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第四章 堅物 X 打算 = 黒猫

38.オオタチマワリ

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 まったくなんでこんなことになった!? 俺は極上素材を発見しちょっとだけ欲を出しただけ、探索者としてはごく当たり前の行動だったはず。それなのになんで突然こんな目にあわなきゃいけないんだ。

 とりあえず両脇に獲物を抱えて全力で走るしかない。荷物を棄てれば多少軽くなるかもしれないが、こんな極上品はめったに手に入らない。かと言って抱えているもう片方を棄てるわけにもいかない。なんと言ってもこっちは負傷した人間なのだから。

 かと言ってせっかく捕獲したトゲリクガメは持って帰りたい。なんと言ってもこいつはトゲを採ってもまた生えてくる優良な素材個体なのだ。年に数回出会えるかどうかだし、それも捕まえられるとは限らない。今日みたいに出会いがしらにスタンガンを喰らわせての捕獲なんて初めてのことだった。

 去年見つけた時はいきなり襲い掛かって来たものを避けたら壁にぶつかって死んでしまったし、その前は力加減をミスってやはり片付けてしまった。ゴツゴツした甲羅を持つリクガメ型のモンスターなのだが、その耐久力の無さはダンジョン最弱じゃないかと思うほどだ。

 そんな弱っちいモンスターを上位の存在が捕食しようとするのは当たり前で、今はラージマウススネークに追いかけられているところなのだが、この蛇が最初に食べようとしていたのはこの小さな人間、つまりなぜダンジョン内にいるのか謎な子供と言うことだ。

 くねくねとした曲がり角があれば少し引き離すことができるのだが、ここからしばらくは直線が続く。このままでは追いつかれてしまいそうだ。

「イモウトよー、これなんとかならないのかよ!
 笑ってないで助けてくれー!」

『もう最高! 頑張れシックス! その調子で逃げて逃げてー!
 いつになったらカメを棄てるかってコメントがめっちゃついてるよ。
 視聴者数も三十人突破! 最高記録更新だね!』

「だいたいこの子供は一体なんなんだよ。
 こんな状況なら救援要請かけても許されるんじゃないのか?
 人命かかってればペナルティ喰らわないで済むだろ?」

『それもそうだね、すっかり頭から抜けてたにゃー
 一応要請はしておくけど、それまでは頑張って逃げてね。
 カメを生贄にすれば逃げ延びられると思うけどもったいないもんね』

「チクショー、なんでもいいから早くしてくれよ!
 足止める時間があれば餌になりそうなもん取り出すんだけどな。
 そういやさ、これリアカメラの映像をゴーグル内に出せないのか?」

『ん? 出せるに決まってるじゃん。
 配信画面では同時表示させてるから臨場感一杯なんだからね!
 ちなみにゴーグル内に出すなら音声コマンドで『セットバックミラー』だよ。
 最初に説明したとき聞いてないからそんな目にあうんだからね』

「そうだったか、ワリイワリイ。
 聞いた覚えはさっぱりないが、イモウトがそう言うんだから間違いないんだろうぜ」

 俺は言われるがままにバックミラーをオンにした。するとゴーグルに複合現実MR表示されているAI補助やミニマップがちょこまかと動いて整理され、右目の上あたりに背後カメラの画像が映し出される。これなら振り返らなくても距離感がわかってありがたい。

 しかもご丁寧に接近距離もきちんと表示される親切設計である。表示されているヘビの顔と距離計を見ながらスタンガンを両手でしっかりと握りしめ長さを最大へと繰り出した。そのまま走る速度を徐々に落としながら頭の中でカウントダウンを始める。

 5,4,3,2,1、ここだ! その場で足を止めると地面を少しだけ滑って止まり、続いてすぐに振り返ってヘビの顔面を突く。その一撃と電撃を同時に喰らった大蛇は悶絶しながらひっくり返って裏返った。どうやらうまいこと無効化できたようだ。

 そういや、この間の配信アーカイブを見た時には、俺がいつも使っているこの伸縮式のスタンガン付き捕縛棍はただの棒っきれのように表示されていてカッコ悪かった。そのことを指摘しようとも思ったのだが、そうするとアバターをどうするかとかまた聞かれそうなので黙ってきたが、今みたいにカッコよく突きが決まると薙刀や太刀にしてもらった方が見栄えがいいかもしれない。

 こうして無事に大蛇を撃退し悠々と出口へ向かって歩き出そうとした俺は、今の衝撃でカメが昇天してしまった事実が受け入れがたく、頭をうなだれながらトボトボと歩き出したのだった。
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