上 下
52 / 162
第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

43.大混乱

しおりを挟む
「本日は有意義なお話が出来て本当に良かったです。
 今後ともよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、色々と商売のヒントをいただきましてありがとうございました。
 のちほど卵を用意してフルルへ持たせます」

 フルルは商人長の後ろで手を振っている。ミーヤが振りかえすと商人長がフルルを叱ったようだ。友達とは言え、一応今は客人と言うことで分をわきまえるようにと行っているように見えた。


 宿屋への帰り道、レナージュがぼそっと話しかけてきた。

「なんかさ、今までは何も知らなくて危なっかしいって思ってた。
 だけど、商人長と話してるときのミーヤってなんか逞しいと言うか、凄かったね」

「うん、ミーヤさますごかった。
 何してるかわからなかったけど」

「チカマにはちょっと難しい話をしてたかもしれないわね。
 でもきっとこの先いいことに繋がっていくはずよ」

「けどさ、フルルとは言え他人へ教えてしまっていいものなのか?
 レシピってそんな安いものじゃないだろうに。
 野外食堂のラーメン屋だって相当の大金を積んで教えてもらったと思うぜ?」

 そうだ、あれは神人が持ちこんだレシピらしいと聞いたんだった。イライザへそのことを確認すると詳しくは知らないとのことだった。だが、ジスコに神人が来たことがあるって話は聞いたことがないので、おそらくは人づてで習得し、ジスコへ持ちこんだのだろうと教えてくれた。


 ようやく宿へ戻るとすでに寝台馬車は厩舎の前に止まっており、レンタカー屋さん? らしき人がそばに立っていた。

「約束の時間より早いね。
 待たせてしまったかい?」

「いえいえ、貸先から回収してそのまま来たので早くなってしまいました。
 馬なしと聞いておりますので、このまま動かせませんが、置き場所はここで問題ありませんか?」

「アタシは問題ないが、厩舎の担当者へ聞いてみないとわからないね。
 どうだい? ここで邪魔にならないか?」

 厩務員が問題ないと返事をすると、レンタカー屋の店員さんも安心したようにうなずいた。代金はとりあえずイライザが払っておくと言って支払っていた。どうやら最初に補償金を払うらしく、一週間以上の予定なのでかなりの額のようだ。

 返却時に戻ってくるから問題ないと笑っているが、逆に言えば壊してしまったらお金は返ってこないと言うことになる。七海は免許を持ってなかったのでレンタカーを借りたことなどない。そのため、その仕組みが当たり前のことなのかは判断できなかった。

 お金と言えば、村にキャラバンが来るまではその存在を気にすることは無かった。それなのに今は毎日結構な額を使って暮らしている。やっぱり都会の暮らしは大変だ。

「これで準備は整ったな、明日の朝にはいよいよ出発だ!
 野郎ども、心構えは万全か!?」

「ちょっとイライザ? 掛け声はいいけど野郎どもは無いんじゃない?」

 レナージュが至極真っ当な突っ込みを入れる。ミーヤももちろん同意なので深くうなずいていた。

「そ、そうだな、では、コホン。
 あなたがた? 準備はよろしくて?
 張り切っていくわよお?」

 イライザが慣れない言葉遣いをするので、返事をするどころかみんな笑ってしまって言葉も出ない。するとイライザはもういいから酒場へ行こうと言い始めた。

「でも明日は早く出かけるんでしょ?
 また飲みすぎで動けなかったら困るよ」

「平気さ、なんってったって今日は飲ませてもらえないからな!
 飯食ったら部屋で大人しくするさ」

 そう言えばあの失態でおばちゃんに叱られ、今晩の禁酒を申し渡されたのだった。それなら心配はないから食事だけしようと酒場に入ろうとするがなにかがおかしい。どうやら騒ぎが起きている様子だ。

「おおい、アンタたち、今日はもう入れないよ!
 悪いけど外で食べて来てくれ!
 その後は戻ってきて店手伝っておくれよ!」

 いったいこの人は何を言っているのか…… ミーヤ達は従業員ではない。それに飲食タダにするって言ってたのに外で食べてこいだなんて勝手すぎる言い分だ。

 しかし店内を覗いてみるとそこは戦場の様だった。

「こっちまだ来てねえぞ! まだかよ!」
「おばちゃん! おかわりな、もう二つくれ!」
「おーい、俺も同じの頼むわ!! あとエールも人数分な!」
「まだ入れねえのかよ! 早く食わせてくれ!」

 屈強な男たちが大勢でわめいている様はなんとも暑苦しい。これならお金が余分にかかっても、外で食べてくる方がマシかもしれない。

「これはアレだ、マヨネーズ焼きを食べに来てるんだろ。
 ジスコの人間は新しい物好きだからな、野外食堂でも新しいメニューが入ったら即行列さ」

「ええっ!? そんなに?
 いくらなんでも大騒ぎしすぎじゃないの?」

「食べるものって、必須なわりに種類が少なくて味もいまいちだからね。
 ちょっと変わったものがあれば食べたくなるものなのよ。
 私だって昨日食べて無かったら並んでたかもしれないわ」

「へえ、レナージュもそう思うんだ?
 なら教えてあげて良かったかもしれないね」

 とは言ってもあまりにも忙しそうで少しだけかわいそうになる。主におじさんが。

「そうだ、フルルへ連絡してあげないといけないわね。
 宿に居なかったら困るだろうし」

 ミーヤがフルルへメッセージを送ると、間もなく返事が返ってきた。もうすぐ宿屋へ着くとのことだ。なら来るのを待ってから一緒に食べに行ってもいいかなというと、みんなも賛成のようだ。

「面倒だからここで作ってもいいけどね。
 この様子だと酒場の調理場は借りられないだろうからフルルへ教えられないし」

「でもここで何か作ることなんて出来るの?
 調理器具なんて何もないでしょ?」

「旅先で使うために用意したものがあるから、後は火を起こすだけよ。
 ちょっとした予行練習ね」

 なるほど、と賛成してくれたイライザが、その辺にある石を並べてかまどを作ってくれた。火は召喚術で作ってもいいが、薪もあるのでそれを使ってしまおう。

 ミーヤは卵の到着前に、とスキレットを用意して、カットしたベーコンを焼き始めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転移した

弍楊仲 二仙
ファンタジー
味覚が狂ったファンタジー世界に、料理に一切興味が無い 二十代前半の青年が転移するという話。 色々難しいことを考えずに、 ギャグメインのファンタジー冒険ものとして読んで頂けるといいかもしれないです。 小説家になろうからの自作品の転載です(向こうでは完結済み)

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

処理中です...