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第一章 異世界転生と最初の村編
5.散歩
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神殿を後にして適当に歩いてみるが本当に人がいない。思い返すと、全ての人が全財産を安全に持ち歩けるようにしてから治安が良くなったと女神が言っていたっけ。だから財産を守るために村へ残る人は不要なのだろう。それでも数名は人は残っていて、お辞儀されたのでこちらからも返してみる。今いたおじさんもマールと同じように料理を任されている村人かもしれない。
しばらく歩くと家々が途切れて村の端についたようだ。柵があるわけではないが森と隣接しているのでその先に家を建てるのが難しく、村はここで終わっているということのようだ。村の端には申し訳程度に櫓(やぐら)が建っているので登ってみるが、ここから見えるのは見渡す限り森の木々だけだ。狩りはこの森へ入っていくのだろう。
次に反対へ向かって歩き始める。しかし建っている家が全部同じなので自分が今どこにいるのか感覚が狂ってしまいそうだ。まるで建売が並んでいる地区を見ている気分だけど、それでもこんなにたくさん十数件も同じ家が並ぶ場所はそうないだろう。
今の今まで気が付かなかったが、神殿の裏手は広場のようになっていて井戸があった。下町で見かけるようなポンプのついたものではなく、昔ながらの桶と滑車のついたタイプだ。これを毎日村の人数分の料理を作るために汲み上げているなら相当大変だろう。だからなのか昨晩は焼き料理が多かった気がする。
少し進むと柵で囲っている場所が見えてきた。どうやらここが羊を飼っている場所らしい。確か牧羊をするためのスキルを持った人たちが担当しているとマールが言っていたが、それがこの場所のことだろう、なんて答えあわせをしながら歩くのも悪くない。
全員で全員のために働き分配すると言うのは合理的ではあるが共産主義的でもある。現代地球生活を知っているミーヤにとって違和感がないわけじゃないが、こういった世界では、生きていくために足並みをそろえた集団生活が大切なのかもしれない。
そんなことを考えていたら重要なことを思いだした。そう言えばスマメを全然確認していない。女神にはこまめに見るよう言われてた気がするけど、特に必要性を感じていなかったので、すっかり忘れていたのだ。決して酒のせいではない、絶対に。
「スマメ」
相変わらず謎の技術だし、風景にそぐわないハイテクぶりに違和感を抱く。スマメを取り出して最初に出てくるステータスを見ると、今まで無かったスキルが追加されている。
『自然治癒? 11.2もあるの?
これなんだっけ?』
スキル名をタップしてみると説明がポップアップする。
『なになに? あるくとHPとマナが回復、基礎的な状態異常無効化が可能になるだって?
ということは散歩していたから上がったってことなのかな?
スキルは使うと上がるって言ってたもんなあ』
試しにおなじみ水精霊を使ってみる。しかし召喚術の数値は全く変わらなかった。替わりにマナが減って徐々に回復している。その回復に合わせてたまに自然治癒が上がっているのが確認できた。
『使うと上がるって言うのはこういうことなのか。
ということは、上げたければ使わないといけないってことにもなるなあ』
他にも何かできないか、銀行の中を確認してみる。
「バンクオープン」
すると所持アイテムの一覧が表示された。その中にホイッスルが入っていたので取り出して手に持つ。あとは妖術と書術の術書があるのと…… なんで!? 私のメガネが入ってる!
