38 / 81
第四章 堅物 X 打算 = 黒猫
38.オオタチマワリ
しおりを挟む
まったくなんでこんなことになった!? 俺は極上素材を発見しちょっとだけ欲を出しただけ、探索者としてはごく当たり前の行動だったはず。それなのになんで突然こんな目にあわなきゃいけないんだ。
とりあえず両脇に獲物を抱えて全力で走るしかない。荷物を棄てれば多少軽くなるかもしれないが、こんな極上品はめったに手に入らない。かと言って抱えているもう片方を棄てるわけにもいかない。なんと言ってもこっちは負傷した人間なのだから。
かと言ってせっかく捕獲したトゲリクガメは持って帰りたい。なんと言ってもこいつはトゲを採ってもまた生えてくる優良な素材個体なのだ。年に数回出会えるかどうかだし、それも捕まえられるとは限らない。今日みたいに出会いがしらにスタンガンを喰らわせての捕獲なんて初めてのことだった。
去年見つけた時はいきなり襲い掛かって来たものを避けたら壁にぶつかって死んでしまったし、その前は力加減をミスってやはり片付けてしまった。ゴツゴツした甲羅を持つリクガメ型のモンスターなのだが、その耐久力の無さはダンジョン最弱じゃないかと思うほどだ。
そんな弱っちいモンスターを上位の存在が捕食しようとするのは当たり前で、今はラージマウススネークに追いかけられているところなのだが、この蛇が最初に食べようとしていたのはこの小さな人間、つまりなぜダンジョン内にいるのか謎な子供と言うことだ。
くねくねとした曲がり角があれば少し引き離すことができるのだが、ここからしばらくは直線が続く。このままでは追いつかれてしまいそうだ。
「イモウトよー、これなんとかならないのかよ!
笑ってないで助けてくれー!」
『もう最高! 頑張れシックス! その調子で逃げて逃げてー!
いつになったらカメを棄てるかってコメントがめっちゃついてるよ。
視聴者数も三十人突破! 最高記録更新だね!』
「だいたいこの子供は一体なんなんだよ。
こんな状況なら救援要請かけても許されるんじゃないのか?
人命かかってればペナルティ喰らわないで済むだろ?」
『それもそうだね、すっかり頭から抜けてたにゃー
一応要請はしておくけど、それまでは頑張って逃げてね。
カメを生贄にすれば逃げ延びられると思うけどもったいないもんね』
「チクショー、なんでもいいから早くしてくれよ!
足止める時間があれば餌になりそうなもん取り出すんだけどな。
そういやさ、これリアカメラの映像をゴーグル内に出せないのか?」
『ん? 出せるに決まってるじゃん。
配信画面では同時表示させてるから臨場感一杯なんだからね!
ちなみにゴーグル内に出すなら音声コマンドで『セットバックミラー』だよ。
最初に説明したとき聞いてないからそんな目にあうんだからね』
「そうだったか、ワリイワリイ。
聞いた覚えはさっぱりないが、イモウトがそう言うんだから間違いないんだろうぜ」
俺は言われるがままにバックミラーをオンにした。するとゴーグルに複合現実表示されているAI補助やミニマップがちょこまかと動いて整理され、右目の上あたりに背後カメラの画像が映し出される。これなら振り返らなくても距離感がわかってありがたい。
しかもご丁寧に接近距離もきちんと表示される親切設計である。表示されているヘビの顔と距離計を見ながらスタンガンを両手でしっかりと握りしめ長さを最大へと繰り出した。そのまま走る速度を徐々に落としながら頭の中でカウントダウンを始める。
5,4,3,2,1、ここだ! その場で足を止めると地面を少しだけ滑って止まり、続いてすぐに振り返ってヘビの顔面を突く。その一撃と電撃を同時に喰らった大蛇は悶絶しながらひっくり返って裏返った。どうやらうまいこと無効化できたようだ。
そういや、この間の配信アーカイブを見た時には、俺がいつも使っているこの伸縮式のスタンガン付き捕縛棍はただの棒っきれのように表示されていてカッコ悪かった。そのことを指摘しようとも思ったのだが、そうするとアバターをどうするかとかまた聞かれそうなので黙ってきたが、今みたいにカッコよく突きが決まると薙刀や太刀にしてもらった方が見栄えがいいかもしれない。
こうして無事に大蛇を撃退し悠々と出口へ向かって歩き出そうとした俺は、今の衝撃でカメが昇天してしまった事実が受け入れがたく、頭をうなだれながらトボトボと歩き出したのだった。
とりあえず両脇に獲物を抱えて全力で走るしかない。荷物を棄てれば多少軽くなるかもしれないが、こんな極上品はめったに手に入らない。かと言って抱えているもう片方を棄てるわけにもいかない。なんと言ってもこっちは負傷した人間なのだから。
かと言ってせっかく捕獲したトゲリクガメは持って帰りたい。なんと言ってもこいつはトゲを採ってもまた生えてくる優良な素材個体なのだ。年に数回出会えるかどうかだし、それも捕まえられるとは限らない。今日みたいに出会いがしらにスタンガンを喰らわせての捕獲なんて初めてのことだった。
去年見つけた時はいきなり襲い掛かって来たものを避けたら壁にぶつかって死んでしまったし、その前は力加減をミスってやはり片付けてしまった。ゴツゴツした甲羅を持つリクガメ型のモンスターなのだが、その耐久力の無さはダンジョン最弱じゃないかと思うほどだ。
そんな弱っちいモンスターを上位の存在が捕食しようとするのは当たり前で、今はラージマウススネークに追いかけられているところなのだが、この蛇が最初に食べようとしていたのはこの小さな人間、つまりなぜダンジョン内にいるのか謎な子供と言うことだ。
くねくねとした曲がり角があれば少し引き離すことができるのだが、ここからしばらくは直線が続く。このままでは追いつかれてしまいそうだ。
「イモウトよー、これなんとかならないのかよ!
