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第八章 異世界人の最後
44.イレギュラー
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蛇の神、そして呼び出された水神、俺とジョアンナ、ついでにきつねの神も呼び出され机を囲んで睨み合っていた。
「あの…… 一応ここってアタシの家で人間の住まいなんだけど……
神様が三人も来ちゃって…… これって幸運なの? 不運なの?」
「我らのような尊い存在が来たのだから幸運に決まっておる。
それとも自身で招いておいてなにか不満でもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど…… 状況がわからないと言うか……
なんで集合したまま黙ってるの?」
そこへもう一人神がやってきた。それは想定していた通りンダバーの神である。おそらく俺に対して行ったことの糾弾がこの場でなされるのだろう。ジョアンナももちろんそんなことは承知しているのだろうが、重苦しい雰囲気に黙っていられなかったと言うところか。
「よし、これで役者は揃ったな、では始めるとするかの。
ここで事実や経緯をあれこれ並べ立てる気はない。
今後の処遇について伝えるのみじゃ」
「つまりンダバーの神と水神が叱られるということだな。
神のくせに決まりを護らないからそうなるのだ、ああ、愉快愉快」
「これ、笑い事ではない、お主も当事者ではないか。
しかも異界の力を振るいおってからに。
まったくとんでもない奴じゃ」
「持っている力を正義のために使わず何の意味があろうか。
神だって同じだろう? その強大な力はひけらかすためだけにあるのか?」
「こら、屁理屈を言うでないわ。
我々の力は不測の事態に陥った際にやむなく使用するものだ。
私利私欲のために使うことなどありえん。
まして自らの保身のために使うなぞ、絶対に許されることではないわ!」
ンダバーの神と水神は首をすくめて怯えている。神にも序列があって、蛇神には頭が上がらないのだろうか。それに引き替え、巻き込まれただけのきつねの神は平然としていた。
「本来であれば誤って死なせてしまった段階で統率神様へ申し出るべきじゃった。
さすればその場で蘇生なり転生なりを判断されたじゃろう。
それを勝手に異界へ飛ばすとはまったく……
そんな身勝手な振る舞い、過去に例がないぞ?」
「いや、それくらいはわかっておる、わかっておったが……
去年も判断を誤って戦争になってしもたし、言い辛かったんじゃよ」
「そんなこともあったのう。
アレでお主は第三位まで降格されたのじゃったな。
自業自得とは言え運が悪かった」
「まさか教皇が信仰を深めよとの天啓をあんなふうに受け取るとはな……」
「一体何が起きたのよ。
神様のせいで戦争になったってどういうこと?」
「いやな、ワシは信者を増やすよう布教に励めと伝えただけなんじゃ。
それが国をを治めていた教皇が、周辺国へ力づくで改宗を迫ってのう。
信心深い教皇が他国へ武力行使するとは、ほんに予想もしていない出来事じゃった」
「あれはお前のせいだったのか。
ハニオリ信仰の隣国が聖国に攻め入られたと聞いた時は驚いたもんだ。
俺も参戦を打診されたが、宗教戦争なんてばかばかしいもの行かなくて良かった」
ンダバーの神はますます縮こまりバツが悪そうにしている。それを見た蛇神が舌をペロッと出し入れしてから再び言葉を紡ぐ。
「まあそれはそれとして、いきなり異界へ飛ばしたのは不味すぎたな。
しかもこやつはンダバーでも指折りの戦士じゃ。
いなくなったと知れたら世界の武力均衡が崩れかねんと思わなかったのか?」
「いや、まあ、なんとかなるじゃろうと……
ほんの出来心なんじゃ、これ以上の降格はかんべんしてくれ」
「まあ第三位の下は精霊になってしまうからのう。
さすがに降格は仰せつかってないが、国は取り上げで副神からやり直しじゃよ」
それならまだマシと言うことなのか、ンダバーの神は胸をなでおろし表情もほころんだ。だがそんなことはどうでもいい。
「なあ、神同士の話なら勝手にやってくれないか?
俺たちはこれから晩飯を食うはずだったんだがな」
「だから当事者がそんな気楽なことを言うでないわ!
お主にはンダバーへ戻ってもらう。
そうでないとブオプオの国が弱すぎて大規模な戦争が起きかねんのじゃ」
「断る!」
「即答するんじゃない!
