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第五章 疑惑 = 希望 + 変貌
54.ジライ
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心臓を締め付けられるようなこの想い、しかし思わぬ答えが返ってきて俺は救われたのだった。
「せっかく誘ってもらえたから行きたいのは山々なのですが……
事前の申請が無いと外出許可が下りないので行かれません。
ホント残念で悔しいです……」
「ああそうなんだ、なんだか悪いこと言っちゃってごめんね。
じゃあ今日申請して明日外出したらいいんじゃない?
私は今日じゃなくても全然いいし」
虹子のやつはどこまでバカなんだ。もう思い切って本当のことを言ってしまおうかと思ったが、俺はこの場を切り抜ける方法を知っていた。
「明日は理恵が大学に行って寮に泊まる日だからムリだろ。
お前も一緒に寮宿泊だってこと忘れてるのかよ」
「そっか、木曜だったね。
それじゃ寮でお鍋やろうよ。
明日の分を美菜実ちゃんへ預けても平気?」
「はい! もちろん平気です。
調理道具を借りる申請もしておきますね。
それじゃまた明日!」
どうやら寮で調理はできるようで、美菜実には五人分くらいを持って行ってもらった。他の友達も誘って鍋パーティーでもしてもらえれば俺の罪悪感も少しは紛れると言うものだ。だがしかしそんなことをみじんも考えていないやつにしっかりと言い聞かせておかなければならない。
ミニバイクに二人乗りしてうちへと帰りついたあと、俺は玄関先で虹子を叱りつけた。
「おい虹子、なんでウチに美菜実を誘おうとするんだよ。
紗由があの子を苦手にしてるのわかってるだろ?
俺がせっかくうまいこと誘導しようとしてたのに危なく台無しだぜ」
「だってこの間さ、険悪になりそうな感じだったから仲良くなって貰おうかと……
でもよく考えたらそんなの無理だよね」
「そうさ、誰かと簡単に仲良くできるくらいなら学校通ってるだろうよ。
あいつがダメだって言ったらお前だってパーティー追い出されかねないぞ?
別に機嫌取る必要はないけど、今まで通り普通にしてりゃいいんだからな」
「わかった、ごめんね、気を付けるよ。
なんで紗由ちゃんはあんなに美菜実ちゃんのこと嫌うんだろうね」
こいつ…… ついこないだ家族会議が開かれたばかりなのに何を言っているんだ。一番の当事者のくせにどう考えたらこんな言葉が出てくるのか不思議でたまらない。それは俺だけが感じていることでは無いことがすぐに証明された。
『ちょっとおにい、玄関先で何してんのよ。
家族会議するから早く入って来なさい!』
「お、おう、今日は牡丹鍋にしようかな……
きっと旨いぞ……」
『それはそれ、これはこれ、アレはアレ、ごまかされないからね。
虹子にも覚悟するよう伝えなさい!』
いつの間にか監視カメラに捉えられていた俺たちは会話もしっかり聞かれており、紗由の逆鱗に触れてしまっていた。まあそりゃそうだと諦めながら家に入ると、すでに玄関先に紗由と理恵のちびっ子コンビが両手を出して待っていた。
「お菓子だろ? ちゃんと買ってきてるから飯の後にしろって。
紗由がしっかりしないと理恵も真似しちゃうじゃねえか。
とりあえずちょっとにしておけよ?」
「ふふ、ありがとね」
「ありまとー」
俺がチョコレート菓子の箱を一つ渡すと、ご機嫌で受け取ってテーブルへと陣取った。それにしてもあんなに気難しい紗由が、理恵とは初日から仲良くできているのが不思議でならない。今は親と離れて暮らしていると言うくらいしか共通点がなさそうなのに、なにか通ずるものがあるのだろうか。
仲良くしている分には心配いらないし、ちゃんと二人で留守番も出来ているので不安はない。にこやかにお菓子を摘まんでいる二人を眺めながら肉を薄切りにしたりフードメーカーで野菜を作ったりして牡丹鍋の準備を進めるのだった。
「せっかく誘ってもらえたから行きたいのは山々なのですが……
事前の申請が無いと外出許可が下りないので行かれません。
ホント残念で悔しいです……」
「ああそうなんだ、なんだか悪いこと言っちゃってごめんね。
じゃあ今日申請して明日外出したらいいんじゃない?
