19 / 257
19 冒険者ディーノ
しおりを挟む
王都に戻って来てから四日後。
久しぶりの王都を満喫したディーノはギルドへとやって来た。
ギルド内では多くの冒険者がこの日受ける為のクエストを選び、自分達が受注したいクエストがなかった者は朝から酒を飲む。
その賑やかなギルド内もディーノが姿を現せば視線が向けられ、少し静かになったのも気にせず受付へと向かう。
「ディーノさん!?お久しぶりです!王都に戻って来たんですか!?」
この受付嬢はディーノと同じ孤児院育ちの一つ歳下の女性であり、ディーノの成長を見守ってきた一人と言ってもいいだろう。
「ケイト久しぶりだな。ちょっと護衛依頼で王都に戻って来てさ。訳あってBB級のクエストを紹介して欲しい。できれば迫力のある大きめのモンスターで」
「はい。えーと……いくつかありますけどクエスト報酬は少なめですよ?人気どころはすぐに受注されてしまいますし」
クエストは同じような内容であっても、依頼者が違えば報酬も違う為、人気のないクエストも必ず存在する。
これが長く放置され、危険度が高いと見なされればギルドで追加報酬を上乗せされる事にもなるのだが。
「迫力があるモンスターならなんでもいい」
「では……これなんてどうでしょう。【ジャイアントコング】討伐のクエストになりますが、どうやら上位のモンスターに餌場を追いやられたみたいなんですよね。今は南東にある赤山の麓付近にいるみたいです。赤山の坑夫達から発注されたクエストになりますけど、受注しますか?」
「じゃあそれで。ついでに馬車も頼んでおいてくれ。ああ、そうだ。ところでオリオンの奴らはどうなった?」
ディーノがオリオンについて質問をすると、少し困った顔をしたケイトが話してくれた。
オリオンはディーノ脱退後すぐに解散し、新メンバーと共にブレイブとしてパーティーを結成したとの事。
ブレイブはBB級パーティーとなったものの、パーティーの連携がうまく取れずにクエスト失敗する事が多いらしい。
ケイトはこうなる事を予想していたらしく、ディーノが脱退したと聞いた時にはオリオンを見限ったのだろうと思っていたそうだ。
その後ラフロイグでのディーノの活躍を知り、ソロとして活動している事に疑問を抱き、ステータスを確認して驚きに震えたと言う。
一通りの話を聞けて納得顔のディーノ。
「そっか。教えてくれてありがとなケイト。まだ何日かこっちいるし……今夜ご飯でも食いに行くか」
「はいっ!是非ともっ!」
声を弾ませて答えるケイトに「じゃあまた今夜」と言ってギルドを出た。
ブレイブは昨日からBB級の討伐クエストに出ているらしく、この日会う事もないだろう。
また、ディーノができれば会いたくないザックも、魔境と呼ばれている王国より北西にある、凶悪なモンスター溢れる地に素材集めに向かっているそうだ。
何の素材を集めるのかは知らないが、希少な素材である事は間違いない。
夜まではまだ時間がある。
中央区の伯爵邸に向かい、クエスト受注の報告をして、明日の昼一の半時に迎えに来ると伝えてまた南区へと戻る。
以前世話になっていた武器屋へと向かい、ダガー四本を研磨してもらう事にした。
◇◇◇
翌日の朝に伯爵邸へとやって来たディーノ。
少し苦笑いするロバートと、満面の笑顔を見せるダリアン。
「ダリアン様は……ピクニックにでも行くつもりですか?」
「え?クエストに同行するつもりだけど!?」
これは貴族の子供の普段着なのだろう。
白いシャツに半ズボンとサスペンダー。
それに肩から鞄を下げており、どう見ても冒険に向かう装いではない。
だがこれを少し予想していたディーノは、まずは買い物に向かう事にする。
南区の露店で串焼き肉などを買い食いしながらギルドに近い防具屋へと向かい、ダリアンの冒険者装備を適当に見繕う。
あまりしっかりとした物を買っても重くて動き難く、目的地に着く前に疲れてしまっては元も子もない為、柔らかめの革製ズボンとつま先に鉄板の入ったブーツ、革手袋と固い革製の胸当てを購入し、ダガーを釣る為のベルトも購入した。
