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第四章 堅物 X 打算 = 黒猫

48.キタイフクラム

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 今日の配信も大盛況だったらしい。序盤は退屈だったと思うが、最後の最後で大勝負があったから見栄えはかなり良かったはずだ。それをたまたまなのか、いつも見ていたのかはわからないが、思わぬところから通信が入った。

『綾瀬君、例のモンスターに遭遇したんだねぇ。
 どうやら完全に燃やし尽くしてしまったようで残念だよ。
 何でもいいから残留物を回収してきてくれたまえ。
 燃えカスや灰もできる限り集めてくれると嬉しいよ』

「先生、探索中に連絡くれるなんてめずらしいですね。
 よっぽど口惜しかったんだと思いますけど、こちらも命が大切なんで。
 まあ、戦利品と言えるようなものは無さそうですけどなるべく持って帰りますから」

『すまないがよろしく頼むよ。
 灰だって貴重な残留物だからね。
 生物的分類を特定することくらいはできるかもしれない』

 なるほど、これで植物か動物かくらいは判明するかもしれない。足柄ダンジョンの地表へ出てきた物は倒されていないのだろうか。なまじ戦いやすい場所に出ているせいで、無傷の無効化を狙っているのかもしれない。

 俺たちはダンジョンの中を掃除するかのように、ほうきとちりとりで燃えきった物をすべて集めて収集袋へと回収した。こんなただの灰を分離分析解析するなんて気の遠くなる研究で、俺には到底真似できない分野だ。しかし、そう言った人たちのお蔭で世の中の様々なことが解明されたり新素材が生み出されたり、場合に寄っては新薬が開発されたりもするのだから感謝すべきだろう。

 探索者にできるのは、せめてなんでもいいから役に立つものを持ちかえることであり、決してモンスターを初めとする生物を派手に乱獲し栄誉を求めることでは無い。だからこそ、俺の探索スタイルは最小限の殺傷でなるべく深く進むことなのだ。だがそれが配信でウケるかと言うとそんなはずはなく、紗由にはいつも文句を言われてしまう。

 だがさすがに今日の紗由は上機嫌だった。なんと言っても待望の大物戦が撮れたのだ。配信の視聴者数ではいつもと変わらないとしても、あとで公開するアーカイブはおそらく相当の再生数を記録してくれるだろう。しかも今回のモンスターはまだ全国でも未解明の初物なのだからその衝撃は相当の者が期待できる。

 これでさらに学会発表に結びつくなんてことがあったらそりゃもう大ごとになるだろう。少なくとも新種討伐の残留物を初取得してきたのは間違いない。アーカイブの再生回数がどうかと言うよりも、歴史的発見に関われたならこんなに嬉しいことはないのだ。

 キリのいいところでいったん休憩してはみたものの、今日の成果に満足していた俺たちは、予定時間より少し早く引き上げることにした。なんと言っても、やはり大物狩りの後は記録映像を早めに確認してみたくなる。いつものようにカフェ・オ・レを飲み終えてからのんびりと後片付けをして帰路についた。

 そんな帰り道――

「研究室へは俺が寄って行くから学校前で解散にしようか。
 それとも担当講師のサインとかいるんだっけ?」

「別にいらないけど私も暇だから寄って行くよ。
 美菜実ちゃんは寮へ戻る?」

「あ、私もお供させてください。
 やっぱり常に行動を共にして勉強させていただきたいですからね。
 さっき回収した灰とかどうするのかも気になりますし」

「あれどうするんだろうなぁ。
 俺も先生へ渡してはいそれまでって感じだから知らないんだよね。
 もし興味あるなら、来年から素材研究を専攻するのがいいかもしれないよ」

「素材研究だとモンスター討伐が主体となりますよね?
 私はあまり戦闘が得意じゃないですから無理かもしれません」

「今それだけ戦えてるから、来年には戦闘力十分だと思うよ。
 それにこの間のコケ類採取とか鉱物や土壌採取なんてのも含まれるんだ。
 変わったところではモンスターの通り道で糞採取も立派な素材研究さ」

「な、なるほど…… 興味魅かれなくはないですが微妙ですね……
 綾瀬君のパーティーに入れてもらうには何ができるようになればいいですか?」

 美菜実がそうたずねてきた瞬間、虹子の目が光ったような気がしたが、俺は見て見ぬ振りをしてスルーしてみる。それなのにちゃんと聞いていた奴が余計なことを言いやがった。

『あーあー、おにいおにい、帰ってきたら緊急家族会議だからね。
 虹子も聞こえてるはずだから一緒に来るように!』

 どうやら今夜は長くなりそうだ……
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