インモラルハイスクール

釈 余白(しやく)

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18.愛に霧がかかる

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 貞岡久美は高波孝のことが好きである。YesかNoか、No。気にはなっている。YesかNoか、Yes。それは恋心である。YesかNoか、No!

『そうだよ、私があんなヤツ好きなわけない!
 あんなイケメン、好きじゃなくたって気になるに決まってる。
 そんなの私だけじゃないし、他にも気にしてる子いっぱいいるの知ってるし』

 はっきり言って一目ぼれだった。というか同じクラスになった女子で、中学が別だったこのほとんどは同じ気持ちだったんじゃないだろうか。初日からクラスの女子に囲まれ、アドレス交換や当日すでに遊びに行く子までいたのだが、それでもおな中・・・の子は微妙に距離を取っているように感じた。

 三日もすれば噂はあっという間に広がり、高波の女癖の悪さは周知の事実となった。とは言っても関係を持ってしまった中にも擁護したり、関係を続けたいと言う子もいてわけがわからない。

 だがそれでも男子と会話すらままならなかった久美にとっての初恋はすぐに冷めることとなる。それからしばらくはなるべく男子には近寄らないように距離を取り、女子とだけ話すようにしていた。

 そうするといつの間にか相談相手になっていたり、信用できると思われたのか秘密を打ち明けられたりするようになった。そして高校生の女子の秘密なんて大抵は男子絡みである。

 すると驚くべきことに、夏休み前にはクラスの女子二十人のうち、九人は高波と関係を持っていると言うことを知ってしまった。さらに二人は彼といつも一緒にいる金子洋介とも関係を持ったらしい。

 久美にとってはおぞましく衝撃的な事実だったのだが、あまり抵抗感の無い女子にしてみれば、どうせ抱かれるならイケメンがいいとか、初めては上手で優しいイケメンがいいとか言っているイケメン好きな子が少なくなかった。そして一度きりの関係で終わっていることに納得している子の多かったこと……

 彼を嫌っている子にも二通りいた。まずは単純に毛嫌いしている子たちでこれは当然で常識的な考えの持ち主だ。久美もどちらかと言えばこっちに属していた。今も大多数はこの警戒して距離を取ってる派である。

 もう一つは関係を持ちながら一度きりで終わり、彼女にしてもらえなかったと言う恨みつらみを語り、周囲へ被害者ぶりをまき散らしている子たちである。弄ばれたと言う気持ちはわからなくもないが、そういう男だと知っていたのにその言いぐさはちょっと違うように感じていた。

 そんな風に、知らなくてもいい情報が自分の元へ集まって来てしまったことが、今度は自分の秘密となってしまい、誰かと話をすること自体が怖くなってきてしまった夏休み直前に事件は起きた。

 ある日、職員室へ勢いよく入っていった高波が、国語教師の河原を殴りつけたのだった。それも一発二発なんてかわいいもんじゃなく、馬乗りになっての滅多打ちである。あとから聞いた話では、高波は父親に格闘技を教わっていたという名の虐待を受けており、小学生のころから腕っぷしは相当のものらしい。

 病院送りになった河原はそのまま退職したのだが、なぜか高波は退学どころか停学にもならなかった。だがその理由を久美は知っていたのだ。

 二組の三田村佳代から聞かされていた、年上の既婚者と付き合っている件、どう考えてもいいように弄ばれてるからやめた方がいいと助言はしたが、その後しばらくして彼女は不登校になった。

 少なからず関わってしまったことから家まで様子を見に行った際、たまたま高波と一緒になってしまったのだ。入学早々に一目ぼれし、速攻で勝手に失恋をした相手で挨拶以外には会話したこともない。なんでこんなところで出くわしてしまったのかと気まずかったが、その時に三田村佳代と高波がおな中だったと知った。

 女子では珍しく普通に接している佳代と、彼女をきちんと慰めている高波の姿を見て、不覚にも優しいところあるのかと感じてしまった久美だった。その日は三人でぎこちないままお茶をしたのだが、そこで三田村佳代の相手が河原だと聞かされた。

 もちろん肉体関係もあり、ちゃんと避妊をしてくれないことが多いと聞いた高波は激怒していた。聞いている方は恥ずかしいので、あまり力強く宣言しないで欲しかったのだが、どうやら彼にとって避妊は絶対で、万一の場合には男に取れる責任なんてない。だから絶対に泣かしてはならない、なにがあろうと労わるべき、使い捨てるようなことは許されないし、女子の笑顔は守られるべき、らしい。

 はい、最初以外、後半はツッコむとこですよー

 とにかく女性にそんな不安を感じさせる男は許せないと、珍しく声を荒げていた姿が忘れられない。ここでもしかしたら二度目の一目惚れをしていたのかもしれない。

 翌日、例の事件が起き、河原は入院退職、高波はお咎めなしで翌日からはまた元気に明るい姿でバカなことばかり言ういつもの姿を見せていた。

 この時から久美は高波と普通に話すようになり、それに伴って女子のアンチ側からは距離を取られ、擁護派と言うかファンの子たちからも疎まれるようになってしまった。

 ああこれはやっぱり恋なのかもなんて舞い上がりつつあった久美が、再度勝手に失恋したのは言うまでもなく、それはあのとき佳代の家に様子見に行って久美が帰った後、高波と佳代はよろしくやってしまっていたことを聞いたからだし、そもそも中学の頃も関係があったことがとどめを刺した。

 だから今でも自分の気持ちがわからない。きっとイケメンだからだけじゃなく優しいこともあるし正義感も持っている。しかも腕っぷしもかなりのものだし、久美にはまだわからないが性的にも魅力的なのだろうと、一部方向性はおかしいけど女子に好かれる要素はすべて持っている。

 つまり魅力的に感じていることは間違いないが、それを受け入れてしまってはダメなのだという久美の清廉潔白さが恋心を認めることを許さず、好きだけど軽蔑しているし、遠ざけたいけど憧れてしまう、纏めるとそんな存在と言うことになる。

 そんなデリカシーのかけらもないサイテーのエロ猿のことだ。

『お前だって嫌いじゃない、ってこともないか、まだ処女ヴァージンだもんな』

 こう続いたのは間違いない。

 家に帰ってからも頭の中に色々なものが溢れて来て全く処理できない久美は、まだしびれが残っているような気がする手のひらを見つめながら、ブクブクと湯船の中へ沈んでいった。
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