『神々による異世界創造ゲーム』~三十路女が出会った狐耳メイドは女神さま!? 異世界転生したケモミミ少女はスローライフと冒険を楽しみたい~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
43 / 162
第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

34.晩餐会

しおりを挟む
 さて、話は一段落したが今度は時間が足りない。さすがに招かれて遅刻もまずいだろう。すっぽかしなんてもってのほかだ。それはともかく今はチカマを洗ってあげないと、と二人で水浴び場へ向かった。もちろん、アノ特製じょうろを持って行くのは忘れない。

「見ててね、まずはこうやって水を入れて――
 次は炎っと……」

 じょうろは二重円筒になっていて、外周へ水を注ぎ中心の円東部へは炎の精霊晶を入れる。しばらく待っていると全体が温かくなりお湯が出来たようだ。

「それじゃ行くわよ? お湯をかけている間ちゃんと自分でゴシゴシするのよ?」

「うん…… こんな感じ?」

 ミーヤが頭をボリボリと掻くようなしぐさを見せると、チカマはそれを上手にマネして見せた。シャンプーが欲しいところだけど、無いものは仕方がない。ミーヤは塞がれていた水の出口を開けてお湯を出しはじめる。すると思いのほか熱かったのかチカマがヒエッと変な声を出した。

「もしかして熱かった!?
 ごめん、水だそうか?」

「違うの、あったかい水なんて初めて被ったからびっくりして……
 でも気持ちいいね」

 それなら良かったとミーヤは頷いて炎と水を補充する。火力が高ければ水を流しながらでもお湯が出来そうなくらい良くできている。あのジスコ唯一の細工屋がジスコいちと自負していたのは伊達じゃないと言うことか。

 チカマが体をヘチマのような垢すりで擦っているすきに、ミーヤは背中を流していた。爪を隠してから指先に生えている体毛を使いやさしくこすっていると、チカマはたまに変な声を出す。

「はう…… ふわっ…… くふふ……」

「あら? くすぐったい? それとも気持ちいい?
 私の毛皮で洗ってるんだけど、レナージュには好評だったのよ?」

「うん…… とっても気持ちいい
 ミーヤさま、大好き」

「私も大好きよ、チカマ、ずっと大切にするわ。
 大切にね、絶対なんだから」

 初めて使ったシャワー器具はいい塩梅で大成功、作ってもらって大正解だった。こうして全身をきれいにしたチカマをごわごわした麻のタオルで拭きあげる。あとは部屋へ戻ってドライヤーを試そう。

 その前にメッセージが来ていたので確認すると、エール二杯の注文が入っていた。まったくミーヤはお給仕さんではないのだけど? と思いつつ、おばちゃんから受け取ったジョッキ二つを持って上に上がっていった。

「ちょっとレナージュにイライザ? 本当に平気なの?
 昨日もそうだし、ペースが速いみたいなんだけど?」

「問題ないって、これくらいの酒で倒れるほどやわじゃあないさ。
 それよりもお嬢ちゃんも好きな物貰ってきなよ。
 いやまてよ? 着替えたら下でやればいいか」

 イライザはなにも気にしていない様子でチカマの相手をしてくれている。さすが駆け出し冒険者のアドバイザーをやっているだけのことはある。

「それとなミーヤ、出かける前に魔術書を作っておいてくれ。
 魔人は生まれながらに種族ボーナスで魔術が使えるんだぜ?
 それを活かさない手はねえってことさ」

 種族ボーナスなんてものがあったのか。そういえば、ミーヤにも初めから異常に高いスキルがあって不思議だった。そんなからくりがあったなんて知らなかったけど、そういうことはもっと早く教えてほしいと常々感じている。まあ生き方がすでに行き当たりばったりなのだから、そんなもんだと割り切るのが正しいのかもしれない。

 チカマの髪を乾かすのはレナージュへ任せて、ミーヤは買ってきた物資をベッドの上へ並べて行った。その中にはハンドミキサーもあって、これは何に使うのかと聞かれて答えに困ってしまった。

