝一番に討伐に向かえばいいだろうと馬車を進める。

 途中でボアが現れるものの、大した脅威にもならないがソーニャの練習には丁度いいと、ディーノはエアレイドでの戦い方を提案する。
 ラビットボアの討伐でも役に立つ戦い方だ。
 攻撃力を上昇させる為に速度を乗せて突き立てた刃を横に倒して一気に斬り裂く。
 ディーノは簡単に言うが、攻撃力の低いシーフにとってその恐怖は半端なものではない。
 もしダガーが引き抜けなければ武器を失う事にもなるのだ。
 それ程防御力の高くないこのモンスターで練習しておけば、いざ強力なモンスターを相手にした場合にも咄嗟の使用は可能になるだろう。
 ディーノが説明し、まずは手本を見せようとボアの前に歩みを進める。

「これは前回の最初の一撃と同じだ。急加速でモンスターの反応を上回るだけだからソーニャにもできるよ」

 しかしディーノはエアレイドを使用できるはずもなく、代用としてゆっくりとした動作からギフトを発動しての急加速でエアレイドを再現して見せる事にする。

 また以前と同じようにボアに横方向から回り込み、ソーニャから見えやすいように位置を変える。
 そのままボアへと走って向かい、ボアが駆け出し速度に乗り始めた瞬間に一気に加速。
 ボアの背後へと跳躍したディーノと、地面に滑り込むように倒れるボア。
 血を広げるボアの首はバッサリと斬り広げられていた。

「な?簡単だろ」

「それはできるから簡単なんだと思う……」

 しかしディーノのあの攻撃力はダガーで付けられるような傷ではない。
 恐ろしいまでの攻撃力をもって斬り付けなければあれ程の傷にはならないだろう。
 それでも加速による攻撃力増加は相当なものだ。
 ただダガーを突き立てるよりも遥かに高い攻撃力となるのは間違いない。
 エアレイドの一瞬の加速はステータスを倍近くまで引き上げる為、ディーノの加速よりも大きな振り幅を得る事ができる。
 これをマスターすれば、ソーニャの戦いの幅が大きく広がる事になるだろう。

 その後現れたボアやスネークを相手に練習を繰り返すソーニャだった。
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