上 下
151 / 162
第七章 慌ただしく忙しいスローライフ編

142.まさかの同行者

しおりを挟む
 レナージュとヴィッキーの二日酔いで丸一日無駄にしたミーヤたちは、次の目的地について相談していた。選択肢としてはジスコへ戻るかローメンデル山へ行くか。そしてもう一つの選択肢……

「ねえ、私ジョイポンへ行こうと思うんだけどどうかな?
 みんなは行っても面白くないようなところかもしれないけど……
 でも私は一度行っておきたいのよ」

「私は構わないけどねえ。
 ナウィンは平気なの? 近づきたくないんじゃない?」

「別に犯罪者として手配されてるわけじゃないから拘束されるわけじゃないでしょ。
 それに期日が来る前に様子を知っておくのも悪くないだろうって思うの。
 もちろん嫌なら仕方ないけどね」

「いや、えっと、あの……
 怖いですけど確かにミーヤさまの言うこともわかります。
 それにみなさん一緒なので平気です」

「ナウィン、ありがとうね。
 チカマも一緒にジョイポンへ行ってくれる?」

「ミーヤさまの行くところがボクの行くところ。
 ぜーんぜんもんだいなし」

「それじゃ決まりね。
 とりあえず馬を確保しなければいけないかしら。
 ナイトメアを売ってしまったのは失敗だったかもねえ」

「ミーヤの背中にチカマかナウィンを乗せて行けばいいじゃない。
 私を乗せて移動できるくらいだもの、チビちゃん一人くらいなら余裕でしょ?」

「ボクはチビじゃない!
 レナージュはおばあちゃんのくせに!」

 珍しくチカマが言い返してレナージュとにらみ合っている。どうやらチカマはミーヤの背にレナージュを乗せたことが気に入らないらしく、あの時以来たまに突然背中にしがみつくことがあった。

 だがさすが年上のお姉さんらしく、レナージュはチカマをほっぺを摘まんだりくすぐったりして場を和ませてくれる。もうバタバリゾートでの仕事は無いので、のんびりと過ごしながら旅の支度を整えるだけだし、レナージュなんて安心して深酒が出来ると開き直っているくらいだ。

 ナウィンはそんなレナージュのために予備の弦を何本も作っているし、チカマだって果物集めをして働いている。ちなみにミーヤは馬を探しに行ったり干物やベーコンを作ったりして一応働いている。

 そんな姿を見てこのままではいけないと思ったのか、レナージュはチカマと一緒に森へ入り鳥を捕ったり木の実を集めたりするのだが、帰ってくるとやっぱり飲んでしまい翌日は昼過ぎに起きると言う悪循環である。

 こうして三日経って物資の用意が十分と言えるくらいになり、いよいよ明日か明後日には出発となったのだが、どうにもレナージュの歯切れが悪くなった。どうやらもう少しバタバ村に滞在したいらしい。

「そうは言うけどもう準備は整ったし、時間がもったいないわ。
 レナージュは何かやっておきたいことあるの?
 でもその割に毎日お昼まで寝てるじゃない」

「それは確かにそうなんだけどさ……
 ジョイポンまで結構遠いし、出発したらのんびりできないから今のうちにってね。
 あと二日でいいからお願い!」

「別に急ぐ旅でもないから構わないわよ。
 二日後には羊皮紙が届くからそれを待ってもいいしね」

「ミーヤありがとう。
 その好意に応えて明日こそは朝起きるわ!」

◇◇◇

 だがレナージュが起きたのは十四時前だった…… ヴィッキーも大概ねぼすけさんだがさすがに昼には起きてくる。

「レナージュ? なんだか疲れてるみたいだけど大丈夫?
 ただの飲みすぎならいいけど具合悪いなら言ってよね。
 昨日もヴィッキーと一緒に遅くまで起きてたみたいだしさ」

「まあね、いざ離れるとなるとあれこれと話したくなるものなのよ。
 約束通り明後日には出発しましょ」


 そしてその翌日――

「なんで!? どうしたのよ!
 もしかして一緒に行ってくれるの!?」

「ああ、家にこもりっきりだとなまっちまうからな。
 本当はレナージュがうるさくて仕方ねえからなんだけどさ。
 アタシもジョイポンは行ったことないから興味があるんだよ」

「レナージュったらなんで黙ってたのよ。
 まさかまたイライザと一緒に旅ができるなんて。
 本当にとっても嬉しいわ!」

 なぜサプライズにしたのかわからないが、レナージュはこっそりとイライザへ声をかけていたのだった。久しぶりの再会に驚くとともに、こんなに嬉しいものなのかとミーヤは意外な喜びを感じていた。

 そしてもう一つのサプライズ、それはなんとバタバ村で一人になってしまうヴィッキーの元へ客人がやってきたことだった。

「いや俺はタダで泊まれるって言うから来ただけだぜ。
 特に深い意味とか裏とかはねえから」

「あなた素直じゃないわねえ。
 じゃあなんでそんなに毛を撫でつけて手入れしてからやってくるのよ。
 ヴィッキーが一人で寂しがらないよう相手をお願いね。
 でも飲みすぎて仕事に差し支えたら困るからほどほどに」

「レナージュったらなに余計なこと言ってるのよ。
 私はちっとも寂しくなんかないわ。
 まあ仕事を手伝ってくれるみたいだからこき使ってやるけどね」

 どうやらこちらもレナージュが裏で手を回し『六鋼』はバタバ村を拠点として活動することになったようだ。彼らの拠点として、ミーヤたちが使っていた家を引き渡すことにしたが、そう遠くないうちにトラックはヴィッキーの家に転がり込むだろう。こうして素直じゃない二人を冷やかしながら、夜には出発前最後の宴を開きみんなで大騒ぎしたのだった。

◇◇◇

 翌朝、もはや様式美のようになったレナージュの二日酔いは、イライザが補充として持ってきてくれた酔い覚ましのおかげで後を引くこともなかった。もちろん出発も予定通りと珍しく順調である。

 予定通りでなかったのはチカマくらいで、本当はミーヤの背中に乗って旅するはずが、イライザの駆る馬の後ろにのせられて不満そうだ。だが長距離の移動になるので身軽で済んだミーヤはホッとしていた。

「チカマ、どこかで少しだけ乗せてあげるから機嫌なおして。
 私だってずっとじゃ疲れちゃうんだからね」

「だいじょぶ、ボクいい子だから。
 ほんのちょっとつまらないだけ」

「ふふ、いい子ね。
 でもイライザの髪に水飴くっつけないよう注意しなきゃダメよ?」

「チカマは相変わらず甘えん坊だな。
 あんま変わってないから安心したよ」

「イライザも変わってないわね。
 マルバスとは相変わらず仲良くやってるのかしら?
 愛し合ってる相手がいるなんて羨ましいわね」

「ちょっ! そんな恥ずかしいこと言えるかっての。
 さ、そろそろ行こうぜ」

「それじゃヴィッキー、行ってくるわね。
 トラックと仲良くやんなさいよ」

「もう、余計なお世話よ!
 ミーヤったら神人のくせに色恋の話が好きすぎよ
 ちょっと下品じゃないかしら?」

「そんなことないわ、みんな愛し合っているなんてステキじゃないの。
 私だってみんなのこと大好きよ」

 なんとも歯が浮くような言葉を平気で言えるのは今が幸せだからだろうか。生前はそれほど人間関係に恵まれたとは言い難かったが今は違う。こんな素敵な仲間と旅ができて幸せだし、帰るべき場所も有り待っていてくれるマールもいるのだから。

 だからチカマにとって頼れる家族でありたいし、ジョイポン行きに不安を見せているナウィンにとっての拠り所になれたらうれしい。そしてそれを目指して経験を積んで成長していこうと改めて決意を固めるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...