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第一章 異世界転生と最初の村編
3.感動の宴
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調子よく食べて飲んでご機嫌になっていたミーヤだったが、ふと見ると遠巻きにこちらを敬遠してそうな村人たちがいることに気が付いた。
『やっぱりこの獣人姿が怖いのかしらね。
あの女神ったら話が違うじゃないの……』
でも姿はもう一生変えることはできないから自分の力で何とかするしかない。そういえば女神が言っていたアレ! と思い返し、ポケットへ手を突っ込んで妖術書を手に取った。目的のものは表紙をめくった一ページ目にちゃんとあり、そこには魔法の言葉のようなモノも載っている。いわゆるこれが呪文と言うやつだろう。
『妖(あやかし)の力よ、我を恐れる者へ慈悲を、爪よ牙よその力を内に秘め、今は人とならん』
完全に棒読みだが、人間化のページに載っている呪文をそのまま読んでみた。すると…… 想像とは違って、身体が光ったり徐々に変わっていったりはせず、一瞬で人間へと変わった。ただ一つ違いがあるとすれば、そう、ミーヤはフェネックだったのです。
つまり見た目はほぼ人間族だが、頭の上には立派な耳が鎮座したままということ。それは思い返せば豊穣の女神と同じような格好だ。確認してみると尻尾もきちんとあったので、人間との差異は耳と尻尾の二か所と言うことになる。それでも突き出ていた鼻は丸みを帯びた顔の中に引っ込み、口から飛び出ていた牙はすっかり見えなくなっている。大きく毛むくじゃらだった手や足の先からは鋭く光った爪が消えていた。
それと個人的に重要ポイントだったのは、体毛に覆われた全身がつるんとなっていて、麻のシーツをまとっただけの姿には、さっきまでよりも身体のラインがはっきりと現れていることだ。衣服を着ていないままだったことを今更再認識し少しだけ恥ずかしくなる。
それでも村人たちの警戒心はグッと弱くなったと肌で感じ、やっぱり見た目は重要なんて生前さんざん感じていたことを思いだすのだった。姿を変えたおかげか、今まで遠巻きだった村人がお酒を注ぎに来てくれるようになった。度数は高くないようなのでひどく酔っているわけではないけれど、いい加減口の中が甘ったるくて仕方ない。
かといって、並んでいる肉や野菜にも味付けはされていない。素材の味だけを楽しむ文化なのか、それともさきほどマールが言っていたように、砂糖だけでなく調味料全般が貴重なのかもしれない。肉は豚や牛のような家畜ではなく野生動物のものだろう。歯ごたえだけは未体験な刺激があるが、お世辞にも味がいいとはいえない。おそらく塩も貴重なのだろうと推測がつく。ただ一つ、ハーブのような香りづけをした燻製肉は、味付けをしたいという意図が感じられて、その苦労をねぎらいたくなる気がするし、どちらかと言えばおいしいとも感じた。
なんだかんだ言ってもご機嫌で飲んでいるうちに多少は酔ってくる。気を抜くとシーツがはだけてしまいそうでしばしばたくし上げたり巻きなおしたりしていた。するとそれを見かねたのかマールがやってきて衣類を手渡してくれた。神殿の入り口に布をかけてくれたので、さっそく着替えることにする。
マールが持ってきてくれたのは村人たち全員が着ている作業服というものだった。もしかしたら民族衣装かもしれないが、見た目は道着の上着みたいなもので膝くらいまでの長い丈だ。生地は随分厚ぼったいものが使われている。下着はさすがに薄めだけど、おそらく麻で出来ていて襦袢に近い形である。
襦袢を着てから作業着を着るとすっかり村人のようになって、なんだかようやく仲間入り出来た気分になった。作業服とは言え全員同じ服を着ているというのは個性が無さすぎるとも思うが、資源が限られた村では仕方ないのかもしれない。
再び神殿から表へ出ると、すっかり酔いのまわった村人たちが意味不明に歓喜の声を上げた。ただ着替えて出ていっただけでこんなに歓迎されてちやほやされるなんて、慣れてしまったらすぐに堕落してしまいそうである。
「ミーヤ様はお胸が豊かですから、胸元がはだけてはみ出さないようご注意くださいね。
明日にはさらしをご用意出来ますので、それまでご辛抱ください」
「何から何までありがとうマール。
でもさらしは無くてもいいわ。
ちゃんと注意するから心配しないで。
あとね、そんなにかしこまっていないで、普通に話してほしいわね。
そうしたらいい友達になれそうな気がするもの」
姿が変わったからか、酒が入っているからなのか、今まで誰かに言ったことの無いようなセリフを口にしたミーヤは、そんな自分自身に少し驚いていた。
それにしてもみんな元気で驚いてしまう。そりゃ今日は特別な日なのかもしれないけど、明日もきっと仕事があるのだろう。呑み過ぎて頭の痛い朝を迎える辛さをよく知っているミーヤからすると大騒ぎを続ける村人が心配になってくる。
マールに着替えを手伝ってもらった後、他の女性もやってきてお酒を注いでくれた。その中にいた少し年齢の高い女性がミーヤへたずねた。
「神人様? 随分お飲みになってますけどお酒がお気に召しましたか?
良かったら果実酒よりも強いお酒もありますよ?」
「そうなんですか?
強さはともかく、もうそろそろ口の中が甘すぎてどうしようかと思ってたの。
試しに頂こうかな」
女性は今まで飲んでいたコップを水でゆすぐと、その中にうっすら茶色の液体をなみなみと注いでくれた。顔に近づけて香りを確かめてみると…… これは! ウイスキー!? いやブランデーだろうか。
普段飲みはもっぱらビールだったが、手っ取り早く酔いたい時、つまりは嫌な事を忘れたくて強い酒を欲して飲むようになったウイスキーにはいい思い出がない。まあ飲むこと自体が人生から逃避するためのものだったわけで種類は関係ないとも言えるが。
でもここ異世界に来ていきなりのウイスキー! やや色づいているがほぼ透明な上に香りもあまり強くないようだ。どちらかというと焼酎のようにも思えるが、立ちのぼるアルコール分がかなり高そうで飲む前にたじろいでしまった。
「かなり強そうなお酒ね。
こんなの始めて飲むけど平気かな?」
「一気に飲んだら駄目ですよ?
舐めるように少しずつ飲んでくださいね」
そう言いながらなみなみと注いだのは一体誰なのか、と問い詰めたくなるのを押さえて一口舐めてみるとそれはもう強烈なアルコールの味!やっぱりこれはウイスキーらしく木の香りがほのかに鼻へ抜けていく。同時にミントのようなハーブの香りも感じて爽やかさもあった。ただただ酔うために、煽るように飲みこんでいたあのときのウイスキーとは全く違い、味や香りを楽しみ、周囲で楽しんでいる人たちを眺めながら飲むお酒というものが初めての体験だ。
私がここにいて誰かが私を認識している。ただそれだけのことなのになぜか涙が溢れてくる。なぜかわからないけど楽しい! お酒を飲んで楽しいなんてこと、七海には無縁だと思っていたのにミーヤは違った。別にちやほやされたいわけではないけど、それでも存在自体は誰かに感じてほしかったんだ。
正直な気持ちが湧きあがってきたミーヤはさらに一口、もう一口と飲み進め、コップが空になったころには顔を涙でぐしゃぐしゃにして寝入ってしまっていた。
『やっぱりこの獣人姿が怖いのかしらね。
あの女神ったら話が違うじゃないの……』
でも姿はもう一生変えることはできないから自分の力で何とかするしかない。そういえば女神が言っていたアレ! と思い返し、ポケットへ手を突っ込んで妖術書を手に取った。目的のものは表紙をめくった一ページ目にちゃんとあり、そこには魔法の言葉のようなモノも載っている。いわゆるこれが呪文と言うやつだろう。
『妖(あやかし)の力よ、我を恐れる者へ慈悲を、爪よ牙よその力を内に秘め、今は人とならん』
完全に棒読みだが、人間化のページに載っている呪文をそのまま読んでみた。すると…… 想像とは違って、身体が光ったり徐々に変わっていったりはせず、一瞬で人間へと変わった。ただ一つ違いがあるとすれば、そう、ミーヤはフェネックだったのです。
つまり見た目はほぼ人間族だが、頭の上には立派な耳が鎮座したままということ。それは思い返せば豊穣の女神と同じような格好だ。確認してみると尻尾もきちんとあったので、人間との差異は耳と尻尾の二か所と言うことになる。それでも突き出ていた鼻は丸みを帯びた顔の中に引っ込み、口から飛び出ていた牙はすっかり見えなくなっている。大きく毛むくじゃらだった手や足の先からは鋭く光った爪が消えていた。
それと個人的に重要ポイントだったのは、体毛に覆われた全身がつるんとなっていて、麻のシーツをまとっただけの姿には、さっきまでよりも身体のラインがはっきりと現れていることだ。衣服を着ていないままだったことを今更再認識し少しだけ恥ずかしくなる。
それでも村人たちの警戒心はグッと弱くなったと肌で感じ、やっぱり見た目は重要なんて生前さんざん感じていたことを思いだすのだった。姿を変えたおかげか、今まで遠巻きだった村人がお酒を注ぎに来てくれるようになった。度数は高くないようなのでひどく酔っているわけではないけれど、いい加減口の中が甘ったるくて仕方ない。
かといって、並んでいる肉や野菜にも味付けはされていない。素材の味だけを楽しむ文化なのか、それともさきほどマールが言っていたように、砂糖だけでなく調味料全般が貴重なのかもしれない。肉は豚や牛のような家畜ではなく野生動物のものだろう。歯ごたえだけは未体験な刺激があるが、お世辞にも味がいいとはいえない。おそらく塩も貴重なのだろうと推測がつく。ただ一つ、ハーブのような香りづけをした燻製肉は、味付けをしたいという意図が感じられて、その苦労をねぎらいたくなる気がするし、どちらかと言えばおいしいとも感じた。