それ程値段の張る装備ではないが、ダリアンにとっては雰囲気も出るし、実際に草むらに入っても問題がない為、充分な装備と言えるだろう。
「それとダリアン様、冒険者は武器が必要なのでこれを差し上げます」
ディーノがダリアンに差し出したのは、以前からディーノが予備武器として持ち歩いているダガーだ。
装飾も何もないパッと見れば高価とは思えないダガーなのだが、見る者が見ればわかる熟練の職人が鍛え上げた業物のダガーだ。
大事に使えば長く使える、ディーノが性能だけを追求して注文した武器なのだ。
言ってしまえばこのクエストの報酬では全然足りないほどの金額だ。
それを見たロバートは「ほぅ」と感嘆の声をもらし、鞘や柄などを仕立てればダリアンの護身用の武器になると、後日注文しようと考える。
「ありがとう!大事にするよ!」
嬉しそうにダガーを握り締め、その刃の放つ重い光に目を輝かせた。
ギルドの側にある食堂で弁当を買い、用意してもらった馬車に乗り込んで出発だ。
御者はディーノが担当し、ロバートとダリアンは荷台に座る。
貴族の馬車とは違って馬に荷車を付けただけの、乗り心地など全く気にしない作りの為振動がすごい。
ロバートの鎧はガチャガチャと音を鳴らし、ダリアンは振動に「ああああああ」と声を震わせて楽しんでいる。
赤山は王国領地から一時もあれば着くくらいの距離にある為、旅路に飽きる前には到着できるだろう。
赤山の麓にたどり着くとコングのあげる叫び声が聞こえてくる。
ディーノ達は風上側にいた為、接近に気付いたのかもしれない。
馬車を近くの木に繋ぎ、ダリアンとロバートも馬車から降りる。
「すっごい声だね……怖いくらいだよ」
「仮にもBB級のモンスターですからね。人間なんて捕まったら引き千切られますよ。ロバートさん、ダリアン様をお願いしますね」
「あ、ああ。必ずお守りしてみせるさ」
ロバートの騎士としての実力は、バランタイン王国の中でもかなり上位の位置にあるだろう。
しかしそれはあくまでも人間相手での実力であり、モンスターを相手に想定したものではない。
騎士がモンスターと戦う場合、槍を持って全員で突く場合が多い。
声の聞こえる方に進んでいくと、少し高台になった位置にその姿はあった。
身長はディーノよりも随分と高く、横幅もそれと同じくらいはありそうな程の巨体。
大人の男が七人から八人程の重さはありそうだ。
その巨体の持ち主であるジャイアントコングは、近くにあった巨大な石を握り締めてディーノ目掛けて投げ付ける。
しかしまだ距離がある事から誰にも当たる事はなく、コングを見つめながら少しずつ近付いて行く。
コングは近付かれたくないのか掴んだ石を何度も放り投げ、直撃しそうな石だけをディーノは風の防壁を広げて横に逸らす。
コングのいる高台へと進んだディーノは、背後にロバートとダリアンを残してコングと向かい合う。
「ではダリアン様。今日はオレも普通の冒険者として魔法無しで戦いますね」
「う、うん!頑張って!」
ロバートの陰に隠れたダリアンが声高に応援するが、二人ともコングの迫力に完全に飲まれているようだ。
もしディーノが離れたところで石を投げ付けられたら防ぐ事ができないかもしれない。
ディーノは立ち位置を変え、背後にロバート達がいない位置まで移動してからコングに向かって走り出す。
コングは左右に石を持ち、ディーノに投げ付けると同時に前に出た。
接近するディーノとコングだが、ディーノはここ最近の自分の戦い方から、コングを相手に一撃で倒せる程の攻撃力がある事がわかっている。
しかし今日はダリアンにクエストとは如何なるものかを見せるのが目的であり、一瞬で決めてしまってはモンスターの危険性が伝わらない。
この日はユニオンではなくシーフとしてダガーを使ってコングの相手をする。
コングの叩き付けるような左の拳を伏せる事によって避け、ダガーを薙いで腹部を斬り付ける。
わずかに血が流れ、振り向きざまの右の拳を軽く跳躍する事で回避し、その腕を駆け上って首筋に斬り込む。
走り回るのは得意ではないコングの動きも、このように立って戦う分には相当に速い。
