追放シーフの成り上がり

白銀六花

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10 ギフト

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「さて」と、本題に入るザック。
 元々ザックがレナータを食事に誘ったのはディーノの話を聞く為だ。

 ディーノがオリオンにいた頃にもザックと話すところを見ている為、パーティーでの戦いやどんなクエストを受けたのか等の話は知っているだろう。
 レナータは商業都市ラフロイグでのクエストから、ディーノ追放となるまでの話を事細かに説明した。

「なるほどな。まぁディーノの奴も最近クエストで怪我しまくってるって言ってたし、SS級で苦戦すんのも当然だ。オレ達S級四人のパーティーでさえ油断すりゃ怪我もするし死ぬかもしれねぇんだ。怪我するだけで済んでたんなら大したもんだ」

 ここで酒をグイッと飲んでキツい一言を告げる。

「オリオンってお荷物抱えた状態でな」

 レナータの胸がズキリと痛む。
 ザックの言い方から考えればオリオンのせいでディーノが苦戦していたような物言いだ。

「レナータには悪いが……いや、お前はクレリックか。ならいた方が助かる場合もあるな」

「どういう……意味ですか?」

 この場合であればレナータもお荷物扱いと考えるのが普通だが、ザックはそれを否定した。

「オレとディーノが兄弟みてぇに過ごしてきたのは知ってると思うが、冒険者になる前にあいつを鍛えてやったのはオレだ。オレより四つも下のくせに、冒険者として名を上げ始めたオレに稽古つけてくれって頼んできたのがきっかけでな。あいつが十三の時から二年間、暇あるたびに稽古つけてやったんだよ」

 ディーノがザックに稽古をつけてもらっていたという話は以前聞いた事があった。
 いつもボコボコにされてたけどいつか見返してやると言っていたディーノの顔を思い出す。

「その二年でオレはS級冒険者になったんだがな。同時にディーノの奴もオレとまともに戦えるまでに成長しやがった。とんでもねぇ奴だと思わねぇか?冒険者になれる歳にはS級冒険者と戦える強さを持ってんだぞ?」

 ザックの言葉をレナータには理解できなかった。
 十五歳になった歳の春。
 新米冒険者としてパーティーを結成したオリオンではディーノの実力は中級冒険者のような速度で動き回れる以外は、それほど特筆するような強さではなかった。
 モンスターを翻弄し、ダガーを持って全身を切り刻み、ジェラルドが押さえてマリオがトドメを刺すのがいつもの勝利パターンだ。
 それは最初の頃から変わらずオリオンから脱退するまで続いた。

「ところがだ。冒険者になってパーティーに入ったと思えば大した強さを発揮できねぇ。ディーノなら一撃で狩れるようなモンスターにもマリオの奴がトドメを刺したとか言ってやがる。おかしいとは思わないか?」

 ザックと戦える程の強さを持つのであればマリオの出番などないだろう。

「問題はスキルだ。あいつのスキルに問題がある。それと……育ちにもな」

「ディーノのスキルは【ギフト】。パーティーメンバーの能力上昇ですよね?問題があるとは思えませんけど」

「はっはっ。まぁそうだよな。だがそのギフトにこそ問題があるんだ」

 レナータとしてはどこに問題があるのかわからない。

「大昔の英雄パーティー【ヘラクレス】では七人のパーティーだったのは言うまでもない常識だよな。ファイターとナイトとセイバー、アーチャーとウィザードにクレリック。そしてもう一人」

「今はジョブとしては使われていない【バッファー】ですよね?確かスキルもディーノと同じギフト……」

「そうだ。パーティーメンバーの能力を底上げして、ヘラクレスを陰から補助していたって事になってる最も地味な英雄【ゼイラム】。物語に残されるゼイラムの記述なんてパーティーメンバーの能力を底上げしたくらいしか書かれてねぇ」

 ゼイラムとディーノのスキルがギフトであれば全く同じ性能をもつという事であり、ギフトは物語にある記述通りで間違いないだろう。

「それに対して他のヘラクレスのメンバーの活躍は様々な戦いが描かれている。これには理由があってな。その時代のバランタインは奴隷制度を適用してたんだ。奴隷ってのは孤児やら貧乏人がなるもんだろ?つまりはゼイラムはそのどちらかだった可能性が高い。国のお偉いさんが孤児か貧乏人であるゼイラムを歴史から除外したいと考えたのかもしれねぇな」

 もし仮にゼイラムが奴隷だった場合、歴史の本や物語にわずかでも名を刻む事はなかったはずだ。
 しかしわずかでも物語に登場する以上は奴隷ではなかったと考えるのが普通である。

「オレは……オレ達はだな、国からの依頼を受ける事もあるってさっき言ったよな?その報酬にただ金をもらうだけじゃないんだ。報酬の代わりに王立図書館やら王国書庫の本を閲覧させてもらったりもしてる。そこにはな、オレ達が知る物語以外の事も書かれてるんだよ」

 ゴクリと生唾を飲み込む二人は、子供の頃から英雄パーティーの物語を読んでもらい、国の歴史として学ぶ事もあった。
 英雄と呼ばれたパーティーに憧れ、様々な凶悪なモンスターに立ち向かう姿を夢に見ていた時期もあった。
 その物語以外の事が書かれているとすれば気にならないわけがない。

「基本的にはうちのウィザードの奴が読みたがってな。ボロボロに劣化した本ばっかだから読むのにも相当時間と手間が掛かるみてぇなんだが、過去の本当の歴史ってのが好きらしい。そんで内容を簡単に説明してくれるんだが、その中にオレの気になる内容が一つあった。ディーノと同じギフトを持つゼイラムの記述だ」

 ザックの話が気になり前に乗り出すレナータ。

「ゼイラムが奴隷であるなんて事は書いてなかったんだが、ヘラクレスに入る前までは貧民街にいたって話だ。そこにたった一文だけだがこうある」

《数多のモンスターを葬り、大地を埋め尽くす程の竜種を前にも怯む事なく立ち向かう戦士ゼイラム》

「この書き方だと……間違いなくゼイラムはソロだ。そして物語にもあるようにバッファーとしてヘラクレスに加入している。わかるか?ギフトを持つゼイラムは最初はソロだった。それも数え切れねぇ程の竜種を相手に立ち向かって生き延びれる程の戦士。オレでさえ竜種一匹相手すんのでもやっとなのによぉ」

 さらっと竜種を相手にできると言うザック。
 そうそう人里に降りてくる事はないが、一度現れれば街の一つや二つは一晩と掛からず壊滅させられるようなモンスターだ。
 たった一体でさえも国家を揺るがすようなモンスターが竜種なのだ。
 しかし物語でひっそりと名前が上がるだけの英雄ゼイラムは、その竜種を一体ではなく、大地を埋め尽くす程の数をも相手に戦い、生き延びたというのだ。

「え、でもギフトの事は触れてないですよね?」

 たった一文が載っていただけではギフトの事まではわからない。
 しかしザックはディーノ本人すらも知らないギフトの事を知っている。

「ディーノがソロになったんなら気付くだろうしな、教えてやるよ。オレ達が普段スキルだジョブだって言ってる名称は古代語でな。そう変わったもん以外なら意味も大体は想像つくだろ。だがギフトってのはこの王国でもディーノ以外使用者がいねぇ。ディーノも物語のゼイラムの記述からギフトは仲間のバフ効果って事しか知らねぇんだ。だがオレだけはディーノのスキルの本質を知ってる。あれだけ稽古つけてやったんだ。知らねぇわけがねぇ」

 今まで話したくて仕方がなかったのか嬉しそうな表情でディーノのギフトについて明かそうとするザック。

「ギフトは意味も用途も二通り。ギフトの本当の意味、それは【才能】だ。自身の才能を、ステータスを引き上げるのが本来の使い方だな。お前らが知ってるギフトはその派生でしかねぇ」

 一つ間を置いてレナータに告げる。

「パーティーメンバーの能力の底上げってのは、実際にはディーノからの【贈り物】って意味だ。メンバーに合った才能をディーノから受け取ってるだけ。おっと、意味をはき違えるなよ?を分け与えられてんだ。つまりはディーノのステータスが減少する。パーティーメンバーは足手まといにしかならねぇってのはそういう事だ」

 残酷すぎるザックの一言にレナータは言葉を失う。

「あいつはオレと同じく孤児でな。なんでも仲間と分け合うってのが体に染み付いちまってる。おそらくはディーノがスキルを発動してねぇ時でもステータスは贈られてるんだろ。ディーノが才能を発動すりゃまた上昇するんだろうけどよぉ」

「でもそれじゃディーノは……誰ともパーティーを組めないって事、じゃ……」

 ソーニャもソロの冒険者ではあったものの、臨時パーティーを組む事の方が多い。
 ソロでの冒険は常に危険と隣り合わせとなり、もしもの時に助けを求める事はできない。

「誰ともってわけでもねぇさ。レナータなんかは法力の贈り物ギフトを受けられるんだろ?ディーノに法力なんざ必要ねぇからな」

 ザックの言葉に安心していいのかどうなのかわからなくなるレナータ。
 仲間として戦ってきたオリオンでは、ディーノは自身のステータスを落としてまで仲間を強化して戦っていたと考えれば、どれだけ危険な行為をしていたのかわかったものではない。
 ステータスを与えられて戦わない仲間。
 ステータスを落として戦い続けるディーノ。
 これでは何の為にパーティーを組んでいたのかわからない。
 ザックにお荷物、足手まといと呼ばれても仕方がないだろう。

「ま、そんなわけでディーノの心配はこれっぽっちもねぇってわけだ。問題はお前らブレイブの方だ。ほれ、よかったら相談乗るぜ?」

「なんかいろいろ驚いたけど相談乗ってくれるの?ザックさん、なんか私に優しいね。もしかして好みとか?」

「頭悪そうな女は好みじゃねぇな」

「ひどいっ!!」

 思考のまとまらないレナータを残してザックとソーニャの会話が始まった。
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