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第七章 慌ただしく忙しいスローライフ編

141.別れの時

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 王都、つまり首都と言うものは国の中心で人も物も金も集まってくるような場所だ。この異世界であってもそれは同じことで、トコストには多くの人が豊かな暮らしを求めて集まってきている。しかしその全員が夢かなうと限らないのも近代と同じことで、その日暮らしで食いつなぎながら王都に留まっている者たちも多くいるのだ。

 食い詰め者が集まると治安悪化にもつながりあまりいいことは無いのだが、王都ではその解消の一環として大農園の手伝いや大池へ水を貯めると言う勤労奉仕で糧を得ることが出来る。本当に最低限ではあるが飢え死にすることは無いと言う寸法だ。

「だからお父様や大農園の管理長とも相談してこっちへ人を回すことにしたのよ。
 今はレナージュ達が手伝ってくれているけど、人が増えたら一息つけるでしょ?
 とは言っても到着まであと数日はかかるから我慢しててよね」

「ヴィッキーったらなかなかやるじゃない。
 ケチで考え無しな宿屋のおばちゃんとは違うわ」

「そうね、こんなに早く盛況になってどうなることかと思ったけど一安心ね。
 先を見据えてあらかじめ動いておくなんて、ヴィッキーったらすごいわ。
 これでレナージュとチカマも解放されるわね」

「ほとんどが宿泊だし予約があれば料理の必要量も計算が立つしね。
 マーケット組合の視察を早々に計画して正解だったわ。
 きっといい宣伝になると思ったのよね」

 なるほど、ヴィッキーは自分から視察旅行を立案し呼び寄せていたのか。そのおかげでマーケット関係者や取引先に評判が広がり一気に予約が埋まるようになった。もちろん一気に忙しくなり他に何かやろうと思っても難しい毎日になっている。

 ただし、フルルやおばちゃんの店と大きく異なるところは宿のキャパに限りがあり来客が制限されると言うところだ。冒険者や流れの客なら飲食だけで野宿で構わないと言うこともあるが、王都からわざわざ観光で来るのだから宿に泊まってゆっくり過ごしたいに決まっている。

 だが今のところ部屋は四部屋しかなく、同時に受け入れられるのも最大で四組と言うことになる。これは機会損失と言えるが働く側からすると余裕があって好ましいのである。そんな好ましい状況は経営者にとって好ましくないとも言えるわけで、ヴィッキーの口からは当然のように非情な言葉が発せられてしまった。

「それでね、近々宿屋を増やして倍の八組まで受け入れられるようにするつもりよ。
 もちろん人を増やした後にするけどね。
 問題はもうひと棟の宿屋の責任者なのよねえ」

「もうそれならいっそレブンの実家を移転させてしまったらいいんじゃない?
 どうせ修理できなくて立替ならここにひと棟持たせてあげましょ。
 建物代は分割で毎月徴収すればいいでしょ?」

「そうね、王都のあの区画と交換してあげてもいいわね。
 お互い得しかないなんてとってもすばらしい案だわ!」

 こうして話は一気に進み、レブンの両親と住み込みの料理人はバタバ村へ移住することとなった。時期を同じくして追加人員もやってきたのでミーヤたちは一気に暇になってしまった。

「なんだかこの短期間で随分変わったわねえ。
 細工師と鍛冶師も移住してくるし、商工組合の出張所もやってくるなんてすごいわ」

「本当はナウィンが引き受けてくれたら良かったけどね。
 ミーヤたちに置いていかれたくないって言われたら押し切れないわ。
 まあでもこれだけの施設が揃っていれば冒険者も旅行者も使いやすいでしょ」

「ここまでくれば私たちの出番はもうないわね。
 バタバ村は立派なヴィッキーの国よ」

「ミーヤ…… あなたったら――」

 いよいよヴィッキーと別れる時が来たのかもしれない。なんだか少しさみしくなってくるが、それは全員が感じているように思える。たまにはこういうしんみりした雰囲気もいいものだ。

「―― あなたったら逃げ出そうとしているわね?
 ちゃんと毎月二割払うんだからしっかり働いてもらうわよ!
 これからどこへ行くにしても月に一度は顔を出すこと、いいわね?」

「え、ええ、わかったわ。
 その時に何か手伝えることがあれば協力するわね」

「私たちはいつまでも友達だものね。
 もちろんレナージュもチカマもナウィンもよ。
 随分と世話になったわ、ありがとう」

「私も楽しかった。
 王族なのにお転婆なところが気に入ったわ。
 また一緒に狩りへ行きましょ」

「ヴィッキー人使い荒い。
 でもボク好きだよ」

「あの、えっと、あの……
 お役に立てていたなら幸いです。
 またいつか……」

 こうしてあれよあれよと言う間に話は進み、ミーヤたちはいったんバタバ村を離れることになった。もちろんこの夜は酒宴となり、言うまでもなく翌日は二日酔いが二人転がることとなった。

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