これは決定事項で拒否権は無い。
もちろん戻るにあたっては以前同様の力に加えて今持っている力もそのままにしてやろう。
武に関して言えば間違いなく世界最強じゃぞ?」
「それでも断る!」
「だから決定事項と言っておるじゃろうに!
お主がなんと言おうと今ここでンダバーへ飛ばしてしまえば抵抗できんわい」
「なんと言われようが断る!
お前が俺を飛ばすのは勝手だ。
しかしそれではンダバーの神がやったことと同じではないか!
つまり蛇の神よ、お前も倫理に反していると言うことだ!
神だから何をしてもいいわけではない、力をむやみに使ってはいけない、だったな?」
「この屁理屈小僧め……
お主だってこの世界では力を発揮することが出来ず悩んでおったではないか。
ンダバーへ帰れば好きなだけ力を振るえるのだぞ?」
「俺はそんなこと望んじゃいない。
俺の祈りを聞いたのならその望みはわかっているはずだ」
「いや、だがな……
優秀な頭脳と金を稼ぐ手段を寄こせとは欲深すぎるじゃろ。
せめて目の前の勉学くらいしっかりとやってから願うべきじゃないか?」
「願いとは無理難題を言う物だろう。
自分の力で何とかなるなら神なぞいらん!」
「そうよそうよ!
自分たちの都合で人を行ったり来たりさせるなんておかしいわよ!
いいからこのままにしておいてよ!」
「こんな危ない男、このままにしておけるわけなかろう!
地球の規格をはるかに超えた世界の人間なんじゃぞ?
過去をさかのぼっても同程度の力を持つ物は数人しかおらん」
「えっ!? こんなトンデモない人が他にもいたんだ……
マジあり得ないでしょ」
「歴史上の人物だが知らんのか?
ゴリアテやヘラクレス、日本だとでーだらぼっちや金太郎などじゃな。
まあ両手で数える程度にはいたが、それでもこやつには到底及ばん」
「なんかヤバソーな人たちじゃん。
ていうか、金太郎が実在してたなんて、そっちのが衝撃的よ」
「そんなことはどうでもいい!
とにかくこやつは元の世界へ戻す、黙って連れて行かないだけでも感謝せい。
娘っ子の願いをかなえることはできんがせめてもの配慮じゃ」
「ジョアンナの願い? それは一体どういうことだ?
わざわざ石碑を建てて祈っていたのは俺に関することだと言うのか?」
「ちょっと、余計なこと言わないでよ!
いくら神様だって空気くらい読めるでしょうに!」
「あ、ああ、すまん。
神へ祈るほど一緒にいたいなんて随分けなげだと思っておってな。
つい口がすべってしまったわい」
「だーかーらー! なんで言っちゃうのよ!」
ジョアンナは顔を真っ赤にして怒っていた。そりゃあんなものをわざわざ建てておいてその程度の願いとは、知られて恥ずかしいに決まっている。俺のように高尚な願いならまだしも、だ。
「まあ話はこんなところで終わりじゃな。
元凶のンダバー神は副神へ降格、共謀した水神は第二位へ降格じゃ。
稲荷は厳重注意ですますが、今後は報告の義務を怠るでないぞ」
叱られた三人の神は蛇に向かって傅いていた。こいつはどうにも偉そうで気に入らない。しかもこれから俺をンダバーへ戻すと言い、こちらの意見も聞かずに強行するというのだ。
「では娘っ子よ、別れの挨拶をする時間を与えよう。
その後は記憶からも抹消するからそのつもりでな」
「なんでよ! そんなの嫌に決まってるじゃん!
いくら神様だからって横暴すぎるわよ!
そんなことされたらこの世から信仰心が失われるまでディスって周るんだからね!」
「まったく無茶を言いおる。
覚えていないのだからそんなことできるはずなかろう。
ほれ、最後になにか言ってやるがいい」
「うみんちゅ…… 本当に帰っちゃうの?
アタシも忘れちゃうしうみんちゅも忘れちゃうの?
