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第一章 異世界転生と最初の村編
13.決断の時
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翌朝ミーヤはいつもより早く目を覚ました。かといって健康的に起きたわけではなく、割れるような頭痛に襲われて寝続けることができなかったのだ。
「これは完全に二日酔いだわ……
飲むたびにこれじゃ参ってしまうけど、15歳の体じゃ仕方ないかあ」
独り言を言っても何も変わらない。とにかく水でも飲みたいが、手の届く範囲には何もない。仕方なく手を口の前にかざしてから水の精霊晶を呼び出した。そのまま降り注ぐ水を顔全体で受け止めたら、多少は口に入ってきた。ついでに顔を洗って少しだけ起きる気力が出てきたので、起き上がってから目についたコップを手に取った。もう一度水を出して一気に飲むと、なんとなくすっきりしてきた気がする。
そこへマールが朝食を持ってきてくれた。
「ミーヤおはよう、具合はどう?
昨晩大分飲んだみたいだから今朝はつらいかなと思ってたのよ」
「おはよう、マール……
あなたの考えは正しいわ……
もう二度とお酒は飲まないんだから……」
「はいはい、じゃあこれを食前に飲んでみて。
酒追いの実を絞った酔い醒ましよ」
ミーヤはマールに差し出されたコップを手に取って、中の水を飲み干した。さっぱりと鼻へ抜ける清涼感のあと渋みが口に残る不思議な味だ。しかし心なしか頭痛が収まっている気がする。
「すごいわね、コレ。
前にもらった果実を絞った水とはまた違うみたいだけど、急に良くなってきたみたい」
「これは苦いけど、飲みすぎにすごく効くのよ。
酒追いの実って言ってるけど本当は木の根だけどね」
ウコンみたいなものだろうか。生姜っぽい風味にも感じる。産まれて間もないミーヤにとっては見市の食材ばかりだし、今までもなんだかわからないものを散々口にしてるので今更気にすることは無い。だいたいマールが出してくれたものなら毒でも口にしてしまうだろう。
「昨日は鎧を着たまま寝てしまったから、脱がせてかけておいたわよ。
軽く拭いておいたけど、まだ汚れが残っているから自分でも見ておいてね。
あと、もう少ししたらお父さんが畑に行ってしまうわ」
「ありがとうマール!
やっぱりあなたって最高よ!
村長さんにも会いに行かないとね」
「やっぱり行ってしまうの?
私寂しいな……」
「私だって寂しいよ、でもねマール……
もっともっと強くなりたいの、猪で満足してちゃダメなの。
なんでなのか上手く説明できないけど、私は村の力になりたいのよ」
やっぱりマールは行って欲しくなさそうだ。でもきっとわかってくれるだろう。朝食を置いて神殿を後にするマールの背中はなんだか寂しそうに見えた。
朝食は昨晩の猪汁の残りで作ったらしい麦粥だった。具が入っているので、どちらかというとおじやということになる。良く煮詰まって味の濃くなった汁、それに溶け込んだ肉と野菜が深みのある味を出している。二日酔いの朝にはきついメニューのはずだけど、最初に飲んだ酒追いの実を絞った酔い醒ましのおかげで胃のむかつきもない。なんて便利な世の中なんだろう、すばらしい! と叫びたくなる。
食べ終わってから食器を洗い村長の家へ向かう。といっても目の前なので徒歩数秒の距離だ。マールが掃除をしていたが、あえてミーヤを見ないようにしている様子だ。村長は神妙な面持ちでミーヤを見つめている。やはり村を出るのは反対なのだろうか。
「村長さん、相談があるの。
じつは、キャラバンが帰るときに同乗させてもらってジスコへ行こうと考えているのよ。
その後はローメンデル山へ連れて行ってもらえることになってる。
どうかな? 行ってもいい?」
「ふむ、それは神人様が決めることですから、私らにはどうこう言えません。
しかしそのことをわざわざ聞きにいらしたのですから村を去るわけではないのでしょう?」
「そんなの当たり前だよ!