なんだかんだ言ってもご機嫌で飲んでいるうちに多少は酔ってくる。気を抜くとシーツがはだけてしまいそうでしばしばたくし上げたり巻きなおしたりしていた。するとそれを見かねたのかマールがやってきて衣類を手渡してくれた。神殿の入り口に布をかけてくれたので、さっそく着替えることにする。
マールが持ってきてくれたのは村人たち全員が着ている作業服というものだった。もしかしたら民族衣装かもしれないが、見た目は道着の上着みたいなもので膝くらいまでの長い丈だ。生地は随分厚ぼったいものが使われている。下着はさすがに薄めだけど、おそらく麻で出来ていて襦袢に近い形である。
襦袢を着てから作業着を着るとすっかり村人のようになって、なんだかようやく仲間入り出来た気分になった。作業服とは言え全員同じ服を着ているというのは個性が無さすぎるとも思うが、資源が限られた村では仕方ないのかもしれない。
再び神殿から表へ出ると、すっかり酔いのまわった村人たちが意味不明に歓喜の声を上げた。ただ着替えて出ていっただけでこんなに歓迎されてちやほやされるなんて、慣れてしまったらすぐに堕落してしまいそうである。
「ミーヤ様はお胸が豊かですから、胸元がはだけてはみ出さないようご注意くださいね。
明日にはさらしをご用意出来ますので、それまでご辛抱ください」
「何から何までありがとうマール。
でもさらしは無くてもいいわ。
ちゃんと注意するから心配しないで。
あとね、そんなにかしこまっていないで、普通に話してほしいわね。
そうしたらいい友達になれそうな気がするもの」
姿が変わったからか、酒が入っているからなのか、今まで誰かに言ったことの無いようなセリフを口にしたミーヤは、そんな自分自身に少し驚いていた。
それにしてもみんな元気で驚いてしまう。そりゃ今日は特別な日なのかもしれないけど、明日もきっと仕事があるのだろう。呑み過ぎて頭の痛い朝を迎える辛さをよく知っているミーヤからすると大騒ぎを続ける村人が心配になってくる。
マールに着替えを手伝ってもらった後、他の女性もやってきてお酒を注いでくれた。その中にいた少し年齢の高い女性がミーヤへたずねた。
「神人様? 随分お飲みになってますけどお酒がお気に召しましたか?
良かったら果実酒よりも強いお酒もありますよ?」
「そうなんですか?
強さはともかく、もうそろそろ口の中が甘すぎてどうしようかと思ってたの。
試しに頂こうかな」
女性は今まで飲んでいたコップを水でゆすぐと、その中にうっすら茶色の液体をなみなみと注いでくれた。顔に近づけて香りを確かめてみると…… これは! ウイスキー!? いやブランデーだろうか。
普段飲みはもっぱらビールだったが、手っ取り早く酔いたい時、つまりは嫌な事を忘れたくて強い酒を欲して飲むようになったウイスキーにはいい思い出がない。まあ飲むこと自体が人生から逃避するためのものだったわけで種類は関係ないとも言えるが。
でもここ異世界に来ていきなりのウイスキー! やや色づいているがほぼ透明な上に香りもあまり強くないようだ。どちらかというと焼酎のようにも思えるが、立ちのぼるアルコール分がかなり高そうで飲む前にたじろいでしまった。
「かなり強そうなお酒ね。
こんなの始めて飲むけど平気かな?」
「一気に飲んだら駄目ですよ?
舐めるように少しずつ飲んでくださいね」
そう言いながらなみなみと注いだのは一体誰なのか、と問い詰めたくなるのを押さえて一口舐めてみるとそれはもう強烈なアルコールの味!やっぱりこれはウイスキーらしく木の香りがほのかに鼻へ抜けていく。同時にミントのようなハーブの香りも感じて爽やかさもあった。ただただ酔うために、煽るように飲みこんでいたあのときのウイスキーとは全く違い、味や香りを楽しみ、周囲で楽しんでいる人たちを眺めながら飲むお酒というものが初めての体験だ。
私がここにいて誰かが私を認識している。ただそれだけのことなのになぜか涙が溢れてくる。なぜかわからないけど楽しい! お酒を飲んで楽しいなんてこと、七海には無縁だと思っていたのにミーヤは違った。別にちやほやされたいわけではないけど、それでも存在自体は誰かに感じてほしかったんだ。
正直な気持ちが湧きあがってきたミーヤはさらに一口、もう一口と飲み進め、コップが空になったころには顔を涙でぐしゃぐしゃにして寝入ってしまっていた。
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