体格の大きさと人間を超える筋力があれば、並の冒険者では太刀打ちできないはずだ。
それはロバートから見てもわかる。
騎士が盾を持ってコングの拳を受けた場合、あの一撃に耐えられるかわからない。
耐えられたとしてもあの速さで動き回られて剣が当たるかわからない。
人間相手の戦い方では通用しない事を、ディーノとコングの戦いを見ていれば嫌でもわかる。
自分達が見縊っていた冒険者はこれ程までに凶悪なモンスターと戦っているのかと思えば、今までの自分の認識が間違っていたのだとロバートは知る。
冒険者とは基本的に四人のパーティーで戦いに挑むのに対し、ロバートは仲間の騎士を三人連れてもジャイアントコングに挑む勇気はない。
そして今コングと戦う一人の冒険者ディーノ。
この男はロバートから見れば異常の一言に尽きる。
腰に差した属性剣を使用せず、ダガー一本でコングと渡り合うその戦いぶりに戦慄を覚えた。
動きの素早さからシーフである事はわかる。
コングの拳を躱し、受け流し、フェイントを交えて斬り付ける。
恐ろしいまでの実力を備えたシーフ。
しかし彼はそれだけではないのだ。
属性剣を持ち、爆風を放って目にも見えない程の速度で敵を斬り伏せる。
その攻撃力、速さ、そして技量。
全てにおいてロバートの理解の範疇を超えていた。
人間がこれ程までに強くなれるのかと疑いたくなる程に。
ロバートとダリアンから恐怖が消えた頃、一瞬でコングの頭の後ろに回り込むと同時に、ディーノは逆手に持ったダガーで喉を斬り裂いた。
傷口から血が溢れ出し、前のめりに倒れ込むコングとその上に立つディーノ。
S級冒険者は息一つ乱す事なくコングを倒して見せた。
「これがオレ達の冒険です。満足してもらえましたか?」
コングから飛び降りたディーノはロバート達の方へと向かって行く。
「すごい……すごいよ!これが冒険なんだ!ディーノの冒険譚はこんなにも凄まじいものなんだ!ねぇ、見たよねロバート!すごかった!すごかったよ!」
「ええ……我々騎士はもっと努力する必要がありますね。戦士ディーノ。貴殿の戦いに敬意を……いや、畏敬の念すら覚えた程です」
剣を地面に置き、胸に手を当てて礼をするロバート。
「やめて下さいよロバートさん。普段通りお願いしますよ」
ディーノとしても言葉遣いを変えたロバートは相手にしづらい。
ボリボリと頭を掻いたロバートは恥ずかしそうに笑ってみせた。
その後はジャイアントコングから魔核を抜き取り、血を拭き取ってダリアンに渡す。
クエスト達成の報告にはギルドで提出する必要があるものの、その後魔核をこちらで引き取ると言えばそのまま持ち帰る事もできるのだ。
報告後はダリアンの物にすればいいだろう。
帰り道では御者もやってみたいと言うダリアンに手綱を預け、冒険者ギルドへと帰って行く。
久しぶりの王都を満喫したディーノはギルドへとやって来た。
ギルド内では多くの冒険者がこの日受ける為のクエストを選び、自分達が受注したいクエストがなかった者は朝から酒を飲む。
その賑やかなギルド内もディーノが姿を現せば視線が向けられ、少し静かになったのも気にせず受付へと向かう。
「ディーノさん!?お久しぶりです!王都に戻って来たんですか!?」
この受付嬢はディーノと同じ孤児院育ちの一つ歳下の女性であり、ディーノの成長を見守ってきた一人と言ってもいいだろう。
「ケイト久しぶりだな。ちょっと護衛依頼で王都に戻って来てさ。訳あってBB級のクエストを紹介して欲しい。できれば迫力のある大きめのモンスターで」
「はい。えーと……いくつかありますけどクエスト報酬は少なめですよ?人気どころはすぐに受注されてしまいますし」
クエストは同じような内容であっても、依頼者が違えば報酬も違う為、人気のないクエストも必ず存在する。
これが長く放置され、危険度が高いと見なされればギルドで追加報酬を上乗せされる事にもなるのだが。
「迫力があるモンスターならなんでもいい」