私はこのカナイ村が大好きだし、マールだっているんだもの。
絶対帰ってくるに決まってるじゃない!」
「もう一つお聞かせください。
なぜ村を出て旅に出るのでしょうか。
確かにこの村には何もない、だからジスコという都市へ行ってみたいと言うのはわかります。
ですが…… ローメンデル山へ行くと言うのは冒険者になると言っているようなものです」
「村長さんは冒険者が嫌いなのかな?
でも私にそんなつもりはないよ。
実は、村の狩りだけでは強くなるのに限界があるって聞いてね。
キャラバンが来て冒険者の女性と出会ったのも何かの縁、いい機会だと思うのよ。
今の自分から一歩でもいいから踏み出して、自分の可能性を知りたいの」
「なるほど…… 強くなりたいということですね。
トクやミチャから聞いた話だと、すでに狩りに出ている者の中では上位の実力とのこと。
少なくとも猪を受け止める者など私も知りません。
ただ…… 外の世界は危険が少なくない、それだけが心配です」
そうか、村長は純粋にミーヤの身を案じてくれているのだ。七海は独身で子供はいなかった。それどころか恋人がいたことすらないから子を持つ親の気持ちは想像すらできない。でも親がかけてくれた愛情については理解しているつもりだ。さしずめミーヤは村長にとっては娘に近い存在なのだろう。だから危険へわざわざ飛び込んでいくことに賛成とは言い難く、歯切れの悪い言葉を並べているように感じる。
「村長さんの言い分はわかったわ。
最終的には私が決めることだから、どんな結果でも誰かのせいになんてしない。
でも私は絶対に元気で戻ってくるから!
それにそんな何年も旅に出るつもりはないわよ?
ジスコへ行ってローメンデル山へ行って、今よりも大分強くなったら帰ってくるからね。
だからマールも心配しないで」
そういうと、ほうきを持ったマールの手が止まり、ミーヤへ向きなおしてから頷いていた。同様に村長も黙って頷く。二人の態度を見たミーヤは、信じてもらえたことがとても嬉しく、その想いを裏切るような真似は絶対にできないと気を引き締めるのだった。
こうして気持ちは決まった。あとはレナージュへ相談するだけだ。そう思っていた矢先、村長はキャラバンへ行くと言い、ミーヤも同行するよう促した。どうやら馬を欲しがる村人はおらず、昨晩の猪から獲った毛皮と共に売却へ行くとのことだ。そしてその代金は、選別としてミーヤに持たせてくれると言ってくれた。本当に何から何かで世話になってしまって、ありがたいやら申し訳ないやら複雑な気分である。
神殿の横へ繋いでいた馬を連れてキャラバンまで行くと、レナージュが暇そうに弓の手入れをしているのが見えた。ミーヤが手を振ると振り返してきて、なんだかもうすっかり友達になった気がする。
「おはよう、ミーヤ、その馬はどうしたの?」
「昨日の狩りの途中で捕まえたのよ。
私にとって初めて調教した記念すべき一頭なんだから!」
少しだけ誇らしげに言うと、レナージュは自分へ譲ってほしいと言ってきた。しかも一割増しで買うと言いだしたのだからミーヤは驚いてしまう。
「そんな! 馬は3000ゴードルで買い取ってもらえるくらい高額なのよ!?
ハッキリ言って大金じゃない?」
「全然、それくらい問題ないわよ
3300で良いなら今すぐ買うわ!」
もしかして、冒険者と言うのは想像以上に儲かるのかもしれない。村から出て冒険者を目指し、そのまま戻ってこない人たちがいると言うのも頷ける。
「村長? いいのかしら?
私は構わないけど、そういうもの?」
「問題ありませんよ、キャラバンへ売ることが目的ではなく、対価を得ることが目的ですから。
商人長へは猪の毛皮だけ持って行きましょう」
こうして思いがけない買い手の登場により、ミーヤは初めての個人売買を経験した。なるほど、こういう商売も有りなのか。そんなことを考えるきっかけになった出来事である。
「買ってくれてありがとう、儲かっちゃったわ。
まさかレナージュが買ってくれるなんて思って無かったからビックリだけど」
「正規で買うよりもずっと安いから助かったわ。
馬があれば歩くよりずっと早いからね。
そういえばあの話はどうなった? 心は決まった?」
「ええ、いろいろ考えてみたけど、あなたの誘いにのることにするわ。
でも村をあまり長くは離れられないからそのつもりでお願い」
「わかってるって。
ミーヤならきっとのってくれると思ってたんだ。
一緒に旅ができるなんてすごくうれしいよ」
こんなに喜んでくれるほど女性冒険者は少ないのだろう。確か豊穣の女神は能力的に男女差は無いと言っていたけど、なんだかんだ言っても男性優位社会だったりするのかもしれない。まあその辺りも旅に出たらわかってくるかもしれないし、今考えても仕方ないことだ。ミーヤはいつもと同じように深く考えることはしなかった。
そしていよいよ出発の日がやってきた。キャラバンはすでに店を畳んで出発の準備を済ませていた。出発前らしく、商人長が村長へ挨拶をしたり次回の予定を伝えている。馬車の後ろにはレナージュ達、護衛の冒険者四人組に交じって、緊張の色が隠せない面持ちのミーヤが立っていた。
「ミーヤ、くれぐれも無茶しないようにね。
一緒に狩りへ行けなくなるのは寂しいよ……」
ミチャは顔中に涙を垂らして泣きじゃくっている。ミーヤは思わず抱きしめてしまったが、よく考えなくてもミチャは小さい子供ではなく、もういい歳のアラフォー女子である。
モックもトク爺もモラノも、他のみんなも見送りに来てくれている。握手しすぎて手が腫れそうなくらい大勢が旅の安全を祈ってくれた。
そしてその中にはもちろんマールもいる!
「絶対よ、絶対に無理はしないって約束して!
それから絶対無事に帰ってくるって!
約束よ、私の大好きなミーヤ……」
「私もマールのことが大好きだよ。
だから嘘はつかないし約束も守るよ。
お土産いっぱい持って、必ず帰ってくるからね!」
ミーヤとマールは固く抱擁しあいお互いの健康と無事を祈りあった。ただ、その祈る先が豊穣の女神であることだけは、ミーヤが素直に受け入れられない事実である。
そして、本当にいよいよ出立である。新しい出会いと知らない世界、聞いたことの無い知識や食べたことの無い料理、そんな希望がこの先待ち受けていると思うと、ミーヤはとても楽しみで顔がほころぶのだった。
ほどなくして、馬車隊はゴロゴロと音を立てながら進み始めた。
「これは完全に二日酔いだわ……
飲むたびにこれじゃ参ってしまうけど、15歳の体じゃ仕方ないかあ」
独り言を言っても何も変わらない。とにかく水でも飲みたいが、手の届く範囲には何もない。仕方なく手を口の前にかざしてから水の精霊晶を呼び出した。そのまま降り注ぐ水を顔全体で受け止めたら、多少は口に入ってきた。ついでに顔を洗って少しだけ起きる気力が出てきたので、起き上がってから目についたコップを手に取った。もう一度水を出して一気に飲むと、なんとなくすっきりしてきた気がする。
そこへマールが朝食を持ってきてくれた。
「ミーヤおはよう、具合はどう?
昨晩大分飲んだみたいだから今朝はつらいかなと思ってたのよ」
「おはよう、マール……
あなたの考えは正しいわ……
もう二度とお酒は飲まないんだから……」
「はいはい、じゃあこれを食前に飲んでみて。
酒追いの実を絞った酔い醒ましよ」
ミーヤはマールに差し出されたコップを手に取って、中の水を飲み干した。さっぱりと鼻へ抜ける清涼感のあと渋みが口に残る不思議な味だ。しかし心なしか頭痛が収まっている気がする。
「すごいわね、コレ。
前にもらった果実を絞った水とはまた違うみたいだけど、急に良くなってきたみたい」
「これは苦いけど、飲みすぎにすごく効くのよ。
酒追いの実って言ってるけど本当は木の根だけどね」
ウコンみたいなものだろうか。生姜っぽい風味にも感じる。産まれて間もないミーヤにとっては見市の食材ばかりだし、今までもなんだかわからないものを散々口にしてるので今更気にすることは無い。だいたいマールが出してくれたものなら毒でも口にしてしまうだろう。
「昨日は鎧を着たまま寝てしまったから、脱がせてかけておいたわよ。
軽く拭いておいたけど、まだ汚れが残っているから自分でも見ておいてね。
あと、もう少ししたらお父さんが畑に行ってしまうわ」
「ありがとうマール!
やっぱりあなたって最高よ!
村長さんにも会いに行かないとね」
「やっぱり行ってしまうの?
私寂しいな……」
「私だって寂しいよ、でもねマール……
もっともっと強くなりたいの、猪で満足してちゃダメなの。
なんでなのか上手く説明できないけど、私は村の力になりたいのよ」
やっぱりマールは行って欲しくなさそうだ。でもきっとわかってくれるだろう。朝食を置いて神殿を後にするマールの背中はなんだか寂しそうに見えた。
朝食は昨晩の猪汁の残りで作ったらしい麦粥だった。具が入っているので、どちらかというとおじやということになる。良く煮詰まって味の濃くなった汁、それに溶け込んだ肉と野菜が深みのある味を出している。二日酔いの朝にはきついメニューのはずだけど、最初に飲んだ酒追いの実を絞った酔い醒ましのおかげで胃のむかつきもない。なんて便利な世の中なんだろう、すばらしい! と叫びたくなる。
食べ終わってから食器を洗い村長の家へ向かう。といっても目の前なので徒歩数秒の距離だ。マールが掃除をしていたが、あえてミーヤを見ないようにしている様子だ。村長は神妙な面持ちでミーヤを見つめている。やはり村を出るのは反対なのだろうか。
「村長さん、相談があるの。
じつは、キャラバンが帰るときに同乗させてもらってジスコへ行こうと考えているのよ。
その後はローメンデル山へ連れて行ってもらえることになってる。
どうかな? 行ってもいい?」
「ふむ、それは神人様が決めることですから、私らにはどうこう言えません。
しかしそのことをわざわざ聞きにいらしたのですから村を去るわけではないのでしょう?」
「そんなの当たり前だよ!
私はこのカナイ村が大好きだし、マールだっているんだもの。
絶対帰ってくるに決まってるじゃない!」
「もう一つお聞かせください。
なぜ村を出て旅に出るのでしょうか。
確かにこの村には何もない、だからジスコという都市へ行ってみたいと言うのはわかります。
ですが…… ローメンデル山へ行くと言うのは冒険者になると言っているようなものです」
「村長さんは冒険者が嫌いなのかな?
でも私にそんなつもりはないよ。
実は、村の狩りだけでは強くなるのに限界があるって聞いてね。
キャラバンが来て冒険者の女性と出会ったのも何かの縁、いい機会だと思うのよ。
今の自分から一歩でもいいから踏み出して、自分の可能性を知りたいの」
「なるほど…… 強くなりたいということですね。
トクやミチャから聞いた話だと、すでに狩りに出ている者の中では上位の実力とのこと。
少なくとも猪を受け止める者など私も知りません。
ただ…… 外の世界は危険が少なくない、それだけが心配です」
そうか、村長は純粋にミーヤの身を案じてくれているのだ。七海は独身で子供はいなかった。それどころか恋人がいたことすらないから子を持つ親の気持ちは想像すらできない。でも親がかけてくれた愛情については理解しているつもりだ。さしずめミーヤは村長にとっては娘に近い存在なのだろう。だから危険へわざわざ飛び込んでいくことに賛成とは言い難く、歯切れの悪い言葉を並べているように感じる。
「村長さんの言い分はわかったわ。
最終的には私が決めることだから、どんな結果でも誰かのせいになんてしない。
でも私は絶対に元気で戻ってくるから!
それにそんな何年も旅に出るつもりはないわよ?
ジスコへ行ってローメンデル山へ行って、今よりも大分強くなったら帰ってくるからね。
だからマールも心配しないで」
そういうと、ほうきを持ったマールの手が止まり、ミーヤへ向きなおしてから頷いていた。同様に村長も黙って頷く。二人の態度を見たミーヤは、信じてもらえたことがとても嬉しく、その想いを裏切るような真似は絶対にできないと気を引き締めるのだった。
こうして気持ちは決まった。あとはレナージュへ相談するだけだ。そう思っていた矢先、村長はキャラバンへ行くと言い、ミーヤも同行するよう促した。どうやら馬を欲しがる村人はおらず、昨晩の猪から獲った毛皮と共に売却へ行くとのことだ。そしてその代金は、選別としてミーヤに持たせてくれると言ってくれた。本当に何から何かで世話になってしまって、ありがたいやら申し訳ないやら複雑な気分である。
神殿の横へ繋いでいた馬を連れてキャラバンまで行くと、レナージュが暇そうに弓の手入れをしているのが見えた。ミーヤが手を振ると振り返してきて、なんだかもうすっかり友達になった気がする。
「おはよう、ミーヤ、その馬はどうしたの?」
「昨日の狩りの途中で捕まえたのよ。
私にとって初めて調教した記念すべき一頭なんだから!」
少しだけ誇らしげに言うと、レナージュは自分へ譲ってほしいと言ってきた。しかも一割増しで買うと言いだしたのだからミーヤは驚いてしまう。
「そんな! 馬は3000ゴードルで買い取ってもらえるくらい高額なのよ!?
ハッキリ言って大金じゃない?」
「全然、それくらい問題ないわよ
3300で良いなら今すぐ買うわ!」
もしかして、冒険者と言うのは想像以上に儲かるのかもしれない。村から出て冒険者を目指し、そのまま戻ってこない人たちがいると言うのも頷ける。
「村長? いいのかしら?
私は構わないけど、そういうもの?」
「問題ありませんよ、キャラバンへ売ることが目的ではなく、対価を得ることが目的ですから。
商人長へは猪の毛皮だけ持って行きましょう」
こうして思いがけない買い手の登場により、ミーヤは初めての個人売買を経験した。なるほど、こういう商売も有りなのか。そんなことを考えるきっかけになった出来事である。
「買ってくれてありがとう、儲かっちゃったわ。
まさかレナージュが買ってくれるなんて思って無かったからビックリだけど」
「正規で買うよりもずっと安いから助かったわ。
馬があれば歩くよりずっと早いからね。
そういえばあの話はどうなった? 心は決まった?」
「ええ、いろいろ考えてみたけど、あなたの誘いにのることにするわ。
でも村をあまり長くは離れられないからそのつもりでお願い」
「わかってるって。
ミーヤならきっとのってくれると思ってたんだ。
一緒に旅ができるなんてすごくうれしいよ」
こんなに喜んでくれるほど女性冒険者は少ないのだろう。確か豊穣の女神は能力的に男女差は無いと言っていたけど、なんだかんだ言っても男性優位社会だったりするのかもしれない。まあその辺りも旅に出たらわかってくるかもしれないし、今考えても仕方ないことだ。ミーヤはいつもと同じように深く考えることはしなかった。
そしていよいよ出発の日がやってきた。キャラバンはすでに店を畳んで出発の準備を済ませていた。出発前らしく、商人長が村長へ挨拶をしたり次回の予定を伝えている。馬車の後ろにはレナージュ達、護衛の冒険者四人組に交じって、緊張の色が隠せない面持ちのミーヤが立っていた。
「ミーヤ、くれぐれも無茶しないようにね。
一緒に狩りへ行けなくなるのは寂しいよ……」
ミチャは顔中に涙を垂らして泣きじゃくっている。ミーヤは思わず抱きしめてしまったが、よく考えなくてもミチャは小さい子供ではなく、もういい歳のアラフォー女子である。
モックもトク爺もモラノも、他のみんなも見送りに来てくれている。握手しすぎて手が腫れそうなくらい大勢が旅の安全を祈ってくれた。
そしてその中にはもちろんマールもいる!
「絶対よ、絶対に無理はしないって約束して!
それから絶対無事に帰ってくるって!
約束よ、私の大好きなミーヤ……」
「私もマールのことが大好きだよ。
だから嘘はつかないし約束も守るよ。
お土産いっぱい持って、必ず帰ってくるからね!」
ミーヤとマールは固く抱擁しあいお互いの健康と無事を祈りあった。ただ、その祈る先が豊穣の女神であることだけは、ミーヤが素直に受け入れられない事実である。
そして、本当にいよいよ出立である。新しい出会いと知らない世界、聞いたことの無い知識や食べたことの無い料理、そんな希望がこの先待ち受けていると思うと、ミーヤはとても楽しみで顔がほころぶのだった。
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