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第六章 長月(九月)

135.九月二十四日 放課後 下衆の勘ぐり

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 今日は待ちに待っていたティーバッティングを校庭で出来る日だったのだが、結局午後になって降り始めた雨が止まず、いつもと同じ体育館での練習へと変更になっていた。

「八早月ちゃんがそんなに野球にハマるとはねぇ。
 やっぱり教えてくれている人の影響なんじゃないの?」

「やっぱり夢だってそう思うでしょ?
 アタシはお似合いだからいいと思うんだけど、遠距離ってのがネックよね。
 せっかく付き合うならしょっちゅう一緒にいた方がいいもんね」

「そうよね、片道四時間なんて気軽にデートできる距離じゃないもの。
 やっぱり毎日電話で話すくらいはしてる? 次に会う約束ぐらいはしてるんでしょ?」

 相も変わらず放課後になるとフリースペースでティータイムなのだが、最近の話題はもっぱら体育祭の話だった、はずなのだが、どこでどう狂ったかいつの間にか八早月と飛雄の関係について追及される時間となっていた。

「前にも言ったけれど、飛雄さんとは電話もしていないのよね。
 そりゃ色々親切に教えてくれるのだけど、それは零愛さんに言われているからよ。
 何度かメッセージのやり取りをして二度は動画が送られてきたけどバッティングについて教えてくれているだけだもの」

「それは八早月ちゃんがあまりにも冷たくあしらうからじゃないの?
 きっと彼は胸に秘めた思いがあると思うんだよねー」

「そんなことを言うのは夢路さんだけでしょう?
 美晴さんも綾乃さんもおふざけで便乗していて本気であるはずがないもの。
 第一私たちはまだ中学生になったばかり、相手は高校生なのよ?」

「でも四つ差でしょ? 全然ありだよ、うちの両親だって五歳差くらいだもん。
 それに夢だけじゃなくアタシも結構本気でいい感じだと思ってるよ」

「そうそう、あの日の帰りにグラウンドでさ、めっちゃ両手振ってたもんね。
 好きな相手じゃなきゃ、周りに同級生がいて冷やかされているのにあんな真似そうそうできないよ」

 そう言われると八早月も真に受けそうになるが、同じ神職としてお互い共感性を高く持てる関係と言うだけなのは明白である。それは姉の零愛とも同じであり、なんなら宿や聡明をはじめとする八家当主の面々とも同じなのだ。

 ただ、上中下ひとそろい少年の時もそうだったが、夢路は色恋沙汰を勘ぐって話すのが大好きで、美晴も綾乃もそれを聞いて話を広げることが楽しいようだ。八早月も自分から言い出すことは無いにせよ、みんなで話をしているとついつい気分が乗ってしまうこともある。

 つまりくだらないゴシップ話と言えど、それを材料に友達と楽しく過ごせるならばなにもないつまらない時間を過ごすよりはいいに決まっていると考えるくらいには寛容だった。とは言えいつまでもネタにされたままではいられない。

「それなら私以外はどうなの? なにかないのかしら。
 例えば同じ陸上部と言うことで、美晴さんと郡上君という組み合わせも――」

「アレだけはないわね」
「そうね、アレはないない」

 夢路も美晴も即答である。多数の女子から人気を集めている郡上大勢も、最低ラインが直臣となっている二人には全く魅力的に映らないらしい。では綾乃はと言うと、同じクラスにも学園内にも気になる男子はいないと言いきっている。

「そうやって三人とも逃げるだけで、結局追及されるのは私だけなの?
 まったくもって不公平だわ、私はそんなに恋愛に積極的ではないのだけど?」

「まあそれはわかってるんだけど話題があるのって八早月ちゃんだけだもん。
 アタシなんて何一つないし、夢は四宮先輩に夢見てるだけでしょ?
 綾乃ちゃんなんて気になる男子どころかクラスの子の名前すらあやふやだよ?
 それに一番気になる相手は八早月ちゃんだって言われたらそれ以上何も言えないよ」

「綾ちゃんってそっち方面だったの!? 百合もいいわよねぇ。
 私は普段BLばかりだけどNLもGLも尊ければなんでも好きなんだー」

「いやいや、夢の言ってることさっぱりわからないから。
 ほうら、綾ちゃんも八早月ちゃんも引いてるよ?
 そろそろ自分の趣味趣向がおかしいって認識して向き合った方がいいってば」

「それが幼馴染に向かって言うセリフなの?
 ハルって時々ひどいよね、八早月ちゃんたちもそう思うでしょ?」

 そう振られた八早月と綾乃はお互いを向き合って苦笑するしかなかった。なんと言っても美晴と夢路はさすが付き合いが長いだけのことは有り、こう言ったじゃれ合いはもう見慣れた物なのだから。

 しかしその当の夢路はなにを言われても気にしている様子はない。その証拠に――

「あーね! やっぱり八早月ちゃんと綾ちゃんの組み合わせって尊いねぇ」
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