異世界からやってきた、自称・王国最強のハラペコ戦士とギャルJKのおかしな同居生活

釈 余白(しやく)

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第六章 初めてのカチコミ

29.川の流れのように

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 帰り道、俺はジョアンナに蹴り飛ばされながらブツブツと言い訳をするだけだった。どうしても食べたかったから便所へ持ちこんでしまい、やはり駄目なことだと戻すつもりだったが床に落としてしまったので仕方なく始末したと。

「そんな言い分が通るわけないでしょ!
 アンタのプリンはアタシが貰うからね」

「うむ、残っているならそれも致し方なし。
 だがプリンはすでに腹の中だ。
 そんなに文句を言うなら姫も一緒に柳の家へ行けばよかったのに……」

「そんなことできないわよ。
 知らない後輩の家に押しかけたなんて人に知れたら、なんて言われるかわかんないもん」

「何を言われても食わせてもらったもん勝ちじゃないか。
 そうだ、その件でも相談があったんだ。
 まあそれは後回しでいい。
 問題はこれからどうするかなんだがな?
 奴らを連れてアジトへねじ込もうと思ってる。
 計画通りに進めば姫の苦しみを取り除くことが出来るはずだ」

 これにはジョアンナも驚いたのか、俺の尻を蹴る動きが止まりすぐに横へと駆け寄ってきた。どうやらいきなり否定せずに話は聞いてくれるらしい。俺は計画を話していく。

「そんなことうまくいくのかしら……
 でも大騒ぎになったら警察が大勢で来ちゃうわよ?」

「問題ない、一つは大暴れする必要はないからな。
 それにいざという時に姫はネコになればいいから万一の危険もない」

 家につくと、捕らえた三人はまだ魂砕の効果が残っているようで、無抵抗のまま床に転がっていた。念のためもう一度まとめて薙ぎ払い、更なるダメージを与えておくことにする。

「はあ、本当に斬れないのね。
 これなら怪我することもなくて安心、なのかな……
 精神的ダメージってあとあとまで尾を引きそうね」

「悪人なのだからそれくらい丁度いいさ。
 問題はこんな木端たちが最上位の場所まで知っているかどうかだな。
 まあいざとなったら片っ端から斬り捨てて行けばいいか」

「マジでさ、大騒ぎにならないよう頼むよ?
 本当にママを助けられるって言う言葉、信じてるんだからね」

「うむ、母上殿の気の迷いもまとめて斬り捨ててやるさ。
 目を覚ませばきっと一緒に帰ってくるはずだろ?」

 ジョアンナは拳を握りしめながら力強く頷いた。そういう態度を見せてくれると俺も気合が入ると言う物だ。やはり誰かのために戦うのはいい。自分自身がただ単純な強さを持ってしまってから、何のために剣を振るうのか目的を失った面もある。だがこうして誰かのために振るう剣は、間違いなく必要とされているものなのだ。

 三人の縄を解いてアジトへの案内を命じると、全員素直に歩き出した。この輩どもの遊び仲間なだけでグループのメンバーではないという女は途中で解放し、残り二人をせかすようにしてぞろぞろと歩いていった。


 すっかり夜の装いとなった繁華街に入ると、流石に子供二人がチンピラの後ろについていく姿が目立ってきてしまうが、まあ周囲に似たようなガキもいるわけだから気にしすぎだろう。しかし補導には気をつける必要があるので、その手の専門家であるジョアンナに目を光らせてもらうよう伝えてあった。

「あ、あの…… そこのホストクラブの三階が俺らのたまり場です。
 俺たちみたいな下っ端はリーダーの兄貴はどこにいるか知らないんです。
 ですが、この店の店長は直属の幹部なんで居場所や事務所を知ってるはずです」

「よし分かった、お前たちはどこかへ行っていいぞ。
 警察署へ行って今まで行った悪さを白状し、身柄を保護してもらうのもいいだろう。
 お前らのグループは今日で無くなるんだからな」

 男二人はひいい、と情けない声を上げながら走り去っていく。そんなに気が弱いなら悪事に手を染めなければいいと誰しも思うだろう。しかしそうでもしないと生きて行かれないやつらがいるのも確かだ。

 別に同情はしないしそれ以外の生き方が無いのだから仕方ない、なんて言うつもりはなく、水が高いところから低いところへ流れていくように、人間は楽なほうへと進むことを知っているだけである。しかし逆へ進むことが出来るのもまた人間なのだ。

 物心つく前から一緒に育ち、共に剣の修行をしながらも悪へと堕ちて行った物乞い仲間たちのことを、俺は今更ながら思い出していた。

「それじゃ姫は猫になってカバンの中にいてくれ。
 母上殿のところまで行ったら解除して説明し連れ帰ろうじゃないか」

「うん、わかったわ。
 事前に確認してなかったけど、猫になってもしゃべれるのかしらねぇ。
 大体本当に変身できるかどうかも疑わしいし……」

「動物変化はそれほど珍しい魔法じゃなかったから平気だろ。
 精神統一をして願うだけだと言う話だし。
 俺は使えないから詳しくわからんがな」

「まったく親切なんだか適当なんだかわからない答えね。
 それじゃやってみるよ?」

 緊張しているのか目をつぶりゆっくりと深呼吸をした瞬間、ジョアンナのいた場所に白と濃紺という変わった色のブチ猫が鎮座していた。

「なにこれ? 考える間もなく変身しちゃったじゃない。
 これうかつに考えちゃったらヤバイわねぇ。
 あ、アタシのしゃべってるの聞こえる?」

「うむ、なかなか愛らしい姿じゃないか。
 色は少々変わっているが、これは着ていた物の色と同じかもしれん。
 変化前に考えておかないと少々目立ってしまうかもしれんな」

「でももうどうにもできないから仕方ないわよ。
 それじゃカバンへ入れてもらうわね」

 猫らしく身軽に飛び乗ってくると、俺が開けたカバンへするりともぐりこむ。その身のこなしは完全に猫のそれだ。動物はなんでも食べる対象としてきたような俺でも、猫を食べたことはなかった。数がそう多くなく可食部が少ないわりに捕らえにくいという理由ではあるのだが、これはジョアンナには内緒にしておこう。

 俺はジョアンナ入りのカバンを小脇に抱えながら、ド派手な装飾が光狂っている店へと近づいた。一体どういう理由でこんなに派手に点滅したり色が変わったりしているのだろうか。扉の上方部には誰かの顔写真が並べられている不思議な光景だ。

「これは祖母殿たちのように亡くなったものに祈りを捧げるための物か?
 それにしては人数が多すぎるな、戦争の後だろうか」

「ちょっとこんなバカヤローたちと一緒にしないでくれる?
 これはね、女の子がこの男たち目当てにやってきてお金を巻きあげられる店よ」

「つまりは広告塔と言うことか。
 だが女が男目当てで飲みに行くとは、色々と変わった仕事があるもんだなぁ。
 考えてみれば男が女目当てで飲みに行くのを逆にしただけだから不思議ではないのか」

 俺が一人頷いていると、店の前にいたガラの悪そうな男が近寄ってきた。

「おい、ここはガキの来るところじゃねえんだ。
 商売の邪魔だ、とっととお家へ帰りやがれ」

「そんなにガラが悪いと客の女が近づかないぞ。
 ここの偉い奴はその程度もわからないお前を部下に置いておくなんて随分と慈悲深いんだな」

「んあだとこのガキ!
 舐めたこと言ってんじゃあねえよ、痛い目にあいてえのか!」

 返事をするのも面倒になるくらい聞き覚えのあるセリフに呆れながら、俺はこのマヌケそうな男を一刀両断にした。この後どうなるかはわからんが、長く構う価値の無い男を後にして店の扉をくぐった。
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