嫌だよ、そんなの絶対に嫌だよ……」
ジョアンナは大粒の涙をボロボロと流しながら俺にしがみついてきた。蛇神の言うことに逆らうことはできず、絶対の決定事項だと言われている。俺はジョアンナを抱きしめてから呟いた。
「ジョアンナ、その言葉とても嬉しく思うよ。
それを聞いておれも決心がついた。
すまんな……」
俺はジョアンナから離れ蛇神へと正対した。すると蛇神は口を大きく開き、俺に向かって光の球を発射したのだった。
「あの…… 一応ここってアタシの家で人間の住まいなんだけど……
神様が三人も来ちゃって…… これって幸運なの? 不運なの?」
「我らのような尊い存在が来たのだから幸運に決まっておる。
それとも自身で招いておいてなにか不満でもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど…… 状況がわからないと言うか……
なんで集合したまま黙ってるの?」
そこへもう一人神がやってきた。それは想定していた通りンダバーの神である。おそらく俺に対して行ったことの糾弾がこの場でなされるのだろう。ジョアンナももちろんそんなことは承知しているのだろうが、重苦しい雰囲気に黙っていられなかったと言うところか。
「よし、これで役者は揃ったな、では始めるとするかの。
ここで事実や経緯をあれこれ並べ立てる気はない。
今後の処遇について伝えるのみじゃ」
「つまりンダバーの神と水神が叱られるということだな。
神のくせに決まりを護らないからそうなるのだ、ああ、愉快愉快」
「これ、笑い事ではない、お主も当事者ではないか。
しかも異界の力を振るいおってからに。
まったくとんでもない奴じゃ」
「持っている力を正義のために使わず何の意味があろうか。
神だって同じだろう? その強大な力はひけらかすためだけにあるのか?」
「こら、屁理屈を言うでないわ。
我々の力は不測の事態に陥った際にやむなく使用するものだ。
私利私欲のために使うことなどありえん。
まして自らの保身のために使うなぞ、絶対に許されることではないわ!」
ンダバーの神と水神は首をすくめて怯えている。神にも序列があって、蛇神には頭が上がらないのだろうか。それに引き替え、巻き込まれただけのきつねの神は平然としていた。
「本来であれば誤って死なせてしまった段階で統率神様へ申し出るべきじゃった。
さすればその場で蘇生なり転生なりを判断されたじゃろう。
それを勝手に異界へ飛ばすとはまったく……
そんな身勝手な振る舞い、過去に例がないぞ?」
「いや、それくらいはわかっておる、わかっておったが……
去年も判断を誤って戦争になってしもたし、言い辛かったんじゃよ」
「そんなこともあったのう。
アレでお主は第三位まで降格されたのじゃったな。
自業自得とは言え運が悪かった」
「まさか教皇が信仰を深めよとの天啓をあんなふうに受け取るとはな……」
「一体何が起きたのよ。
神様のせいで戦争になったってどういうこと?」
「いやな、ワシは信者を増やすよう布教に励めと伝えただけなんじゃ。
それが国をを治めていた教皇が、周辺国へ力づくで改宗を迫ってのう。
信心深い教皇が他国へ武力行使するとは、ほんに予想もしていない出来事じゃった」
「あれはお前のせいだったのか。
ハニオリ信仰の隣国が聖国に攻め入られたと聞いた時は驚いたもんだ。
俺も参戦を打診されたが、宗教戦争なんてばかばかしいもの行かなくて良かった」
ンダバーの神はますます縮こまりバツが悪そうにしている。それを見た蛇神が舌をペロッと出し入れしてから再び言葉を紡ぐ。
「まあそれはそれとして、いきなり異界へ飛ばしたのは不味すぎたな。
しかもこやつはンダバーでも指折りの戦士じゃ。
いなくなったと知れたら世界の武力均衡が崩れかねんと思わなかったのか?」
「いや、まあ、なんとかなるじゃろうと……
ほんの出来心なんじゃ、これ以上の降格はかんべんしてくれ」
「まあ第三位の下は精霊になってしまうからのう。
さすがに降格は仰せつかってないが、国は取り上げで副神からやり直しじゃよ」
それならまだマシと言うことなのか、ンダバーの神は胸をなでおろし表情もほころんだ。だがそんなことはどうでもいい。
「なあ、神同士の話なら勝手にやってくれないか?
俺たちはこれから晩飯を食うはずだったんだがな」
「だから当事者がそんな気楽なことを言うでないわ!
お主にはンダバーへ戻ってもらう。
そうでないとブオプオの国が弱すぎて大規模な戦争が起きかねんのじゃ」
「断る!」
「即答するんじゃない!
これは決定事項で拒否権は無い。
もちろん戻るにあたっては以前同様の力に加えて今持っている力もそのままにしてやろう。
武に関して言えば間違いなく世界最強じゃぞ?」
「それでも断る!」
「だから決定事項と言っておるじゃろうに!
