異世界からやってきた、自称・王国最強のハラペコ戦士とギャルJKのおかしな同居生活

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
2 / 46
第一章 世界を跨いだ出会い

2.そして逃亡

しおりを挟む
 どうしていいのかわからないなんていつ振りだろうか。俺はガキの頃まで記憶を巡らせようと考え込んだが、そもそも自分が誰なのかすらわからないことに気が付いた。ここがどこなのかも重要だが、自分が何者なのかすらわからなければどうすることもできない。

 とにかくこれ以上この女に関わる必要もなさそうだし早くここから退散しよう。さきほどこのジョアンナを痛めつけてしまったことで野次馬が集まってきてしまった。

 しかし時すでに遅し、人込みをかき分け誰かがやってきて、ジョアンナと言う女へ声をかけた。

「おい、九条じゃないか。
 こんなところで何してる、またおかしなことしてないだろうな?」

「おかしなことって何よ!
 いっつもバイトの邪魔ばっかしてさ。
 大体呼んだのは交通課なんだからオカさんは管轄外でしょ」

「そんなことねえさ。
 街で起きてる事すべてに関係あるのが俺たち生活安全課ってやつさ。
 それでその小僧が被害者か?」

「そうなんだけど記憶喪失って言ってるわよ?
 この辺の子じゃないみたいなんだけど、なんかちょっとおかしいのかな」

「こらこら、人のことをおかしいだなんて言うもんじゃない。
 それを言ったらおまえさんだって大概だろうに」

「普通のJKに向かってその言い方ないんじゃない?
 アタシなんてヒンコーホーセーなか弱い女の子ですよーっての。
 それじゃ後はよろしくね、オマーリサン」

「こらこら、お前さんも一緒に来てもらうよ。
 目撃者として調書とらにゃならん。
 今日は補導じゃないから大人しくついてくるんだぞ?」

 事情は分からんし何を話しているのかわからないが、この貧相な警備兵のようなやつらとジョアンナは顔見知りらしい。どうやら連れて行かれることを拒むやり取りのように思える。

「おいジョアンナ、こいつらは何者だ?
 揃いの服装でいるところを見ると、この国の警備兵かなにかなのか?
 一体おまえは何をしでかしたんだ。
 やっかいごとに巻き込まれるのはごめんだぞ?」

「ちょっとあんた何言っちゃってんの!?
 あんたが事故で倒れたから通報してあげたんじゃないのさ!
 やっかいごとに巻き込まないで? 巻き込まれてるのはアタシだっつーの!」

「それはどういうことだ?
 俺は怪我もしていないしこうして動けている。
 もう誰かの手を煩わせることもないだろう。
 それとももしかして対価の支払いを待っているのか?」

「違うわよ! もう、あんたったらホントにおかしな人ね。
 それにそのしゃべり方、もっと中学生らしく話せないの?
 もしかしてそれが中二病ってやつ?」

「なあ九条? こう言っちゃなんだが確かにちょっと変わってるかもしれねえな。
 とりあえず署に連れてって保護しつつ調書取らせてもらうか。
 身元がわかれば親御さんに来てもらうこともできるだろう。
 だからお前さんも一緒に来てくれよ?」

「アタシはいやよ、これからバイトあるもん。
 早くいかないと他の子に取られちゃうかもしれないじゃないの」

「お前な、もっと自分を大切にしろ。
 子供のうちからそんなことするもんじゃないぞ!」

「じゃあ大人になったらいいわけ?
 別に体売ってるわけじゃないし、法律の範囲内なんだからほっといてよ!
 それにそんなアタシを必要としてお金払ってくれるのは大人だよ?
 オカさんだって大人の男なんだしきれいごとばっか言わないでよ!」

 ふむ…… どうやらジョアンナは警備兵に咎められるようなことをしているらしい。体を売るわけじゃないということはジョシコーセーというのがそういう方面の職業なのかもしれない。

 大人の言うことはもっともであることも多いが、生きるために職を選んでいられない立場の人間もいる。この警備兵がジョアンナの生活を支え続けてやれるわけでないならまさに余計なお世話と言うやつだ。そしてそれは俺も同じことで、さてとこれからどうやって生きていくとしよう。まさか盗賊に落ちるわけにもいかん。

 とりあえず警備兵に拘束されたのでは面倒が増えるだけだ。なんとか隙を見て逃げ出すことにしよう。あとのことはそれから考えればいい。見た限り裕福そうな国ではないか。乞食一人食うに困ると言うこともなかろう。ジョアンナと警備兵はまだ押し問答をしている。逃げ出すなら今のうちだ。

 俺は二人が揃って向こうを向いた隙をついて走り出した。すぐに気付かれたがそう簡単に追いつかれるものか。幸か不幸か、鎧を身に着けていないこともあって身が軽い。これならいつもよりさらに速く走れそうである。

 人が多く邪魔ではあるが、隙間を塗って走り出すと全くひと気のないところがある。堀があるわけでもなさそうなのでその広い道へと出て走る速度を上げた。背後ではジョアンナが叫んでいるが何を言っているかは聞き取れない。後ろへ目をやるともう大分離れたようで追いつかれることはないだろう。

 そう思って走る速度を緩めた瞬間、俺の体は何かにぶつかり宙高く跳ね上がった。

「きゃああああ!!」
「誰かはねられたぞ!!!」
「事故だ事故! 救急車!!」

 なんだか周囲が騒がしいが、おそらく俺が馬車にでもはねられたのだろう。うかつ過ぎたが、人が歩いていない道があるということは、この世界では馬車専用の道を設けているのだろう。王国と比べてはるかに栄えてそうな街並みを見て察するべきだったのだ。

 まったく俺としたことが日に二度も馬車にはねられるとは焼きが回ったもんだ。そんな風に反省をしつつ立ち上がってからパンパンと埃を払う。そんなことで時間を取られてしまったため、当然のようにジョアンナたちに追いつかれてしまった。

「ちっ、逃げ損ねたか。
 これ以上の面倒はごめんなんだがなあ」

「あんたが一番騒ぎ起こして面倒増やしてるじゃないの!
 それに今また車にはねられてたけど怪我はない?
 死んじゃったかと思ったわよ」

「この国の馬車は馬が引いていないのだな。
 一体どういう仕組みになってるのだ?」

「あんたの体がどういう仕組みなのか知りたいわよ……
 なんにせよ無事でよかったけど、あなたをはねた方は罪に問われるんだからね。
 警察官の目の前だから言い逃れできなくてかわいそう……」

 結局騒ぎを起こしてしまったのであまり強気にも出られず、ジョアンナと共に街の詰所へと連行されることになった。途中で逃げ出さないよう、ジョアンナに強く釘を刺されたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...