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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編
15.助けを求める不審者
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ミーヤとレナージュが光の精霊晶を投げていると、突然それとは別の光が現れた。ゆらゆらと揺れているその光はランタンだろうか。
「ミーヤ! 商人長と野郎どもを起こしてきて!」
緊迫した様子でレナージュが指示をする。ミーヤは頷いて商人長の元へ向かった。
「どうしました!? なにかトラブルですか?
む、あれは…… 灯りが激しく上下しているところを見ると馬に乗っているようですね」
「そうみたい、まだ結構遠いけどどうします?
馬車から離れたところで止まらせましょうか?」
「うむ、できるならそうしてみてください。
こちらは全員が戦えるわけではありませんからな」
商人長の指示に頷いたレナージュが、自分の馬を出してきて光の元へ走っていった。護衛の冒険者たちはその方向へ少し進んで弓を手にいざと言う場合に備えている。ミーヤはどうすればいいのか、もし誰かと戦闘になったら何をすべきだろうか。獣以外と戦ったことの無い身からすれば未知の脅威である。
しばらくすると、レナージュと馬に乗った見知らぬエルフ男が並んで近づいてきた。
「商人長、武器を持っていないことは確認しました。
少しでも怪しい素振りを見せたら遠慮なく矢を撃ちこむとも言ってあります。
それで、商人長へ話があるって言ってます」
「ほう、なんでしょうか?
こんな夜中に商売の話がしたいわけはないでしょう。
どのような用件か、まずは聞くことにしましょうか」
そのエルフが丁寧な口調で話しだした。
「ありがとうございます。
実は薬草取りに来ていたのですが、帰りが遅くなり暗闇で街道から外れてしまいました。
そこで運悪く馬車が溝にハマってしまったのです。
できれば引き上げる手助けをお願いできないでしょうか」
「うーん、お困りなのはわかりましたが、この暗い中をぞろぞろと移動するのはリスクが高い。
今夜はこちらで野営をして、朝になったら引き上げに向かうのはいかがかな?」
「しかし、積み荷が大分ありまして……」
「積み荷と言うのは薬草ですか?
それなら朝になったら買い取ろうではありませんか。
荷が無くなれば馬車も軽くなり引き上げるのも楽になるでしょう」
「そうですか……
今すぐが難しいとなると私の一存では決められません。
馬車へ戻って相談しますのでいったん失礼いたします」
そういうと、男は草原へ向かって走り去っていった。
「臭せえな」
レナージュの連れがボソッとつぶやいた。
「まあそうよね、ちょっとまともな話じゃないわ。
商人長がせっかくここでの野営を申し出てくれたんだから、安全を取るなら受けるはずよ」
「まあこのまま戻ってこなけりゃいいがな。
一応俺たちもこのまま起きているとしよう」
このハゲ頭のいかつい男がリーダーなのだろうか。見るからに強そうだが、映画とかだとイケメン主人公にまっさきにやられる雑魚って感じにも見える。それでもレナージュが素直に聞いているのだからその判断は正しいのだろう。
だがミーヤの考えは少し違った。決してハゲ男を疑っているとか信頼できないと言うわけではない。もしも本当に困っていたら手を差し伸べたいとの想いがぬぐえないのだ。
「ねえレナージュ?
さっきの男の人をつけて行っちゃダメかな?
本当に困っていたらかわいそうだからさ」
「危険な可能性もあるからやめておきなさい。
あなたに何かあったらカナイ村の人たちに申し訳が立たないもの」
「だからこっそりつけて行って覗くだけよ。
こうやってね」
ミーヤはポケットから術書を取り出してページを開き、呪文を唱えた。もちろん棒読みである。
『妖(あやかし)の力よ、野生の力を眠りから解き放て、我が手は大地を掴み、風を切り裂き駆ける』
すると一瞬でミーヤの体は小さくなり一匹の白い狐へ変化した。レナージュも他の冒険者や商人長も驚いている。
「これはキツネなの? こんなに大きな耳! 初めて見る種類ね。
それにすごく小さくてかわいいじゃない」
どうやらこの世界に普通のキツネはいるようだが、フェネックはいないらしい。話を聞くと、そもそもキツネの獣人自体見たことないと言っていた。虎や豹の猫科か、狼などの犬科に熊やウサギなどは普通に見かけるが、その他の獣人は相当珍しいらしくめったに見ないとのことだ。
「とりあえずこれなら見つからないでしょ?
