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第2章
第15話、ポルターガイストの世界
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バーンと大きな音を立て扉を開け放ったアズを先頭に、俺たちは部屋の中、フロアボスが待つという薄暗い部屋の中へ突入をする。
取り敢えず、すぐに襲いかかってくる敵はいない。
とそこで入ってきた扉が一人でにゆっくりと閉まったため触ろうとしたのだけど、薄い霧のようなモノが纏わり付いているため触れる事ができない。
これって脱出不可能な状態となった!?
しかし取り乱した俺に対して、クロさんが説明をしてくれる。
その内容とは、魔術師の洋館内でこのように閉じ込められてしまうフロアでは、灯火喰らいのようにナンバリングされている敵、ここではフロアボス? を倒してしまえば次の扉への封印が解かれるらしい。
またその際来た道、つまりこの扉の封印も解かれるそうだ。
ちなみに時間はかなりかかるらしいけど、気長に待っていてもこの入って来たほうの扉は封印解除され脱出が可能になるそうな。
という事で、俺たちはこれからナンバリングされた敵を探さないといけないのだけど——
この25メートルプールぐらいある縦長で長方形の広い部屋の床には、色褪せた朱色の絨毯が敷かれており、左右の壁には縦長で大きな窓がズラリと並んでいる。
その窓の先は真っ暗闇で現在横殴りの雨が叩きつけ、そんな中弱々しい灯火である天井からぶら下がるランプたちが部屋をほんのり照らす。
物は殆ど置かれていないが、部屋の真ん中あたりの左右に三つずつ並ぶ剣を持った鉄製の騎士の鎧、そして正面の壁際には大きな古時計、そしてそのすぐ近くに三人がけのソファーが置かれていた。
今にも動き出しそうな物が置かれ、またなにか出てきそうな雰囲気満載の部屋である。
と言うかここ、ここまでの他の部屋と違ってここから更に違う部屋へと続いている。扉は奥側の左右の壁に一つずつと、古時計の隣であり唯一薄っすらと霧に包まれた正面の計三枚。
そして『ポルターガイスト』、そいつがここに居座るフロアボスのソウルリストだ。
敵の姿は確認できていない。
しかしクロさんに言われ何処と無く薄暗く重い感じである部屋の片隅を確認すると、ソウルリスト「ポルターガイスト」と伝わって来た。
ちなみに部屋のどこを見てもこのソウルリストが確認出来ている。
ようは現在、敵の腹の中へ突撃しているような状態らしい。
改めて三枚の扉に視線を移す。
「クロさん、どの扉を進むのか分かりますか? 」
「それは私にもわかりません、ここは来るたびに構造が変化しているそうなので。
ただ今までの報告からして、正面の霧に包まれた扉が次のフロアへと続く道である可能性は極めて高いと思います」
やっぱりそうですよね。
……と言うか今は勝負中だけど、ここはバラバラに進まないほうがいいだろう。
ただ真琴はいいとしてアズが素直にウンと言うとは思えない。
さてと、どう説得しようかな?
視線を上げアズを見やると、彼女から睨まれていた。
「ちょっとあんた、早く決めなさいよね」
アズの催促、なんだけど……どう言う事?
「それってもしかして、ここからは一緒に行動してくれるって事? 」
「えぇ、そうよ。感謝しなさい」
ん、なんか怪しい。
俺は違和感を感じとった自分の勘を信じ、ジッとアズの顔を見つめる。
すると彼女は視線を逸らした。
やっぱりなんか隠しているっぽい!
ここで隠すような事と言えば、かなり限定されるわけだけど——
「アズ、もしかしてガス欠だったりするの? 」
「なによガス欠って? 」
「ようは魔力切れとか疲れたとか、そう言う事」
「私が戦闘中にそんな危機的な状況に陥るわけないでしょ。ただ単にそこの真琴にチャンスを与えてあげてるだけよ」
しかし図星だったみたいで、話しているアズの耳が一瞬にして真っ赤に染まった。
なんだかそんなアズが可愛く見えてしまい、思わず笑ってしまう。
するとアズが口を尖らせた。
「もうなによ! ……ほんと人間って底が浅いし感情が表に出やすいし、使えないわね! 」
俺としては安全が一番なのでいいんだけどね。
……いや待てよ、魔力切れなら戦力外だから危険なことに変わりない?
