追放シーフの成り上がり

白銀六花

文字の大きさ
上 下
5 / 257

05 死にかける

しおりを挟む
 その後も何度かモンスターに遭遇しては戦闘となり、元オリオンメンバーでの戦いもソーニャに見てもらった。
 ジェラルドが攻撃を抑え込み、動きの止まったところにレナータの矢とマリオの刃がモンスターの命を刈り取る。
 連携の取れた元オリオンの戦いにソーニャも感激したように見つめていた。

 しかし、目的の沼地までたどり着くまでにモンスターに遭遇したのだ。
 オリオンのメンバーでの戦いは一度だけであり、他は全てソーニャが一人で戦う事になった。
 自分を鍛える為にそうしているのかとも思うものの、また、レナータが弓矢で援護をしてくれるものの、ソーニャも少し嫌な予感は拭えない。

 沼地に着くと少し離れた位置に様々なモンスターや獣の姿が見られるものの、デスリザードどころかジャイアントリザードの姿すら確認できない。
 リザードは陸生のモンスターであり、沼地付近を生息地としているだけである。
 襲われたり目撃されたりする場合には人の通る街道沿いである可能性が高い。

 沼地から街道に戻り馬車を進めて行くと、破損して乗り捨てられた馬車がところどころにある。
 これはデスリザードに襲われた際に乗り捨てられたものだろう。
 恐らくは犠牲者を一人残して馬で逃げたか、または戦って全員殺されたかのはわからないが、確実にこの付近にデスリザードがいるはずだ。
 御者をするマリオに馬車を任せ、ソーニャ、ジェラルド、レナータの順に馬車の前を進む。



 草むらからガサリと音が鳴り注意を向ければチープラビットが飛び出して来た。
 このラビットは別名身代わりウサギとも呼ばれ、敵意や殺意を感じた際に子ウサギを守ろうと飛び掛かる習性がある。
 しかし危険性の少ない生物であり、簡単に捕らえる事ができる事からチープラビットとされている。
 ブレイブのメンバーは飛び出して来たのがラビットという事で緊張が解けたのだが、その直後に巨大なモンスターが背後から馬車に飛び降りて来た。
 幌を突き破りマリオの背中を引っ掻いたモンスターは、艶光りする赤黒い鱗を持つデスリザードだ。
 見た目は翼のない小さなドラゴンとも思える様相で、前足に付いたマリオの血を舐めると獲物と認識したのか凶悪に表情を歪めた。

「レナはマリオの回復を!ソーニャはリザードを引き付けつつ体力を削れ!」

 ジェラルドの声にレナータはマリオに駆け寄りヒールを発動し、ソーニャは指示の意味がわからず戸惑いながらジェラルドの隣に立ってリザードの様子を見る。
 ジェラルドの出方を見てリザードに攻撃を仕掛けるつもりだろう。

「おい!何やってる!早くリザードを引き付けろ!」

 しかしソーニャの考えとは裏腹に、ジェラルドはソーニャを急かすように指示を出す。

「え?え?私一人であれに立ち向かうの!?ジェラルドがリザードを抑えてくれるんじゃないの!?」

「お前はシーフだろ!?今はマリオがやられて危険な状態なんだ!早く行け!自分の仕事しろ!」

 ジェラルドに怒鳴りつけられ、涙目になりながらもリザードに向かって駆け出す。
 馬車から降りたリザードは向かって来るソーニャに対し、四つ足で身を屈めて一気に加速。
 ソーニャを上回る速度で接近したリザードの左爪が振り抜かれ、逆手に持ったダガーでガードするもその威力に耐えきれず、弾き飛ばされ地面を転がっていく。
「グルル」と喉を鳴らすリザードはゆっくりと歩み寄り、地面に倒れ伏したソーニャは震えながらも立ち上がる。
 しかし左腕が上がらず目を向けると、左肩が真っ赤に染まり、深い爪痕が残っている。
 大量の血が流れ落ち、裂けた肉が盛り上がっている事を知ると一気に痛みが込み上げる。
 叫ぶ程の痛みと向かって来るリザードの恐怖に膝が震えだす。
 そこにジェラルドがリザード目掛けて体当たりをしようとするもあっさりと避けられ、距離をとって舌をチロチロと出しながら獲物を見定めている。
 ヒールを発動するレナータは動けず、マリオの戦線復帰にはまだ少し掛かるだろう。
 涙を流しながら震えているソーニャも回復せずには戦えそうにない。
 今この場で動けるとすればジェラルドだけだが、動きの速いリザード相手に一人では太刀打ちできない。
 二人の回復を終えるまで身動きが取れないとすれば、全員で固まってリザードに備えた方がいいだろう。

