53 / 81
第五章 疑惑 = 希望 + 変貌
53.カケヒキ
しおりを挟む
同じダンジョン内にいたとは言え、わざわざやってきてくれたパーティーに猪肉を分けてもまだだいぶ大荷物が残ってしまったが、今日はこれで引き上げと言うことになりなんとか地上まで帰り着いた。
「今日はまた随分大物を狩ったようだね。
牙なんてこの研究室で過去最大サイズだよ。
皮もなかなかきれいに処理できているし、きちんと買い取らせてもらうからね」
「そうしてもらえると助かります。
ちょっと入用があるんで稼ぎたいんですよね」
「君たちは十分稼いでいると思うんだけど、また妹さんの研究開発かい?
先日から使っているHMDRはまだお金になってないのかな?」
「両親があれこれ当たってくれてますが、まだライセンシーが決まらないんです。
多分また母さんの会社で作ることになりそうですね……
来月くらいになればマイクロ発電機の分が入って来て楽になるかも。
発売は今月末って聞いてるから売れるといいんですけどねぇ」
「いやいやあれは売れるでしょう。
せっかく能技大の標準装備にと進言したのに予算がおりなくて残念だった。
おかげで一般企業で商品化とは悔しい限りだよ」
「でもまあ母さんの会社なんで、大学には文教価格で卸せるはずですよ。
良かったら装備開発課から連絡してみてください」
「うん、伝えておくよ。
妹さんは相変わらず家から出てくれないの?
本当は大学に入って研究職についてもらいたいんだけどねぇ」
「多分と言うか絶対無理ですよ。
わざわざ出てくる理由がないですからね。
オペしてる時も未だに美菜実さんとしゃべりませんし、あれは筋金入りのひきこもりです」
「まあ無理は言えないから仕方ないね。
HMDRのファーム開発に協力してもらえてるだけ感謝だよ」
こうして得た稼ぎのほとんどは研究開発とお菓子代に消えていく。なんと言っても嗜好品であるちゃんとしたお菓子はかなりの高額商品だし、製品化した発明品の利益は無駄遣いできないようにとほぼ全額が両親によって貯金されている。
それがあるから本当は母さんの会社で作ってほしくはないのだが、マイクロ発電機は技術的コスト的に一般の会社では製品化が難しいと言われてしまった。きっとDLS-HMDRも特殊なセンサを使っているらしいから、同じようになってしまうことだろう。そもそもそのセンサが母さんの会社で作っている物なのだ。
研究室へ立ち寄って素材のついでに肉のおすそ分けをして少しだけ身軽になった俺は、ちょうど講義が終わる時間まで待ってから虹子へ連絡してみた。すると今日はこれから帰るところだと言うので、正門で待ち合わせすることになった。
「おまたせー、今日は大物を狩ったらしいね。
私は見てなかったけど他の子が教えてくれたの。
なんか私が褒められたみたいで嬉しかったよ」
走ってくるなりそう言った虹子の隣には美菜実がいた。うーん、なんとも間が悪いような、虹子を夕飯に誘うつもりだったのにどうしたらいいんだろう。
「そうなんだよ、肉がいっぱい獲れたからおすそ分けしようと思ったんだ。
切り分けておいたけど三人分でいいか?
美菜実さんも寮で調理できるなら持ってってよ」
「せっかくだからみんなで食べたらいいじゃない。
久しぶりにお鍋にしてもいいしさ。
牡丹鍋なんて去年の冬以来だよー」
なんでこいつはこうお気楽なんだ。俺がうまく誘導しようとしていたのに虹子は能天気に美菜実を夕飯に誘ってしまった。三人で帰ったら紗由がなんと言うかわからないし、場合によってはまた家族会議が招集されてしまいそうだと俺は心配でたまらなかった。
「今日はまた随分大物を狩ったようだね。
牙なんてこの研究室で過去最大サイズだよ。
皮もなかなかきれいに処理できているし、きちんと買い取らせてもらうからね」
「そうしてもらえると助かります。
ちょっと入用があるんで稼ぎたいんですよね」
「君たちは十分稼いでいると思うんだけど、また妹さんの研究開発かい?
先日から使っているHMDRはまだお金になってないのかな?」
「両親があれこれ当たってくれてますが、まだライセンシーが決まらないんです。
多分また母さんの会社で作ることになりそうですね……
来月くらいになればマイクロ発電機の分が入って来て楽になるかも。
発売は今月末って聞いてるから売れるといいんですけどねぇ」
「いやいやあれは売れるでしょう。
せっかく能技大の標準装備にと進言したのに予算がおりなくて残念だった。
おかげで一般企業で商品化とは悔しい限りだよ」
「でもまあ母さんの会社なんで、大学には文教価格で卸せるはずですよ。
良かったら装備開発課から連絡してみてください」
「うん、伝えておくよ。
妹さんは相変わらず家から出てくれないの?
本当は大学に入って研究職についてもらいたいんだけどねぇ」
「多分と言うか絶対無理ですよ。
わざわざ出てくる理由がないですからね。
オペしてる時も未だに美菜実さんとしゃべりませんし、あれは筋金入りのひきこもりです」
「まあ無理は言えないから仕方ないね。
HMDRのファーム開発に協力してもらえてるだけ感謝だよ」
こうして得た稼ぎのほとんどは研究開発とお菓子代に消えていく。なんと言っても嗜好品であるちゃんとしたお菓子はかなりの高額商品だし、製品化した発明品の利益は無駄遣いできないようにとほぼ全額が両親によって貯金されている。
それがあるから本当は母さんの会社で作ってほしくはないのだが、マイクロ発電機は技術的コスト的に一般の会社では製品化が難しいと言われてしまった。きっとDLS-HMDRも特殊なセンサを使っているらしいから、同じようになってしまうことだろう。そもそもそのセンサが母さんの会社で作っている物なのだ。
研究室へ立ち寄って素材のついでに肉のおすそ分けをして少しだけ身軽になった俺は、ちょうど講義が終わる時間まで待ってから虹子へ連絡してみた。すると今日はこれから帰るところだと言うので、正門で待ち合わせすることになった。
「おまたせー、今日は大物を狩ったらしいね。
私は見てなかったけど他の子が教えてくれたの。
なんか私が褒められたみたいで嬉しかったよ」
走ってくるなりそう言った虹子の隣には美菜実がいた。うーん、なんとも間が悪いような、虹子を夕飯に誘うつもりだったのにどうしたらいいんだろう。
「そうなんだよ、肉がいっぱい獲れたからおすそ分けしようと思ったんだ。
切り分けておいたけど三人分でいいか?
美菜実さんも寮で調理できるなら持ってってよ」
「せっかくだからみんなで食べたらいいじゃない。
久しぶりにお鍋にしてもいいしさ。
牡丹鍋なんて去年の冬以来だよー」
なんでこいつはこうお気楽なんだ。俺がうまく誘導しようとしていたのに虹子は能天気に美菜実を夕飯に誘ってしまった。三人で帰ったら紗由がなんと言うかわからないし、場合によってはまた家族会議が招集されてしまいそうだと俺は心配でたまらなかった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜
平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。
都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。
ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。
さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。
こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる