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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編
20.憂鬱な過去:閑話
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ミーヤは今すぐにでもここから逃げ出したかった。なんと言えばいいのか、切ないやら悲しいやら、そして恥ずかしいやら…… 今まで何度か感じたことがあるこの気持ち、確か最初は中学生の頃だったな、と思い出していた。
◇◇◇
「昨日のラストは凄かったよ!
闇のパワーで力を奪われちゃったんだけど、みんなの呼びかけで復活!
パワーアップして最後は協力してボスを倒したんだからねえ。
美香ちゃんも見れば良かったのに!」
「あのさ、七海……
うちらもう中学生なんだから、魔法少女アニメで興奮するのやめなよ。
前から言おうと思ってたけどさ、あーいうのって小学校低学年まででみんな卒業するよ?」
「え、そんな……
美香ちゃんだって去年まで見てたじゃない。
一緒に変身ごっことかやってたのにそんなこと言うの?」
「ちょ、あれは七海に合わせてただけよ。
私の他に友達いなそうだって思って……」
そんな出来事の後、私は明るい性格を失い、自分の殻に閉じこもるようになってしまった。
◇◇◇
それから月日は流れ数年後、高校生になってからの出来事だ。クラスの女子たちがアイドルか何かの話で盛り上がっている声が聞こえた。どうやら誰が好みなのかを話しているらしい。
そこで話を振られた一人が、アニメのキャラクターの名前を上げたことで教室に微妙な空気が流れる。それなのに、当の本人は気付かないのか気にしないのか、夢中になってトーンを上げていった。
しかも途中からは男性キャラクター同士を指してくっついてほしいとか、彼は彼のことが好きだと言う描写があるだとか一人盛り上がりつづけていた。やがて周囲の女子は去っていき、彼女は一人取り残された。
これであの子も私のように閉じこもった人生を歩むことになるのだろう。そう考えていたのだが、翌日には話をしていたコミックを持ってきて、他の女子へ勧めているではないか。確かに悪いことをしているわけではないのだから堂々とするのは正しいと言える。
ただそれができるかどうかは全く別問題である。私は自分が出来ず、好きな物を捨ててしまった事を悔いながら、それを平然とやってのける彼女の姿に感動し、影ながら応援していた。
しかし同じクラスに理解者は現れず、その子も自席で寂しそうにコミックを読むくらいだった。だがある日、他のクラスからやってきた女子が同じマンガが好きだといいだし、たびたび私たちの教室へ訪れるようになった。それがいつの間にか五人くらいに増えていき、他の女子からは疎まれていった。
「うっるせえんだよ! このオタクども!
キモイからどっか他でやってろ!」
ある時、感情を爆発させた女子がマンガ好き集団を怒鳴りつけた。そこで私は初めて『オタク』なる言葉を知ったのだった。
彼女たちは自分たちが好きな物を好きだと言い、誰かに憚ることなく楽しそうに話をしていた。私も声をかけられたことがあったが、それはもう頭が追い付かないくらいに大量の語句を、高速で投げつけられたものだ。そのマンガに興味の無い私は、彼女たちから押し付けられるコミックを押し返すだけで精いっぱいだった。
それが突然怒鳴りつけられたのだから、教室内の緊張感はすさまじいものがあった。すごい剣幕で怒鳴りつけた後も罵詈雑言は続き、ひどい言葉をかけられ続けたマンガ好き女子の一人は泣き出して教室を飛び出していった。その出来事をただ眺めるしかなかった私は、どちらの感情もわかる気がしたし、またわからない気もしていた。
好きなことを堂々と話すことは悪い事じゃない。でもうるさくするのは良くない。かと言って、他人の好きを否定したり罵倒するのも良くない。でも、目立たずこっそりと楽しんでいれば表だって否定されることもなかったはず。
結局私は、多数の人に理解されにくい趣味趣向は恥ずかしいことなのだと結論付けることになってしまった。そして私の記憶にオタクという言葉が刻まれることにもなった。
◇◇◇
その後大学では他人とほとんど触れ合わずに過ごし、やがて卒業、就職して社会人となった。
ある日営業で訪れたアニメグッズショップで、担当の方とお話していた時のことだ。その方は、突然目の前に置かれていた他社製のグッズを手に取った。それと似たようなものの作成相談かと思って話を聞き始めたが、どうやらそれは違った。
その担当者さんは、いかに自分がそのキャラクターが好きなのか、アニメの展開はどうだとか、原作との違いだとか、とにかくあれやこれやと熱弁を始めたのだ。まだ社会に出て間もなく、ようやく既存の客先へ一人で行くようになったばかりの私には、そこから逃げるすべはなく、一時間ほど捕まったのちにようやく解放された。
思い返せば、そのキャラクターがスーツにメガネだったので自分に似ているなんて感じて、つい「かわいいですね」なんて言ってしまったからなのだろう。
そして私は久しぶりに『オタク』という言葉を思い出していた。
◇◇◇
そして今ここは異世界の街ジスコである。
「――ええそうですともそれがこの機工のキモでしてスマメの個人番号を読み取ったものが画像として処理され魔導領域へ保存されるという仕組みなのです従来は木板を掘って記録し個人それぞれ一人ずつをすべて保管する必要があったはずなのですがこの魔導機工による個人番号管理機構(マイナンバーシステム)ができたおかげで大幅な効率化高速化精度アップが可能となりましたこれはひとえに魔鉱を燃料だけではなく代用マナとして使用可能にすると言う画期的な技術のおかげでして錬金術と魔導機工の応用で技術の粋を結集したものといっても過言ではありませんその魔導領域からの呼び出しも魔導機工による魔導伝達を用いておりまして数字でも文字でも画像でもすべてを二値化し単純な情報の羅列を記録すると言うわけですそのため信頼性が高く読み出しも高速化が可能となって街への入場が迅速で滞りなく進むのでありますだがこれにも欠点がございましてまず製作何度が非常に高い一般的な魔導機工の使い手では到底作ることはできませんそのため最終的に情報を記録するための魔導領域と街の入り口で使う読み取り装置は非常に簡略化され低い熟練度でも作成できるようになっています最重要部品である演算装置は高難度のままなので各街に一つしかないと聞いています今までに故障したり誤作動したりといった話は聞いたことがございませんのでその信頼性についても大したものだと言うしかありません私はまだまだ修行中の魔導機工師ですがいつの日か演算装置作成その深淵の入り口位へは到達したいと考えており……」
ミーヤは今非常に後悔していた。まさかスマメに記載されているID番号を機械で登録し、読み取ることで個人を識別するなんてハイテク装置があるとは考えたこともなかったのだ。身分登録なんてどうせ個人病院のカルテのように、棚に膨大な書類が収納され、それを一つ一つ照会しているのだろう、そんな風に考えていた。
しかし魔導機工スキルによって作られたらしい、個人を識別するための、いわばコンピューターのようなものがあるとは…… 私は驚きのあまり「すごい仕組みですね!」なんてやや興奮した口調で褒めお言葉を吐いてしまったのだ。
すると登録係は突然興奮し、頭が痛くなるような難解な語句を聞き取れないほどの速度で、ミーヤの頭へ押し込んできたのだ。結局わかったのは、この人が魔導機工が大好きだということくらいか……
身分登録自体はおそらく終わっているのだろうが、もはやミーヤには登録係に尋ねる元気もない。ただひたすら話が終わることを願いつつ、余計なことを言うものではないと改めて心へ刻んだのであった。
◇◇◇
「昨日のラストは凄かったよ!
闇のパワーで力を奪われちゃったんだけど、みんなの呼びかけで復活!
パワーアップして最後は協力してボスを倒したんだからねえ。
美香ちゃんも見れば良かったのに!」
「あのさ、七海……
うちらもう中学生なんだから、魔法少女アニメで興奮するのやめなよ。
前から言おうと思ってたけどさ、あーいうのって小学校低学年まででみんな卒業するよ?」
「え、そんな……
美香ちゃんだって去年まで見てたじゃない。
一緒に変身ごっことかやってたのにそんなこと言うの?」
「ちょ、あれは七海に合わせてただけよ。
私の他に友達いなそうだって思って……」
そんな出来事の後、私は明るい性格を失い、自分の殻に閉じこもるようになってしまった。
◇◇◇
それから月日は流れ数年後、高校生になってからの出来事だ。クラスの女子たちがアイドルか何かの話で盛り上がっている声が聞こえた。どうやら誰が好みなのかを話しているらしい。
そこで話を振られた一人が、アニメのキャラクターの名前を上げたことで教室に微妙な空気が流れる。それなのに、当の本人は気付かないのか気にしないのか、夢中になってトーンを上げていった。
しかも途中からは男性キャラクター同士を指してくっついてほしいとか、彼は彼のことが好きだと言う描写があるだとか一人盛り上がりつづけていた。やがて周囲の女子は去っていき、彼女は一人取り残された。
これであの子も私のように閉じこもった人生を歩むことになるのだろう。そう考えていたのだが、翌日には話をしていたコミックを持ってきて、他の女子へ勧めているではないか。確かに悪いことをしているわけではないのだから堂々とするのは正しいと言える。
ただそれができるかどうかは全く別問題である。私は自分が出来ず、好きな物を捨ててしまった事を悔いながら、それを平然とやってのける彼女の姿に感動し、影ながら応援していた。
しかし同じクラスに理解者は現れず、その子も自席で寂しそうにコミックを読むくらいだった。だがある日、他のクラスからやってきた女子が同じマンガが好きだといいだし、たびたび私たちの教室へ訪れるようになった。それがいつの間にか五人くらいに増えていき、他の女子からは疎まれていった。
「うっるせえんだよ! このオタクども!
キモイからどっか他でやってろ!」
ある時、感情を爆発させた女子がマンガ好き集団を怒鳴りつけた。そこで私は初めて『オタク』なる言葉を知ったのだった。
彼女たちは自分たちが好きな物を好きだと言い、誰かに憚ることなく楽しそうに話をしていた。私も声をかけられたことがあったが、それはもう頭が追い付かないくらいに大量の語句を、高速で投げつけられたものだ。そのマンガに興味の無い私は、彼女たちから押し付けられるコミックを押し返すだけで精いっぱいだった。
それが突然怒鳴りつけられたのだから、教室内の緊張感はすさまじいものがあった。すごい剣幕で怒鳴りつけた後も罵詈雑言は続き、ひどい言葉をかけられ続けたマンガ好き女子の一人は泣き出して教室を飛び出していった。その出来事をただ眺めるしかなかった私は、どちらの感情もわかる気がしたし、またわからない気もしていた。
好きなことを堂々と話すことは悪い事じゃない。でもうるさくするのは良くない。かと言って、他人の好きを否定したり罵倒するのも良くない。でも、目立たずこっそりと楽しんでいれば表だって否定されることもなかったはず。
結局私は、多数の人に理解されにくい趣味趣向は恥ずかしいことなのだと結論付けることになってしまった。そして私の記憶にオタクという言葉が刻まれることにもなった。
◇◇◇
その後大学では他人とほとんど触れ合わずに過ごし、やがて卒業、就職して社会人となった。
ある日営業で訪れたアニメグッズショップで、担当の方とお話していた時のことだ。その方は、突然目の前に置かれていた他社製のグッズを手に取った。それと似たようなものの作成相談かと思って話を聞き始めたが、どうやらそれは違った。
その担当者さんは、いかに自分がそのキャラクターが好きなのか、アニメの展開はどうだとか、原作との違いだとか、とにかくあれやこれやと熱弁を始めたのだ。まだ社会に出て間もなく、ようやく既存の客先へ一人で行くようになったばかりの私には、そこから逃げるすべはなく、一時間ほど捕まったのちにようやく解放された。
思い返せば、そのキャラクターがスーツにメガネだったので自分に似ているなんて感じて、つい「かわいいですね」なんて言ってしまったからなのだろう。
そして私は久しぶりに『オタク』という言葉を思い出していた。
◇◇◇
そして今ここは異世界の街ジスコである。
「――ええそうですともそれがこの機工のキモでしてスマメの個人番号を読み取ったものが画像として処理され魔導領域へ保存されるという仕組みなのです従来は木板を掘って記録し個人それぞれ一人ずつをすべて保管する必要があったはずなのですがこの魔導機工による個人番号管理機構(マイナンバーシステム)ができたおかげで大幅な効率化高速化精度アップが可能となりましたこれはひとえに魔鉱を燃料だけではなく代用マナとして使用可能にすると言う画期的な技術のおかげでして錬金術と魔導機工の応用で技術の粋を結集したものといっても過言ではありませんその魔導領域からの呼び出しも魔導機工による魔導伝達を用いておりまして数字でも文字でも画像でもすべてを二値化し単純な情報の羅列を記録すると言うわけですそのため信頼性が高く読み出しも高速化が可能となって街への入場が迅速で滞りなく進むのでありますだがこれにも欠点がございましてまず製作何度が非常に高い一般的な魔導機工の使い手では到底作ることはできませんそのため最終的に情報を記録するための魔導領域と街の入り口で使う読み取り装置は非常に簡略化され低い熟練度でも作成できるようになっています最重要部品である演算装置は高難度のままなので各街に一つしかないと聞いています今までに故障したり誤作動したりといった話は聞いたことがございませんのでその信頼性についても大したものだと言うしかありません私はまだまだ修行中の魔導機工師ですがいつの日か演算装置作成その深淵の入り口位へは到達したいと考えており……」
ミーヤは今非常に後悔していた。まさかスマメに記載されているID番号を機械で登録し、読み取ることで個人を識別するなんてハイテク装置があるとは考えたこともなかったのだ。身分登録なんてどうせ個人病院のカルテのように、棚に膨大な書類が収納され、それを一つ一つ照会しているのだろう、そんな風に考えていた。
しかし魔導機工スキルによって作られたらしい、個人を識別するための、いわばコンピューターのようなものがあるとは…… 私は驚きのあまり「すごい仕組みですね!」なんてやや興奮した口調で褒めお言葉を吐いてしまったのだ。
すると登録係は突然興奮し、頭が痛くなるような難解な語句を聞き取れないほどの速度で、ミーヤの頭へ押し込んできたのだ。結局わかったのは、この人が魔導機工が大好きだということくらいか……
身分登録自体はおそらく終わっているのだろうが、もはやミーヤには登録係に尋ねる元気もない。ただひたすら話が終わることを願いつつ、余計なことを言うものではないと改めて心へ刻んだのであった。
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