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第六章 長月(九月)
140.九月三十日 午後 続々々・体育祭
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体育祭競技も残りは後二つ。八早月の活躍で大きく点数を稼ぎ二位の三年生クラスを抜かせそうなところまでやって来た。しかしこれから起こることを知っている八早月たち三人は、逆転が無理なことはわかっていた。
「あれだけ大口叩いてたんだから郡上君も上位に入らないと恥ずかしいだろうね。
かわいそうだけど優勝どころか三位以内も無理だろうけどさ。
聞いた話だけど、町の剣道場に通ってる生徒も出るんだって。
陸上部はクラス対抗リレーに出られないのになんかズルいよね」
「その子たちは強いのかしら。
もしそうなら私も出場すれば良かったわ。
まあでも今回は直臣に見せ場を作ってあげましょうか」
八早月と入れ替わるようにスポーツチャンバラ参加者の集合場所へと出て行った郡上大勢は相当息巻いていたらしく、一位を取ると自信満々だったようだ。しかしどうあがいても直臣に勝てるはずもないし、美晴の話だと剣術を学んでいる生徒が数人出るらしいのでいいとこ一桁順位が取れれば御の字と言ったところか。
それでもやる気があること自体はいいことなので、自信過剰過ぎるところがなければ周囲からも好かれるようになり、当人にとってもいい事ばかりなのにと八早月は余計な心配をするのだった。
出場生徒が校庭に勢ぞろいすると、流石人気の花形競技だけあってひときわ大きな声援が送られている。順番にくじを引いた結果、郡上は三回戦で直臣と当たることになった。剣道場へ通っている生徒ともばらけたようで、くじ運は相当いいのだろう。
その直臣は一回戦で同じ三年生、二回戦では剣道着を着た生徒と当たると言うくじ運の悪さだったが、どちらもまったく相手にならず一瞬で決着がついていた。もしかしたら手を抜くのではないかと疑っていた八早月も一安心である。
「はあ、四宮先輩ってなんであんなにカッコいいんだろう。
確かに八早月ちゃんよりは弱いのかもしれないけどさ。
あんな道着来て目立ってる子を簡単にやっつけるなんて他にいないよ」
「まあ確かにすごいよねぇ。
興味の無いアタシでも目を奪われるくらいだし、こりゃライバル増えちゃうな。
同じ書道部だからってのんきに構えてると、いつまでたっても夢なんて相手にしてもらえないよ?」
「なんでハルったらそういう下品なこと言うわけ?
私は尊い先輩が見られればそれでいいんだからね。
まあ先輩と釣り合うのは八早月ちゃんが無理なら綾乃ちゃんくらいじゃない?」
抽選に恵まれた郡上も順調に勝ち上がり、いよいよ三回戦が始まった。順番が進みいよいよ郡上大勢対四宮直臣の一戦が開始された。
「それでは三回戦第二試合を開始します。
双方開始線へ、それではお互いに礼!」
「「お願いします!」」
「構え! はじめ!」
「やあああ!」「はあっ!」『バシッ!!』
「い、一本! 四宮選手の一本勝ち!」
開始0.5秒くらいだろうか、八早月との立ち合い同様勝負は一瞬でついた。直臣は一、二回戦で手を抜いたわけではなく、そこまでする相手ではなかったと言うだけのこと。
八早月に郡上の鼻をへし折れと命じられどうすればいいか考えた末、下手に嬲って恥をかかせるよりも、圧倒的な力量の差で現実をわからせることを選択したと言うわけだ。
その効果は絶大だったようで、郡上は校庭に両手をついてうなだれたまま動かない。数秒後ようやく立ち上がると力なく校庭を後にした。結局スポチャンは圧倒的な力の差を見せつけた直臣があっさりと優勝した。
これでクラス別の得点は縮まるどころか広がってしまった。後は最後のクラス対抗リレーですべてが決まる、しかし点差からすると八早月たちのクラスが一位になるのは絶望的だ。
そんな誰もモチベーションの上がらない状況でクラス対抗リレーが始まり、クラス代表の男女八人が順番に走って行く。だが最終種目だけあってすでに体力を消耗した生徒も多く、さすがに上級生が上位から並ぶ結果となった。
最終順位は三年一組二組のワンツーフィニッシュ、そして二年二組が三位で八早月たち一年一組は四位だったので十分健闘したと言えよう。
「それにしても綾乃さんがあんなに足が速かったなんて驚いたわ。
やはり代表に選ばれるだけのことはあるのね」
「まぐれよ、あんなのまぐれだってば。
たまたま遅い子が集まってる組だったからトップを守れてホッとしたよ。
でもアンカーが抜かれちゃって二位だったのは悔しかったなぁ」
「うちのクラスは陸上部以外に早い子が少なかったもんね。
やっぱり八早月ちゃんが走ってくれたほうが良かったよ。
でも一人で三種目は不公平になっちゃうから仕方ないかぁ」
「そうね、一人二種目でちょうどいいならその範囲で頑張るのが好ましいわ。
個人的には二種目で一位を取れたなんて出来過ぎね」
「またまたー、どう考えても予想通りなんだけど?
