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第六章 欲望 X 策謀 = 絶望 + 希望

74.ザンチブツ

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 地面のすぐ下に掘られていた通路はほぼ間違いなく人を運ぶ用途であると思われた。岩肌のあちらこちらには削り取られたような樹脂が残っており、細い通路の中にソリかカプセル形状のものを通した痕跡があるからだ。

 紗由からはすでに警視庁特殊機動隊いぬごやへ通報され、詳細な調査ができるようにと特殊捜査官いぬや鑑識官が向かっていると聞かされた。だがそんなものを待っているだけじゃ当然気が済まない。

コロボ球体ロボットが進んでる方角と位置からすると二十二階層への通路か?
 まさかこのトンネルを抜けてから堂々と出ていったとでも言うのかよ。
 もしそうだとしたら、俺がここを探している間に逃げおおせたってことか……」

『おにい、結果論で判断しちゃダメだってば。
 その時々で最善は違うんだからさ。
 今は過ぎたことじゃなくてこれからどうするか考えようよ』

「そうだな、今は虹子を見つけることが最優先だもんな。
 後悔なんて後からいくらでもすりゃいいはずか」

 そして予想は大当たりで、コロボはとうとう行き止まりまでたどり着き、そこからはさらに縦に広い空洞が有った。俺はその位置まで行くと大き目のドリルと掘削機を使って完全に岩そのものである壁を壊した。

 崩れた石の間にちゃんとコロボが待っており、虹子はトンネルを進みここまで運ばれてきたことが確定した。つまり周囲の物体をコピーすると聞いていた理恵の父親の能力は、物質そのものも作り出すということになる。

「能力で無から有なんてできるものなのか?
 しかもこんな本物にしか思えない岩肌なんてさ」

『かなりレアだと思うけどあり得なくはないね。
 炎や水だって何もないところから生み出してるんだからさ。
 でもこの階層だけで相当の体積を作ってるよね』

「溝を掘ったのはまた別の能力者なんだろうな。
 そこに蓋をしていったってことだと思うんだが……
 ただここで手詰まりじゃ困るってもんだ。
 なにか方法はないか?」

『残留物の樹脂は採取できるかな?
 カメラには映ってたから手で採取できると思うんだけど』

「バッチリだ、結構大きな削りかすが残ってるぞ。
 これが手掛かりになるといいんだけど、出どこがわかる可能性はあるか?」

『それは何とも言えないけどさ。
 ここから上層階に向かって同じ物が見つかる可能性に賭けてみようよ。
 まずは成分分析からだけど、ダンジョン内じゃ外観と表面構造くらいかな。
 コロボの引き出しにセットしたら解析してみるから』

 俺は言われた通りコロボへ採取した繊維を入れてから紗由の解析を待った。数分で結果が出ると、すでに被っているHMDRの検知リストへ追加されていた。検知対象物を追加した樹脂だけに設定し、感度を最大まで上げて辺りを見回してみる。すると予想通り、二十二階層へ向かう上り坂にべったりと残されているのが確認できた。

「紗由、バッチリだ、ありがとう!
 俺は今からこの痕跡を追うけど他にやった方がいいことはあるか?」

『ウチはこれから街中にある対応カメラへこの樹脂検知をインストールする。
 もし壁の中に消えてそれっきりなところがあったらすぐに教えてね。
 こっちはインストール後すぐに街中探し始めるから!』

「ホントサンキュな、優秀な妹を持って幸せだよ。
 絶対虹子を見つけるぞ!」

『もちろん!』

 俺たちは真っ暗闇の中にわずかな光を見たような気がして語気を強めた。
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