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第六章 未知の洞窟と新たなる冒険編
117.夜空のレストラン
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夜も大分更けてレナージュの酔いもかなり回ったころ『六鋼』の面々が洞窟から戻ってきた。これだけ遅くまで探索していたのだからさぞかし収穫があったのだろうと期待しながら話しかけた。すると――
「やあおつかれさん、そっちは随分とくつろいでるなあ。
ちょっとお邪魔して火にあたらせてもらっていいかい?」
トラックがそう言うので座る場所を開けながらふと見ると、なんと全身びしょ濡れだった。いくら年中温暖だと言っても夜は多少冷える。濡れたままでは具合が悪くなってしまうかもしれない。レナージュもそれに気づいたようで、自分が飲んでいた樽から蒸留酒を一杯注いで手渡した。
「ちょっとどうしちゃったのその格好。
まるで大口水竜に襲われたみたいにびしょ濡れじゃないの」
その例え方はどうかと思うが、レナージュの言うことは的外れと言うこともない。だが、この人たちなら例え水場があったとしても、何もせずに全身びしょ濡れになるようなマヌケではないだろう。
「いやあ参ったよ。
あの道をずっと奥に言ったところに地下水脈があってなあ。
流れは穏やかで底も見えていたから歩いて渡ろうとしたのさ。
そうしたら驚くなかれ、川底じゃなくて魚の背だったんだぜ?」
「ええ!? 人が乗れるくらい大きな魚ってこと!?
地下に魚がいるだけでも驚きなのに」
確かにヴィッキーの言う通りだ。ミーヤたちも大口水竜には出くわしたが、アレは魔獣で普通の生き物ではなかった。と言うことはトラックが踏んづけたのも魔獣だろうか。
「踏んづけたらすぐに泳いで行っちまったから魚じゃねえかもしれねえ。
でも水の中にいたんだから魚の可能性が一番高いだろうなあ。
足場が動いたもんで、俺はそのまま転んじまって水浸しってわけさ」
「それは災難だったわね。
襲ってこなかったってことは魔獣じゃなかったのかな。
第一それにしたって遅かったんじゃない?」
「ああ、道を進んでいった後に竪穴があってかなり深かったからな。
随分降りてからさらに進んだ先に水脈があったってわけさ。
生き物もいたし、途中に横穴もあったからまだ探索し甲斐はありそうだ」
「資源とかそう言うのは見つからなかったみたいね。
それはこちらも同じだけど、魔獣には遭遇したわよ。
あと盗賊の残党もね」
ヴィッキーは包み隠さずペラペラと話しはじめた。横にいるレナージュが微妙な顔をしているが、まあミーヤたちよりも奥まで進んだ『六鋼』との情報交換だと思えば悪くない。
「まだ盗賊がいやがったのか。
それじゃ探索に来たやつ見つけて逆恨みして襲って来たってわけか」
「え、ええ、多分そうでしょうね。
こちらが誰だとかそう言うのを確認していたようには感じなかったもの」
慌ててミーヤが横から会話へ割り込んだ。これ以上ヴィッキーに話をさせていたらなにを言いだすかわからない。しかしトラックの関心は別のところにあったらしい。
「ところでそこの鍋、こんなところで料理でもしてたんじゃねえだろうな?
まさかとは思うが旅先で煮炊きするなんて常識はずれな真似するなんて――」
「ちょっと待ってよ、別に迷惑かけてるわけじゃないし、咎められる覚えはないわよ?
それとも自分たちは毎日干し肉かじるだけだからってやっかんでるわけ?」
なぜか突然レナージュが怒りをぶつけはじめた。珍しいことをしているから気になっただけだろうし、口調からは別に咎められているわけじゃなさそうだ。そこまでムキになって言い返す必要があるのだろうか。
「いや、いや違うんだ、珍しいことしてるから聞いてみただけだ。
それにちょっと噂に聞いてたもんでな」
「噂ってなんの?
まさか旅先で調理してる冒険者がいるってこと?」
「おう、そうなんだよ。
王都の酒場で他の冒険者から聞いたんだけどな。
料理屋や酒場でもないのにそれよりうまいもんを食わせる冒険者の噂さ。
そいつらの話だと、見たこともねえ料理だったが味は抜群だったとか」
それはきっとサラヘイたちのことだろう。王都からローメンデル山へ来ていたはずなので、王都へ戻ってからペラペラと話していたのかもしれない。まあ別に口止めすることでもないので構わないが、おかしな噂になっていないことを祈るだけだ。
「それはきっと銀の盾の連中でしょ?
あの人たちはわざわざ上等の豚を一匹持ってきてくれたんだったわね。
それと茶色い蒸留酒も、料理代とは別に気前よく出してくれたわ」
このレナージュの話し方でピンときた。きっとあの時と同じように、ミーヤに何か作らせて代金をせしめる気なのだ。まったくお金が絡むととたんに頭の回転が良くなるのには尊敬すらしてしまう。
「お、おう、あいにく豚の手持ちは無いんだけど金ならきっちり払うぜ。
ぜひなにか六人分作って食わせてくれないか」
「こんな場所で街よりもおいしいものを食べさせるんだからハッキリ言って高いわよ?
それでも良ければ引き受けてあげるわ!」
「おいおい、気を持たせないでくれよ。
金ならちゃんと持ってるぜ?
なんならこの透明の硬い石もつけるぞ」
トラックはそういってポケットから自分の拳ほどの石を取り出した。大体ソフトボールくらいの大きさだろうか。それは水晶よりも透明感がなく、曇りガラスのように透明度の低いものだった。
「そんな石ころに価値があるの?
透明ってほど透き通ってもいないし、使い道もなさそうじゃないの」
「うーん、俺には価値があるかはわからねえが、とにかくすげえ固いんだよ。
ちょっと見てろよ?」
手に持った透明な石を持ったトラックは、座っているすぐ隣の大きな石へ線を引くようにこすり付けた。すると大きな石にはくっきりと溝が出来ていて透明な石の固さを証明するには十分だ。
ミーヤはその光景を見て目を丸くしたものの、その透明な石ころと同じくらい目を輝かせた。ほぼ間違いなくこれはダイヤモンドだろう。この世界の技術で原石からカットできるのかどうかはわからないが、とんでもない大きさの原石であることは間違いない。
もちろん欲しいと言えば欲しいが、使い道もないしお金になるかどうかも分からない。そんなことよりも、レナージュが勝手に話を進めていることの方が問題な気がしてきた。作ってあげること自体は嫌ではないが、ぼったくろうと言うのは悪い気がするからだ。
「まあいいじゃない、レナージュはガツガツし過ぎよ。
どうせ作るのは私なんだから、お代は食べてから好きなだけ払ってもらえたらいいわよ。
でもせっかくだからその石は貰っておこうかしら」
「おう、ありがてえ。
こんな石ころに価値はないかもしれねえが、希少なことは間違いないぜ。
なんといってもこれはブクロン大迷宮の十七階層辺りで見つけたんだからな」
それを聞いてもミーヤには何のことかわからない。しかしレナージュは言葉を失うほど驚いた様子で、声を上げずに口元を押さえている。
「その大迷宮ってところはどういうところなの?
どこにあるのかも知らないから私には凄さがわからないわ。」
「王都の北西だけど、行くまでにひと月くらいかかるわね。
不帰(かえらず)の森を抜けた先だから、行く人自体かなり少ないって話よ」
知らないことはいつもレナージュが教えてくれるのだが、今は言葉を失っているようなので代わりにヴィッキーが教えてくれた。それでもミーヤにはピンと来ないし、それほど興味もわかなかった。
「ま、大迷宮になんて興味はないからどうでもいいわ。
それより材料があまりないから大したものはできないわ。
ベーコンとか野菜なんて持ってないわよね?」
それを聞いたトラックは大きなベーコンの塊を取り出した。さらにチカマがミーヤのところへやってきて、ポケットから大量の野菜を出してきた。
「チカマこれどうしたの?
こんなに沢山いつの間に」
「さっき村の中探検してたらあったから持って来たの。
あとこれもあった」
チカマはさらに追加で、かなり大振りなブロックハムを取り出した。他にも蜂蜜やパンに油、それに初めて見る辛子があった。
「ミーヤさま、これ辛かった……
注意してね……」
「あら、舐めちゃったの?
これは辛子と言う辛い食べ物で水飴みたいなものじゃないのよ?」
「うう、しっぱい……」
「じゃあ簡単なものになってしまうけど作ってみるわね。
六人分も追加で作ると思ってなかったから、食料が足りなくなってしまうかもしれないわ。
チカマ、他にも何か見つけたら貰っておいてね。」
「はーい。
明日はまた鳥でも狩って来る」
こうしてミーヤは再び調理を始めることになった。もちろん請け負った当のレナージュは、ヴィッキーやトラックたちと飲み始めており、また長い夜になりそうな予感がしていた。
「やあおつかれさん、そっちは随分とくつろいでるなあ。
ちょっとお邪魔して火にあたらせてもらっていいかい?」
トラックがそう言うので座る場所を開けながらふと見ると、なんと全身びしょ濡れだった。いくら年中温暖だと言っても夜は多少冷える。濡れたままでは具合が悪くなってしまうかもしれない。レナージュもそれに気づいたようで、自分が飲んでいた樽から蒸留酒を一杯注いで手渡した。
「ちょっとどうしちゃったのその格好。
まるで大口水竜に襲われたみたいにびしょ濡れじゃないの」
その例え方はどうかと思うが、レナージュの言うことは的外れと言うこともない。だが、この人たちなら例え水場があったとしても、何もせずに全身びしょ濡れになるようなマヌケではないだろう。
「いやあ参ったよ。
あの道をずっと奥に言ったところに地下水脈があってなあ。
流れは穏やかで底も見えていたから歩いて渡ろうとしたのさ。
そうしたら驚くなかれ、川底じゃなくて魚の背だったんだぜ?」
「ええ!? 人が乗れるくらい大きな魚ってこと!?
地下に魚がいるだけでも驚きなのに」
確かにヴィッキーの言う通りだ。ミーヤたちも大口水竜には出くわしたが、アレは魔獣で普通の生き物ではなかった。と言うことはトラックが踏んづけたのも魔獣だろうか。
「踏んづけたらすぐに泳いで行っちまったから魚じゃねえかもしれねえ。
でも水の中にいたんだから魚の可能性が一番高いだろうなあ。
足場が動いたもんで、俺はそのまま転んじまって水浸しってわけさ」
「それは災難だったわね。
襲ってこなかったってことは魔獣じゃなかったのかな。
第一それにしたって遅かったんじゃない?」
「ああ、道を進んでいった後に竪穴があってかなり深かったからな。
随分降りてからさらに進んだ先に水脈があったってわけさ。
生き物もいたし、途中に横穴もあったからまだ探索し甲斐はありそうだ」
「資源とかそう言うのは見つからなかったみたいね。
それはこちらも同じだけど、魔獣には遭遇したわよ。
あと盗賊の残党もね」
ヴィッキーは包み隠さずペラペラと話しはじめた。横にいるレナージュが微妙な顔をしているが、まあミーヤたちよりも奥まで進んだ『六鋼』との情報交換だと思えば悪くない。
「まだ盗賊がいやがったのか。
それじゃ探索に来たやつ見つけて逆恨みして襲って来たってわけか」
「え、ええ、多分そうでしょうね。
こちらが誰だとかそう言うのを確認していたようには感じなかったもの」
慌ててミーヤが横から会話へ割り込んだ。これ以上ヴィッキーに話をさせていたらなにを言いだすかわからない。しかしトラックの関心は別のところにあったらしい。
「ところでそこの鍋、こんなところで料理でもしてたんじゃねえだろうな?
まさかとは思うが旅先で煮炊きするなんて常識はずれな真似するなんて――」
「ちょっと待ってよ、別に迷惑かけてるわけじゃないし、咎められる覚えはないわよ?
それとも自分たちは毎日干し肉かじるだけだからってやっかんでるわけ?」
なぜか突然レナージュが怒りをぶつけはじめた。珍しいことをしているから気になっただけだろうし、口調からは別に咎められているわけじゃなさそうだ。そこまでムキになって言い返す必要があるのだろうか。
「いや、いや違うんだ、珍しいことしてるから聞いてみただけだ。
それにちょっと噂に聞いてたもんでな」
「噂ってなんの?