障害物競走でズボンが脱げそうになった時はどうなることかと思ったけどさ。
最後は圧倒的な差でゴールだもん、やっぱすごいよ」
「だよね、それにあのバッティングもビックリしちゃったなぁ。
ハルなんて応援忘れて魅入っちゃってたもんね」
こうして無事に体育祭は終わりを告げた。それぞれ頑張っただけあって疲労感は相当なものだったが、体の疲れを吹き飛ばすように高揚した気分の皆は、余韻に浸りながら帰路についたのだった。
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かわいそうだけど優勝どころか三位以内も無理だろうけどさ。
聞いた話だけど、町の剣道場に通ってる生徒も出るんだって。
陸上部はクラス対抗リレーに出られないのになんかズルいよね」
「その子たちは強いのかしら。
もしそうなら私も出場すれば良かったわ。
まあでも今回は直臣に見せ場を作ってあげましょうか」
八早月と入れ替わるようにスポーツチャンバラ参加者の集合場所へと出て行った郡上大勢は相当息巻いていたらしく、一位を取ると自信満々だったようだ。しかしどうあがいても直臣に勝てるはずもないし、美晴の話だと剣術を学んでいる生徒が数人出るらしいのでいいとこ一桁順位が取れれば御の字と言ったところか。
それでもやる気があること自体はいいことなので、自信過剰過ぎるところがなければ周囲からも好かれるようになり、当人にとってもいい事ばかりなのにと八早月は余計な心配をするのだった。
出場生徒が校庭に勢ぞろいすると、流石人気の花形競技だけあってひときわ大きな声援が送られている。順番にくじを引いた結果、郡上は三回戦で直臣と当たることになった。剣道場へ通っている生徒ともばらけたようで、くじ運は相当いいのだろう。
その直臣は一回戦で同じ三年生、二回戦では剣道着を着た生徒と当たると言うくじ運の悪さだったが、どちらもまったく相手にならず一瞬で決着がついていた。もしかしたら手を抜くのではないかと疑っていた八早月も一安心である。
「はあ、四宮先輩ってなんであんなにカッコいいんだろう。
確かに八早月ちゃんよりは弱いのかもしれないけどさ。
あんな道着来て目立ってる子を簡単にやっつけるなんて他にいないよ」
「まあ確かにすごいよねぇ。
興味の無いアタシでも目を奪われるくらいだし、こりゃライバル増えちゃうな。
同じ書道部だからってのんきに構えてると、いつまでたっても夢なんて相手にしてもらえないよ?」
「なんでハルったらそういう下品なこと言うわけ?
私は尊い先輩が見られればそれでいいんだからね。
まあ先輩と釣り合うのは八早月ちゃんが無理なら綾乃ちゃんくらいじゃない?」
抽選に恵まれた郡上も順調に勝ち上がり、いよいよ三回戦が始まった。順番が進みいよいよ郡上大勢対四宮直臣の一戦が開始された。
「それでは三回戦第二試合を開始します。
双方開始線へ、それではお互いに礼!」
「「お願いします!」」
「構え! はじめ!」
「やあああ!」「はあっ!」『バシッ!!』
「い、一本! 四宮選手の一本勝ち!」
開始0.5秒くらいだろうか、八早月との立ち合い同様勝負は一瞬でついた。直臣は一、二回戦で手を抜いたわけではなく、そこまでする相手ではなかったと言うだけのこと。
八早月に郡上の鼻をへし折れと命じられどうすればいいか考えた末、下手に嬲って恥をかかせるよりも、圧倒的な力量の差で現実をわからせることを選択したと言うわけだ。
その効果は絶大だったようで、郡上は校庭に両手をついてうなだれたまま動かない。数秒後ようやく立ち上がると力なく校庭を後にした。結局スポチャンは圧倒的な力の差を見せつけた直臣があっさりと優勝した。
これでクラス別の得点は縮まるどころか広がってしまった。後は最後のクラス対抗リレーですべてが決まる、しかし点差からすると八早月たちのクラスが一位になるのは絶望的だ。
そんな誰もモチベーションの上がらない状況でクラス対抗リレーが始まり、クラス代表の男女八人が順番に走って行く。だが最終種目だけあってすでに体力を消耗した生徒も多く、さすがに上級生が上位から並ぶ結果となった。
最終順位は三年一組二組のワンツーフィニッシュ、そして二年二組が三位で八早月たち一年一組は四位だったので十分健闘したと言えよう。
「それにしても綾乃さんがあんなに足が速かったなんて驚いたわ。
やはり代表に選ばれるだけのことはあるのね」
「まぐれよ、あんなのまぐれだってば。
たまたま遅い子が集まってる組だったからトップを守れてホッとしたよ。
でもアンカーが抜かれちゃって二位だったのは悔しかったなぁ」
「うちのクラスは陸上部以外に早い子が少なかったもんね。
やっぱり八早月ちゃんが走ってくれたほうが良かったよ。
でも一人で三種目は不公平になっちゃうから仕方ないかぁ」
「そうね、一人二種目でちょうどいいならその範囲で頑張るのが好ましいわ。
個人的には二種目で一位を取れたなんて出来過ぎね」
「またまたー、どう考えても予想通りなんだけど?
障害物競走でズボンが脱げそうになった時はどうなることかと思ったけどさ。
最後は圧倒的な差でゴールだもん、やっぱすごいよ」
「だよね、それにあのバッティングもビックリしちゃったなぁ。
ハルなんて応援忘れて魅入っちゃってたもんね」
こうして無事に体育祭は終わりを告げた。それぞれ頑張っただけあって疲労感は相当なものだったが、体の疲れを吹き飛ばすように高揚した気分の皆は、余韻に浸りながら帰路についたのだった。
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