女神が気を効かせて入れておいてくれたのか? とにかくびっくりしたので取り出して掛けてみた。すると、裸眼で良く見えるようになっている今では七海が使っていたド近眼用のメガネは当然度があわず目の前がくらくらしてくる。
『これは不要ね…… まあ記念品みたいなものか。
そんなことよりこのホイッスルは何に使うんだろう。
これも演奏なのかな』
ホイッスルを口にくわえてピッピッピと吹きながら歩き始めた。手にはスマメを持ってログ画面を見ながら上がるのかどうか確かめてよう。笛を鳴らしながら十数メートルほど歩いていたが演奏スキルはあがっていない。それどころか、地面の石ころをふんでこけてしまった……
『歩きスマメは危険…… っと』
たかがホイッスルなのにたまに音がかすれてしまうのが不思議なので、スキル欄を確認してみる。もちろん足を止めて、だ。演奏スキルをタップしてみるとこんなことが書いてあった。
『熟練度イコール演奏成功率、音楽系スキルには演奏成功が絶対条件』
後者はよくわからないが、スキル40だと演奏も40%しか成功しないということかもしれない。それとスキルが上がらないことの関係はわからないし、いつまでもピッピ鳴らしているのが我ながらうるさく感じホイッスルをポケットへ突っ込んだ。
羊を放牧している場所の柵が終わるとまた村はずれだった。こちらは森ではなく、草原というには土も見えているし、かといって荒野と言うほどでもなく普通に平原が広がっている。森側と同様に櫓があったので上ってみると、真っ直ぐに街道が伸びていた。ということはこの道沿いに進めば他の村や街に行けるのだろう。牧場の向こう側には畑があって小粒ながら人が動いているのが見える。村長や他の農業従事者が働いているということか。
結局村の端から端まで回ったが、一週で一時間ほどしかかかっていない。約三十世帯、百人弱の村だからそれほど広くはないようだ。家はすべて同じ形だったし、櫓に上っても平原か森しか見えないので何度も見て回る面白さはなさそうだ。色々試した結果、スキルも自然治癒以外はビクともしないので、村長の帰りを待つ意味でもとりあえず神殿へ戻った。
「おかえりなさいませ。
迷子にはなりませんでしたか?」
神殿へ戻るとマールが掃除をしてくれていた。ホントに頭が下がる働き者で、言うなればお嫁にしたいナンバーワンである。
「あら、ありがとう、掃除してくれているの?
ところでこの神殿にはいつまで住んでいていいのかな?
村のみんなで使う場所なんじゃない?」
「ずっと使ってもらって差し支えありません。
ここは豊穣の女神さまを祭るための建物なので、神人様のお住まいと言うことでもあります。
衣服は、村に今あるのが作業服だけで他には何もなくて……
移動販売が来た時に村の予算で買い求めるので、それまではご辛抱ください」
「着るものなんてなんでもいいわよ。
でも掃除までやってもらうのは申し訳ないわね。
それにマールを独占したら食事の支度の邪魔になりそうだもの」
あまりミーヤの世話をさせすぎて村全体に影響が出たら目も当てられない。掃除や身支度くらいならスキルなんて無くても出来るはずだから、マールの負担は少しでも減らしたかった。
「平気ですよ、あとは狩りへ行った者たちが戻ってくるのを待つだけですから。
とは言っても、毎日獲れるのはウサギくらいで、鹿や猪が獲れたらお祭り並みのごちそうなんです」
「じゃあ昨日出してくれたのはごちそうだったんだね。
焼いてあったのは大きい肉だったから、アレは猪だったのかな」
「はい、焼いたのは猪で、燻製にしてあったのは羊ですね。
毎日百人分獲れるとは限らないので保存食を作っておくのも大切なんです」
「それはそうだよね、マールは本当に偉いよ。
何かにつけて頼ってしまうけど許してね」
「いえいえ、そんなめっそうもない。
私は豊穣の女神にいただいたスキルを活かせるよう、日々精進するだけです」
あのヘンテコ女神にこれほど信仰心を持つのはもったいないとと言いたくなったけど、それはひとまず置いておくことにした。いわしの頭だって信じたら神様みたいなものなのだ。
「そうそう、散歩してて思ったんだけど、迷子になったら困るから連絡先交換してもらってもいい?