「今は時間がないから帰ってきてから説明するわ。
 くれぐれもチカマの髪を乾かすの忘れないでね、風邪をひいてしまったら困るわ」

「どうせ明日神柱へ行くんだからどんなに具合悪くなっても平気よ。
 ま、例の物の使い心地をちゃんと試してみたいし、任せておいて!
 ミーヤは心配しないで楽しんでいらっしゃいな」

「それじゃ行ってくるわね、チカマ? いい子にしてるのよ?
 あ、これはお姉さんぶってるんじゃなくて、純粋に心配してるだけだから。
 二人とも飲みすぎないでね、帰ってきたら私も混ぜてもらうからさ」

 結局ミーヤは遅刻しそうだと慌ただしく宿を飛び出していった。


 時間ぎりぎりになってローメンデル卿の館へ着いたミーヤは、衣裳部屋へ案内してもらってからドレスへ着替えた。今この世界では流行っていないと言う裾の長いドレスは、ミーヤにとって、いや七海にとっては憧れのものだった。

 とは言っても特に思い入れがあるわけではなく、単純に昔見た古い映画の中で登場人物たちが着飾っていた印象が憧れとなり、幼い七海の心に刻まれ、そのことが今もまだ想い出として残っていただけである。

『はあ、夢にまで見たこんな豪華なドレス、本当に素敵だわ』

 衣装室には、金属を磨き上げたものではあるものの、この世界で初めて見る鏡があった。少し歪んで映ってはいるけれど、それでも自分のドレス姿に見惚れてしまう。

 深く濃いワイン色のドレスには、首元や腕、スカートの端に黒のフリルがあしらわれ、胸元は大きく開かれ純白の胸毛が飾りになっている。中に履いたクリノリンはこれでもかと言うくらいスカートを膨らませて伏せたワイングラスのようである。それらを強調しているコルセットは背後で編み上げられており、ウエストと気持ちをグッと締め上げていた。

 寸胴地味女だった七海ならこうはいかなかったであろうその立ち姿は、自意識過剰と言われたとしても受け入れたくなるような美しさだ。もちろん獣人の姿なので人間とは異なる容姿なのだが、全身を包んでいる真っ白な毛皮も、横へ広がる大きな耳もチャームポイントなのだ。

 招待客のことは全く聞いていないが、人間種であるローメンデル卿の招いた客人だ、おそらくは人間が多いだろう。そこに美意識の違いはあるだろうが、それでも今日は獣人のままで通すと決めている。恐れずに堂々と出て行こう、そう考えながらミーヤは大広間へ向かった。

 大広間にはすでに大勢の招待客がおり、そこらかしこで談笑している。しかしミーヤが入っていくと一斉に話をやめ、突然の静寂が訪れた。

「やーあ、皆さま、ごー紹介いたしましょう。
 わーくしたちの新たな友人、神人様のミーヤ・ハーベスさまでーございます。
 ごー縁があってこのジスコにて素晴らーしい出会いをいーただきましたこと、神々に感謝いたします」

 数回の謁見でわかってきたが、ローメンデル卿は気持ちが昂るにつれて言葉を伸ばすことが多くなる。ということでミーヤの名前がミヤ・ハベスだと勘違いされないかが心配だ。

 それにこの紹介の仕方…… イライザが言っていたように、政治的意図があって開催された晩餐会だと言うことは明白だ。立ち振る舞いと発言には注意する必要があるだろう。

 ミーヤは、せっかく卿が紹介してくれたのだからその隣へ行くべきだろうかと考える。しかし、スカートのすそが広すぎて人の間を進むのが困難だ。仕方ないので卿へ一瞥してからその場で挨拶をした。

「ただいまご紹介に与りました、ミーヤ・ハーベスでございます。
 神人とは言えまだ若輩の身、どうぞ皆様の温かい助力を賜れますよう願っております。
 本日はこのような素晴らしい場を設けて下さったローメンデル卿、そしてここへ集ってくださったみなさまへ感謝と尊敬の意を表したいと感じます」