笑ってないで助けてくれー!」
『もう最高! 頑張れシックス! その調子で逃げて逃げてー!
いつになったらカメを棄てるかってコメントがめっちゃついてるよ。
視聴者数も三十人突破! 最高記録更新だね!』
「だいたいこの子供は一体なんなんだよ。
こんな状況なら救援要請かけても許されるんじゃないのか?
人命かかってればペナルティ喰らわないで済むだろ?」
『それもそうだね、すっかり頭から抜けてたにゃー
一応要請はしておくけど、それまでは頑張って逃げてね。
カメを生贄にすれば逃げ延びられると思うけどもったいないもんね』
「チクショー、なんでもいいから早くしてくれよ!
足止める時間があれば餌になりそうなもん取り出すんだけどな。
そういやさ、これリアカメラの映像をゴーグル内に出せないのか?」
『ん? 出せるに決まってるじゃん。
配信画面では同時表示させてるから臨場感一杯なんだからね!
ちなみにゴーグル内に出すなら音声コマンドで『セットバックミラー』だよ。
最初に説明したとき聞いてないからそんな目にあうんだからね』
「そうだったか、ワリイワリイ。
聞いた覚えはさっぱりないが、イモウトがそう言うんだから間違いないんだろうぜ」
俺は言われるがままにバックミラーをオンにした。するとゴーグルに複合現実表示されているAI補助やミニマップがちょこまかと動いて整理され、右目の上あたりに背後カメラの画像が映し出される。これなら振り返らなくても距離感がわかってありがたい。
しかもご丁寧に接近距離もきちんと表示される親切設計である。表示されているヘビの顔と距離計を見ながらスタンガンを両手でしっかりと握りしめ長さを最大へと繰り出した。そのまま走る速度を徐々に落としながら頭の中でカウントダウンを始める。
5,4,3,2,1、ここだ! その場で足を止めると地面を少しだけ滑って止まり、続いてすぐに振り返ってヘビの顔面を突く。その一撃と電撃を同時に喰らった大蛇は悶絶しながらひっくり返って裏返った。どうやらうまいこと無効化できたようだ。
そういや、この間の配信アーカイブを見た時には、俺がいつも使っているこの伸縮式のスタンガン付き捕縛棍はただの棒っきれのように表示されていてカッコ悪かった。そのことを指摘しようとも思ったのだが、そうするとアバターをどうするかとかまた聞かれそうなので黙ってきたが、今みたいにカッコよく突きが決まると薙刀や太刀にしてもらった方が見栄えがいいかもしれない。
こうして無事に大蛇を撃退し悠々と出口へ向かって歩き出そうとした俺は、今の衝撃でカメが昇天してしまった事実が受け入れがたく、頭をうなだれながらトボトボと歩き出したのだった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。
四季 訪
ファンタジー
【第一章完結】十年前に突如として現れたダンジョン。
そしてそれを生業とする探索者。
しかしダンジョンの魔物も探索者もギルドも全てがろくでもない!
失職を機に探索者へと転職した主人公、本堂幸隆がそんな気に食わない奴らをぶん殴って分からせる!
こいつ新人の癖にやたらと強いぞ!?
美人な相棒、男装麗人、オタクに優しいギャルにロリっ娘に○○っ娘!?
色々とでたらめな幸隆が、勇名も悪名も掻き立てて、悪意蔓延るダンジョンへと殴り込む!
え?食ったものが悪すぎて生えてきたのがエロスキル!?
純愛主義を掲げる幸隆は自分のエロスキルに抗いながら仲間と共にダンジョン深層を目指していく!
本堂 幸隆26歳。
純愛主義を引っ提げて渡る世間を鬼と行く。
エロスキルは1章後半になります。
日間ランキング掲載
週刊ランキング掲載
なろう、カクヨムにも掲載しております。
底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる