上 下
6 / 162
序章 女神との出会いと異世界転生編

06.自分作り

しおりを挟む
 とにかく自分と同じ獣人にしたくて仕方ないと言った様子の女神だが、思う存分語ってもらいキリのいいところまで聞かないと止まらなそうだと諦めて良い聞き役に徹することにした。

「あとね、獣人は妖術で変身することができるから人間にもなれるし、四本足の獣にもなれるよ。
 逆に獣人になる魔法は無いんだ、これが不思議なことにね」

「魔法と言うのは誰でも使えるんですか?
 さっきの説明で、いわゆるファンタジーに良くある、剣と魔法の世界というのはわかりました。
 動物をペットにする能力とか、生産でしたっけ? 何かを作る能力とかはどうなんですか?」

「良い質問だね、種族に関係なく能力を覚えて使うことはできるよ。
 でも得手不得手は一生変わらないから、使いたい能力にあった種族がいいよってこと。
 私の担当外だけど、戦闘第一なら有角人や魔人が超おススメだしね」

「そういう風に説明されると確かに獣人は良さそうですね。
 でも美人エルフにも憧れちゃいますし…… すぐには決められません……」

「時間はいくらでもあるから好きなだけ悩んでいいよー
 試しにアレコレ作ってみて気に入ったのが出来たら決めればいいしね。
 今作成画面出すけど、基本的な操作はタッチで選んでいくだけだからすぐわかると思うよ」

 女神の言う通り、目の前の空中にパソコン画面のようなものが現れた。一番上には種族ボタン、両端に身長や体型、色形柄などの項目が並んでいる。プレゼン資料の図を作る時に使っていた機能と似たような物だろう。

「わかりました、それじゃ試してみますね。
 わからないことがあったら相談します」

「はいはーい、それじゃごゆっくり~」

 目の前に表示されている画面を見ていると少し楽しくなってきた。ゲーム自体それほどやったことはないが、ファンタジー小説は好きだったし、過去をさかのぼれば魔法少女アニメが大好きだった七海だ。それはともかく、女神は女神でやることがあるのだろう。背中を向けて何か始めている様子だ。

 しかしここからが大変だった。作成操作自体は直感的でプレゼン資料を作るよりもはるかに作りやすい。でもその作りやすさが罠で、どれも良く見えてしまい決めかねてしまうのだ。エルフも獣人もどちらもかわいいし、自分がその姿で動いているところを想像するとさらに楽しくなってくる。七海は夢中になって作成を繰り返していた。

 作り続けてどのくらいの時間が過ぎたのだろうか。疲れもしなければお腹もすかないので、時間経過がさっぱりわからない。おそらくは百回以上作り直したはず。一回五分としても六時間くらい続けていることになる。

 時間が大分経ってそうだけど問題ないかと女神に尋ねようとすると、彼女は横になって熟睡しているようだった。言われたわけではないが多分時間をかけすぎているのだろう。

 最終的に七海は獣人を選択した。ベースとなる動物をアレコレ眺めていたら、子供の頃に両親と出掛けた動物園で見た記憶が鮮明に残っていたフェネックがいたからだ。想い出の動物は何ですか? なんて質問をされたらきっとフェネックと答えるだろう。

 色は自由に決められるので、純白の毛色を選び、豊潤の女神を真似て耳と尻尾の先だけ山吹色にしてみた。女神自体の性格や話し方はいまいちだが、ルックスはステキで思わず真似したくなるのがちょっと悔しい。ちなみにプロポーションはお尻を小さめにしておきながら、バストはDカップくらいで七海の頃よりもかなり大き目にしてしまった。

 自分で作っておいてなんだけど、大きくて横に広がったフェネックの耳と太目でふわふわした尻尾、それが真っ白な毛並みと相まってかなりかわいく出来た。全身に毛が生えているのが気にならないわけじゃないけど、却ってムダ毛処理とか余計なことに気を使わずに済むともいえる。

 ようやく容姿が決まったので、完全に熟睡している様子の女神を揺さぶって起こした。むにゃむにゃ言いながらようやく目覚めた女神は、七海が作った獣人を見て上手にできていてかわいいと大満足な様子で褒めてくれたが、その理由のほとんどが狐の獣人だからだと思うとちょっと複雑な気分になる。

