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第五章 葉月(八月)

97.八月十二日 昼 空虚

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 あのプール騒動の後に綾乃の家へと立ち寄り、帰りには零愛を久野駅へ、美晴と夢路を学園前まで送り届けてから二日。久し振りに時間を持て余していた八早月は、一人でぼんやりと考え事をしていた。

 以前の話だと、呪術用品を扱う店や団体へ圧力をかけて止めさせると言う話だったはず。それなのにまた使用者が出てしまったのだ。しかもそれが高校生という、多感で善悪を深く考えない年頃の少女である。

 役人からの報告では該当の魔術ショップなるものは閉店しているが、バトン教会と言う団体は宗教法人取得を目指し活動を続けているらしい。日本では宗教活動と信仰の自由が認められているため、明確な犯罪行為に手を染めるようなことでもない限り、活動を制限することは出来ないのだ。

 だがこのまま活動を活発化されても困る。なんと言っても十久野郡はそこそこ広いので毎日の見回りだけでは護りきれなくなる可能性もある。現に、プールでの出来事に近しい事象はいくつも起きており、原因不明の事故として処理されている。

 今のところ死に至るような重大な出来事は起きていないらしいが、それでも救急搬送を含む被害者は数名いると聞いた。最初に観測されたのは去年の年末らしく、八家でもそれと知らず処理していた案件もあったようだ。

『八早月様、三神耕太郎殿が面会を申し出ていると組折から連絡が入りました。
 まもなく昼食の時間かと思われますが、いかがなさいますか?』

『急を要する話かもしれません、すぐに来ていただきましょう。
 お昼ご飯を用意するか聞いておいてくださいね』

『ははっ、それとみくず様が出たいと申しているのですが……』

『私も話があるんだったわ、忘れるところでした。
 どうせなら真宵さんも藻さんも同席お願いしますね』

 そう言うと、八早月の背後に真宵と藻が現れた。同時に現れると力は半分程度になるらしいが、佇まいからはそんな気配を微塵も感じない。

「ねえ藻様? 真宵さんが妖の気配を感じられるようになったのは貴女のおかげ?
 いつの間にか出来るようになっていたことに気が付いたのだけど、思い当たるのが藻様を受け入れたことくらいなのですよ」

「そうかもしれません。
 私は特に意識しておりませんが、妖を感じ取ることが出来ます。
 真宵様と共に八早月様の中におりますので、表に出てもお互いの力が相乗効果となっているのでしょう」

「そう言うものなのでしょうかね。
 まあ出来ないよりも出来る方がいいに決まっていますから良いでしょう。
 他に何か変わった点はありそうですか?」

「左様でございますね、今は能力的な変化はなさそうです。
 ですがもしお望みなら真宵様に耳と尻尾を生やすことが出来ますよ?」

 真宵が慌てて頭と尻を抑える。恐らくは藻と同じく狐の耳と尻尾だろうが、それはそれで真宵に似合って可愛らしいかもしれない。

「うふふ、冗談でございます、それでお話なのですが――
 ―― おっと、当主の方がいらしたようですね」

「耕太郎さんね、随分と早かったからお昼の件を聞きそびれてしまったわ。
 それでは居間へと参りましょうか」

 八早月が居間へ向かうと房枝が昼食の用意を始めていた。茗荷のいい香りが漂ってきて、恐らくそうめんだろうと当たりをつける。これなら耕太郎の分もすぐに追加できるだろうと八早月は安堵した。

「筆頭、遅くなりました、それに昼食時に突然伺ってしまいお詫び申し上げます。
 実は火急の用と言うわけではなかったのですが、どうにも落ち着きませんでな。
 プールの件でも関わっていたと睨んでおった例のバトン教会なる団体でご報告が。
 今朝、組織的な拉致監禁事件として摘発された模様です」

「ええっ!? まさかあれからまだ数日しか経っていないではありませんか。
 普段はお役所仕事なんて言われているのにこの迅速な対応とは。
 一体お役人さんたちはどうしてしまったんでしょうね。
 なんにせよ無事解決となるなら喜ばしいことです」

「いやはや、そう簡単にはいかないやもしれませんぞ?
 首謀者が捕らえられたならいいのですがそうとも限りません。
 トカゲのしっぽ切りで済ませ、本丸は逃げおおせた場合は面倒でしょうな。
 こういうものは、場を構えおおっぴらにやってもらった方が追いやすい」

「つまり地下へ潜られてしまうかもしれない、と?
 確かにそれは面倒ですね……」

 まあ頭を悩ませていても何も解決しない。ひとまずはこれで落ち着いてくれればいいと願っておくしかないだろう。そんな話でお互いを安心させた八早月と耕太郎は、昼食にそうめんをすすってから各当主への報告を済ませた。
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