ちょっと行ってくる!」
ミーヤは残った匂いを嗅ぎ取りながら馬が走り去った方向へ走り出した。先ほどのエルフはすぐに見つかった。やましいところがあるわけではないのか、ランタンの灯りをつけたままだったからだ。そのまま後をつけると傾いた馬車が有り、エルフの男はそこで馬を止めた。やはり困っているというのは本当だったのか、とミーヤが判断しようとしたその瞬間、なにやら声が聞こえてランタンの灯りはすぐに消えた。
その灯りが最後に照らした中に、うなだれて座っている人たちがいたことをミーヤは見逃さなかった。灯りは消えてしまい月も出ていない晩なので周囲はかなり暗く、それ以上の様子はわからない。
そう思った瞬間、突然視界が明るくなり薄暗い夕方くらいの視界が広がった。これは夜目に切り替わったのだろうか? 動物番組の夜間記録映像によくある、紫っぽいモノクロ映像が自分の視界として認識できている。その効果は絶大で、表情まではわからなくても何が起こっているのかくらいは十分判断できるようになっていた。
もう一度しっかりと様子を確認すると、傾いた荷馬は溝に落ちているのではなく、車輪が片方壊れているようだ。そのかたわらには数名がたむろしており、そのうち四人が縛られて座らされている。縛られているうちの三人は女性のようである。
これはただ事ではない。殺人は即極刑となる重い罪なのでそうそう起きないらしいが、強盗や誘拐は護衛と言う仕事が成り立つくらいにはごく当たり前に存在すると推察できる。それに科学捜査の無いのこ世界では現行犯以外を捕まえることが難しいだろうから逃げてしまえばそれで終わりだろう。
ミーヤはスマメを取り出してレナージュへ状況を連絡、しようとしたが、動物の手では上手く操作ができない。仕方なく獣化を解除してからメッセージを送った。おそらく盗賊であろう者たちの人数と捕まっている人数ももちろん伝達済みだ。商人長たちが相談した結果、賊を倒し捕らえられている人たちを助けると言うことで意見がまとまったようでホッとする。ミーヤは戻らずに見張りを続けることにした。
加勢を待っているうちにようやく気がついたのだが、人間や動物へ変身を繰り返しても着ている革鎧に何の影響も出ていない。原理はわからないが、伸縮したり形状そのものが最適なものへ変化しているようである。これもおそらくは神々の力なのだろうが、細かなサイズを気にしなくていいのは非常に便利だ。
それにしても色々とちぐはぐで違和感を覚える。科学の発展は人の生活を豊かにしてきたが、この世界を産み出した神々はあまりそう考えていない節がある。不思議で便利な仕組みはたくさん作る割りに科学的なものはあまりない。スマメや不思議なポケットなどは現代科学では到底実現不可能だし、重い病気は神柱に触れるだけで治り、怪我はよほどでなければ自然に治っていくため医学も発展していない。
だけど、電気はないし紙の存在すら怪しくガラス製品もない。調味料や薄手の生地も貴重品だなんてどう考えてもアンバランスだ。科学で生み出された工業製品に埋もれて便利な生活をするのが豊かなのか、生きるために便利なものがあるけど物はない不自由さを受け入れるのが豊かなのか、正解は無いのかもしれないが考えれば考えるほど不思議な世界だと感じる。
そんなどうでもいいことを考えているうちにレナージュ達が合流した。
「状況はどうなの?
