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第三章 戦乙女四重奏(ワルキューレ・カルテット)始動編

59.王都トコストの闇

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 ミートローフを堪能したサラヘイ達は上機嫌で余韻を楽しんでいる様子だった。報酬はレナージュと相談していたようだけど、どうやらたっぷりせしめたらしく、レナージュもご機嫌で酒を飲んで騒いでいる。あんなに男嫌いな雰囲気だったのにいい酒を貰ったのが相当嬉しいらしい。ちょっとだけ、本当に少しだけガッカリだ。もしかしてこれってヤキモチ!?

 後片付けをしているうちにチカマは船をこぎだしたので先に寝かせてしまい、ミーヤも噂の茶色い蒸留酒を飲んでみることにする。コップに注いでもらって口元へ持ってくると、それはそれは香り高いものだった。一口飲んでみると味も素晴らしく、ほのかに香ばしさも感じる。

『これは本物のウイスキー!? 木の香りが強くて心地よい味だわ!』

 余り調子よく飲んでいると危なそうな強さだが、水割りにするのはもったいない気もする。まあでもマルバスに貰ってきた酒追いの粉があるから平気だろう……

「神人様も気に入りましたか?
 これは王都で作っている特製の蒸留酒なんですよ。
 聞いて驚き、麦じゃなくとうもろこしで作られてるって話さ」

 とうもろこしのお酒!? それってバーボンってこと!? まさかそんなものがあるなんて驚きである。食文化全体でみると、言っちゃ悪いが粗末なのに、なんでお酒は豊富なのか。どこかに米があれば日本酒も作ってそうだが今のところは遭遇していない。

「木の香りが豊かでおいしいですね。
 王都にはこんなにおいしいお酒があるなら、食べ物もおいしいんじゃないですか?」

「いやあ、食い物はジスコとそう変わらないですね。
 違いはもう少し塩が効いてるってことくらいか。
 王都のほうが塩は安く出回ってますからね」

 海に近いから、と思ったがそれでもかなりの距離があって、全体の道のりから言ったら王都もジスコもそう変わりはなさそうだ。つまり王都を通ってくる際、大幅に上乗せされているのだろう。

「アッシらは王都の冒険者組合に登録している『銀の盾』というパーティーです。
 王都のそばにはいい狩場がないのでたまにローメンデル山まで来てるんです。
 まあ雇い主の命令でもあるんですがね」

「冒険者なのに誰かに雇われているの?
 依頼ではなく?
 自由に生きるのが冒険者だと思っていたのに意外だわ」

「王都は物価が高いですからねえ……
 狩りだけではなかなかやっていかれんのですわ。
 今回はなるべく強い魔獣を捕まえろとの命を受けた三人組の救援でここまで来たわけです」

「それが到着する前に解決していた、と?
 無駄足にさせてしまいごめんなさいね」

「いやいや、我々がつくまでそのままだったら終わってたでしょうな。
 どうやら最後まで捕まえることに固執してたみたいなんでね」

 なるほど、倒す気になればナイトメアくらいいつでもやれる、その慢心が窮地を招いてしまったのかもしれない。ミーヤも分をわきまえることの大切さはわかっているつもりだ。それでも不意を突かれてピンチになったこともある。油断大敵と言う言葉は、この世界で死に直結するくらい重いのだと言うことを、ミーヤは今一度心へ刻み直した。

「それに、そのおかげでなんだか知らないうまいもんにありつけたんでね。
 あいつらが、帰る前に料理を始めたのを見たって言うもんだから気になって気になって。
 まさかとは思ったんですが来て良かった、素晴らしい料理に敬意を表します」

「そんな大げさな、うちではこれくらい普通ですよ?
 今日は素材が良かったので、よりおいしいものが作れて私も満足してます」

「そう言っていただけると、マーケットで一番高い豚を買ってきた甲斐があるってもんですわ。
 高いって言っても王都に比べたらなんてことありませんでしたがね」

「王都って本当に物価が高いんですねえ。
 街に住んでる人の生活は大丈夫なのかしら?」

「まあ大変なのはわれわれ冒険者みたいな価値の低いものですからね。
 農耕民たちはそれなりにいい生活していますよ。
 その大農園の警備がアッシらの主な仕事で、彼らには食と住まいを提供してもらってます。
 つまり王都に居れば、最低限雨風はしのげて飢え死にすることはねえってことですな」

 この世界には明確な階級や身分制度は無いと聞いている。それでも歴史が作ってきた階級意識のようなものはあるのだろう。そしてその末端に位置するのが冒険者たちらしく、彼らを雇っているのは農民らしいと言うのもまた驚きの事実だ。

「それで雇われの身になっているということなんですね。
 でも自由を失ってまで王都にいなくても、拠点をジスコへ移せばいいのに」

「もちろんそれも考えたんですが、ジスコには稼げる仕事が少ないんですよ。
 トコストから移るならヨカンドかジュクシンですかね」

「あら、ジスコも不人気なのね。
 でも王都には王都の良さもあるってことはわかったわ。
 まだ行ったことがないけど、そのうち行ってみたいわね」

「まあ他から来た冒険者には厳しい街ですがね。
 身なりが悪いとどの店もすんなり入れてくれねえし、値段も吹っかけられますよ。
 武具屋はまあ普通に扱ってくれるんですけど……」

 今までほとんど耳にすることの無かった差別意識があるということが悲しく感じ、サラヘイ達には同情する。それに比べたら周囲に恵まれたミーヤのなんと幸せな事か。かと言ってなにかしてあげられるわけではないし、そこまでするつもりもなかった。

 王都トコストか…… 嫌な思いをするかもしれないのにわざわざ立ち入る必要はないかもしれない。でも知らないところへいって、知らないことを知ることも大切だ。いつかは行くことになるだろう。

 それにしても、なぜ人は上下優劣を決めたがるのだろうか。完全に公平なのは無理があるけど、わざわざ職業貴賤意識を持ってもいいことなんて無さそうなのに。

 差別と言うものは人の心に住む闇なのかもしれない、そんなことを考えるミーヤだった。

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