まさか旅先で調理してる冒険者がいるってこと?」
「おう、そうなんだよ。
王都の酒場で他の冒険者から聞いたんだけどな。
料理屋や酒場でもないのにそれよりうまいもんを食わせる冒険者の噂さ。
そいつらの話だと、見たこともねえ料理だったが味は抜群だったとか」
それはきっとサラヘイたちのことだろう。王都からローメンデル山へ来ていたはずなので、王都へ戻ってからペラペラと話していたのかもしれない。まあ別に口止めすることでもないので構わないが、おかしな噂になっていないことを祈るだけだ。
「それはきっと銀の盾の連中でしょ?
あの人たちはわざわざ上等の豚を一匹持ってきてくれたんだったわね。
それと茶色い蒸留酒も、料理代とは別に気前よく出してくれたわ」
このレナージュの話し方でピンときた。きっとあの時と同じように、ミーヤに何か作らせて代金をせしめる気なのだ。まったくお金が絡むととたんに頭の回転が良くなるのには尊敬すらしてしまう。
「お、おう、あいにく豚の手持ちは無いんだけど金ならきっちり払うぜ。
ぜひなにか六人分作って食わせてくれないか」
「こんな場所で街よりもおいしいものを食べさせるんだからハッキリ言って高いわよ?
それでも良ければ引き受けてあげるわ!」
「おいおい、気を持たせないでくれよ。
金ならちゃんと持ってるぜ?
なんならこの透明の硬い石もつけるぞ」
トラックはそういってポケットから自分の拳ほどの石を取り出した。大体ソフトボールくらいの大きさだろうか。それは水晶よりも透明感がなく、曇りガラスのように透明度の低いものだった。
「そんな石ころに価値があるの?
透明ってほど透き通ってもいないし、使い道もなさそうじゃないの」
「うーん、俺には価値があるかはわからねえが、とにかくすげえ固いんだよ。
ちょっと見てろよ?」
手に持った透明な石を持ったトラックは、座っているすぐ隣の大きな石へ線を引くようにこすり付けた。すると大きな石にはくっきりと溝が出来ていて透明な石の固さを証明するには十分だ。
ミーヤはその光景を見て目を丸くしたものの、その透明な石ころと同じくらい目を輝かせた。ほぼ間違いなくこれはダイヤモンドだろう。この世界の技術で原石からカットできるのかどうかはわからないが、とんでもない大きさの原石であることは間違いない。
もちろん欲しいと言えば欲しいが、使い道もないしお金になるかどうかも分からない。そんなことよりも、レナージュが勝手に話を進めていることの方が問題な気がしてきた。作ってあげること自体は嫌ではないが、ぼったくろうと言うのは悪い気がするからだ。
「まあいいじゃない、レナージュはガツガツし過ぎよ。
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でもせっかくだからその石は貰っておこうかしら」
「おう、ありがてえ。
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「王都の北西だけど、行くまでにひと月くらいかかるわね。
不帰(かえらず)の森を抜けた先だから、行く人自体かなり少ないって話よ」
知らないことはいつもレナージュが教えてくれるのだが、今は言葉を失っているようなので代わりにヴィッキーが教えてくれた。それでもミーヤにはピンと来ないし、それほど興味もわかなかった。
「ま、大迷宮になんて興味はないからどうでもいいわ。
それより材料があまりないから大したものはできないわ。
ベーコンとか野菜なんて持ってないわよね?」
それを聞いたトラックは大きなベーコンの塊を取り出した。さらにチカマがミーヤのところへやってきて、ポケットから大量の野菜を出してきた。
「チカマこれどうしたの?
こんなに沢山いつの間に」
「さっき村の中探検してたらあったから持って来たの。
あとこれもあった」
チカマはさらに追加で、かなり大振りなブロックハムを取り出した。他にも蜂蜜やパンに油、それに初めて見る辛子があった。
「ミーヤさま、これ辛かった……
注意してね……」
「あら、舐めちゃったの?
これは辛子と言う辛い食べ物で水飴みたいなものじゃないのよ?」
「うう、しっぱい……」
「じゃあ簡単なものになってしまうけど作ってみるわね。
六人分も追加で作ると思ってなかったから、食料が足りなくなってしまうかもしれないわ。
チカマ、他にも何か見つけたら貰っておいてね。」
「はーい。
明日はまた鳥でも狩って来る」
こうしてミーヤは再び調理を始めることになった。もちろん請け負った当のレナージュは、ヴィッキーやトラックたちと飲み始めており、また長い夜になりそうな予感がしていた。
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