追放シーフの成り上がり

白銀六花

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05 死にかける

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 その後も何度かモンスターに遭遇しては戦闘となり、元オリオンメンバーでの戦いもソーニャに見てもらった。
 ジェラルドが攻撃を抑え込み、動きの止まったところにレナータの矢とマリオの刃がモンスターの命を刈り取る。
 連携の取れた元オリオンの戦いにソーニャも感激したように見つめていた。

 しかし、目的の沼地までたどり着くまでにモンスターに遭遇したのだ。
 オリオンのメンバーでの戦いは一度だけであり、他は全てソーニャが一人で戦う事になった。
 自分を鍛える為にそうしているのかとも思うものの、また、レナータが弓矢で援護をしてくれるものの、ソーニャも少し嫌な予感は拭えない。

 沼地に着くと少し離れた位置に様々なモンスターや獣の姿が見られるものの、デスリザードどころかジャイアントリザードの姿すら確認できない。
 リザードは陸生のモンスターであり、沼地付近を生息地としているだけである。
 襲われたり目撃されたりする場合には人の通る街道沿いである可能性が高い。

 沼地から街道に戻り馬車を進めて行くと、破損して乗り捨てられた馬車がところどころにある。
 これはデスリザードに襲われた際に乗り捨てられたものだろう。
 恐らくは犠牲者を一人残して馬で逃げたか、または戦って全員殺されたかのはわからないが、確実にこの付近にデスリザードがいるはずだ。
 御者をするマリオに馬車を任せ、ソーニャ、ジェラルド、レナータの順に馬車の前を進む。



 草むらからガサリと音が鳴り注意を向ければチープラビットが飛び出して来た。
 このラビットは別名身代わりウサギとも呼ばれ、敵意や殺意を感じた際に子ウサギを守ろうと飛び掛かる習性がある。
 しかし危険性の少ない生物であり、簡単に捕らえる事ができる事からチープラビットとされている。
 ブレイブのメンバーは飛び出して来たのがラビットという事で緊張が解けたのだが、その直後に巨大なモンスターが背後から馬車に飛び降りて来た。
 幌を突き破りマリオの背中を引っ掻いたモンスターは、艶光りする赤黒い鱗を持つデスリザードだ。
 見た目は翼のない小さなドラゴンとも思える様相で、前足に付いたマリオの血を舐めると獲物と認識したのか凶悪に表情を歪めた。

「レナはマリオの回復を!ソーニャはリザードを引き付けつつ体力を削れ!」

 ジェラルドの声にレナータはマリオに駆け寄りヒールを発動し、ソーニャは指示の意味がわからず戸惑いながらジェラルドの隣に立ってリザードの様子を見る。
 ジェラルドの出方を見てリザードに攻撃を仕掛けるつもりだろう。

「おい!何やってる!早くリザードを引き付けろ!」

 しかしソーニャの考えとは裏腹に、ジェラルドはソーニャを急かすように指示を出す。

「え?え?私一人であれに立ち向かうの!?ジェラルドがリザードを抑えてくれるんじゃないの!?」

「お前はシーフだろ!?今はマリオがやられて危険な状態なんだ!早く行け!自分の仕事しろ!」

 ジェラルドに怒鳴りつけられ、涙目になりながらもリザードに向かって駆け出す。
 馬車から降りたリザードは向かって来るソーニャに対し、四つ足で身を屈めて一気に加速。
 ソーニャを上回る速度で接近したリザードの左爪が振り抜かれ、逆手に持ったダガーでガードするもその威力に耐えきれず、弾き飛ばされ地面を転がっていく。
「グルル」と喉を鳴らすリザードはゆっくりと歩み寄り、地面に倒れ伏したソーニャは震えながらも立ち上がる。
 しかし左腕が上がらず目を向けると、左肩が真っ赤に染まり、深い爪痕が残っている。
 大量の血が流れ落ち、裂けた肉が盛り上がっている事を知ると一気に痛みが込み上げる。
 叫ぶ程の痛みと向かって来るリザードの恐怖に膝が震えだす。
 そこにジェラルドがリザード目掛けて体当たりをしようとするもあっさりと避けられ、距離をとって舌をチロチロと出しながら獲物を見定めている。
 ヒールを発動するレナータは動けず、マリオの戦線復帰にはまだ少し掛かるだろう。
 涙を流しながら震えているソーニャも回復せずには戦えそうにない。
 今この場で動けるとすればジェラルドだけだが、動きの速いリザード相手に一人では太刀打ちできない。
 二人の回復を終えるまで身動きが取れないとすれば、全員で固まってリザードに備えた方がいいだろう。