私は今日じゃなくても全然いいし」
虹子のやつはどこまでバカなんだ。もう思い切って本当のことを言ってしまおうかと思ったが、俺はこの場を切り抜ける方法を知っていた。
「明日は理恵が大学に行って寮に泊まる日だからムリだろ。
お前も一緒に寮宿泊だってこと忘れてるのかよ」
「そっか、木曜だったね。
それじゃ寮でお鍋やろうよ。
明日の分を美菜実ちゃんへ預けても平気?」
「はい! もちろん平気です。
調理道具を借りる申請もしておきますね。
それじゃまた明日!」
どうやら寮で調理はできるようで、美菜実には五人分くらいを持って行ってもらった。他の友達も誘って鍋パーティーでもしてもらえれば俺の罪悪感も少しは紛れると言うものだ。だがしかしそんなことをみじんも考えていないやつにしっかりと言い聞かせておかなければならない。
ミニバイクに二人乗りしてうちへと帰りついたあと、俺は玄関先で虹子を叱りつけた。
「おい虹子、なんでウチに美菜実を誘おうとするんだよ。
紗由があの子を苦手にしてるのわかってるだろ?
俺がせっかくうまいこと誘導しようとしてたのに危なく台無しだぜ」
「だってこの間さ、険悪になりそうな感じだったから仲良くなって貰おうかと……
でもよく考えたらそんなの無理だよね」
「そうさ、誰かと簡単に仲良くできるくらいなら学校通ってるだろうよ。
あいつがダメだって言ったらお前だってパーティー追い出されかねないぞ?
別に機嫌取る必要はないけど、今まで通り普通にしてりゃいいんだからな」
「わかった、ごめんね、気を付けるよ。
なんで紗由ちゃんはあんなに美菜実ちゃんのこと嫌うんだろうね」
こいつ…… ついこないだ家族会議が開かれたばかりなのに何を言っているんだ。一番の当事者のくせにどう考えたらこんな言葉が出てくるのか不思議でたまらない。それは俺だけが感じていることでは無いことがすぐに証明された。
『ちょっとおにい、玄関先で何してんのよ。
家族会議するから早く入って来なさい!』
「お、おう、今日は牡丹鍋にしようかな……
きっと旨いぞ……」
『それはそれ、これはこれ、アレはアレ、ごまかされないからね。
虹子にも覚悟するよう伝えなさい!』
いつの間にか監視カメラに捉えられていた俺たちは会話もしっかり聞かれており、紗由の逆鱗に触れてしまっていた。まあそりゃそうだと諦めながら家に入ると、すでに玄関先に紗由と理恵のちびっ子コンビが両手を出して待っていた。
「お菓子だろ? ちゃんと買ってきてるから飯の後にしろって。
紗由がしっかりしないと理恵も真似しちゃうじゃねえか。
とりあえずちょっとにしておけよ?」
「ふふ、ありがとね」
「ありまとー」
俺がチョコレート菓子の箱を一つ渡すと、ご機嫌で受け取ってテーブルへと陣取った。それにしてもあんなに気難しい紗由が、理恵とは初日から仲良くできているのが不思議でならない。今は親と離れて暮らしていると言うくらいしか共通点がなさそうなのに、なにか通ずるものがあるのだろうか。
仲良くしている分には心配いらないし、ちゃんと二人で留守番も出来ているので不安はない。にこやかにお菓子を摘まんでいる二人を眺めながら肉を薄切りにしたりフードメーカーで野菜を作ったりして牡丹鍋の準備を進めるのだった。
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