上 下
159 / 162
第八章 魔法と工業の都市編

150.よくばり計画

しおりを挟む
 ノミーとの約束により現在の塩工場のすぐ近くにミーヤ所有の塩水揚水設備を設置することになり、三日後には魔鉱燃料を用いる揚水ポンプを設置した作業小屋の建築が終わっていた。

「ジョイポンの街中から馬で一日なら利便性は悪くないと言えるわね。
 私のポケットの空きだと二十五樽前後くらいかしら。
 できれば一度に八十樽くらいは運びたいわ。
 テレポートの巻物を作る成功率がもっと高くなれば気楽なんだけどね」

「ねえミーヤさま? ボクなら八十樽運べるよ。
 ポケットには水飴とかお菓子とか着替えとかが少し入ってるだけだもん」

「えー!? チカマったら荷物そんなに少ないの?
 私なんて調理道具と食器類だけで四十はあるわ。
 それと食材含めたら六十は超えてしまうのよね……
 冒険用の装備を含めたまま買い物行ったらはみ出ることあるし」

「じゃあ運ぶのはボクの役目できまりだね。
 ミーヤさまのやくにたてるのすっごく嬉しいし楽しみだー」

「でもねチカマ? ここで汲みあげた塩水はカナイ村へ運ぶのよ。
 あなたはまだカナイ村へ行ったことないから運べないのよねぇ。
 だからまずはどこかのタイミングでカナイ村へ連れていきたいわ」

「ぶー、なんかわからないけどチクチクする……
 ミーヤさまったらカナイ村とかの話するときすごく楽しそう」

 あきらかに拗ねた様子のチカマを見ながらミーヤは心の中で微笑んでいた。毎度のことだがヤキモチを焼いているところがかわいくて仕方ない。そうならないために早めにカナイ村へ行ってマールと会わせて仲良くなって、と当たり前のことを考えてみるが、それとは別の考えも頭をよぎってしまう。チカマのヤキモチがあまりにもかわいすぎて、この状況をなるべく長く楽しみたいなんてひどいことを思いついてしまったのだ。

 それにしても、ノミーを疑ってみたりチカマがヤキモチを焼くことを喜んでみたり、お金儲けが好きだったりと、我ながらとても神人だなんて持て囃される存在とは言えそうにない。まあ豊穣の女神が送り出してくれた時には楽しめと言ったくらいで清く正しく生きるようになんてことは言われなかった。今のところはミーヤにとって楽しい人生を送っているのだから、きっと女神の思惑通り、だと思うことにしよう。

 とは言えもちろんチカマに意地悪するつもりだなんて毛頭なく、ミーヤの中にあるほんの少しのいたずら心がそうさせているだけだ。言うなれば好きな子につい意地悪してしまう子供のような行動である。

 そんなじゃれ合いをしながらも、これから塩作りを行う準備は整った。書術の修行次第ではあるが、ある程度自由に行き来することもできるし、ジョイポンでの目的は果たせたと言える。ただまあナウィンたち職人を囲う件に関してはなにもわからないままではあった。


「ところで神人様? 小屋の管理はいかがなさいますか?
 無人でも困りはしないと思いますが、こちらで人を付けることはもちろん可能です。
 稼働までしばらく時間がかかるのであれば週一くらいで清掃しておきましょうか?」

「そうしていただけると助かります。
 お手入れにかかる人件費はきちんとお支払いしますので、場所代と一緒に請求してください

「かしこまりました。
 とは言っても、屋台の権利手数料から引いてもまだこちらが支払うほうが多いですな。
 今後はさらに拡張し、屋台から大型店舗へ移行するつもりです」

「ジョイポンはあまり観光に力を入れていないと聞いてます。
 それなのに大型店舗に投資して採算採れるのでしょうか?」

「力を入れていないと言っても訪れる者はおります。
 ですがこの街には王都などと違って野外食堂がありません。
 その代わりとしての機能も果たせるような造りにするのです。
 いずれはマーケットを含めた大型施設にしたいと考えております」

 なるほど、地方都市には欠かせない大型スーパーの建設が目標と言うことらしい。近代日本だと小さな商店が壊滅する要因になったりして、必ずしも地元に歓迎されるものではなかったが、ここジョイポンには被害を受ける個人商店のような物はない。正確には存在するが被害はこうむらないと言うことだ。

 そんな大型商業施設が出来るなら、オープンと同時にテナント入りさせて貰えたらなかなかいい稼ぎになりそうだ。それまでにはカナイ村で特産品を開発できているだろうし、そのくらいはできていないと快く送り出してくれたマールを初めとする村の人たちに顔向けできない。

 というわけで――

「とても興味深いお話ですね。
 その大型施設実現の際にはぜひ私もお店を出したいものです。
 ノミー様ならきっとお誘いくださると信じてお待ちしておりますね」

「これはこれは、願ったりでございます。
 必ずや神人様の店をご用意して開業の目玉にさせていただきます。
 まさに持ちつ持たれつ、どちらにとってもいい話となるでしょう」

 どうやらノミーも乗ってくれそうな手ごたえを感じる。カナイ村の特産品にできそうなものもいくつか考えてあるし、うまくすれば地方自治体のアンテナショップにできそうだ。こう言ったことを考えていると早く実現に向けて動きたくて仕方がない。

「なんだか今すぐにでも動き出したい気分で本当に楽しみです。
 そう言えば随分と街を離れてしまったけど、レナージュ達はちゃんとやってるかしらね」

「ボクのよそう、毎日酔っぱらって昼過ぎまでねてる。
 レナージュとイライザがそろったらだれにも止められない」

「さすがねチカマ、賢くていい子だわ。
 私も同じ意見だしきっとトンピシャで大当たりよ?」

 これはちょっと付き合いがある者ならだれでもわかる簡単なことだし、むしろ知らない方がおかしいくらいに毎度酔いつぶれている。ジスコでもトコストでも、バタバ村でもそうだったし、しっかり自制できてるはずの遠征中でも隙あらば飲んだくれるくらいだ。

 と言うわけで、その飲んだくれ達と合流するために、塩工場のある海岸をあとにしてジョイポンへ戻ることにした。なんと言っても自分の塩工場ならぬ海水汲みあげ所を設置できたのがとても大きな収穫だ。塩を直接買い付けて運んでも十分な成果は得られただろうが、ジョイポンで製造しているのは焼き塩だし、国内に流通しているのも全てジョイポン製の塩だ。

 だが海水を運んでカナイ村で製造すれば同時ににがりも製造できる。今のところカナイ村で生産しようと考えている農作物は、米や綿花の他に大豆が確定している。つまりにがりがあれば豆腐を作るめどが立つと言うことだ。さすがに豆腐は出荷できないとしても、乾燥させた湯葉なら十分可能で名物にもなり得るだろう。

 うーん、楽しみすぎて今夜は眠れなくなりそうだ。なんて考えながら馬車に乗ったミーヤは、コトコトと心地よい揺れにあっさりと眠りにつき、目が覚めたのは最初の野営地についたころだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...