さっき野営地に来たのはエルフだったけどほかもそうかしら?」
「ちょっと遠くてわからないけど、人数はこちらの方が多いわね」
キャラバンには護衛の冒険者以外にも魔術や神術が使える人がいたらしく、その人たちも入れるとこちらは全員で九人、盗賊は半分以下の四人だ。ちなみにフルルは馬車の中でずっと寝ていたが、今も起きる気配はないらしく、商人長たちと共に留守番だ。
冒険者のリーダーっぽいハゲ男が作戦を伝えてきた。ようは奇襲をかけて一気に殲滅するというだけだが、囚われている人へ矢が当たらないよう注意するようにと口を酸っぱくして言っていた。もうひとつ注意しないといけないのは、絶対に殺さないこと。相手が盗賊であろうと、殺してしまったら殺人者となってしまい街へは近寄れなくなる。うっかり身元が割れれば各街へ手配されるらしい。
例外として相手が殺人者であるなら殺しても罪には問われないが、目の前でスマメを確認しない限り相手の素性はわからない。殺人をした者はスマメが三百六十五日間、つまり一年の間は赤く光るようになるが、人の目があるところでスマメを取り出す殺人者はいない。すなわち事前確認が困難な奇襲や突発的な戦闘では殺さず捕らえるべきだと言うことになる。
「それじゃ行くわよ?」
レナージュが窪地へ身をかがめてから光の精霊晶を呼びだす。それを矢じりへ乗せてから馬車へ向かって撃ちだした。その光の筋はきれいな弧を描いて荷台に突き刺さり辺りを照らす。
その瞬間、慌てて立ち上がった盗賊たちへ何本かの矢が射られ、一人の足に刺さるところが見えた。ミーヤはそれを見逃さず真っ直ぐに突進してのしかかる。すかさず顔面へ数発喰らわせるとぐったりとなり無事に気絶してくれたようだ。
残りは三人、向こうも矢を射ったり火を放ったりしてくるのでジグザグに移動しながら距離を詰める。まずは一番近くにいた男の足を払ってよろけたところを思い切り蹴っ飛ばした。すると倒れたところへ仲間の冒険者が走り寄ってきて槍の柄でお腹を突く。すると倒れた男は悶絶して転がっているが意識はあるようだ。
残りは二人、剣を持った男がミーヤへ向かってくる。動きが早くて斬撃を避けるので精いっぱいだ。その時、ミーヤの背中に何かが命中した。まさか敵の中に魔術使いがいた!? と焦ったその直後、身体がフッと軽くなるのを感じた。
「お嬢ちゃん! 今のは敏捷化の神術だから安心してくれ!
あと少し、頑張ってくれよ!」
背後から応援の声が聞こえたのは心強く、さらには身体がいつもより早く動くようになっている。再び男が間を詰めてきたその時、ミーヤは地の精霊晶を呼び出して手の中に砂を握りこんでおき、わざと追いつかせて剣を振り下ろす相手へ向かって手の中の砂を投げつけた。
するとうまく目に入ったのだろう。視界を失った男は盲滅法に剣を振り回しはじめた。そこへ槍の冒険者が近づいていき、間合いの外から頭へ強烈な一撃を振り下ろす。すると盗賊は一発で気絶してその場へと崩れ落ちた。
最後の一人は馬に乗って逃げようとしていたが、足元へ撃ち込まれた炎の矢に怯えた馬は走ることができず、数本の矢を撃ちこまれて観念したようだ。
こうして、ミーヤ初めての対人戦闘は大勝利で幕を下ろした。
「ミーヤ! 商人長と野郎どもを起こしてきて!」
緊迫した様子でレナージュが指示をする。ミーヤは頷いて商人長の元へ向かった。
「どうしました!? なにかトラブルですか?
む、あれは…… 灯りが激しく上下しているところを見ると馬に乗っているようですね」
「そうみたい、まだ結構遠いけどどうします?
馬車から離れたところで止まらせましょうか?」
「うむ、できるならそうしてみてください。
こちらは全員が戦えるわけではありませんからな」
商人長の指示に頷いたレナージュが、自分の馬を出してきて光の元へ走っていった。護衛の冒険者たちはその方向へ少し進んで弓を手にいざと言う場合に備えている。ミーヤはどうすればいいのか、もし誰かと戦闘になったら何をすべきだろうか。獣以外と戦ったことの無い身からすれば未知の脅威である。
しばらくすると、レナージュと馬に乗った見知らぬエルフ男が並んで近づいてきた。
「商人長、武器を持っていないことは確認しました。
少しでも怪しい素振りを見せたら遠慮なく矢を撃ちこむとも言ってあります。
それで、商人長へ話があるって言ってます」
「ほう、なんでしょうか?
こんな夜中に商売の話がしたいわけはないでしょう。
どのような用件か、まずは聞くことにしましょうか」
そのエルフが丁寧な口調で話しだした。
「ありがとうございます。
実は薬草取りに来ていたのですが、帰りが遅くなり暗闇で街道から外れてしまいました。
そこで運悪く馬車が溝にハマってしまったのです。
できれば引き上げる手助けをお願いできないでしょうか」
「うーん、お困りなのはわかりましたが、この暗い中をぞろぞろと移動するのはリスクが高い。
今夜はこちらで野営をして、朝になったら引き上げに向かうのはいかがかな?」
「しかし、積み荷が大分ありまして……」
「積み荷と言うのは薬草ですか?
それなら朝になったら買い取ろうではありませんか。
荷が無くなれば馬車も軽くなり引き上げるのも楽になるでしょう」
「そうですか……
今すぐが難しいとなると私の一存では決められません。
馬車へ戻って相談しますのでいったん失礼いたします」
そういうと、男は草原へ向かって走り去っていった。
「臭せえな」
レナージュの連れがボソッとつぶやいた。
「まあそうよね、ちょっとまともな話じゃないわ。
商人長がせっかくここでの野営を申し出てくれたんだから、安全を取るなら受けるはずよ」
「まあこのまま戻ってこなけりゃいいがな。
一応俺たちもこのまま起きているとしよう」
このハゲ頭のいかつい男がリーダーなのだろうか。見るからに強そうだが、映画とかだとイケメン主人公にまっさきにやられる雑魚って感じにも見える。それでもレナージュが素直に聞いているのだからその判断は正しいのだろう。
だがミーヤの考えは少し違った。決してハゲ男を疑っているとか信頼できないと言うわけではない。もしも本当に困っていたら手を差し伸べたいとの想いがぬぐえないのだ。
「ねえレナージュ?
さっきの男の人をつけて行っちゃダメかな?
本当に困っていたらかわいそうだからさ」
「危険な可能性もあるからやめておきなさい。
あなたに何かあったらカナイ村の人たちに申し訳が立たないもの」
「だからこっそりつけて行って覗くだけよ。
こうやってね」
ミーヤはポケットから術書を取り出してページを開き、呪文を唱えた。もちろん棒読みである。
『妖(あやかし)の力よ、野生の力を眠りから解き放て、我が手は大地を掴み、風を切り裂き駆ける』
すると一瞬でミーヤの体は小さくなり一匹の白い狐へ変化した。レナージュも他の冒険者や商人長も驚いている。
「これはキツネなの? こんなに大きな耳! 初めて見る種類ね。
それにすごく小さくてかわいいじゃない」
どうやらこの世界に普通のキツネはいるようだが、フェネックはいないらしい。話を聞くと、そもそもキツネの獣人自体見たことないと言っていた。虎や豹の猫科か、狼などの犬科に熊やウサギなどは普通に見かけるが、その他の獣人は相当珍しいらしくめったに見ないとのことだ。
「とりあえずこれなら見つからないでしょ?
ちょっと行ってくる!」
ミーヤは残った匂いを嗅ぎ取りながら馬が走り去った方向へ走り出した。先ほどのエルフはすぐに見つかった。やましいところがあるわけではないのか、ランタンの灯りをつけたままだったからだ。そのまま後をつけると傾いた馬車が有り、エルフの男はそこで馬を止めた。やはり困っているというのは本当だったのか、とミーヤが判断しようとしたその瞬間、なにやら声が聞こえてランタンの灯りはすぐに消えた。
その灯りが最後に照らした中に、うなだれて座っている人たちがいたことをミーヤは見逃さなかった。灯りは消えてしまい月も出ていない晩なので周囲はかなり暗く、それ以上の様子はわからない。
そう思った瞬間、突然視界が明るくなり薄暗い夕方くらいの視界が広がった。これは夜目に切り替わったのだろうか? 動物番組の夜間記録映像によくある、紫っぽいモノクロ映像が自分の視界として認識できている。その効果は絶大で、表情まではわからなくても何が起こっているのかくらいは十分判断できるようになっていた。
もう一度しっかりと様子を確認すると、傾いた荷馬は溝に落ちているのではなく、車輪が片方壊れているようだ。そのかたわらには数名がたむろしており、そのうち四人が縛られて座らされている。縛られているうちの三人は女性のようである。
これはただ事ではない。殺人は即極刑となる重い罪なのでそうそう起きないらしいが、強盗や誘拐は護衛と言う仕事が成り立つくらいにはごく当たり前に存在すると推察できる。それに科学捜査の無いのこ世界では現行犯以外を捕まえることが難しいだろうから逃げてしまえばそれで終わりだろう。
ミーヤはスマメを取り出してレナージュへ状況を連絡、しようとしたが、動物の手では上手く操作ができない。仕方なく獣化を解除してからメッセージを送った。おそらく盗賊であろう者たちの人数と捕まっている人数ももちろん伝達済みだ。商人長たちが相談した結果、賊を倒し捕らえられている人たちを助けると言うことで意見がまとまったようでホッとする。ミーヤは戻らずに見張りを続けることにした。
加勢を待っているうちにようやく気がついたのだが、人間や動物へ変身を繰り返しても着ている革鎧に何の影響も出ていない。原理はわからないが、伸縮したり形状そのものが最適なものへ変化しているようである。これもおそらくは神々の力なのだろうが、細かなサイズを気にしなくていいのは非常に便利だ。
それにしても色々とちぐはぐで違和感を覚える。科学の発展は人の生活を豊かにしてきたが、この世界を産み出した神々はあまりそう考えていない節がある。不思議で便利な仕組みはたくさん作る割りに科学的なものはあまりない。スマメや不思議なポケットなどは現代科学では到底実現不可能だし、重い病気は神柱に触れるだけで治り、怪我はよほどでなければ自然に治っていくため医学も発展していない。
だけど、電気はないし紙の存在すら怪しくガラス製品もない。調味料や薄手の生地も貴重品だなんてどう考えてもアンバランスだ。科学で生み出された工業製品に埋もれて便利な生活をするのが豊かなのか、生きるために便利なものがあるけど物はない不自由さを受け入れるのが豊かなのか、正解は無いのかもしれないが考えれば考えるほど不思議な世界だと感じる。
そんなどうでもいいことを考えているうちにレナージュ達が合流した。
「状況はどうなの?
さっき野営地に来たのはエルフだったけどほかもそうかしら?」
「ちょっと遠くてわからないけど、人数はこちらの方が多いわね」
キャラバンには護衛の冒険者以外にも魔術や神術が使える人がいたらしく、その人たちも入れるとこちらは全員で九人、盗賊は半分以下の四人だ。ちなみにフルルは馬車の中でずっと寝ていたが、今も起きる気配はないらしく、商人長たちと共に留守番だ。
冒険者のリーダーっぽいハゲ男が作戦を伝えてきた。ようは奇襲をかけて一気に殲滅するというだけだが、囚われている人へ矢が当たらないよう注意するようにと口を酸っぱくして言っていた。もうひとつ注意しないといけないのは、絶対に殺さないこと。相手が盗賊であろうと、殺してしまったら殺人者となってしまい街へは近寄れなくなる。うっかり身元が割れれば各街へ手配されるらしい。
例外として相手が殺人者であるなら殺しても罪には問われないが、目の前でスマメを確認しない限り相手の素性はわからない。殺人をした者はスマメが三百六十五日間、つまり一年の間は赤く光るようになるが、人の目があるところでスマメを取り出す殺人者はいない。すなわち事前確認が困難な奇襲や突発的な戦闘では殺さず捕らえるべきだと言うことになる。
「それじゃ行くわよ?」
レナージュが窪地へ身をかがめてから光の精霊晶を呼びだす。それを矢じりへ乗せてから馬車へ向かって撃ちだした。その光の筋はきれいな弧を描いて荷台に突き刺さり辺りを照らす。
その瞬間、慌てて立ち上がった盗賊たちへ何本かの矢が射られ、一人の足に刺さるところが見えた。ミーヤはそれを見逃さず真っ直ぐに突進してのしかかる。すかさず顔面へ数発喰らわせるとぐったりとなり無事に気絶してくれたようだ。
残りは三人、向こうも矢を射ったり火を放ったりしてくるのでジグザグに移動しながら距離を詰める。まずは一番近くにいた男の足を払ってよろけたところを思い切り蹴っ飛ばした。すると倒れたところへ仲間の冒険者が走り寄ってきて槍の柄でお腹を突く。すると倒れた男は悶絶して転がっているが意識はあるようだ。
残りは二人、剣を持った男がミーヤへ向かってくる。動きが早くて斬撃を避けるので精いっぱいだ。その時、ミーヤの背中に何かが命中した。まさか敵の中に魔術使いがいた!? と焦ったその直後、身体がフッと軽くなるのを感じた。
「お嬢ちゃん! 今のは敏捷化の神術だから安心してくれ!
あと少し、頑張ってくれよ!」
背後から応援の声が聞こえたのは心強く、さらには身体がいつもより早く動くようになっている。再び男が間を詰めてきたその時、ミーヤは地の精霊晶を呼び出して手の中に砂を握りこんでおき、わざと追いつかせて剣を振り下ろす相手へ向かって手の中の砂を投げつけた。
するとうまく目に入ったのだろう。視界を失った男は盲滅法に剣を振り回しはじめた。そこへ槍の冒険者が近づいていき、間合いの外から頭へ強烈な一撃を振り下ろす。すると盗賊は一発で気絶してその場へと崩れ落ちた。
最後の一人は馬に乗って逃げようとしていたが、足元へ撃ち込まれた炎の矢に怯えた馬は走ることができず、数本の矢を撃ちこまれて観念したようだ。
こうして、ミーヤ初めての対人戦闘は大勝利で幕を下ろした。
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