迷惑ならやめておくけど……」
スマメのメッセージ機能を使う相手がいないというのもあったが、一人目はマールにしたかったので思い切って聞いてみた。七海の頃はそんなやり取りをする相手は誰ひとりおらず、両親の他にはかろうじて会社の人事担当がアドレス帳に入っていただけだった。なので誰かに連絡先を聞くこと自体とても度胸が必要で、今回もどう切り出すべきか歩きながら考えていたのだった。
「そうですね、うっかりしていて申し訳ありません。
ではミーヤ…… お願いします。」
「私にとって初めてのメッセージ相手があなたなの、凄くうれしい。
それに、ようやく友達に近づけたみたいだし、ありがとうマール。
これからもずっとよろしくね」
二人はお互いのスマメを乾杯するように触れさせて連絡先を交換した。
しばらく歩くと家々が途切れて村の端についたようだ。柵があるわけではないが森と隣接しているのでその先に家を建てるのが難しく、村はここで終わっているということのようだ。村の端には申し訳程度に櫓(やぐら)が建っているので登ってみるが、ここから見えるのは見渡す限り森の木々だけだ。狩りはこの森へ入っていくのだろう。
次に反対へ向かって歩き始める。しかし建っている家が全部同じなので自分が今どこにいるのか感覚が狂ってしまいそうだ。まるで建売が並んでいる地区を見ている気分だけど、それでもこんなにたくさん十数件も同じ家が並ぶ場所はそうないだろう。
今の今まで気が付かなかったが、神殿の裏手は広場のようになっていて井戸があった。下町で見かけるようなポンプのついたものではなく、昔ながらの桶と滑車のついたタイプだ。これを毎日村の人数分の料理を作るために汲み上げているなら相当大変だろう。だからなのか昨晩は焼き料理が多かった気がする。
少し進むと柵で囲っている場所が見えてきた。どうやらここが羊を飼っている場所らしい。確か牧羊をするためのスキルを持った人たちが担当しているとマールが言っていたが、それがこの場所のことだろう、なんて答えあわせをしながら歩くのも悪くない。
全員で全員のために働き分配すると言うのは合理的ではあるが共産主義的でもある。現代地球生活を知っているミーヤにとって違和感がないわけじゃないが、こういった世界では、生きていくために足並みをそろえた集団生活が大切なのかもしれない。
そんなことを考えていたら重要なことを思いだした。そう言えばスマメを全然確認していない。女神にはこまめに見るよう言われてた気がするけど、特に必要性を感じていなかったので、すっかり忘れていたのだ。決して酒のせいではない、絶対に。
「スマメ」
相変わらず謎の技術だし、風景にそぐわないハイテクぶりに違和感を抱く。スマメを取り出して最初に出てくるステータスを見ると、今まで無かったスキルが追加されている。
『自然治癒? 11.2もあるの?
これなんだっけ?』
スキル名をタップしてみると説明がポップアップする。
『なになに? あるくとHPとマナが回復、基礎的な状態異常無効化が可能になるだって?
ということは散歩していたから上がったってことなのかな?
スキルは使うと上がるって言ってたもんなあ』
試しにおなじみ水精霊を使ってみる。しかし召喚術の数値は全く変わらなかった。替わりにマナが減って徐々に回復している。その回復に合わせてたまに自然治癒が上がっているのが確認できた。
『使うと上がるって言うのはこういうことなのか。
ということは、上げたければ使わないといけないってことにもなるなあ』
他にも何かできないか、銀行の中を確認してみる。
「バンクオープン」
すると所持アイテムの一覧が表示された。その中にホイッスルが入っていたので取り出して手に持つ。あとは妖術と書術の術書があるのと…… なんで!? 私のメガネが入ってる!
女神が気を効かせて入れておいてくれたのか? とにかくびっくりしたので取り出して掛けてみた。すると、裸眼で良く見えるようになっている今では七海が使っていたド近眼用のメガネは当然度があわず目の前がくらくらしてくる。
『これは不要ね…… まあ記念品みたいなものか。
そんなことよりこのホイッスルは何に使うんだろう。
これも演奏なのかな』
ホイッスルを口にくわえてピッピッピと吹きながら歩き始めた。手にはスマメを持ってログ画面を見ながら上がるのかどうか確かめてよう。笛を鳴らしながら十数メートルほど歩いていたが演奏スキルはあがっていない。それどころか、地面の石ころをふんでこけてしまった……
『歩きスマメは危険…… っと』
たかがホイッスルなのにたまに音がかすれてしまうのが不思議なので、スキル欄を確認してみる。もちろん足を止めて、だ。演奏スキルをタップしてみるとこんなことが書いてあった。
『熟練度イコール演奏成功率、音楽系スキルには演奏成功が絶対条件』
後者はよくわからないが、スキル40だと演奏も40%しか成功しないということかもしれない。それとスキルが上がらないことの関係はわからないし、いつまでもピッピ鳴らしているのが我ながらうるさく感じホイッスルをポケットへ突っ込んだ。
羊を放牧している場所の柵が終わるとまた村はずれだった。こちらは森ではなく、草原というには土も見えているし、かといって荒野と言うほどでもなく普通に平原が広がっている。森側と同様に櫓があったので上ってみると、真っ直ぐに街道が伸びていた。ということはこの道沿いに進めば他の村や街に行けるのだろう。牧場の向こう側には畑があって小粒ながら人が動いているのが見える。村長や他の農業従事者が働いているということか。
結局村の端から端まで回ったが、一週で一時間ほどしかかかっていない。約三十世帯、百人弱の村だからそれほど広くはないようだ。家はすべて同じ形だったし、櫓に上っても平原か森しか見えないので何度も見て回る面白さはなさそうだ。色々試した結果、スキルも自然治癒以外はビクともしないので、村長の帰りを待つ意味でもとりあえず神殿へ戻った。
「おかえりなさいませ。
迷子にはなりませんでしたか?」
神殿へ戻るとマールが掃除をしてくれていた。ホントに頭が下がる働き者で、言うなればお嫁にしたいナンバーワンである。
「あら、ありがとう、掃除してくれているの?
ところでこの神殿にはいつまで住んでいていいのかな?
村のみんなで使う場所なんじゃない?」
「ずっと使ってもらって差し支えありません。
ここは豊穣の女神さまを祭るための建物なので、神人様のお住まいと言うことでもあります。
衣服は、村に今あるのが作業服だけで他には何もなくて……
移動販売が来た時に村の予算で買い求めるので、それまではご辛抱ください」
「着るものなんてなんでもいいわよ。
でも掃除までやってもらうのは申し訳ないわね。
それにマールを独占したら食事の支度の邪魔になりそうだもの」
あまりミーヤの世話をさせすぎて村全体に影響が出たら目も当てられない。掃除や身支度くらいならスキルなんて無くても出来るはずだから、マールの負担は少しでも減らしたかった。
「平気ですよ、あとは狩りへ行った者たちが戻ってくるのを待つだけですから。
とは言っても、毎日獲れるのはウサギくらいで、鹿や猪が獲れたらお祭り並みのごちそうなんです」
「じゃあ昨日出してくれたのはごちそうだったんだね。
焼いてあったのは大きい肉だったから、アレは猪だったのかな」
「はい、焼いたのは猪で、燻製にしてあったのは羊ですね。
毎日百人分獲れるとは限らないので保存食を作っておくのも大切なんです」
「それはそうだよね、マールは本当に偉いよ。
何かにつけて頼ってしまうけど許してね」
「いえいえ、そんなめっそうもない。
私は豊穣の女神にいただいたスキルを活かせるよう、日々精進するだけです」
あのヘンテコ女神にこれほど信仰心を持つのはもったいないとと言いたくなったけど、それはひとまず置いておくことにした。いわしの頭だって信じたら神様みたいなものなのだ。
「そうそう、散歩してて思ったんだけど、迷子になったら困るから連絡先交換してもらってもいい?
迷惑ならやめておくけど……」
スマメのメッセージ機能を使う相手がいないというのもあったが、一人目はマールにしたかったので思い切って聞いてみた。七海の頃はそんなやり取りをする相手は誰ひとりおらず、両親の他にはかろうじて会社の人事担当がアドレス帳に入っていただけだった。なので誰かに連絡先を聞くこと自体とても度胸が必要で、今回もどう切り出すべきか歩きながら考えていたのだった。
「そうですね、うっかりしていて申し訳ありません。
ではミーヤ…… お願いします。」
「私にとって初めてのメッセージ相手があなたなの、凄くうれしい。
それに、ようやく友達に近づけたみたいだし、ありがとうマール。
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