 これまでは日々追われるよう時間に支配され続けてきた七海。いや地球上で暮らすほとんどの人たちは時間を気にして生きているはずだ。しかしこの狐耳メイドの女神にはそんな雰囲気をみじんも感じない。常にマイペースだし、なんなら時間を止めてまで自分の話を続けたい人なのだから。

 それでも一応時間の概念は持っていたらしい。

「お疲れさま、よく随分頑張ったねー
 だいたい八時間くらいかかったんじゃない?
 さすが仕事熱心で真面目な七海ちゃんだ」

 いやいや、そこでかわいくウインクされても嬉しくはない。それにしてもやっぱり相当の時間をかけてしまっていたようだ。時間は無限にあると言っても、人を、いや、女神を待たせたのは悪い気がした。

「大分お待たせしてしまってごめんなさい。
 やればやるほど悩んでしまって……」

「そんなの気にしなくていいんだよ?
 時間をかけたことを気にするよりも、楽しめて後悔しないことを気にすべきだからね。
 これからの長い人生、まずは自分に正直に、そして楽しめるかどうかを考えるようにしてほしいな」

 七海は女神の言葉に対し大きく頷いた。

「それじゃ次は色々な能力を決めていこうか。
 戦ったり何か作ったり、ペットを飼うとかもそうだけど、すべて専用の能力が必要になるの。
 その能力のことは、異世界の住人達も当たり前のようにスキルって呼んでる。
 スキルは全部で六系統三十六種類あって、やりたいことに合わせて選んでいいよ」

 女神は七海の眼前にある画面を覗き込むと、キャラクター作成画面の最下部に表示されている『NEXT>>』を押した。すると画面が切り替わり、空欄のスキル欄とその他にスキル一覧が現れた。並んでいるスキルにはそれぞれには簡単な説明が添えてあるが、直感的に理解できるものとさっぱりわからないものとがあって、どれを選ぶべきかまた悩んで時間がかかりそうである。

「書いてあることだけじゃわからなかったら遠慮なく聞いてね。
 ペット飼いたいなら調教が必要で、調教使うなら演奏が必須になるよ。
 一緒に戦ったりしてペットが怪我をしてしまった場合に治療をするなら生体研究もいるかなー」

「ペットと一緒に戦うって? 犬猿雉でも連れて鬼退治ですか?」

「イメージとしてはそんな感じかな。
 たとえば強い生き物の代表だとドラゴンとかペットにすることもできるよ。
 もしそう言う強い動物、いわゆるモンスターを捕まえるなら自分もある程度強くないとだけど。
 だからなんらか攻撃スキルが必要になるかな、無事で生きていくうえでもね」

「なるほど…… 適当に選ぶんじゃなくて相関関係を考える必要があるんですね。
 難しそうですけど頑張って選んでみます」

「最初に選べるのは七つまでよ。
 スキルには熟練度と言うものがあって、スキル値って呼んでる。
 当然高い方が有能ってことになるね。
 普通の人たちは産まれた時に割り当てられたスキルを三、四種類持ってて10から始まるのね。
 でも転生者は好きなスキル七つを40からスタートで超お得!
 他にもいろいろ違いはあるけどまあそんな感じ」

「なんだかそれってズルくないですか?
 得するのは嬉しいかもしれませんけど、そのせいで疎まれたり恨まれたりしないんでしょうか」

「気にしすぎだよー
 転生者は世界に八人しかいない特別な存在なのは説明したでしょ?
 そのことは異世界の一般人もわかってる。
 だからもちろん特別視はされるけど、どちらかというと敬意をもたれるって感じかな。
 ちなみに転生者は神の人って書いて神人(しんじん)って呼ばれてるよ」

 新人の神人だ、とオヤジギャグを思いつき一人でにやけて恥ずかしくなりつつも、異世界へ行ってすぐ苦労したり危険な目にあうなんてことが無さそうでホッとするのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転移した

弍楊仲 二仙
ファンタジー
味覚が狂ったファンタジー世界に、料理に一切興味が無い 二十代前半の青年が転移するという話。 色々難しいことを考えずに、 ギャグメインのファンタジー冒険ものとして読んで頂けるといいかもしれないです。 小説家になろうからの自作品の転載です(向こうでは完結済み)

処理中です...