「では……これなんてどうでしょう。【ジャイアントコング】討伐のクエストになりますが、どうやら上位のモンスターに餌場を追いやられたみたいなんですよね。今は南東にある赤山の麓付近にいるみたいです。赤山の坑夫達から発注されたクエストになりますけど、受注しますか?」
「じゃあそれで。ついでに馬車も頼んでおいてくれ。ああ、そうだ。ところでオリオンの奴らはどうなった?」
ディーノがオリオンについて質問をすると、少し困った顔をしたケイトが話してくれた。
オリオンはディーノ脱退後すぐに解散し、新メンバーと共にブレイブとしてパーティーを結成したとの事。
ブレイブはBB級パーティーとなったものの、パーティーの連携がうまく取れずにクエスト失敗する事が多いらしい。
ケイトはこうなる事を予想していたらしく、ディーノが脱退したと聞いた時にはオリオンを見限ったのだろうと思っていたそうだ。
その後ラフロイグでのディーノの活躍を知り、ソロとして活動している事に疑問を抱き、ステータスを確認して驚きに震えたと言う。
一通りの話を聞けて納得顔のディーノ。
「そっか。教えてくれてありがとなケイト。まだ何日かこっちいるし……今夜ご飯でも食いに行くか」
「はいっ!是非ともっ!」
声を弾ませて答えるケイトに「じゃあまた今夜」と言ってギルドを出た。
ブレイブは昨日からBB級の討伐クエストに出ているらしく、この日会う事もないだろう。
また、ディーノができれば会いたくないザックも、魔境と呼ばれている王国より北西にある、凶悪なモンスター溢れる地に素材集めに向かっているそうだ。
何の素材を集めるのかは知らないが、希少な素材である事は間違いない。
夜まではまだ時間がある。
中央区の伯爵邸に向かい、クエスト受注の報告をして、明日の昼一の半時に迎えに来ると伝えてまた南区へと戻る。
以前世話になっていた武器屋へと向かい、ダガー四本を研磨してもらう事にした。
◇◇◇
翌日の朝に伯爵邸へとやって来たディーノ。
少し苦笑いするロバートと、満面の笑顔を見せるダリアン。
「ダリアン様は……ピクニックにでも行くつもりですか?」
「え?クエストに同行するつもりだけど!?」
これは貴族の子供の普段着なのだろう。
白いシャツに半ズボンとサスペンダー。
それに肩から鞄を下げており、どう見ても冒険に向かう装いではない。
だがこれを少し予想していたディーノは、まずは買い物に向かう事にする。
南区の露店で串焼き肉などを買い食いしながらギルドに近い防具屋へと向かい、ダリアンの冒険者装備を適当に見繕う。
あまりしっかりとした物を買っても重くて動き難く、目的地に着く前に疲れてしまっては元も子もない為、柔らかめの革製ズボンとつま先に鉄板の入ったブーツ、革手袋と固い革製の胸当てを購入し、ダガーを釣る為のベルトも購入した。
それ程値段の張る装備ではないが、ダリアンにとっては雰囲気も出るし、実際に草むらに入っても問題がない為、充分な装備と言えるだろう。
「それとダリアン様、冒険者は武器が必要なのでこれを差し上げます」
ディーノがダリアンに差し出したのは、以前からディーノが予備武器として持ち歩いているダガーだ。
装飾も何もないパッと見れば高価とは思えないダガーなのだが、見る者が見ればわかる熟練の職人が鍛え上げた業物のダガーだ。
大事に使えば長く使える、ディーノが性能だけを追求して注文した武器なのだ。
言ってしまえばこのクエストの報酬では全然足りないほどの金額だ。
それを見たロバートは「ほぅ」と感嘆の声をもらし、鞘や柄などを仕立てればダリアンの護身用の武器になると、後日注文しようと考える。
「ありがとう!大事にするよ!」
嬉しそうにダガーを握り締め、その刃の放つ重い光に目を輝かせた。
ギルドの側にある食堂で弁当を買い、用意してもらった馬車に乗り込んで出発だ。
御者はディーノが担当し、ロバートとダリアンは荷台に座る。
貴族の馬車とは違って馬に荷車を付けただけの、乗り心地など全く気にしない作りの為振動がすごい。
ロバートの鎧はガチャガチャと音を鳴らし、ダリアンは振動に「ああああああ」と声を震わせて楽しんでいる。