「アズ、今って全く攻撃出来ないの? 」
「……一分の間に一本ぐらいしか出せないだけよ」
それならまだましか。
「とにかくこんなとこで危険に身を晒すのは良くない。
アズは魔力が回復するまで俺のそばから極力離れたらダメだからね」
「わかったわ」
そこでアズが身体を寄せ密着してくる。
「ななっ! 」
声をあげ憤慨しているのは真琴。
「女狐、どさくさに紛れてなにをしているんだ! 」
「いーじゃない、あんたは散々やってたわけだし」
そこでアズは、密着した状態で見上げてくる。
「ねー、またおんぶしてよ」
「それはダメだ」
「えっ、ちょっといいじゃない!
私は疲れてるのよ! 」
アズさん、開き直っちゃいましたね。
でもそれを許しちゃうと、また前のダンジョンの脱出時みたいになる可能性が大だし、最悪真琴とアズがここで戦い始める可能性もあるわけで、そうなると完全にダンジョン攻略どころではなくなってしまう。
だから——
「それならさ、アズが負けを受け入れるならしてあげても良いけど、どうする? 」
ここはフェアにいかないとね。
「おんぶしてくれたら早く回復すると思うのにー」
文句を言いながらも渋々諦めてくれたようだ。でも手は繋がれている。
しかしそれを見て知っているであろう真琴は文句を言わない。なにか言いたそうにはしているけど、無理矢理言葉を飲み込んでいるって感じだ。
葛藤しているんだろう、明らかに真琴のほうが点数低そうだもんね。
そうしてやっと俺たちは歩みを始める。
動き出しそうな鎧であったけど、何も起こらずすんなり奥まで来れた。
そして霧に包まれた正面の扉は予想通りうんともすんともしない。
さてと——
取り敢えず、こう言う時は右を選ぶようにしている。
と言うのも、人は迷った時や知らない道だと心理学的に左を選ぶ習性があるらしい。
なので遊園地などは人が左回りするのを想定して遊具を設置していたりするそうな。
と言うわけでこういう時、俺は裏をかくよう必ず右を選ぶようにしている。
まーダンジョンにその法則が通用するのかは不明だけどね。
扉を開けると廊下になっていた。
ただしすぐに左に折れ曲がっている変わった構造で、曲がった先は今までと同じように左に窓、右に閉ざされた扉が五つ等間隔に並んでいる。
そしてこの廊下の先、正面には大きな観音開きの扉が開け放たれたままの状態であったのだけど、ここからでは暗くて室内までは見えなかった。
うーん、ぽっかり口を開いた状態の正面の部屋が気になってしまうけど、取り敢えず少しづつ警戒しながら進むしかないか。
しかし雨脚が強い。
左側の窓から聞こえる叩きつけられる雨と風の音が、この静寂に包まれた部屋で唯一の音となってしまっている。
この窓が割れたら最悪だろうから、ここから敵が飛び出すようの事が起こらない事を祈るばかりである。
そして真琴を先頭に、少し離れてクロさん、俺とアズ、そしてヴィクトリアさんの順番で廊下を進み始める。
そうして真琴が一枚目の扉の前に差し掛かる。
しかし真琴は扉を僅かに開き覗くのみで、その扉の先に入るのを躊躇っていた。
追いついたのでどうしたのだろうと背伸びをして真琴の上から覗いてみると、そこは物置部屋で乱雑に置かれた小物や家具が埃を被っている。
そしてそして、違和感を感じずにはいられない大きな鏡も一つ置かれている。
うん、これは俺も近づきたくない。
そこで両肩に手をかけられると、俺の背中が二つの柔らかく暖かな感触を感じとる。
クロさんだ。
真剣な眼差しで俺と同じく踵を上げて部屋の中を覗いている。
「あの鏡からソウルリストを感じないので、反対にモンスターが湧いてくるスポットの可能性が高いですけど、どうします? 」
へぇー、ソウルリストってそう言うふうにも使えるんだ。
なら最初の部屋の鎧にはいらぬ警戒をしてしまったな。
しかしあの鏡からモンスターが出てくるかも、か。
この手の展開って、映画だと悪霊や醜い怪物、さらには老いた自分や想像した相手とかのどれかが出てくるパターンであるんだよね。
「真琴、ここの探索は後にしとこうか? 」
微かに震える真琴に助け舟を出すと、彼女は涙を浮かべた顔で振り返った。
「そっ、そうだね」
『ガシャーン』
その時すぐ近く、おそらく隣の部屋から、陶器のような物が割れる音がした。
取り敢えず、すぐに襲いかかってくる敵はいない。
とそこで入ってきた扉が一人でにゆっくりと閉まったため触ろうとしたのだけど、薄い霧のようなモノが纏わり付いているため触れる事ができない。
これって脱出不可能な状態となった!?
