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第二章 主従関係確立

10.屋敷

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 道中で多少想定外の出来事はあったが、ようやくジョアンナの、正確には祖母殿の残した屋敷へと到着した。石造りでも丸太積みでもない変わった造りの家だが、鎧のような装飾が施されているところを見ると武人が設計したのかもしれない。

「ちょっと、なにをそんな熱心に眺めてるのよ。
 表のシャッターはさびてるから開け閉め大変なの。
 だから今は玄関こっち、右手の奥が入り口だからね」

「シャッターと言うのはこの重ねた鎧のような砦のことか?
 強度は大したこと無さそうだが鉄板の加工が信じられないくらいに薄いな。
 これを鎧にできれば相当身軽に動けそうだ」

「はあ、ホントなんでも戦うことに結び付けたがるのね。
 普通に生活してたら誰かと戦うことなんてないわよ。
 とはいってもすでに今日だけで二度もあったけどさ……」

「降りかかる火の粉は払わなければならない、当然だ。
 しかし怪我すらさせてはいけないなんて却って難儀なことだな。
 この国の仕組みは大分理解してきたつもりだが、なぜ野放しにしておくのだ?」

「野放しってことはないよ。
 犯罪者ならオカさんたちみたいな警察が捕まえるよ。
 でも全員捕まえられるとは限らないし、法にも抜け道があるからなんでも逮捕できないってば」

「つまり暴力を振るえば俺が捕まってしまう可能性がある?
 ちなみにさっき姫様がやっていた何かの取引はどのくらいの罪なのだ?
 中年男から何か受け取っていただろう? だが薬物は止めておけよ?」

「何言っちゃってんの? 取引なんてしてないよ?
 さっきのはパパ活って言って、おじさんとデートしてお金貰ってるの。
 今日はチップ貰っちゃったから少しだけ身入りが良かったんだー」

「なにを言ってるかわからない部分があるんだが?
 デートと言うのは街を歩いて回っていたことか?
 とすると、何かの作戦を手伝って金を貰う仕事のようだな。
 街を回る意味はなんだ? 魔方陣を描くのか? それとも結界を探るとか?」

「アタシのほうがよほど何言われてるか理解できないよ。
 デートって言うのは、つまりお茶したり散歩したりして恋人みたいにしてあげるってこと。
 そうすると気分が良くなるおじさんがお金払ってくれるって仕事よ」

「はあ? そんなバカなことがあるのか?
 自分の女でもないものとただ歩いて何が楽しいんだ?
 しかもそれに金を払うとは…… まぐあいもしないのに?」

「まぐあいって…… そういうことする子もいるわよ。
 でもアタシはそんなことしたくないし、今貰える分だけで十分なの」

「なるほど、それが姫様の仕事と言うわけか。
 だがやりたくてやっているようには見えないな。
 傍目には楽なことに見えるが、精神的負担が軽いとは限らんだろう」

「なんでアンタそんなこというのよ……
 どう見てもアタシより年下のくせにおっさんみたいな口調でさ……」

 そこまで言うとジョアンナは声を殺しながら泣き出した。あいにく俺にできるのはこの貧相な腕で抱きしめてやることくらいだが、それでもコイツには十分だったのか、身体を預け泣き崩れるのだった。

「なんだ、やっぱり辛いことがあるんじゃないか。
 俺に出来ることがあるかもしれんし、遠慮せずに頼ってみろ。
 その囚われている誰かを救い出せばいいのか?」

 ジョアンナは小さく首を振ると俺の服を掴んで鼻をかんだ。その跡を見るとべったりと涙や鼻水がついている。だがこれは男として名誉の証(あかし)とでも言えよう。

「ううん、大丈夫、ご飯食べよ。
 アタシはパスタ温めるけどうみんちゅはどれ食べる?
 温めてあげるよ」

「それではさっきから気になっていたこの饅頭と串焼きを頼む。
 あと姫様が言っていたやつ、なんだアレ、器になにかが封入されているという――」

「カップラーメンね、どれがいいかなー
 おススメはとんこつ醤油だけど、あっさりしたのがいいならタンメンもいいよ?
 野菜は好き? それともやっぱり肉派かな」

「俺はヤギでも牛でもないのだから野菜は食わん。
 肉になる動物は野菜を食べているんだから、肉を食えば全部食べたことになるはずだ」

「なにそれ、そんなわけないでしょ、へんなのーあっははっ。
 じゃあ肉まんとバラ串とパスタを入れてっと。
 あとはお湯わかさないとね」

 そういうと突然壁から水がわき出て来て、その水を鉄瓶へ注ぎ込んでいる。それを焜炉(こんろ)のような台の上に置いたと思った突然火がついたではないか。

「おい! 姫様はやはり魔法を使うのか?
 薪もないのに突然火がおきたし、そもそも壁から水が出て来た仕組みもわからん。
 あれも魔法なのか!?」

「もう、知らないもの見た時にいちいち騒がないでよ。
 この世界には魔法なんて無いからね?
 不思議だと思ったことのたいていは、科学って技術で出来ることだから。
 つまり誰でもできることなの、アンダスタン?」

「あ、あんだす……
 つまり誰でも魔法が使えると言うことか、すごい世界だな。
 厳しい修行を積んできた俺でも大したものは使えんと言うのに……」

「ちょっと!? うみんちゅは魔法も使えるの?
 あんなでたらめな強さだけじゃななく?
 はぁ、ヤバくない? なんかトンデモない子と知り合っちゃった気がするよ」

「子ども扱いはやめてくれ。
 確かに今はこんなナリだが、俺にだって今まで積み重ねてきた年月に対する誇りがある。
 といっても説得力がないのもわかってはいるがな……」

「そっか、ゴメンネ、今度から気をつけるよ。
 でも弟が出来たみたいで嬉しいんだよね
 アタシ一人っ子だからさ……」

「友人とかはいないのか?
 オカの娘とは今も付き合いがあるのか?」

「そっか、そこまでは聞いてないんだね……
 オカさんの娘はサチって言うんだけどさ。
 中学の卒業式の日に亡くなっちゃったのよ……」

「なんと……
 中学と言うのは今の俺と同じくらいでまだまだ子供ではないか」

「そうだよ、あれからまだ二年しかたってないもん。
 なんか変な薬やっておかしくなったやつが学校に乱入してきてさ。
 刃物振り回して何人も怪我したんだよ。
 サチも大怪我してさ、結局そのまま……
 その事件のせいで奥さんはちょっとおかしくなっちゃって今は病院で暮らしてるの」

「それでオカは姫のことを必要以上に心配しているのか。
 さぞつらい思いを胸に抱えたまま生きているのだろうな。
 だがそれでも姫はあの悪人どもに使われ仕事をすることを選んでいる。
 やはり囚われの誰かが関係しているのだろ?
 俺に任せておけ、きっと助け出してやる」

「なに? もしかしてうみんちゅって勘ぐり屋?
 それとも出来もしないのに興味本位で他人の事情を聞きたいわけ?」

「姫がそう言うのなら無理強いはしないさ。
 だが俺にできないと決めつけ諦めているならもう一度考え直してみるがいい。
 力で解決できるものなら力を、そうでないなら出来る限りの努力をすると約束しよう」

「なんでそんな…… なんでそんな親身になってくれるのよ……
 信じてもいいの? でも誰かに裏切られたり捨てられたりするのはいやなの……」

「心配するな、俺の通ってきた武の道は誰かを助けるための物だ。
 それが今ここで使われる時がやってきたと言うだけのことさ」

 戦士として生きてきたこの俺が今までで最高にカッコよく決めた瞬間、突然警報音が鳴り響き俺はジョアンナを庇いながら身構えた。
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