赤山は王国領地から一時もあれば着くくらいの距離にある為、旅路に飽きる前には到着できるだろう。
赤山の麓にたどり着くとコングのあげる叫び声が聞こえてくる。
ディーノ達は風上側にいた為、接近に気付いたのかもしれない。
馬車を近くの木に繋ぎ、ダリアンとロバートも馬車から降りる。
「すっごい声だね……怖いくらいだよ」
「仮にもBB級のモンスターですからね。人間なんて捕まったら引き千切られますよ。ロバートさん、ダリアン様をお願いしますね」
「あ、ああ。必ずお守りしてみせるさ」
ロバートの騎士としての実力は、バランタイン王国の中でもかなり上位の位置にあるだろう。
しかしそれはあくまでも人間相手での実力であり、モンスターを相手に想定したものではない。
騎士がモンスターと戦う場合、槍を持って全員で突く場合が多い。
声の聞こえる方に進んでいくと、少し高台になった位置にその姿はあった。
身長はディーノよりも随分と高く、横幅もそれと同じくらいはありそうな程の巨体。
大人の男が七人から八人程の重さはありそうだ。
その巨体の持ち主であるジャイアントコングは、近くにあった巨大な石を握り締めてディーノ目掛けて投げ付ける。
しかしまだ距離がある事から誰にも当たる事はなく、コングを見つめながら少しずつ近付いて行く。
コングは近付かれたくないのか掴んだ石を何度も放り投げ、直撃しそうな石だけをディーノは風の防壁を広げて横に逸らす。
コングのいる高台へと進んだディーノは、背後にロバートとダリアンを残してコングと向かい合う。
「ではダリアン様。今日はオレも普通の冒険者として魔法無しで戦いますね」
「う、うん!頑張って!」
ロバートの陰に隠れたダリアンが声高に応援するが、二人ともコングの迫力に完全に飲まれているようだ。
もしディーノが離れたところで石を投げ付けられたら防ぐ事ができないかもしれない。
ディーノは立ち位置を変え、背後にロバート達がいない位置まで移動してからコングに向かって走り出す。
コングは左右に石を持ち、ディーノに投げ付けると同時に前に出た。
接近するディーノとコングだが、ディーノはここ最近の自分の戦い方から、コングを相手に一撃で倒せる程の攻撃力がある事がわかっている。
しかし今日はダリアンにクエストとは如何なるものかを見せるのが目的であり、一瞬で決めてしまってはモンスターの危険性が伝わらない。
この日はユニオンではなくシーフとしてダガーを使ってコングの相手をする。
コングの叩き付けるような左の拳を伏せる事によって避け、ダガーを薙いで腹部を斬り付ける。
わずかに血が流れ、振り向きざまの右の拳を軽く跳躍する事で回避し、その腕を駆け上って首筋に斬り込む。
走り回るのは得意ではないコングの動きも、このように立って戦う分には相当に速い。
体格の大きさと人間を超える筋力があれば、並の冒険者では太刀打ちできないはずだ。
それはロバートから見てもわかる。
騎士が盾を持ってコングの拳を受けた場合、あの一撃に耐えられるかわからない。
耐えられたとしてもあの速さで動き回られて剣が当たるかわからない。
人間相手の戦い方では通用しない事を、ディーノとコングの戦いを見ていれば嫌でもわかる。
自分達が見縊っていた冒険者はこれ程までに凶悪なモンスターと戦っているのかと思えば、今までの自分の認識が間違っていたのだとロバートは知る。
冒険者とは基本的に四人のパーティーで戦いに挑むのに対し、ロバートは仲間の騎士を三人連れてもジャイアントコングに挑む勇気はない。
そして今コングと戦う一人の冒険者ディーノ。
この男はロバートから見れば異常の一言に尽きる。
腰に差した属性剣を使用せず、ダガー一本でコングと渡り合うその戦いぶりに戦慄を覚えた。
動きの素早さからシーフである事はわかる。
コングの拳を躱し、受け流し、フェイントを交えて斬り付ける。
恐ろしいまでの実力を備えたシーフ。
しかし彼はそれだけではないのだ。
属性剣を持ち、爆風を放って目にも見えない程の速度で敵を斬り伏せる。
その攻撃力、速さ、そして技量。
