限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

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第八章 霜月(十一月)

178.十一月四日 夜 長い説教

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 色々な後処理が行われ、綾乃と夢路が解放されたのは中学生にしては遅い時間の二十時過ぎだった。もちろん迎えにきたどちらの親も顔を真っ赤にして怒り安堵していた。なんと言っても娘が事件に巻き込まれ警察に保護されたと聞かされたのだから平常心でいられるはずがない。

 幸い怪我人は出ておらず、逮捕された男女二人もそれは同様である。なぜ気絶していたのかは所轄の捜査官にはわからなかったが、後日上からのお達しで事件はまるごと県警に引き取られて行ったらしい。

 そしてここ金井警察署の廊下では夢路の母による説教が続いていた。その隣には綾乃の母も仁王立ちしており、さらにその背後には怒り心頭と言った様子の八早月までが待ち構えている。

 実際に調書を取られ処理が終わったのは十八時過ぎだったのだが、もうかれこれ一時間以上に渡り説教が続いていると言うわけだ。ちなみについ先ほどまでは綾乃の母が二人に説教をしており、今は交代して夢路の母の番なのである。

「あなた達はまったくこんな危ないことに手を出して!
 わかっているの? 今回は運よく大ごとにならなかっただけでなのよ?
 一歩間違えれば命だって…… うううう……」

「ごめんなさい…… 本当にごめんなさい、反省してます」
「すいませんでした…… もうしません……」

「本当にわかっているの? しばらくは勝手に遊びに行くのを禁止します!
 学校からもまっすぐ帰ってくるように!
 こうして心配して、遠くから櫛田さんまで来てくれているのよ?
 あなた達が迷惑をかけた人たちのことをちゃんと考えなければダメよ!」

 この二人の説教が長すぎて、顔は明らかに怒っている八早月もすでに飽きが来ていた。この分だと八早月による説教は、おおっぴらに話せないことも含まれるため後日になるだろう。

「まあまあお母さん、もう調書も取り終わってますし帰宅して結構ですから。
 ここは署の廊下ですし、こうして娘さんたちも反省しているでしょう? ね?」

「本当に今回はご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。
 娘たちにはよく言って聞かせますので、どうか補導などは勘弁を」

「いえいえ、今回の件では後日感謝状が出るかもしれません。
 なんと言ってもそこそこ大きな規模の大麻畑を壊滅できたのですからね。
 いやあ、二人ともお手柄ですよ」

「そう言っていただけるのはありがたいですが、娘たちが図に乗ります……
 今回は本当にたまたまうまく行っただけだと言うことを理解させますので……」

 逮捕された二人は武井慶介と内縁の妻である花田小百合といい、有体に言えば半グレである。実は本物の横山はすでに病死していた。実家を飛び出した横山は都会でチンピラに身を落とし、半グレグループの世話になっていたのだが、その仲間だったのが武井である。

 横山が亡くなる直前に遺産のことを聞いた武井は、横山家の身内がいなくなったタイミングを見計らって本人になりすまし移住してきた。目的は財産だったが聞いていた話よりも大分少なく、さすがに土地や山を売却すると足がつくため遊び金を得ることもできない。そこで思いついたのが、人の入らない山を使っての大麻栽培だった。

 だがグループ内での地位争いから大麻利権を奪われそうになり、花田小百合の子供をさらわれてしまった。普通はあきらかに誘拐事件なのだが、被害者も後ろ暗い人間のためおおっぴらには出来なかったと言うわけだ。

 しかし小百合が事件直後に大騒ぎしてしまったせいで近所の住人や警察の知るところとなり、この場所にいられなくなった二人は証拠を隠滅しながら現物大麻を運びだし夜逃げしたと言うのがおおよそのあらましだった。

「ま、まあお母さん方、今日はもうその辺にしてあげてください。
 娘さんたちも疲れているでしょうからゆっくりと休んで、ね?
 いやあそれにしても突然容疑者が気絶して倒れるなんて何があったんでしょうね。
 何にせよ大事に至らなくて本当に良かった」

 刑事の言葉を聞いた綾乃と夢路は、自分たちは真相を知っていると言わんばかりに顔を見合わせ肩をすくめながら笑った。だがその姿を母二人に見られ、また説教を続けさせてしまうのだった。

 そして二十一時前になってようやく母たちの説教は終わりを告げた。幸か不幸か近名井村には駐在所しか無いため、容疑者二人の留置や調書を取るために関係者全員が金井町に戻って来ている。

 地元に帰ってきていた夢路はそのまま母親に連行されるように連れて帰られ、寒鳴親子は八早月が送って行くことになった。夜遅くなってから突然、金井警察署までの迎えを頼むと連絡を受けた板倉だが、いつの間に八早月が一人で遠出していたのかと言う疑問を口にすることはない。

 それでも綾乃たちを送り届けた後にいつもの口調で言葉を紡いだ。

「お嬢? 遅くなる時は上着くらいは着て行った方がいいですぜ?
 いくら風邪を引いたことがないと言っても油断したらいけません。
 社長も心配してましたから、早く帰って安心してもらいましょうや」

「そうね、板倉さんにはいつもお世話になってばかりで申し訳ないわね。
 綿入れ一着贈って誤魔化すのではいくらなんでも悪いわね」

「ああ、それなんですがね、今日の夕方に入荷の連絡がありました。
 さっき引き取ってきて自宅へ置いてありますから確認してくださいな。
 婆さまサイズはなかなかなくて時間がかかってしまいました」

「いつもありがとうございます、板倉さんは本当に博識なので心強いわ。
 ちゃんと自分の分も買ってきてくれたのかしら?」

「ええ、せっかくなのでずうずうしく頂戴しまして感謝です。
 お嬢のコートも見繕ってきましたから気に入ったら着てやってください」

「ああ、うれしいわね、これから毎日学校へ来ていくことにするわ。
 私の服の中で唯一男性に選んでもらったものになるんですもの、素敵だわ」

「あらら、こんなヤサグレのチョイスで申し訳ねえですね。
 でも流行り廃りに左右されない定番なので気に入ると思いやすぜ。
 もちろんお嬢が好まないようなモコモコじゃねえですからご安心を」

「さすがね、帰るのがとっても楽しみだわ。
 お腹も空いてしまったし急ぎましょう、もちろん安全運転でね」

 板倉は「へいっ」と返事をし、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
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