上 下
46 / 162
第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

37.天啓レシピ

しおりを挟む
 ミーヤはがっくりとうなだれていた。もうさっきから何度も同じことの繰り返しでうんざりだ。

「さあもう一度だ。うまく行ったら今後アンタたちには宿も飲み食いもタダにするからさ。
 頼むよ、頑張っておくれってば」

「はあ、でも少し休ませてください。
 そのレシピ化というのはどれくらい難しいものなんですか?」

「連続で作って半分くらい成功すれば出来るようになるって話さ。
 うちには目玉商品がないから絶対に覚えたいんだよ。
 頼むから協力してくれよお」

「でもそれって、私ここに必要ですか?
 分量はもうわかってるしいなくても作れますよね?」

「きちんと出来ているかどうかがわからないじゃないか。
 アンタが作ったものと同じにならないとレシピ化できないんだからさ」

 まったく意味が分からないが、どうやら最初に作り出した人の物を再現する必要があるらしい。でもミーヤが作った時は分量が適当だったから、はっきり言って同じマヨネーズができるかどうかは運の要素が強すぎる。

「わかりました、では作っていてください。
 私は別のものを作りますからね
 ああそうだ、玉子に塩とレモンを入れてからオリーブオイルを足していますよね?
 その時に少しずつ入れるようにしてください。
 もちろん混ぜる手は止めないで下さいよ?」

「分かったよ、まったく難しいものだねえ。
 なかなかうまくできなくて参っちまうよ」

 おばちゃんが調理場から動かないので、ホールにはおじさんが出ることになり、作っては運んでを繰り返している。きっと参っているのはおじさんのほうだろう。

 とりあえず調理しているところをずっと見ていることからは解放された。しかしさっきから卵を消費し続けているが、それがミーヤの買ってきたものだと言うことをわかってくれているのだろうか。やれやれと首を振りながら、ミーヤは残された卵白の使い道について考える。そこそこ高価だったので景気よく使いたくはないが、砂糖の手持ちがあるのでメレンゲを作りお菓子かケーキを焼こうか。

 でもケーキは生クリームもないとおいしくない。カステラならいけるかもしれないが、卵白だけでは作れない。と言うことは作るのが簡単なアレにしよう! 日持ちもするから旅にも持って行ける! 作るものを決めたミーヤは、砂糖を取り出して卵白に加えた。そしてまたハンドミキサーでひたすら混ぜる。結構早くもったりしてきて、角が立つまではもう少しだろう。直火オーブンの温度がわからないが、焼けば何とかなると思うしかない。

 まったく、おばちゃんもハンドミキサーを使えばいいのにレシピ化なるものは、使った道具は次も必要になってしまうので手持ちの器具で作ると言ってきかない。木のスプーンで混ぜるのはかなり大変だろう。

 とにかく気のすむまでやらせておくしかなく、ミーヤはおばちゃんを気にせずメレンゲを作った。それをオーブン皿に乗せて…… いやオーブン皿なんてなかった…… 仕方ないのでフライパンへバターを…… バターもないので仕方なくオリーブオイルを塗る。

 オーブンシートがあればいいけど、紙が無いのだからオーブンシートがあるはずもない。絞り袋ももちろんないのでフライパンへスプーンで垂らしていく。大きさは飴玉くらいでいいかな、と大体等間隔になるように敷き詰めたら焼くだけだ。

 忙しそうにしているおじさんへ頼むのは本当に申し訳ないが、オーブンで焼いてもらうことにする。以前作った時は確か低温で一時間くらいかけた気がするが、直火なので短くていいだろうか。まあどうせおばちゃんを待っていないといけないので、焼き加減を見ながら待ってみることにした。

 その間もおばちゃんは失敗し続けている。やはりスプーンで混ぜるのは無理がある。他に何か使えるものがないか見回してみると、バーベキュー用の串に似た物が目に入った。

「おばちゃん? スプーンよりもこっちで混ぜてみて?
 器も木のボウルじゃなく鉄の鍋で試してみてよ」

 そういって金属の串を数本束ねて、ねじれている持ち手を下にして広げれば、泡だて器のように使えそうである。おばちゃんは不服そうな顔をしているがミーヤが強く言ったのでしぶしぶと試してくれた。卵黄と塩、レモン汁を混ぜてクリーム状になったら混ぜながらオリーブオイルを注いていく。すると段々とねっとりとしてきた。音はかなりうるさいけど仕方ない。

 それにしても以前作った時もさっきも思ったが、マヨネーズの成分の半分以上が油なのが恐ろしい。せめてもの抵抗でオリーブオイルを使って作ったのを思い出して再現してみたがそれでも油は油だ。やはり体に悪いもののほどおいしいと言うのは真理なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、今回は混ぜていても消失することなく色が変わっていく。固さも大分いい感じだし、スプーンを刺しても倒れない。こうやってしっかりとしたクリーム状の物質が出来上がった。

 味見をしてみるとちゃんとマヨネーズになっている! 成功だ! やっと解放されると喜んでいると、おばちゃんが悲しそうにつぶやいた。

「啓示が無いんだよ…… なんでだろうかねえ。
 これでちゃんとできているんだろ?
 まだなにか足りないのかい?」

「うーん、あえて言うならもっと酸味があってもいいけど……
 でも失敗ならさっきまでみたいに消えてなくなるんでしょ?」

「酸味が足りない? つまりレンモの実を絞ればいいのかねえ?
 少し足してみるか……」

 レモン汁を少し垂らしてからスプーンで混ぜているのを眺めていると、おばちゃんが突然叫んだ。

「おおおお!! 来たよ! これでアタシのレシピになったんだよおお!
 ありがとうね、ホントにありがとさん!
 もうこれからはうちの子と一緒さ、今後は宿も飲み食いも代金はいらないからね!」

「勝手にそんなこと決めていいの?
 おじさんが怒るんじゃない?」

「問題ないさ、このマヨネーズでアタシはジスコ中の客を独り占めさね。
 これから忙しくなるよー
 後生だから他の料理人へ作り方を言いふらさないでおくれよ?」

「うんうん、わかったわ、だからあんまり揺らさないで。
 目が回りそうよ……」

 よくわからないが、異常なほどに喜んでいる。オリジナルのレシピメニューはそれほどまでに人気が出るのだろうか。でも他の人だって真似して作ったらレシピ習得できるということだし、いつまでも独占できるはずもない。

 その時が来ても、宿や飲食をミーヤ達へ無料で提供してくれるとは思えないが、それまでは甘えることにしよう。そんなことよりも、ようやく解放されると言う安堵感こそが最高の報酬だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...