「ソーニャ。マリオのところまで移動する。油断するな」

 ジェラルドはリザードに注意を向けながらマリオの元へと移動する。
 ソーニャもジェラルドに隠れるように進み、ソーニャの姿が見えなくなると同時にリザードは動き出す。
 ジェラルドに向かって地を這うように走るリザードは、ソーニャの視界から隠れる事が目的だろう。
 ソーニャはリザードの接近に気付かず、ジェラルドは声をあげて接近を知らせる。

「ソーニャ!リザードが来る!備えろ!」

 ビクリと体を震わせたソーニャはジェラルドの背に身を寄せ、どう備えていいかもわからずその姿を確認する事もできない。
 リザードはジェラルド目掛けて口内から液体を吐き出し、咄嗟に巨盾で受けたものの体当たりを食らって後方に倒された。
 ジェラルドが巨盾以外に武器を持っていない事をわかっていたのだろう。
 警戒せずに体当たりという手段に出たようだ。
 そしてジェラルドの背後に身を寄せていたソーニャも倒れている。
 傷ついた左肩を押さえて悶えているソーニャを見て喉を鳴らし、左前足を伸ばしたところにレナータからの矢が放たれる。
 リザードの胸元に突き刺さった矢は致命傷とはならなかったものの、次に放たれるであろう矢に警戒させる事には成功した。
 回避できるようソーニャから離れ、高い木に掴まりながらレナータを見下ろす。

 まだマリオの傷は全快していないが、ある程度の回復を終えて矢を番えたレナータは全員に指示を出す。

「ソーニャは立てる!?ジェラルドはソーニャを守って後退!マリオはリザードが向かって来たら迎撃して!一時撤退して体制を立て直そう!」

 このまま逃してくれればいいけどと思いつつ、矢を放ってリザードを牽制する。
 リザードは木から飛び降りて、レナータの狙える射程から外れようと再び距離を取る。
 木々に阻まれて矢を放てない位置まで距離が開いたところでジェラルドに弓矢を渡す。

「リザードが近付いて来たらお願い。私はソーニャが動けるくらいまで回復するから」

 ソーニャの肩に手を寄せてヒールを発動するレナータ。
 体を震わせて涙を流すソーニャは死を覚悟したのだろう、戦意も喪失しているようだ。
 マリオもリザードの不意打ちを受けた事で顔色が悪く、パーティーのこの失態に悪態すらつく余裕がない。
 リザードはジェラルドが弓矢を番えるのを見て少し距離を詰めるも、襲い掛かって来ようとはしない。



 ソーニャの傷がある程度癒え、全員で立ち上がってリザードから距離を取り始める。
 後退しながらとなればそうすぐには撤退する事はできなかったが、リザードは追って来る事もなく視界から見えなくなったところで全員で駆け出した。

 安全を確保できる位置まで移動して地面に座り込み、マリオとソーニャの回復にレナータは再びスキルを発動する。
 二人同時にスキルを発動すれば能力は低下するものの、一人ずつ回復するよりも時間は少しだけ短くなる。

 ここで一旦休憩を取るのだが、馬車をそのまま放置して来てしまった為食料も水もない。
 取りに戻れば確実にまた襲われる事になるが、王都に帰る為には馬車や荷物は必要だ。
 しかしリザードに怯え切っているソーニャや、今も立ち直れずにいるマリオでは戦力にならず馬車を取りに向かうのは難しい。
 ここで諦めてこの先にある他領に向かうべきか、それとも無理をしてでも馬車を取りに戻るかを選ばなくてはならない。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ
ファンタジー
私はとあるパーティーに所属していた。 私はこの世界では珍しく、魔法が使えない体質だったようで、パーティーで依頼をこなしながら、ソロで依頼をこなしたりして魔法に負けないくらいの力を手に入れる為に日々修行していた。 しかし、ある日突然、そんな日常は終わりを告げる。 「役立たずは出ていけ。」 そうして、私は無職になった。 こんにちは。 作者です。 筆が遅い節がありますので、次話投稿が遅れてたらごめんなさい。 もし誤字や脱字があったり、ここはこう言った表現がいいのでは無いかと感じられたさいにはお手数ですが、なるべく詳しく教えていただけると助かります。 ぶっちゃけ、こんなところなんて誰も読んでないやろ…とは少し思ってますが、ご理解いただけると幸いです。 …ちなみに10話程度で完結させようと思っていたのですが、それは無理そうなので1000話以内には終わります() 2022/01/23 タグを追加しました。 2024/02/06 ネタ切れのため休載してます。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...