全てにおいてロバートの理解の範疇を超えていた。
人間がこれ程までに強くなれるのかと疑いたくなる程に。
ロバートとダリアンから恐怖が消えた頃、一瞬でコングの頭の後ろに回り込むと同時に、ディーノは逆手に持ったダガーで喉を斬り裂いた。
傷口から血が溢れ出し、前のめりに倒れ込むコングとその上に立つディーノ。
S級冒険者は息一つ乱す事なくコングを倒して見せた。
「これがオレ達の冒険です。満足してもらえましたか?」
コングから飛び降りたディーノはロバート達の方へと向かって行く。
「すごい……すごいよ!これが冒険なんだ!ディーノの冒険譚はこんなにも凄まじいものなんだ!ねぇ、見たよねロバート!すごかった!すごかったよ!」
「ええ……我々騎士はもっと努力する必要がありますね。戦士ディーノ。貴殿の戦いに敬意を……いや、畏敬の念すら覚えた程です」
剣を地面に置き、胸に手を当てて礼をするロバート。
「やめて下さいよロバートさん。普段通りお願いしますよ」
ディーノとしても言葉遣いを変えたロバートは相手にしづらい。
ボリボリと頭を掻いたロバートは恥ずかしそうに笑ってみせた。
その後はジャイアントコングから魔核を抜き取り、血を拭き取ってダリアンに渡す。
クエスト達成の報告にはギルドで提出する必要があるものの、その後魔核をこちらで引き取ると言えばそのまま持ち帰る事もできるのだ。
報告後はダリアンの物にすればいいだろう。
帰り道では御者もやってみたいと言うダリアンに手綱を預け、冒険者ギルドへと帰って行く。
30
お気に入りに追加
1,778
あなたにおすすめの小説
『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~
川嶋マサヒロ
ファンタジー
ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。
かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。
それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。
現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。
引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。
あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。
そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。
イラストは
ジュエルセイバーFREE 様です。
URL:http://www.jewel-s.jp/
隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活
破滅
ファンタジー
総合ランキング3位
ファンタジー2位
HOT1位になりました!
そして、お気に入りが4000を突破致しました!
表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓
https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055
みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。
そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。
そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。
そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる!
おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる