上 下
13 / 162
第一章 異世界転生と最初の村編

4.しっかり者

しおりを挟む
 翌朝ミーヤは強烈な頭痛と共に目を覚ました。この覚えのある感覚、完全に二日酔いである。誰かが神殿内へ運んで寝かせてくれたらしく、ちゃんと布団の上で寝ていたことにありがたさを感じて幸せな目覚めだ。それでも頭の痛さが無くなるわけでもないので、とりあえず部屋を見回して水を探すがどこにもなさそうだ。

 そう言えば召喚術を使えば自分で水が作れると女神が言っていたことを思い出し、手のひらに水が出てくるようにイメージしてみる。不思議なことにスキルを使おうと思っただけでどうすればいいのかが頭に浮かんで、後は勝手に手が動くような気がする。この場合は手の上に水を出すように精霊へお願いすると言うイメージだ。すると、本当にコップ一杯分くらいの水が手のひらの上に現れて、そして当然のように足元へこぼれていった…… そうか、なにか器を用意しておかないとダメなのかと学ぶ。

 神殿から一歩外へ出ると昨日の宴の跡は既になくすべて綺麗に片づけられていた。どうやらこの村の住人はしっかり者で働き者らしい。ちなみにスマメを出して時刻を確認すると十一時を少し回ったところだった。

「ミーヤ様、目が覚めましたか?
 昨晩は大分お酒を飲まれたようですが、具合は大丈夫でしょうか。
 お水をお持ちしたのでお飲みになりますか?」

 同じように夜遅くまで起きていたはずのマールは、当然のようにきちんと身なりを整えて背筋を伸ばして立っている。それに引き替えミーヤはまだ顔も洗っておらず、作業着は少しはだけてだらしなさ全開である。

「ああマール…… ありがとう。
 お水…… 助かる……」

 うわごとのように片言で返事をしてからコップの水を受け取って一息に飲み干した。どうやら柑橘系の果汁を絞ってあったらしく、まだ頭痛は残っているものの大分すっきりした気がする。

「マールってすごいね。
 よく気が利いてしっかり者で、それにかわいくて。
 好きになっちゃいそうよ?」

「そんな…… 照れますよ、ミーヤ様……
 それより酔い醒ましの実は効きましたか?
 森になっている酸っぱい実なんですけど呑み過ぎにはよく効くんです」

「そんな効果があったんだね、すごくすっきりしたわ
 あと、その様っていうのやめてよね。
 私はみんなともっと気楽な付き合いがしたいの」

「わかりました。
 善処しますね」

 そう言ってマールはにっこりと笑う。その笑顔は直接ミーヤの頭痛を癒してくれるわけではなかったけど、気分的にはとても嬉しくてありがたいと感じた。水を飲んで少し元気が出たので顔でも洗うことにしよう。ミーヤは空を向いて手をかざしてから水精霊を呼んだ。すると、手のひらに集まった水の球が顔の上に落ちてきたのですかさず顔を洗う。

 よしよし、うまくいったと機嫌よくしているミーヤを見たマールがまた笑っている。マールは確か十八歳と聞いていたが随分年下の妹のように感じる。でもミーヤが今十五歳なだけで、その前は七海として二十九年生きていたのだから当然の感覚だろう。

 そういえば神人は寿命が無いし老化することもないと言っていた。ということは年齢はずっと十五歳のままなのだろうか。別に成人が必要な事柄があるとか、なにかに年齢制限があるのでなければ困ることはないだろうけど、ずっと子供だということが気になる日が来るかもしれない。

 たとえば恋人との年齢差とか…… いやいやいやいや、何を考えてるんだ! そんなこと考えるな、まだ産まれて二日目なんだからそんなの考えるのは早すぎるし、そもそもそんな相手がこの先できるかどうかも分からないじゃないか。とまあ朝から妄想逞しく独り漫才のようなことをしているとマールが不思議そうにこっちを見ていた。

「あれ? 私何か言ってた?
 へんなこと口走って無かったかな?」

「いいえ、そんなことありませんよ?
 それより食事はどうしますか?
 朝の分をご用意してましたけどお休みだったのでそのままにしてあります。
 といってももうお昼ですが」

「ありがとう、いただくわね
 村長さんとか他のみんなはお仕事?」

「はい、父は畑へ行っています。
 他にも羊を飼っていたり、森へ狩りに出ている人たちもいますよ。
 カナイ村では畑と養羊に獣、果物狩りくらいしか糧を得られないので」

 村の生活は楽ではなさそうだけど、村人にはそれを感じさせない朗らかさがある。そもそも生まれた時に持ったスキルを使って日々の糧を得ることがすべてなのかもしれない。マールが食事を取りに行っている間、神殿の壁にもたれかかって周囲を見回しているが村人の姿はまったく見えない。もしかしたら全員が働きに出ていて家の仕事と言うものは帰ってきてからやっているのか。

「お待たせしました。
 朝はいつもこればかりなので慣れてくださいね。
 夜の残りがあればお付けすることもありますけど」

 神殿へ入りテーブルへ出してくれたのはお粥。それに果物が添えてあった。もともと冷たいのか冷めてしまったのかわからないが、とりあえず出されたものはきちんと頂こう。

「いただきます!」

 お粥を食べてみると予想通りそっけない味だ。次に果物をかじってみたらこちらは思っていたよりも甘くなくて洋ナシに似たすっきりとした風味でおいしい。呑み過ぎた次の朝にはこういう質素な食事もいいものだなと思いながらすべてたいらげてしまった。

「ごちそうさま!
 おいしかったよ、ありがとうマール」

「いいえ、お口にあったなら良かったです。
 本当はしっかり味をつけたいんですけど、砂糖も塩も高価だしこの辺りでは売ってないんです。
 数カ月に一度来る移動販売でまとめ買いするしかないので、無くなったらしばらくお預けですね」

「海は近くにないの?
 塩湖みたいな塩水の湖でもいいけど」

「海はかなり遠くにあるらしいですけど、この村でそんなところまで行った人はいませんね。
 一番近い街まで馬で五日以上かかりますから、塩をわざわざ買いに行くこともないです。
 それに道中で獣や盗賊に襲われるかもしれませんし……」

「そっかあ、私にも何かできることがあればいいんだけど……
 なにかないかな?」

 ミーヤの言っていることは本心だった。いきなり降ってきたミーアを大切に思ってくれて、貧しい村にも関わらずすぐに歓迎のお祭りまでやってくれたことがとても嬉しかったのだ。それに初めてお酒をおいしく呑めたことにも感謝しているし、救われた気分だった。

「そんな、お気遣いだけで充分です。
 神人様はいてくださるだけで十分な存在、働いてもらうなんてとんでもございません。
 色々と足りずご不満もあるでしょうが、どうかゆっくりとお過ごしください」

「ありがとう、でもね、そのやさしさは人をダメにするよ?
 私は神人かもしれないけど、みんなと同じように生きているの。
 だったらやっぱり村のためになにかしたいし、させて欲しいんだよ」

「そうなのですか?
 それでは父が帰ってきたら相談に乗るよう申し伝えておきますね。
 夕方には帰ってきますので、それまではゆっくりしていてください」

「うん、暇だから村の中でも散歩してくる。
 マールは家にいるの?」

「はい、私は午前中だけ畑に出て午後は調理をしています。
 この村で料理ができるのは数人しかいないので、村全部の分を分担して作るんです。
 畑は農耕治水スキルを持った人たちが、羊の世話は牧羊養殖スキルを持った人たちがやっています。
 弓や剣、槍が使える人は獣狩りですね。
 そうやって各々のスキルを適切に配置して、糧を多く得ることを考えるのが村長の役目なんです」

「なるほどね、じゃあ私なら水汲みとか狩りの手伝いは出来るかもしれないよ。
 マールの言った通り、村長が帰ってきたら相談してみるね。
 それじゃまたあとでね!」

 ミーヤはマールに向かって手を振ってから村の中へ飛び出していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...