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第八章 魔法と工業の都市編

148.塩工場到着

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 ジョイポンへやってきて最初の夕食はとても豪華で珍しいものだった。なんと言っても魚介が豊富な土地柄に相応しく、焼き魚や焼き貝に貝汁と言った魚介フルコースに舌鼓である。もちろん魚の照り焼きも食卓に上り、照り焼きを教えたミーヤも大満足だった。

 夕食が終わった後、例によって飲んだくれ二人は街へと繰り出していき、チカマとナウィンはしばらくしてからうとうとと船をこぎ始め先に寝てしまった。そのためダイニングにはミーヤ一人が残されている。つまりこれは商機と言えなくもない。

「ノミー様、今夜のお食事はとても素晴らしいものでした。
 魚も貝もとてもおいしくて食べ過ぎてしまうほどですね」

「お気に召していただけたなら幸いです。
 屋敷でも街でも照り焼きが大好評ですし、感謝しているのはわたくしの方でございます。
 今日お出しした二枚貝の照り焼きなどな屋台でも即売り切れの絶品ですね」

「ええ、照り焼きのレシピをご案内した甲斐がありましたわ。
 これほど多様な食材があるなんて、ジョイポンは素敵な街ですね。
 訪れる前は工業中心の街だと思っていたので意外でした」

「もちろん魔法と工業、それに魔導機工に関しては王国随一でしょう。
 ですが食に関しては今まで塩のみに頼っておりましたので多様とは言えませんでした。
 神人様より賜ったレシピを元に、王都から醤油を取り寄せて普及が進んでおります。
 それに甘味には水飴を多用したりと、変化が見られておるのですよ」

「すばらしい応用力ですね。
 さすが切れ者のノミー様、きっと私よりも良い料理を産み出す日も近いでしょうね」

 お世辞も含んではいるがノミーが有能なのは間違いなく、柔軟で良く回る思考力はまさしく天才と言え、凡人のミーヤから見ると羨ましい限りだ。領主は別にいるようだが、塩工場を運営していることもあって実質的な権力者はノミーと言えそうである。

 なんと言っても塩は人類にとって必須の調味料、それを握っているのだから王国内での力も推して知るべしだ。そこへどうやって食い込んでいこうか悩むところだが、ミーヤはあまり策を巡らせることが上手ではない。やはりここは直球勝負を挑んでみることにした。

「ところでノミー様、塩工場の見学はいつがご都合よろしいでしょうか。
 私はいつでも構わないのですが、あまり作業の邪魔はしたくありません。
 働いてる皆さまも知らない者がうろうろしていたら気になるでしょうしね」

「いえいえ、本当にいつでも構いませんよ。
 ジョイポンの塩工場は大分自動化が進んでおりましてね。
 従業員で溢れているなんてことはございません」

 この世界に来て大規模工場のような物は見たことが無いのだが、ヴィッキーからは王都の紡績織布工場ではかなりの人が働いていると聞いていた。王国中に流通する塩の生産を一手に引き受けているジョイポンなら、恐らくかなり規模の大きな工場だろうし、そこで働いている人の数も相当だと考えていた。だがノミーの話が本当なら随分と近代的な造りのようである。

「こればかりは実際にご覧いただいた方が良いでしょう。
 さっそく明日にでもご案内いたします。
 馬車で二日の道のりですが皆様で行かれますか?」

「確認してみないと何とも言えませんが、恐らく多くて三人ですね。
 今晩中にはお伝えするようにいたします」

 レナージュとイライザはきっと塩工場に興味なんてなく街中で飲んだくれていたいだろう。ナウィンがついてくるかは何とも言えなかったが、今の段階ではノミーが出資したヨカンドの細工師であるとは知られていないはず。なのできっとミーヤたちと一緒に来るだろう。

 そしてその通り、翌朝起きてきたのは予想通り三人だけで、ノミーと執事を合わせた五人で馬車に乗り塩工場へ向かうこととなった。全く起きる気配の無いレナージュ達には、街で勝手に飲み食いして過ごすようメッセージを残しておいたので不在の間も問題ないだろう。


 酔っ払いの相手をせず朝早めに出発したおかげで翌日日中には塩工場へと到着し、併設された宿泊施設へとチェックインできた。部屋から外を眺めると、初めて見る海がはるか遠くまで広がっている。その広大さに圧倒されたのはミーヤだけではなく、チカマもナウィンも口を開けたままポカンとしていた。

 とは言ってもミーヤは海を初めて見たわけではなく、前世では珍しくはない光景ではある。それでもこれだけ水平線が広がる海は都心部にはなく、最後に見たのは高校の修学旅行で行った沖縄以来な気がする。海から吹いてくる風は、爽やかだけどべたついていて潮の香りを伴って懐かしい。

「神人様、海の眺めはいかがですか?
 山や森とはまた違う趣があると思われませんか?」

「ええ、とてもステキな景色ですね。
 昔はこの海に船が浮かんでいたのですか?」

「おお! やはり船をご存じでおられますか!
 もしかすると、と考えましてご利用いただく部屋へ絵画をご用意したのです。
 伝承によるとあの帆船なるものは相当に大きく、人が百人は乗れると伝わっています。
 それが本当のことなのかまだわかりませんが、できれば再現したいと考えております」

「あんな巨大な船を再現、ですか……
 帆船は漁に使う小舟とは比べ物にならない大きさですよ?
 設計するのも建造するのも多分相当大変なことだと思います」

「絵画に描かれているのはやはり大きな船なのですね。
 櫂の大きさと数から帆船の大きさを推察するとあまりに非現実的な大きさに見えました。
 そんな巨大なものを作って浮かべ人を乗せるというのもにわかに信じられません。
 つまりは従来の常識では到底完成させることはできないでしょう」

「それで多くの職人を各地から集めているのですね。
 理由がわかり安心しました。
 ノミー様に限って職人を閉じ込めて働かせるなんてことあるわけ無いですよね。
 以前に難癖付けてしまったことが恥ずかしいです」

「まあ言われてみれば反省することもありましたな。
 決して移動を制限していたわけではなく、なに不自由ない暮らしを提供しております・
 ただわたくしから帰ってもよいと指示することはありませんでした。
 もしかしたらそれが枷となっていたかもしれません」

 これがノミーの本心であるかははっきりしないが、その気になればテレポートの巻物を与えることだってできたはず。それをしないと言うことは所詮その程度の扱いと言えそうだ。それでもジョイポンでの待遇に問題がないのが事実であるから職人たちは逃亡などせず生活に満足しているのかもしれない。

 あれこれ考えても答えは出ないしノミーも正直には話さないだろう。ナウィンが二十歳になるまでは実害もないのだし、実情については今すぐ知らなくても構わない。ジョイポンとノミーについてもっと知るためにもここでの産業に食い込んでおきたい。

 都合よくことが進むことはないとは思うが、自分の利益を追求しつつナウィンを安心させることが出来ればいい。そんなことを考えながら、いよいよ塩工場の見学へと赴くミーヤだった。
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