お主がなんと言おうと今ここでンダバーへ飛ばしてしまえば抵抗できんわい」
「なんと言われようが断る!
お前が俺を飛ばすのは勝手だ。
しかしそれではンダバーの神がやったことと同じではないか!
つまり蛇の神よ、お前も倫理に反していると言うことだ!
神だから何をしてもいいわけではない、力をむやみに使ってはいけない、だったな?」
「この屁理屈小僧め……
お主だってこの世界では力を発揮することが出来ず悩んでおったではないか。
ンダバーへ帰れば好きなだけ力を振るえるのだぞ?」
「俺はそんなこと望んじゃいない。
俺の祈りを聞いたのならその望みはわかっているはずだ」
「いや、だがな……
優秀な頭脳と金を稼ぐ手段を寄こせとは欲深すぎるじゃろ。
せめて目の前の勉学くらいしっかりとやってから願うべきじゃないか?」
「願いとは無理難題を言う物だろう。
自分の力で何とかなるなら神なぞいらん!」
「そうよそうよ!
自分たちの都合で人を行ったり来たりさせるなんておかしいわよ!
いいからこのままにしておいてよ!」
「こんな危ない男、このままにしておけるわけなかろう!
地球の規格をはるかに超えた世界の人間なんじゃぞ?
過去をさかのぼっても同程度の力を持つ物は数人しかおらん」
「えっ!? こんなトンデモない人が他にもいたんだ……
マジあり得ないでしょ」
「歴史上の人物だが知らんのか?
ゴリアテやヘラクレス、日本だとでーだらぼっちや金太郎などじゃな。
まあ両手で数える程度にはいたが、それでもこやつには到底及ばん」
「なんかヤバソーな人たちじゃん。
ていうか、金太郎が実在してたなんて、そっちのが衝撃的よ」
「そんなことはどうでもいい!
とにかくこやつは元の世界へ戻す、黙って連れて行かないだけでも感謝せい。
娘っ子の願いをかなえることはできんがせめてもの配慮じゃ」
「ジョアンナの願い? それは一体どういうことだ?
わざわざ石碑を建てて祈っていたのは俺に関することだと言うのか?」
「ちょっと、余計なこと言わないでよ!
いくら神様だって空気くらい読めるでしょうに!」
「あ、ああ、すまん。
神へ祈るほど一緒にいたいなんて随分けなげだと思っておってな。
つい口がすべってしまったわい」
「だーかーらー! なんで言っちゃうのよ!」
ジョアンナは顔を真っ赤にして怒っていた。そりゃあんなものをわざわざ建てておいてその程度の願いとは、知られて恥ずかしいに決まっている。俺のように高尚な願いならまだしも、だ。
「まあ話はこんなところで終わりじゃな。
元凶のンダバー神は副神へ降格、共謀した水神は第二位へ降格じゃ。
稲荷は厳重注意ですますが、今後は報告の義務を怠るでないぞ」
叱られた三人の神は蛇に向かって傅いていた。こいつはどうにも偉そうで気に入らない。しかもこれから俺をンダバーへ戻すと言い、こちらの意見も聞かずに強行するというのだ。
「では娘っ子よ、別れの挨拶をする時間を与えよう。
その後は記憶からも抹消するからそのつもりでな」
「なんでよ! そんなの嫌に決まってるじゃん!
いくら神様だからって横暴すぎるわよ!
そんなことされたらこの世から信仰心が失われるまでディスって周るんだからね!」
「まったく無茶を言いおる。
覚えていないのだからそんなことできるはずなかろう。
ほれ、最後になにか言ってやるがいい」
「うみんちゅ…… 本当に帰っちゃうの?
アタシも忘れちゃうしうみんちゅも忘れちゃうの?
嫌だよ、そんなの絶対に嫌だよ……」
ジョアンナは大粒の涙をボロボロと流しながら俺にしがみついてきた。蛇神の言うことに逆らうことはできず、絶対の決定事項だと言われている。俺はジョアンナを抱きしめてから呟いた。
「ジョアンナ、その言葉とても嬉しく思うよ。
それを聞いておれも決心がついた。
すまんな……」
俺はジョアンナから離れ蛇神へと正対した。すると蛇神は口を大きく開き、俺に向かって光の球を発射したのだった。
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