 こんな馬鹿丁寧に話したことは無いので微妙に言葉遣いがおかしいかもしれないが、丁寧であることが伝わればまあヨシとしておこう。挨拶自体がうまくいったことは、招待客の拍手でわかったし、意外に多数の種族がいることも不安が除かれる一因であった。

「ミーヤ・ハーベスさま、ごきげんよう麗しゅう。
 わたくしは商人組合副会長のスガーテルと申します。
 木材や食肉関連でなにかございましたらいつでもご用命ください」

 最初に挨拶へ来てくれたのは熊の獣人だった。まだ本物の熊に遭遇したことがないのに、先に熊の獣人とあいさつを交わすとはね、なんて思ってしまう。

「ハーベスさま、ごきげんよう、お会いできて光栄です。
 わたくしはマーケットの管理長を拝命しておりますヤマユウでございます。
 本日のドレス、デザイン全体はクラシカルなのに斬新なスカートがモダンで素晴らしいですわね」

 次は年配の人間女性だ。ドレスには金属刺繍だろうか、キラキラと光った川の流れのような模様が入っており、非常に高価そうに見える。だがデザインは流行だと聞いた裾のすぼまった逆チューリップ形状で、足元は案の定つま先が天に向かって伸びていた。

「ミーヤどの、数日振りですな。
 商人組合長のブッポムでございますよ。
 本日はまたすごいお召し物ですなあ、これは流行りますぞ?」

「商人長! いらしてたんですね。
 知ってる顔が見られて少しほっとしたわ。
 ご商売は順調かしら?」

「おかげさまで不自由なく暮らせております。
 おっと、次がつかえていますので、私はこの辺で」

 さすが商人長は招待されていたようだ。本当に偉い商人さんだと言うことがわかる。

「ミーヤ・ハーベスさま、こんばんは、お初にお目にかかります。
 我は王国戦士団、南方面隊隊長、トソタニと申す。
 現在は王都トコストから出向しておりましてジスコで任についております。
 本日のドレスはとても素晴らしい、王都でも城でも見たことの無い煌びやかさですな」

「あら、ありがとう、隊長さまはお世辞がお上手なのね。
 とても嬉しいお言葉ありがとう。
 王都へはまだ行ったことがないけど、いつか行ってみたいわね」

「はっ! その際はぜひご案内させてください。
 お会いできて誠に光栄の極み、一生の思い出として末代まで語り継ぐ所存でございます」

 やたらに大げさなその戦士隊隊長は、初めて接する有鱗人、つまりトカゲ人間だった。その恐そうな見た目とは裏腹に、紳士的かつ覇気と慈愛を感じる物腰は、有能な上長であることを感じさせ好感が持てた。

「やあどうも神人様、ミーヤ・ハーベス殿と申しましたかな?
 私は、うん、あれよ? 冒険者組合長をしておるオカーデンと申すものです。
 先日は組合へお越しくださったと…… おーん…… モーチアより聞いております、ん、ん。
 ご用命があれば何なりとお力になりますので、今後ともごひいきくださいませ、おん」

「オカーデンさまね、モーチアにはとてもお世話になりましてこちらが謝辞を述べるべきですわ。
 先日は大変助かりました、ありがとうございます。
 モーチアにもお会いしたいし、また立ち寄らせていただきますね」

 冒険者組合長は話し方に癖があるがいい人そうだ。きっとたたき上げで苦労してきたのだろう。などと勝手に想像を膨らませていた。この後も招待客が次々とあいさつに来てくれたが、正直全員は覚えていられない。名刺交換もないので名前すら忘れそうである。

 でも悪意や敵意を持って近づいてくる人は全くおらず、かといって友達になりたそうな雰囲気もない。感じるのは物珍しさや権威に対する畏怖の念、一部にはあわよくば利権に結びつかないかという打算が見え隠れしていた。まったく神人も楽ではないし利用されるなんて冗談ではない。

 それでも料理はおいしくて満足できたし、お酒も少しだけ飲んだこともあって、ご機嫌な様子で初めての晩餐会を過ごしたミーヤだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

処理中です...