上 下
25 / 46
第五章 学園入学

25.ちょっとした人気者?

しおりを挟む
 思いがけぬこの扱いに、俺はどう対処すればいいのか戸惑っていた。横に座っているジョアンナはただただ笑っているばかりで助けてくれそうにない。

「海人君、どうして女子校に入ってきたの?
 どうやったら入学できるの?」
「やっぱりなにかコネがあったんでしょ?
 女子校に男子一人ってどういう気分なの?」
「趣味とかは? 普段は何して過ごしてるの?
 今まで学校行ってなかったらしいけど、もう体調は良くなったの?」
「ね、ね、一緒に写真とろ?
 ハイここ見て、変顔しちゃだめだからね」
「ええー海人君ってばプリンが好きなの?
 なんかカワイー!」

 なぜだかわからんがとにかくもみくちゃにされて落ち着いて飯も食えん。最初に教室へ入った時の視線は場違い間で痛いように感じたのだが、実際には興味を持って迎え入れてもらっていたようだ。

 今までちやほやされたことがないわけじゃないが、それは見た目や物珍しさからではなく純粋に強さからだった。しかしこちらの世界では強さなど大した役にはたたないと言うことが分かってきた。それよりも見た目に始まる好感度が重要なのだろう。

 まあ不安視していたよりも学校生活に馴染むのは早いかもしれないのでその点ではホッとしている。こんな盛況も毎日続くはずもないし、見慣れてくれば徐々におさまるだろう。

「すごいね、うみんちゅったらメッチャ人気者じゃん。
 あーあ、なんだかちょっと嫉妬しちゃうかもしれないなー」

「ひ、ジョアンナ、からかうのは止めてくれ。
 俺が望んでいるわけでも無いし、今は昼飯を食うことに集中したいのだが……」

「早く食べちゃわないと午後の授業始まっちゃうもんね。
 でも心配していたよりもすぐに受け入れてもらえそうで安心したよ。
 学園創設初の男子生徒だって言われてたもんね」

「本当にこれで良かったのか?
 飯に釣られて選択を間違えたんじゃないかと思ってるんだが」

「まあなるようになるよ。
 それよりも授業についていけないと思うからそこが心配かな。
 わからないところあったら家で見てあげるからね。
 こう見えてもアタシって結構成績いいんだから」

「大きな声では言えないが、午前中の英語はバッチリわかったぞ。
 社会はあまりわからなかったが図書館で覚えたことがいくつかあったので平気そうだ。
 問題は数学と言うやつだな。
 俺は足し算と引き算と割り算と掛け算しかわからんので難解だった」

「そっか、四則演算ができれば後は応用力だから何とかなるよ。
 帰ってから教えてあげるね。
 でも英語がパッチリって言うのは意外だなぁ。
 もしかして……」

「うむ、異国語だろうがなんでも翻訳されて頭に入ってくるのだ。
 おそらく俺は今でも元の世界の言葉を話しているのだろうな」

「自動翻訳ってわけだ、ずっるー。
 アタシもそれ付けてもらえば良かったな。
 呼び出してお願いしようかしら」

 神が言っていたが人間の欲に際限がないと言うのは本当だな。それほど欲深いように感じられないジョアンナでさえこうなのだから、あの輩(やから)たちのような悪人の欲がどれほどのものなのか想像するだけで頭が痛くなる。

 昼飯を食った後も騒ぎは収まらず、休み時間には他のクラスからも人が集まってきて大変だった。仕舞には教師が見回りにやってきて追い返したり、緊急の席替えと言うのが行われ通路から一番遠い席へと移動させられたりした。

 ようやく授業がすべて終わりホッとしていたのだが、それもつかの間、クラスメイトに寄り道へと誘われてしまった。どうしていいかわからず悩んだ末、ジョアンナへメッセを送り助けを呼んだ。

「なになに? どっか寄り道するんだって?
 みんな誘ってくれてありがとなんだけどさ。
 まだこの子のお小遣いとか決めてないのよ。
 だからまた今度誘ってくれるかな?」

「でも先輩、お金無くても平気ですよ。
 私の家、すぐ近くで父が喫茶店やってるんですけど、いつもたまり場にしてるんです。
 心配なら先輩も一緒に来ますか?」

「えー、中学生の仲良しに割り込むのは悪いよ。
 それに勉強も見てあげないといけないし今日は連れて帰るよ」

「そっか、学校初めて通うって言ってましたもんね。
 それも平気です! 母が六文式の教室やってるから教材とかもありますよ!
 数学が難しいって言ってたし、私教えてあげますから!」

 むう、この柳と言う娘の丹力は侮れん。ジョアンナ相手に一歩も引かないとは驚くべきことだ。だがなぜこんなにも強引に俺を連れて行こうとするのかがわからない。もしかして何か秘密があると嗅ぎつけてのことではないだろうな?

「わかったわ、そこまで言うなら行ってらっしゃい。
 学校から近いみたいだから平気だと思うけど、帰りに迷わないようにね」

「うむ…… わかった。
 それで喫茶店と言うのは一体なんなんだ?」

「そのまんまの意味よ?
 お茶を飲むところ、と言ってもコーヒーだったりケーキがあったりとかだけど」

「それならば家でいくらでも飲めるじゃないか。
 わざわざ店で出すなんて変わったことをするもんだな」

「海人君、それは違うよ?
 喫茶店で提供するのはコーヒーや紅茶だけじゃないの。
 ゆっくりと過ごす時間と雰囲気を提供するものなのよ。
 それにパフェやプリンアラモードみたいな甘いスイーツだってあるんだからね。
 今日はお近づきの印に好きなものご馳走しちゃう」

 これで俺の心は完全に決まったと言えるだろう。柳とは仲良くするに限る。取り巻きが大勢いて面倒そうではあるがまあいつも全員ついてくるわけではないだろう。

「あら良かったわね、ご馳走されてきなさいよ。
 きっと家では食べられないすごいご馳走だからね」

「九条先輩? なにかトゲがありませんか?
 やっぱり連れて行かれたくない理由があるんでしょうか。
 無理やりになってしまうなら私諦めます……」

「違う、違うってば。
 う、海人ったらいやしいから食べ物にすぐ釣られちゃうのよ。
 だからからかって言ってみただけであなたのことを責めたりはしてないから安心して」

 なんだかたじたじになっているジョアンナを見るのは初めてでおかしくなってしまう。そんな考えが顔に出ていたのか、ジョアンナと目が合った際、思いっきり睨まれてしまった。これは後が怖そうである。

 だがそれでも甘いスイーツと言うものに惹かれて理性を保っていられなくなった俺は、背中に羽が生えたような気分で柳たちの後について喫茶店とやらへ向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
 人魔戦争。  それは魔人と人族の戦争。  その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。  勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。  それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。  勇者は終戦後、すぐに国を建国。  そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。  それから25年後。  1人の子供が異世界に降り立つ。      

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...