「ソーニャ。マリオのところまで移動する。油断するな」

 ジェラルドはリザードに注意を向けながらマリオの元へと移動する。
 ソーニャもジェラルドに隠れるように進み、ソーニャの姿が見えなくなると同時にリザードは動き出す。
 ジェラルドに向かって地を這うように走るリザードは、ソーニャの視界から隠れる事が目的だろう。
 ソーニャはリザードの接近に気付かず、ジェラルドは声をあげて接近を知らせる。

「ソーニャ!リザードが来る!備えろ!」

 ビクリと体を震わせたソーニャはジェラルドの背に身を寄せ、どう備えていいかもわからずその姿を確認する事もできない。
 リザードはジェラルド目掛けて口内から液体を吐き出し、咄嗟に巨盾で受けたものの体当たりを食らって後方に倒された。
 ジェラルドが巨盾以外に武器を持っていない事をわかっていたのだろう。
 警戒せずに体当たりという手段に出たようだ。
 そしてジェラルドの背後に身を寄せていたソーニャも倒れている。
 傷ついた左肩を押さえて悶えているソーニャを見て喉を鳴らし、左前足を伸ばしたところにレナータからの矢が放たれる。
 リザードの胸元に突き刺さった矢は致命傷とはならなかったものの、次に放たれるであろう矢に警戒させる事には成功した。
 回避できるようソーニャから離れ、高い木に掴まりながらレナータを見下ろす。

 まだマリオの傷は全快していないが、ある程度の回復を終えて矢を番えたレナータは全員に指示を出す。

「ソーニャは立てる!?ジェラルドはソーニャを守って後退!マリオはリザードが向かって来たら迎撃して!一時撤退して体制を立て直そう!」

 このまま逃してくれればいいけどと思いつつ、矢を放ってリザードを牽制する。
 リザードは木から飛び降りて、レナータの狙える射程から外れようと再び距離を取る。
 木々に阻まれて矢を放てない位置まで距離が開いたところでジェラルドに弓矢を渡す。

「リザードが近付いて来たらお願い。私はソーニャが動けるくらいまで回復するから」

 ソーニャの肩に手を寄せてヒールを発動するレナータ。
 体を震わせて涙を流すソーニャは死を覚悟したのだろう、戦意も喪失しているようだ。
 マリオもリザードの不意打ちを受けた事で顔色が悪く、パーティーのこの失態に悪態すらつく余裕がない。
 リザードはジェラルドが弓矢を番えるのを見て少し距離を詰めるも、襲い掛かって来ようとはしない。



 ソーニャの傷がある程度癒え、全員で立ち上がってリザードから距離を取り始める。
 後退しながらとなればそうすぐには撤退する事はできなかったが、リザードは追って来る事もなく視界から見えなくなったところで全員で駆け出した。

 安全を確保できる位置まで移動して地面に座り込み、マリオとソーニャの回復にレナータは再びスキルを発動する。
 二人同時にスキルを発動すれば能力は低下するものの、一人ずつ回復するよりも時間は少しだけ短くなる。

 ここで一旦休憩を取るのだが、馬車をそのまま放置して来てしまった為食料も水もない。
 取りに戻れば確実にまた襲われる事になるが、王都に帰る為には馬車や荷物は必要だ。
 しかしリザードに怯え切っているソーニャや、今も立ち直れずにいるマリオでは戦力にならず馬車を取りに向かうのは難しい。
 ここで諦めてこの先にある他領に向かうべきか、それとも無理をしてでも馬車を取りに戻るかを選ばなくてはならない。
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