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第五章 葉月(八月)
93.八月九日 朝 早朝訓練
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前日に大蛇舞祭が行われようが、雨が降ろうが妖さえ出なければ早朝訓練は行われる。しかも今日はゲストが二人もいるのだからより一層張り切るのも仕方がない。そんな八早月の被害者となったいつもの三名だが、楓だけはいつもと様子が違っていた。
「今日は随分とやる気にあふれていますね。
昨日の儀で求が八岐贄になったことが刺激となったのですか?」
「ええ、それもあるのだけど、さすがに客人が二人もいたらそりゃ……
あまりみっともなく恥ずかしい真似は出来ないと思っているのよ」
「それほど気負うことは無いと思うけど、やる気があるのは素晴らしいわ。
綾乃さんと零愛さんも一緒にやってみない?
体を鍛えて損はないでしょう?」
「おっ? ウチは普段から鍛えてるし問題ないよ?
それに一昨日はお役目にもついていって褒められちゃったしな!」
「私は剣術とか無理だよ、体動かしたことも体育くらいしかないもん。
山歩きくらいなら頑張ってみるけど……」
「でも心身の鍛錬は呼士、あなた達の場合は守護獣だけれど、影響があるわよ?
朝の散歩だけでもきっと変わってくるのが実感できるんだから。
そこは楓がよくわかってるわよね?」
八早月はこの隙にと体を休めている楓へと振り返った。すると慌てて木刀を振りはじめながら「その通りよ」と返してくる。その言葉を聞いた綾乃はうんうんと頷いてやる気が出たような、そうでもないような微妙な雰囲気である。
「そう言えば零愛さんは泳げるのでしょう?
海は自然の最たるものですし、きっといい修行になるでしょうね」
「近所の海、だと、岩場が多くて、危険なところが、多いんだ。
だから、いつも少し離れた、砂浜まで行ってる、観光客も、多いけどね。
この辺り、からだと、一番近い、海水浴場じゃないかな、新浪内海岸ってとこ」
「あいにくだけど私は全然知らないわ。
郡内のことすらよくわかってないんだもの、綾乃さんはご存知?」
「私も海行ったことないし知らないや。
浪内西郡にも行ったことないからなぁ。
お爺ちゃんちは山側の野崎原市だもん」
「そう言えばプールへ行くと言っていたのに未だ行ってないわね。
将来海を目指すとしても泳げるようにならなければいけませんから!」
「この辺りに、プールあるの?
そしたら、ウチが、泳ぎ、教えてあげるよ、って水着持ってきてないや」
「ほらほら手が止まってますよ!
綾乃さんはそろそろ精根尽きたって感じですね。
それじゃ最後に打ち込みをしましょう。
真宵さん、お願いしますね」
「かしこまりました、直臣殿は鉾にしますか?
楓殿は竹刀でよろしいかな?」
「それがいいわね、今度誰かに楓用の木大鎚を作ってもらいましょうか。
そのほうがきっと将来役に立つはずだもの。
ドリーはいつものように私とやりましょうか」
「は、はひぃい、お手柔らかに……
あ、セッシャ水着差し上げマスよ、小さくなったモノなので問題ナシデス。
エエと高岳殿とハ身長同じくらいカト」
「はあはあ、はあ、そ、それはありがたい、はあ、では遠慮なく。
それにしても結構辛いもんね、普段の素振りは横向きだから勝手が違うわー」
こうして朝からの練習に巻き込まれた客人であるはずの二人は、朝食を食べ終わってすぐにくたびれて二度寝をする羽目になっていた。
「今日は随分とやる気にあふれていますね。
昨日の儀で求が八岐贄になったことが刺激となったのですか?」
「ええ、それもあるのだけど、さすがに客人が二人もいたらそりゃ……
あまりみっともなく恥ずかしい真似は出来ないと思っているのよ」
「それほど気負うことは無いと思うけど、やる気があるのは素晴らしいわ。
綾乃さんと零愛さんも一緒にやってみない?
体を鍛えて損はないでしょう?」
「おっ? ウチは普段から鍛えてるし問題ないよ?
それに一昨日はお役目にもついていって褒められちゃったしな!」
「私は剣術とか無理だよ、体動かしたことも体育くらいしかないもん。
山歩きくらいなら頑張ってみるけど……」
「でも心身の鍛錬は呼士、あなた達の場合は守護獣だけれど、影響があるわよ?
朝の散歩だけでもきっと変わってくるのが実感できるんだから。
そこは楓がよくわかってるわよね?」
八早月はこの隙にと体を休めている楓へと振り返った。すると慌てて木刀を振りはじめながら「その通りよ」と返してくる。その言葉を聞いた綾乃はうんうんと頷いてやる気が出たような、そうでもないような微妙な雰囲気である。
「そう言えば零愛さんは泳げるのでしょう?
海は自然の最たるものですし、きっといい修行になるでしょうね」
「近所の海、だと、岩場が多くて、危険なところが、多いんだ。
だから、いつも少し離れた、砂浜まで行ってる、観光客も、多いけどね。
この辺り、からだと、一番近い、海水浴場じゃないかな、新浪内海岸ってとこ」
「あいにくだけど私は全然知らないわ。
郡内のことすらよくわかってないんだもの、綾乃さんはご存知?」
「私も海行ったことないし知らないや。
浪内西郡にも行ったことないからなぁ。
お爺ちゃんちは山側の野崎原市だもん」
「そう言えばプールへ行くと言っていたのに未だ行ってないわね。
将来海を目指すとしても泳げるようにならなければいけませんから!」
「この辺りに、プールあるの?
そしたら、ウチが、泳ぎ、教えてあげるよ、って水着持ってきてないや」
「ほらほら手が止まってますよ!
綾乃さんはそろそろ精根尽きたって感じですね。
それじゃ最後に打ち込みをしましょう。
真宵さん、お願いしますね」
「かしこまりました、直臣殿は鉾にしますか?
楓殿は竹刀でよろしいかな?」
「それがいいわね、今度誰かに楓用の木大鎚を作ってもらいましょうか。
そのほうがきっと将来役に立つはずだもの。
ドリーはいつものように私とやりましょうか」
「は、はひぃい、お手柔らかに……
あ、セッシャ水着差し上げマスよ、小さくなったモノなので問題ナシデス。
エエと高岳殿とハ身長同じくらいカト」
「はあはあ、はあ、そ、それはありがたい、はあ、では遠慮なく。
それにしても結構辛いもんね、普段の素振りは横向きだから勝手が違うわー」
こうして朝からの練習に巻き込まれた客人であるはずの二人は、朝食を食べ終わってすぐにくたびれて二度寝をする羽目になっていた。
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