追放シーフの成り上がり

白銀六花

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18 クエストの約束

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 二日目の馬車の中。
 この日もディーノとロバートは伯爵の乗る馬車に同乗しての移動となる。

「ねぇ、ロバート……ディーノ……昨夜、盗賊を、人を殺したの?」

 ダリアンは少し表情を歪めて二人に問いかけた。
 ディーノはロバートを見つめ、ロバートは伯爵へと目を向けると、伯爵は小さく頷いてロバートが答える。

「ええ。盗賊二十四人を我々騎士と冒険者ディーノの手によって粛清しました。罪を犯した者はそれ相応の裁きを受ける必要があります」

「でも、盗賊だって好きで盗賊してるわけじゃないだろう!?仕事や住むところさえあれば彼らだって悪い事をせずに生きられたはずだ!それに役所に突き出せばそれで済む話じゃないか!」

 ダリアンはまだ十歳の少年であり、人の生死にそう関わった事はないのだ。
 そして盗賊に関しても人を傷つけて物や金を奪う者とでも思っているのだろう。

「はい。改心さえすれば……」

「それはない」

 ロバートの言葉を遮ってディーノが告げる。

「盗賊は同じ事を繰り返します。これまで多くの盗賊を見てきましたけど……そのうちの何度かは同じ人間でした。伯爵様方は盗賊に襲われた人間がどうなるか知ってますか?奴らは……」

「待て待て!それ以上は言うでない!まだダリアンは幼い子供なのだ!それを知るにはもう少し時間が必要なのだ、わかってくれぃ!」

 ディーノの言葉も伯爵が遮り、この盗賊騒動の話はここで終わりとさせられた。

「すみません。出過ぎた真似をしました」

 ディーノが謝罪の言葉を述べると伯爵はホッと胸を撫で下ろす。
 昨日聞いたディーノの話し方から、盗賊の話を聞かされれば気分の悪くなるような光景が脳裏に浮かびそうだったのだ。
 ダリアンだけでなく、伯爵も婦人もしばらく気分が沈む事になっただろう。

 少し気を落ち着かせる為にもお茶を飲み、また昨日と同じようにディーノの冒険譚を聞かせる事とした。
 とはいえディーノの語れるような冒険譚も、二日間話し続ける程あるわけでもない。
 ディーノが兄貴と呼ぶザックの話はさらに強力なモンスターとの戦いであり、ザックが語っていた事も思い返しながら話して聞かせた。



 時刻は昼五の半時、王都バランタインが遠くに見えてきた頃。
 街道の前方から向かって来る小さな馬車がある。
 街道でも少し狭くなった場所であり、大きな伯爵の馬車ではすれ違う際には速度を落とす必要があった。
 速度が落ちた事で外を見るダリアン。

「ねぇ、あの人達は冒険者?」

「そうですね。この時間にこの付近を通るとすれば近場のクエストに向かうんだと思いますよ」

 ディーノがそう答えるとダリアンの目が輝く。

「父上!あの者達のクエストに同行したいのです!お許し願えませんか!?」

 食い気味にねだるダリアンに、伯爵も息子に甘いのかすぐには駄目だと答えられないようだ。

「まだ時間も早いですし、ディーノと私が同行すれば安全を約束できますが」

 ロバートはそう答えるのだが、ディーノの護衛対象は伯爵のはずだ。
「ムムム」と唸る伯爵にディーノは提案をする。

「ダリアン様。オレは今伯爵様の護衛任務中ですので同行はできません。ですが、オレが王都で受注したクエストであれば同行してもらっても構いませんよ。あ……ただ伯爵様からお許し頂ければ、ですが」

 今すれ違おうとしている冒険者達に同行したとしても、邪魔をしてしまう可能性が高い。
 そもそもダリアンは冒険者に同行できるような服装ですらないのだ。
 王都で多少の装備を購入するべきだ。

「むぅぅぅん……ダリアンの希望は叶えてやりたいが……ダリアンを危険に……」

「ロバートさんにも同行してもらって」

「ダリアン様を守る為であれば向かいますが」

 ロバートは何気に乗り気だ。
 ダリアンを思う気持ちと、ディーノの実力を信用もしているのだろう。

「ダリアンはどうしても冒険に行きたいの?」

 婦人の質問にも「はいっ!」と元気に答えるダリアン。

「ぬぅぅ、絶対に安全を約束できるか?」

「それ程高難易度のクエストは受けませんよ。せいぜいBB級、巨獣系モンスターだとダリアン様も見応えあるかもしれませんね」

「本当に安全か?」

 よほど心配なのだろう何度も問うが、「ダリアン様をロバートさんに護衛してもらいます」と答えると許可がもらえた。
「お前に護衛料を請求するからな」とロバートは笑う。



 その後モンスターに遭遇する事もなく王都へとたどり着き、富裕層の住む王都中央区にある伯爵の邸へと到着。
 これでディーノの護衛任務も終了だ。

「ディーノよ。おかげで楽しい旅になったぞ。礼を言う。また帰りにも頼みたいところだが私は王都にしばらく滞在するのでな。冒険者を縛る事はできんしなぁ」

「いえ、またラフロイグに依頼を出して頂ければ受注させてもらいます」

 討伐ばかりがクエストではない。
 こうした護衛依頼もディーノとしては人との繋がりを生む必要な任務だ。

「そうか、それではまた頼もう。して、ダリアンのクエスト同行はどうする?」

「まだ到着したばかりですし予定もあるでしょう。オレは五日後に向かえるようなクエストを受注しておきますので、決まったら報せに来ます」

「五日後のクエストだな。門番には伝えておく故いつでも来てくれ」

「ディーノ、楽しみにしてるね!」と、拳を突き出してきたダリアンに、ディーノも拳を合わせて笑顔を向けた。
 冒険者達ではよく見られる行為であり、ディーノの冒険譚にも出てきている。



 伯爵邸を離れ、王都中央区を進むディーノ。
 この地区にはザックも住んでいるのだが、パーティー追放後である為今は会いたくないものだ。
 いつも過ごしていた王都南区へと足を向け、以前世話になっていた宿を十日程借りる事にした。
 そして久しぶりの王都を満喫しようと、街を歩き始めるディーノだった。
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