上 下
6 / 46
第二章 主従関係確立

6.初任務

しおりを挟む
 俺が横目で見ていることに気が付いたのか、ジョアンナがこちらを向いた。人がごった返す飯屋の中にいると言うのに建物の外を歩いている人が見えるなんて不思議な造りで落ち着かない。病院にもあったのだがこの透明な壁は魔法障壁や結界のような物だろうか。

「ハンバーガーなんて食べたことないでしょ?
 おいしい? どんなふうに感じるの?」

「何を言ってるんだ?
 肉サンドは今までも普通に食べていたぞ。
 こちらの世界のほうがパンも肉も柔らかいが味は最悪だな。
 どの食い物もポーションみたいな味がしやがる」

「ポーションって薬のことかな?
 化学調味料のせいかしら。
 アンタったら意外に繊細、オーガニックが好みなの?」

「相変わらず何を言ってるかわからん。
 しかし食い物にそう違いはなさそうだな。
 病院で出て来たのも粥だろう?
 味は異なるが食感は似たようなものだったし、果物もヨーグルトも食い慣れたものだ」

「なーんだ、ツマラナイ。
 もっとすごいリアクションを期待してたのにさ」

 奢ってもらっているのでお世辞の一つでも言ってやったら良かったかもしれんが、本当に何の感動もなく見慣れたものを食べたので大げさな表現はできなかった。しかし――

「ぶあっはっ! なんじゃこりゃ!
 魔法か!? 攻撃されたのか!?」

 俺が口にくわえたものを吐き出しながら辺りを見回すと、隣のジョアンナが牛の角を握ったかのごとく得意げににやりと笑った。

「流石にコーラは飲んだことなかったようね。
 それは若い子ならだれでも飲むような一般的な飲み物よ。
 全然魔法なんかじゃないっての」

「コーラ…… というのか……
 今まで食べたどんな果物よりも凄い甘さだな。
 それにこの口の中がやけどしたような強酸攻撃……
 こんなものを体に取り込んで害はないのか?」

「別に毒物じゃないから心配しないのー
 あーオカシぃ、もっと何かないかな。
 本当に別の世界から来たって実感がわいてきて楽しくなってきたー」

 どうにも合点がいかないが、どうやらジョアンナは俺の存在を娯楽か何かと考えているんじゃなかろうか。それでもコイツの言うことを聞いていないと生活がままならないのは事実、今のところはおとなしくしているしかないだろう。

 飯を悔いながらこの世界のことを色々と聞かせてもらうと見えてくるものがあった。人間は十八になるまでは子供とみなされ親の元で保護されながら生きていくらしい。そいつらが同じ場所へ集められ教育を受ける場所が学校であり、魔法や剣術を研鑽するために通うものと仕組みは大差無さそうだ。

 それにしても色々な記憶があると言うのに自分に関するものだけが欠落しているのは一体どういうことなのだろう。名前はいっさい覚えていないし、何者だったのかもあやふやだ。ただ一つ、武を極めんとして修行の旅をしてそれなりに腕が立つことははっきりと覚えていた。

 今のよりどころはこの腕っぷしだけであり、それを買われてジョアンナの配下になったのだから、それが思い込みでないことを願うのみである。

 そしてそれを確かめる機会はすぐにやってきた。

「おい、ジョジョ子、そんなガキと何してんだ?
 昨日はすっぽかしやがってよお。
 今日はちゃんと来るんだろうな、指名が入ってるんだぜ?」

「なによ…… その呼び方やめてって言ってるでしょ!
 それに今は学生タイムなんだから話しかけてこないでよ。
 誰かに見られたら面倒じゃないの。
 昨日だってオカさんに捕まってたんだからね」

「あのお前にご執心なロリコンオマワリか。
 たまにはいい思いさせてやってんのかよ。
 たっぷりサービスするから見逃してえ、なんて言っちゃってんのか?」

「そんなことしないっての!
 見りゃわかるようにデート中なんだからほっといてよ!」

「デートって、うへへへ、笑わせるなよ。
 ガキのお守りでもしているようにしか見えないぜ」

 どうやら話しかけてきたこの男とは良好な関係ではないようだ。しかし仕事に関するやり取りにも思えるので無関係ではあるまい。まあこういう下衆な輩(やから)はどこにでもいるものということか。必要であれば殺ってしまっても構わんだろう。

 俺はジョアンナの足を軽く小突き合図を送った。しかし意図が伝わらなかったのか蹴りかえされてしまいそのままだ。この不快な男はなおもここに留まろうとし、ジョアンナの肩に手を掛けた。

 さすがにこれは捨て置けん。俺は揚げ芋の切れ端を男の顔へぶつけて気をそらそうとした。しかし思いのほか勢いよく飛んでいき眼の上の辺りにあたったようだ。

「痛てえええ、何しやがったコイツ!
 ふざけやがって痛てえ目にあわせっぞ、ゴラアァ」

「ちょっと何してるのよ、コイツに手を出すのはヤバいって。
 普通の人じゃないんだからさ……」

 ジョアンナはなにか心配するように耳打ちをしてきた。俺も小声で言葉を返す。

「事情はよくわからんが嫌がらせを受けているように感じたのでな。
 護衛を仰せつかっているからには手出しはさせぬ」

 しかしジョアンナは立ち上がりカバンから何かを取り出してその男へ握らせている。おそらく金だろう。これ以上騒ぎを大きくしないためということなら悪いことをしてしまった。

「おい、こんなはした金で許されると思ってんのかよ。
 そのガキ置いていけ、立場ってもんを教えてやらねえとな。
 裏へ連れてってしっかりとシメてやるぜ」

「つまり俺とやりあおうって言いたいのか?
 お前程度の小者風情が?」

「ちょっとやめなさいよ、これ以上怒らせてひどい目にあわされたらどうするのよ。
 早くいきましょ、外へ出て逃げちゃえばいいんだからさ」

「なぜ逃げるんだ?
 こいつは犯罪者のように思えるんだが、警備兵は取り締まらないのか?
 やってしまって構わないならこの場で懲らしめてやれば良かろう」

「ごちゃごちゃうるせんだよ!
 この辺りで舐めた真似してタダで済むと思うなよ」

 やれやれ、こういう輩は台詞まで似通って来るものなのか。今まで似たような経験は散々してきているが、やられたことは一度もない。まあなくはないが子供時分までさかのぼる必要がある。

 ジョアンナは心配しているのか俺の背後で服を摘まんで引っ張っている。店内は騒然としているし、この場でやりあうのはおそらくまずいだろう。俺は男の後ろへついていき路地裏へと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...