しかし取り乱した俺に対して、クロさんが説明をしてくれる。
その内容とは、魔術師の洋館内でこのように閉じ込められてしまうフロアでは、灯火喰らいのようにナンバリングされている敵、ここではフロアボス? を倒してしまえば次の扉への封印が解かれるらしい。
またその際来た道、つまりこの扉の封印も解かれるそうだ。
ちなみに時間はかなりかかるらしいけど、気長に待っていてもこの入って来たほうの扉は封印解除され脱出が可能になるそうな。
という事で、俺たちはこれからナンバリングされた敵を探さないといけないのだけど——
この25メートルプールぐらいある縦長で長方形の広い部屋の床には、色褪せた朱色の絨毯が敷かれており、左右の壁には縦長で大きな窓がズラリと並んでいる。
その窓の先は真っ暗闇で現在横殴りの雨が叩きつけ、そんな中弱々しい灯火である天井からぶら下がるランプたちが部屋をほんのり照らす。
物は殆ど置かれていないが、部屋の真ん中あたりの左右に三つずつ並ぶ剣を持った鉄製の騎士の鎧、そして正面の壁際には大きな古時計、そしてそのすぐ近くに三人がけのソファーが置かれていた。
今にも動き出しそうな物が置かれ、またなにか出てきそうな雰囲気満載の部屋である。
と言うかここ、ここまでの他の部屋と違ってここから更に違う部屋へと続いている。扉は奥側の左右の壁に一つずつと、古時計の隣であり唯一薄っすらと霧に包まれた正面の計三枚。
そして『ポルターガイスト』、そいつがここに居座るフロアボスのソウルリストだ。
敵の姿は確認できていない。
しかしクロさんに言われ何処と無く薄暗く重い感じである部屋の片隅を確認すると、ソウルリスト「ポルターガイスト」と伝わって来た。
ちなみに部屋のどこを見てもこのソウルリストが確認出来ている。
ようは現在、敵の腹の中へ突撃しているような状態らしい。
改めて三枚の扉に視線を移す。
「クロさん、どの扉を進むのか分かりますか? 」
「それは私にもわかりません、ここは来るたびに構造が変化しているそうなので。
ただ今までの報告からして、正面の霧に包まれた扉が次のフロアへと続く道である可能性は極めて高いと思います」
やっぱりそうですよね。
……と言うか今は勝負中だけど、ここはバラバラに進まないほうがいいだろう。
ただ真琴はいいとしてアズが素直にウンと言うとは思えない。
さてと、どう説得しようかな?
視線を上げアズを見やると、彼女から睨まれていた。
「ちょっとあんた、早く決めなさいよね」
アズの催促、なんだけど……どう言う事?
「それってもしかして、ここからは一緒に行動してくれるって事? 」
「えぇ、そうよ。感謝しなさい」
ん、なんか怪しい。
俺は違和感を感じとった自分の勘を信じ、ジッとアズの顔を見つめる。
すると彼女は視線を逸らした。
やっぱりなんか隠しているっぽい!
ここで隠すような事と言えば、かなり限定されるわけだけど——
「アズ、もしかしてガス欠だったりするの? 」
「なによガス欠って? 」
「ようは魔力切れとか疲れたとか、そう言う事」
「私が戦闘中にそんな危機的な状況に陥るわけないでしょ。ただ単にそこの真琴にチャンスを与えてあげてるだけよ」
しかし図星だったみたいで、話しているアズの耳が一瞬にして真っ赤に染まった。
なんだかそんなアズが可愛く見えてしまい、思わず笑ってしまう。
するとアズが口を尖らせた。
「もうなによ! ……ほんと人間って底が浅いし感情が表に出やすいし、使えないわね! 」
俺としては安全が一番なのでいいんだけどね。
……いや待てよ、魔力切れなら戦力外だから危険なことに変わりない?
「アズ、今って全く攻撃出来ないの? 」
「……一分の間に一本ぐらいしか出せないだけよ」
それならまだましか。
「とにかくこんなとこで危険に身を晒すのは良くない。
アズは魔力が回復するまで俺のそばから極力離れたらダメだからね」
「わかったわ」
そこでアズが身体を寄せ密着してくる。
「ななっ! 」
声をあげ憤慨しているのは真琴。
「女狐、どさくさに紛れてなにをしているんだ! 」
「いーじゃない、あんたは散々やってたわけだし」
そこでアズは、密着した状態で見上げてくる。
「ねー、またおんぶしてよ」
「それはダメだ」
「えっ、ちょっといいじゃない!
私は疲れてるのよ! 」
アズさん、開き直っちゃいましたね。
でもそれを許しちゃうと、また前のダンジョンの脱出時みたいになる可能性が大だし、最悪真琴とアズがここで戦い始める可能性もあるわけで、そうなると完全にダンジョン攻略どころではなくなってしまう。
だから——
「それならさ、アズが負けを受け入れるならしてあげても良いけど、どうする? 」
ここはフェアにいかないとね。
「おんぶしてくれたら早く回復すると思うのにー」
文句を言いながらも渋々諦めてくれたようだ。でも手は繋がれている。
しかしそれを見て知っているであろう真琴は文句を言わない。なにか言いたそうにはしているけど、無理矢理言葉を飲み込んでいるって感じだ。
葛藤しているんだろう、明らかに真琴のほうが点数低そうだもんね。
そうしてやっと俺たちは歩みを始める。
動き出しそうな鎧であったけど、何も起こらずすんなり奥まで来れた。
そして霧に包まれた正面の扉は予想通りうんともすんともしない。
さてと——
取り敢えず、こう言う時は右を選ぶようにしている。
と言うのも、人は迷った時や知らない道だと心理学的に左を選ぶ習性があるらしい。
なので遊園地などは人が左回りするのを想定して遊具を設置していたりするそうな。
と言うわけでこういう時、俺は裏をかくよう必ず右を選ぶようにしている。
まーダンジョンにその法則が通用するのかは不明だけどね。
扉を開けると廊下になっていた。
ただしすぐに左に折れ曲がっている変わった構造で、曲がった先は今までと同じように左に窓、右に閉ざされた扉が五つ等間隔に並んでいる。
そしてこの廊下の先、正面には大きな観音開きの扉が開け放たれたままの状態であったのだけど、ここからでは暗くて室内までは見えなかった。
うーん、ぽっかり口を開いた状態の正面の部屋が気になってしまうけど、取り敢えず少しづつ警戒しながら進むしかないか。
しかし雨脚が強い。
左側の窓から聞こえる叩きつけられる雨と風の音が、この静寂に包まれた部屋で唯一の音となってしまっている。
この窓が割れたら最悪だろうから、ここから敵が飛び出すようの事が起こらない事を祈るばかりである。
そして真琴を先頭に、少し離れてクロさん、俺とアズ、そしてヴィクトリアさんの順番で廊下を進み始める。
そうして真琴が一枚目の扉の前に差し掛かる。
しかし真琴は扉を僅かに開き覗くのみで、その扉の先に入るのを躊躇っていた。
追いついたのでどうしたのだろうと背伸びをして真琴の上から覗いてみると、そこは物置部屋で乱雑に置かれた小物や家具が埃を被っている。
そしてそして、違和感を感じずにはいられない大きな鏡も一つ置かれている。
うん、これは俺も近づきたくない。
そこで両肩に手をかけられると、俺の背中が二つの柔らかく暖かな感触を感じとる。
クロさんだ。
真剣な眼差しで俺と同じく踵を上げて部屋の中を覗いている。
「あの鏡からソウルリストを感じないので、反対にモンスターが湧いてくるスポットの可能性が高いですけど、どうします? 」
へぇー、ソウルリストってそう言うふうにも使えるんだ。
なら最初の部屋の鎧にはいらぬ警戒をしてしまったな。
しかしあの鏡からモンスターが出てくるかも、か。
この手の展開って、映画だと悪霊や醜い怪物、さらには老いた自分や想像した相手とかのどれかが出てくるパターンであるんだよね。
「真琴、ここの探索は後にしとこうか? 」
微かに震える真琴に助け舟を出すと、彼女は涙を浮かべた顔で振り返った。
「そっ、そうだね」
『ガシャーン』
その時すぐ近く、おそらく隣の部屋から、陶器のような物が割れる音がした。
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