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第五章 疑惑 = 希望 + 変貌

53.カケヒキ

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 同じダンジョン内にいたとは言え、わざわざやってきてくれたパーティーに猪肉を分けてもまだだいぶ大荷物が残ってしまったが、今日はこれで引き上げと言うことになりなんとか地上まで帰り着いた。

「今日はまた随分大物を狩ったようだね。
 牙なんてこの研究室で過去最大サイズだよ。
 皮もなかなかきれいに処理できているし、きちんと買い取らせてもらうからね」

「そうしてもらえると助かります。
 ちょっと入用があるんで稼ぎたいんですよね」

「君たちは十分稼いでいると思うんだけど、また妹さんの研究開発かい?
 先日から使っているHMDRはまだお金になってないのかな?」

「両親があれこれ当たってくれてますが、まだライセンシーが決まらないんです。
 多分また母さんの会社で作ることになりそうですね……
 来月くらいになればマイクロ発電機の分が入って来て楽になるかも。
 発売は今月末って聞いてるから売れるといいんですけどねぇ」

「いやいやあれは売れるでしょう。
 せっかく能技大の標準装備にと進言したのに予算がおりなくて残念だった。
 おかげで一般企業で商品化とは悔しい限りだよ」

「でもまあ母さんの会社なんで、大学には文教価格で卸せるはずですよ。
 良かったら装備開発課から連絡してみてください」

「うん、伝えておくよ。
 妹さんは相変わらず家から出てくれないの?
 本当は大学に入って研究職についてもらいたいんだけどねぇ」

「多分と言うか絶対無理ですよ。
 わざわざ出てくる理由がないですからね。
 オペしてる時も未だに美菜実さんとしゃべりませんし、あれは筋金入りのひきこもりです」

「まあ無理は言えないから仕方ないね。
 HMDRのファーム開発に協力してもらえてるだけ感謝だよ」

 こうして得た稼ぎのほとんどは研究開発とお菓子代に消えていく。なんと言っても嗜好品であるちゃんとしたお菓子はかなりの高額商品だし、製品化した発明品の利益は無駄遣いできないようにとほぼ全額が両親によって貯金されている。

 それがあるから本当は母さんの会社で作ってほしくはないのだが、マイクロ発電機は技術的コスト的に一般の会社では製品化が難しいと言われてしまった。きっとDLS-HMDRも特殊なセンサを使っているらしいから、同じようになってしまうことだろう。そもそもそのセンサが母さんの会社で作っている物なのだ。

 研究室へ立ち寄って素材のついでに肉のおすそ分けをして少しだけ身軽になった俺は、ちょうど講義が終わる時間まで待ってから虹子へ連絡してみた。すると今日はこれから帰るところだと言うので、正門で待ち合わせすることになった。

「おまたせー、今日は大物を狩ったらしいね。
 私は見てなかったけど他の子が教えてくれたの。
 なんか私が褒められたみたいで嬉しかったよ」

 走ってくるなりそう言った虹子の隣には美菜実がいた。うーん、なんとも間が悪いような、虹子を夕飯に誘うつもりだったのにどうしたらいいんだろう。

「そうなんだよ、肉がいっぱい獲れたからおすそ分けしようと思ったんだ。
 切り分けておいたけど三人分でいいか?
 美菜実さんも寮で調理できるなら持ってってよ」

「せっかくだからみんなで食べたらいいじゃない。
 久しぶりにお鍋にしてもいいしさ。
 牡丹鍋なんて去年の冬以来だよー」

 なんでこいつはこうお気楽なんだ。俺がうまく誘導しようとしていたのに虹子は能天気に美菜実を夕飯に誘ってしまった。三人で帰ったら紗由がなんと言うかわからないし、場合によってはまた家族会議が招集されてしまいそうだと俺は心配でたまらなかった。
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